設立の手続き
電子取引データ保存の要件は3つ。印刷しただけでは足りない
メールやクラウドで受け取った請求書は、紙に印刷しても保存になりません。電子取引データ保存の要件、売上5,000万円以下で検索要件が外れる条件、要件に間に合わないときの猶予措置を整理します。新設法人の1期目・2期目は基準期間がないため検索要件が不要です。
メールに添付されたPDFの請求書を印刷して、紙のファイルに綴じる。このやり方は、令和6年1月以降は保存したことになりません。電子取引で受け取ったデータは、データのまま残す義務があります。
やることは3つだけです。改ざん防止の措置をとる、画面と印刷ができるようにする、日付・金額・取引先で検索できるようにする。しかも一人会社と個人事業主には、この3つ目が丸ごと外れる条件があります。
電子帳簿保存法の3制度のうち、対応が必要なのは電子取引だけ
電子帳簿保存法は3つの制度に分かれています。混同されがちですが、義務なのは3つ目だけです。
| 制度 | 対象 | 対応 |
|---|---|---|
| 電子帳簿等保存 | 会計ソフトで作った帳簿、自分で作成した請求書の控えなど | 希望者のみ |
| スキャナ保存 | 紙で受け取った領収書・請求書をスキャンした画像 | 希望者のみ |
| 電子取引データ保存 | データで授受した注文書・契約書・領収書・見積書・請求書など | 法人・個人事業者は対応が必要 |
紙で受け取った領収書は、紙のまま保存するのが原則です。スキャンして原本を捨てたいならスキャナ保存の要件を満たす必要がありますが、それはやりたい人だけがやる制度です。原本をいつ捨てられるか、要件を外すと何が起きるかはスキャナ保存後の原本は即時廃棄できるで扱っています。一方、最初からデータで受け取ったものには選択肢がありません。
対象は請求書だけではありません。国税庁の一問一答は、クラウドサービス経由で受領した請求書、スマホアプリの決済で受け取る利用明細、インターネットバンキングの振込データ、メールでやり取りした雇用契約書までを電子取引として挙げています。「経理ソフトに取り込んだから元データは消してよい」とはなりません。
保存する年数の話は法人の帳簿保存は7年、赤字年度は10年にまとめています。この記事は保存の方法だけを扱います。
保存要件は「真実性」と「可視性」の2本立て
要件は電子帳簿保存法施行規則4条にあり、国税庁のパンフレットは次の形で整理しています。
| 区分 | 満たし方 |
|---|---|
| 真実性の確保(いずれか1つ) | ①タイムスタンプが付与されたデータを受領する ②受領したデータに速やかにタイムスタンプを付与する ③訂正削除の履歴が残る(または訂正削除ができない)システムで授受・保存する ④改ざん防止のための事務処理規程を策定し、運用し、備え付ける |
| 可視性の確保(両方) | ①保存データを確認するディスプレイやプリンタ等を備え付ける ②日付・金額・取引先の3要素で検索できるようにする |
真実性の④は、専用のシステムを導入しない方法です。国税庁が「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」のサンプルを法人用と個人事業者用の2種類、Wordファイルで公開しています。これをもとに自社の規程を作り、そのとおり運用すれば①〜③の代わりになります。費用はかかりません。
検索についても、専用ソフトは前提とされていません。国税庁は2つの方法を例示しています。表計算ソフトで索引簿を作る方法と、「20240331_110000_(株)霞商店」のように日付・金額・取引先の順で規則的に名前を付けたファイルを特定のフォルダにまとめる方法です。
なお、可視性の②にはもう一段の条件があります。日付または金額の範囲を指定した検索と、2つの要素を組み合わせた検索ができること。ただし税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、この一段は不要になります。
検索要件が丸ごと外れる条件が2つある
さらに、次のいずれかに当たる場合は、検索機能の確保そのものが不要になります(規則4条1項)。
- 判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下で、ダウンロードの求めに応じられるようにしている
- データを出力した書面を、日付および取引先ごとに整理された状態で提示・提出できるようにしたうえで、ダウンロードの求めに応じられるようにしている
1の基準期間は、個人事業者なら電子取引を行った日の属する年の前々年(1月1日から12月31日)、法人なら前々事業年度です。基準期間が1年でない法人は、その期間の売上高を月数で割って12を掛けた金額で判定します。
ここで一人会社に効くのが、一問一答の問51です。基準期間がない新規開業者や新設法人の初年(度)・翌年(度)については、検索機能の確保の要件が不要になると明示されています。
つまり法人成りした直後の2期は、基準期間が存在しないので検索要件が外れます。消費税の2期免税と似た構造ですが、こちらはインボイス登録の有無に左右されません。インボイス登録済みだと法人化しても消費税の2年間免税は受けられませんが、電子取引の検索要件の免除は登録の有無と無関係に効きます。
5,000万円という数字を取り違えない
消費税とよく似た数字が並ぶので、どの制度の基準かを必ず確かめてください。
| 数字 | 何の基準か | 判定に使う金額 |
|---|---|---|
| 1,000万円 | 消費税の納税義務(免税事業者かどうか) | 基準期間の課税売上高 |
| 5,000万円 | 消費税の簡易課税制度(届出書の提出が前提) | 基準期間の課税売上高 |
| 5,000万円 | 電子帳簿保存法の検索要件の免除 | 基準期間の売上高 |
同じ5,000万円でも中身が違います。国税庁は一問一答で、電子帳簿保存法の「売上高」には消費税法上の非課税売上額が含まれると明記しています。消費税の免税事業者や簡易課税を適用している人でも、非課税売上を足すと5,000万円を超える場合は検索要件の免除に当たりません。逆に営業外収益や特別利益、一時的に保有する資産の売却額は含みません。判定は税抜金額で行います。
簡易課税の5,000万円は簡易課税のみなし仕入率6区分で扱っています。制度が違えば、同じ金額でも数える対象が違います。
間に合わないときの猶予措置は、事前申請が要らない
要件に対応できない場合の受け皿が、令和5年度税制改正で作られた猶予措置です(規則4条3項)。次の2つを両方満たすときは、保存時に満たすべき要件が不要になります。
- 要件に従って保存できなかったことについて、所轄税務署長が相当の理由があると認めること
- 税務調査の際に、データのダウンロードの求めと、データを出力した書面の提示・提出の求めの両方に応じられるようにしていること
1の「相当の理由」は厳しく絞られていません。国税庁の一問一答は、システムや社内のワークフローの整備が間に合わない事情を含むとしており、パンフレットでは人手不足、システム整備の資金不足も相当の理由として認められると書かれています。この猶予措置に事前の申請や届出は不要です。
ただし2つ注意があります。1つは、要件に従って保存できる環境が整っているのに、資金繰りや人手不足の事情もなく要件を満たしていない場合には適用がないこと。もう1つは期間で、事情が解消された後の電子取引には使えません。準備が整った時点から原則どおりの保存に移る必要があります。
そして最大の注意点は、猶予措置でもデータそのものの保存は必要だということです。令和5年12月31日までの宥恕措置では出力書面での保存が認められていましたが、これは期限の到来で廃止されました。今の猶予措置は、要件を落とせる制度であって、紙に印刷して原本を消してよい制度ではありません。
保存していないと、青色申告の承認取消しの対象になり得る
データを要件どおりに保存していない場合や、データを消して書面だけを残した場合、国税庁は、保存すべき電磁的記録の保存がなかったものとして青色申告の承認の取消対象になり得る、という整理をしています。要件に従って保存されていないデータや出力した書面は、受け取ったデータとの同一性が担保されないため、国税関係書類以外の書類ともみなされません。
同時に、直ちに取り消されるものではないことも明記されています。承認の取消しは事務運営指針に基づき、違反の程度などを総合勘案したうえで、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうかを検討して判断するとされています。従業員の立替払いで一部のデータが適正に保存されていなかったという事実だけをもって、直ちに取り消されたり支出がなかったと判断されたりするものではない、という記述もあります。
とはいえ、失うものの大きさは知っておく価値があります。個人事業主が青色申告の承認を失って白色申告になった場合の手取りを、計算エンジンで出しました。
| 事業所得 | 青色65万円の手取り | 白色の手取り | 差 | 実質差額(青色65万円) | 実質差額(白色) | 法人化の判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 285.6万円 | −17.4万円 | −47.8万円 | −30.4万円 | 変わらない |
| 600万円 | 427.3万円 | 402.7万円 | −24.5万円 | −36.5万円 | −12.0万円 | 個人のまま有利 → ほぼ互角 |
| 800万円 | 540.7万円 | 516.2万円 | −25.9万円 | −24.1万円 | +1.8万円 | 個人のまま有利 → ほぼ互角 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 635.2万円 | −23.4万円 | −14.7万円 | +8.6万円 | 変わらない |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 745.8万円 | −29.8万円 | −6.6万円 | +23.2万円 | ほぼ互角 → 法人化が有利 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 899.8万円 | −29.8万円 | +23.9万円 | +53.7万円 | 変わらない |
| 1,800万円 | 1,082.1万円 | 1,053.7万円 | −30.1万円 | +47.0万円 | +77.1万円 | 変わらない |
| 2,000万円 | 1,184.7万円 | 1,154.8万円 | −31.6万円 | +67.3万円 | +98.9万円 | 変わらない |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)を差し引いた後の定常状態(3期目以降)
読み取れることが3つあります。
1つ目は、減り方が所得に比例しないことです。事業所得800万円では年24.5万円減るのに、1,000万円では21.9万円へいったん小さくなります。控除が65万円分なくなると、東京23区の国民健康保険料は医療分・後期高齢者支援金分・子ども・子育て支援金分を合わせた所得割率10.58%分、68,770円増えます。ところが事業所得1,000万円の手前で保険料が賦課限度額の96万円に達し、そこから先は控除を失っても1,755円しか増えません。所得が高い人ほど痛手が大きい、という直感はここで一度崩れます。
2つ目は、個人事業税が1円も動かないことです。個人事業税は青色申告特別控除を引く前の所得に課税されるため、承認を失っても事業税は増えません。所得税・住民税・国民健康保険料の3つだけが動きます。
3つ目は、法人側の数字がまったく動かないことです。青色申告特別控除は個人にしかない制度なので、最適な役員報酬も法人の手取りも1円も変わりません。結果として承認取消しは法人化の判定を法人側へ押し、事業所得800万円では実質差額が−22.7万円から+1.8万円へ符号が変わります。控除額そのものが分岐点をどれだけ動かすかは青色申告65万円控除で法人化の分岐点は484万円変わるで計算しています。
ただしこれは「法人化すれば保存義務から解放される」という話ではありません。電子取引データの保存義務は、法人にも個人事業者にも同じようにかかります。法人成りしても要件は1つも減りません。計算の前提は計算の前提と出典に置いています。
令和9年分から、青色申告特別控除の上限は75万円へ上がる
ここまでは義務の話でした。電子帳簿保存法には、要件を上乗せで満たした人だけが受けられる優遇措置もあります。令和8年6月の国税庁パンフレットに、次の3つが挙げられています。
| 優遇措置 | 要件 |
|---|---|
| 青色申告特別控除の上限引上げ(個人事業者・75万円) | 「優良な電子帳簿」または「デジタルシームレス保存」のいずれかを満たし、電子申告する。令和9年分以後の所得税に適用 |
| 過少申告加算税の5%軽減 | 優良な電子帳簿として、課税期間の初日から備付け・保存している。対象帳簿は仕訳帳、総勘定元帳、その他必要な帳簿 |
| 重加算税の10%加重措置の適用除外 | デジタルシームレス保存の要件を満たす。令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税に適用 |
このうち過少申告加算税の5%軽減については、対象になる帳簿の範囲や届出書の期限を優良な電子帳簿の5%軽減で詳しく扱っています。
「デジタルシームレス保存」は令和7年度税制改正で新設された枠組みで、請求書等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に自動連携する仕組みを指します。国税庁長官が定める基準に適合するシステム(デジタル庁が管理する仕様に従って送受信されたデジタルインボイス、または預貯金口座の決済データを扱えるもの)を使ったうえで、改ざん防止の確保・記帳の適正性確保・電子帳簿との相互関連性確保の3要件を満たす必要があります。この保存は、電子取引データ保存の要件を満たしていることが前提です。
65万円が75万円になるのは令和9年分の所得税からで、当サイトの計算に使っている2026年(令和8年)分は65万円のままです。優遇措置を受けるには事前の届出が必要ですが、期限は適用を受ける年分(事業年度)の法定申告期限までとされています。すでに優良な電子帳簿で65万円控除の適用を受けている人は、改めて届出書を出さなくても75万円の適用を受けられます。
一人会社に関係するのは、この届出書の扱いです。一問一答の問82は、個人事業者が法人成りした場合、個人が提出した電子帳簿保存法の届出書の効力は法人に承継されないとしています。理由は、法人成りするまでの電子取引データと法人設立後のデータでは保存の主体が異なるからです。有限会社から株式会社への組織変更なら効力がそのまま引き継がれるのとは対照的で、法人成りでは改めて提出が必要になります。
まとめ
- 電子帳簿保存法の3制度のうち、法人・個人事業者に対応が必要なのは電子取引データ保存だけ
- 要件は真実性の確保と可視性の確保。改ざん防止は国税庁公開の事務処理規程サンプルでも満たせる
- 基準期間の売上高が5,000万円以下なら検索要件は不要。新設法人の初年度・翌年度は基準期間がないため対象になる
- 電子帳簿保存法の5,000万円は非課税売上を含む売上高で、消費税の課税売上高とは数える範囲が違う
- 猶予措置は事前申請が不要だが、データそのものの保存は必要
- 保存していないと青色申告の承認取消しの対象になり得る。事業所得800万円で手取りは年24.5万円変わる
一般論の数字ではなく、自分の売上と経費を入れて確かめてみてください。
よくある質問
会計ソフトを使っていなくても電子取引データの保存はできますか?
できます。改ざん防止は国税庁が公開している事務処理規程のサンプルを使って規程を定め、運用する方法が認められています。検索は表計算ソフトの索引簿か、日付・金額・取引先の順に並べたファイル名でも対応できます。
猶予措置を使うのに税務署への申請は必要ですか?
事前の申請や届出は不要です。ただしデータそのものの保存は必要で、紙に出力したものだけを残す対応は認められていません。
法人成りすると、個人事業のときに出した届出書は引き継がれますか?
電子帳簿保存法の届出書は、法人成りでは効力が承継されません。個人と法人は税務上それぞれ別の主体として扱われるため、法人として改めて提出する必要があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。