設立の手続き

法人口座が作れない理由。審査は犯収法の4項目で決まっている

法人口座の開設で銀行が確認するのは、犯罪収益移転防止法が定める4項目です。金融機関の気分ではありません。何を確認されるのか、通らないときに足りていないものは何かを、法令と金融庁の文書から整理します。

登記が完了しても、法人口座はすぐには開けません。断られることもあります。

ただしこれは金融機関の裁量というより、犯罪収益移転防止法が金融機関に義務づけている確認が通らないという話です。何を確認されるのかが分かれば、準備すべきものも決まります。

銀行が確認するのは4項目

金融庁は、法人顧客から新規口座開設の申込みがあった場合に金融機関が行う「取引時確認」として、次の4点を挙げています。

確認事項具体的に何を見るか
本人特定事項法人の名称、本店または主たる事務所の所在地。窓口に来た人の氏名・住居・生年月日
取引を行う目的その口座を何に使うのか
事業の内容どんな事業をしているのか
実質的支配者議決権の25%超を直接または間接に保有するなど、事業経営を実質的に支配できる個人

このうち「事業の内容」の確認は、次のいずれかの書類で行うこととされています。

  • 定款
  • 法令の規定によりその法人が作成することとされている書類で、事業の内容の記載があるもの
  • 設立の登記に係る登記事項証明書
  • 官公庁から発行・発給された書類その他これに類するもので、事業の内容の記載があるもの

「実質的支配者」はひとり社長の会社でも必ず該当します。 出資しているのは自分なので、自分の氏名・住居・生年月日を申告することになります。他人名義で会社を作った場合にここで矛盾が出るため、確認項目として置かれています。

断られるのは、書類の不足ではなく実体が見えないとき

金融庁は同じ文書で、犯収法第4条第2項に規定される特別な事情がない場合には上記の書類のいずれかが確認できれば足りるとし、顧客の利便性に配慮した適切な対応を求めています。

つまり書類が形式的にそろっていれば、それだけを理由に断るべきではないというのが監督官庁の立場です。それでも開設に至らないことがあるのは、4項目のうち「取引を行う目的」と「事業の内容」が、書類の形式では確認しきれない項目だからです。

この2つは、定款に事業目的が書いてあるだけでは終わりません。その事業を実際に行っている、あるいは行おうとしていることが確認できるかが問われます。

4項目から逆算した準備

法令の確認項目に対応させると、用意すべきものは次のようになります。

確認事項用意しておくもの
本人特定事項登記事項証明書、印鑑証明書、代表者の本人確認書類
取引を行う目的口座の用途(売上の入金、仕入・外注費の支払、給与の支払など)を説明できる状態
事業の内容定款、事業の内容が分かる資料(契約書、請求書、ウェブサイト、業務内容の説明資料)
実質的支配者出資者が自分ひとりであることの説明。株式会社なら株主名簿

定款の事業目的は、実態と対応させておいてください。 将来やるかもしれない事業を広く書き込むのは登記上は自由ですが、実際の事業と関係のない目的が並んでいると「事業の内容」の説明が長くなります。

口座がない間も、期限は止まらない

開設に時間がかかっても、設立後の手続きの期限は動きません。口座を待たずに進められるものと、口座が要るものを分けてください。

やること口座が必要か期限
健康保険・厚生年金保険 新規適用届不要事実発生から5日以内
法人設立届出書(税務署)不要設立の日から2か月以内
青色申告の承認申請書不要設立の日以後3か月を経過した日と設立第1期の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日
社会保険料の口座振替必要適用後の納付までに
役員報酬の支払事実上必要設立の日から3か月以内に決議

社会保険料は、口座振替が間に合わなければ納入告知書で納付できます。役員報酬も、いったんは代表者の個人口座から立て替えて後で精算する形にできますが、法人と個人の資金が混ざるので、記帳が煩雑になります。

設立後の届出の全体像は会社設立を自分でやる手順。実費6万円台と期限つきの届出7つにまとめています。

設立前に法人口座は作れない

順序を誤解しやすい部分です。法人口座は、会社が成立した後でなければ開設できません。 登記事項証明書が必要だからです。

そのため設立時の資本金の払込みは、発起人(合同会社なら代表社員)の個人口座に対して行います。その通帳の該当ページをコピーし、払込証明書と合わせて登記申請の添付書類にします。

「資本金を払い込む口座がないから設立できない」ということは起こりません。順番は次のとおりです。

  1. 個人口座に資本金を払い込む
  2. 登記を申請する
  3. 登記が完了し、登記事項証明書を取得する
  4. 法人口座を開設する
  5. 個人口座から法人口座へ資本金を移す

口座の開けやすさは、法人化の判定には影響しない

当サイトのシミュレーターは、税と社会保険にもとづいて法人化の損得を計算します。法人口座が開けるかどうかは、この計算に一切入りません。

一方で、口座が開けないことは事業の運営に確実に影響します。取引先から「法人名義の口座を指定してほしい」と言われる場面、クレジットカードの決済、社会保険料の口座振替。判定で法人化が有利と出たとしても、口座の準備が整うまでの期間は見込んでおいてください。

登記から口座開設までに数週間かかることを前提に、個人事業の廃業のタイミングを決めるのが現実的です。個人事業と法人を一時的に併走させる形になりますが、その間の売上をどちらに帰属させるかは事前に決めておく必要があります。切り替え時期の考え方は法人化のタイミングと決算期の決め方。年度途中でも損はしないで扱っています。

まとめ

  • 法人口座の開設で金融機関が確認するのは、犯罪収益移転防止法にもとづく4項目(本人特定事項・取引を行う目的・事業の内容・実質的支配者)
  • 実質的支配者は議決権の25%超を保有する個人。ひとり社長なら必ず自分が該当する
  • 金融庁は「書類のいずれかが確認できれば足りる」とし、利便性に配慮した対応を求めている。形式書類がそろっていれば、それだけで断るべきではないというのが監督官庁の立場
  • 確認しきれないのは「取引を行う目的」と「事業の内容」。定款の事業目的を実態と対応させ、事業の中身が分かる資料を用意する
  • 設立前に法人口座は作れない。資本金の払込みは発起人の個人口座に行う
  • 口座がなくても、社会保険の新規適用届(5日以内)や法人設立届出書(2か月以内)は進められる

法人化そのものの損得は、口座の話とは別に、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

会社を設立する前に法人口座は作れますか?

作れません。法人口座は会社が成立した後、登記事項証明書を添えて開設します。そのため設立時の資本金の払込みは、発起人(合同会社なら代表社員)の個人口座に対して行い、その通帳の記載を払込証明として使います。

1つの銀行で断られたら、他でも断られますか?

確認事項は法令で共通ですが、確認方法や必要書類の運用は金融機関ごとに違います。各金融機関が必要書類を公表しているので、自社でそろえられるものと照らして比較してください。

個人事業のときの口座をそのまま使えませんか?

法律上、法人と個人は別人格です。法人の売上や経費を個人口座で処理すると、法人と個人の資金が混ざり、役員貸付金・役員借入金として整理する手間が増えます。決算や税務調査の場面で説明が難しくなるため、実務上は分けることになります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。