設立の手続き

法人成りした年の確定申告。設立月で控除が108.8万円動く

法人成りした年は、廃業までの事業所得と設立後の役員報酬の給与所得を1枚の申告書で合算します。会社で年末調整を受けても終わらない理由と、設立月によって青色申告特別控除・給与所得控除の合計が119.0万円から227.8万円まで動くことを計算しました。

法人成りした年は、個人の確定申告が1回分残ります。1月から廃業までの事業所得と、設立後に受け取った役員報酬の給与所得を、1枚の申告書で合算する年だからです。会社で年末調整を済ませても、この申告は終わりません。そして設立した月によって、使える控除の合計が108.8万円も動きます。

法人成りした年は、事業所得と給与所得を1枚の申告書に載せる

法人成りは、事業の器を個人から法人へ移す手続きです。個人事業を廃業した日で所得が途切れるわけではなく、その年の1月1日から廃業日までに生じた利益は、引き続きあなた個人の事業所得です。

一方、会社を設立して役員報酬を受け取り始めると、そこから先は給与所得になります。同じ1年の中で所得の種類が切り替わります。

所得税は、個人が1年間に得たすべての所得を合算して計算する仕組みです。事業所得と給与所得は別々に申告するものではなく、同じ確定申告書に両方を書いて合計します。個人の確定申告の期間は、国税庁の案内では原則として翌年2月16日から3月15日までです。

廃業側で出す届出とその期限は法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限があるにまとめてあります。この記事で扱うのは、そのあとに残る確定申告そのものです。

年末調整を受けても、この年の確定申告は終わらない

会社を作ると、社長自身も会社の役員として給与の支払いを受ける立場になります。国税庁は、12月に行う年末調整の対象となる人に「年の中途で就職し年末まで勤務している人」を挙げています。年の途中に設立した会社で役員報酬を受け取り始めた社長も、扶養控除等(異動)申告書を出していればこれに当たります。

ここで「会社が年末調整をしてくれたから、もう申告は要らない」と考えてしまうと、申告漏れになります。

国税庁は、給与所得者であっても次のいずれかに当てはまる人は確定申告をしなければならないとしています(還付を受ける人を除く)。

  • 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
  • 給与を1か所から受けていて、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合に、給与所得と退職所得を除く各種の所得金額の合計額が20万円を超える人
  • 同族会社の役員などで、その同族会社から貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人

法人成りした年の事業所得は、廃業までに数か月でも営業していればふつう20万円を超えます。だから2つ目に当たり、確定申告が必要になります。年末調整は会社が給与について行う精算であって、事業所得はそこに入っていません。

会社に自宅を貸しているなら、20万円以下でも申告が必要

3つ目の条件は、一人社長に直接効きます。国税庁は、同族会社の役員がその会社から給与のほかに貸付金の利子や不動産の賃貸料などを受け取っている場合、これらの所得金額が20万円以下であっても確定申告が必要だと明記しています。役員と特殊な関係にある人(親族など)も同様です。

自宅の一部を会社へ貸して賃料を受け取る、あるいは社長が会社に貸し付けたお金の利息を受け取る。どちらも一人会社ではよくある形です。この場合、20万円以下だから申告不要という一般的な話は当てはまりません。自宅を会社に貸す場合の金額の決め方は自宅を法人に貸したときの家賃で扱っています。

設立月で、所得の種類ごとの控除が108.8万円動く

法人成りした年に特有なのは、青色申告特別控除と給与所得控除が同じ年に両方効くことです。事業所得には青色申告特別控除、給与所得には給与所得控除がかかり、所得の種類が違うので片方が他方を打ち消しません。

では、設立した月によってどう動くのか。年間の事業利益(売上−経費)1,000万円、役員報酬は月54万円という前提で、設立月ごとに計算しました。

法人成りした月事業の期間青色申告特別控除役員報酬の年収給与所得控除控除の率控除の合計合計所得
1月0か月0.0万円648.0万円173.6万円26.8%173.6万円474.4万円
2月1か月65.0万円594.0万円162.8万円27.4%227.8万円449.5万円
3月2か月65.0万円540.0万円152.0万円28.1%217.0万円489.7万円
4月3か月65.0万円486.0万円141.2万円29.1%206.2万円529.8万円
5月4か月65.0万円432.0万円130.4万円30.2%195.4万円569.9万円
6月5か月65.0万円378.0万円119.6万円31.6%184.6万円610.1万円
7月6か月65.0万円324.0万円105.2万円32.5%170.2万円653.8万円
8月7か月65.0万円270.0万円89.0万円33.0%154.0万円699.3万円
9月8か月65.0万円216.0万円74.0万円34.3%139.0万円743.7万円
10月9か月65.0万円162.0万円74.0万円45.7%139.0万円773.0万円
11月10か月65.0万円108.0万円74.0万円68.5%139.0万円802.3万円
12月11か月65.0万円54.0万円54.0万円100.0%119.0万円851.7万円
(法人成りしない)12か月65.0万円0.0万円0.0万円65.0万円935.0万円

※ 年間の事業利益(売上−経費)1,000万円・役員報酬月54万円・青色申告(e-Tax)・2026年(令和8年)分 基準 ※ 控除の率は、給与所得控除 ÷ 役員報酬の年収 ※ 社会保険料控除・人的控除・基礎控除は含めていない(この年は国保と協会けんぽが年の途中で入れ替わり、国保料は前年の所得で決まるため、通年の料率では再現できない)

控除の合計は、2月設立の227.8万円が最大で、12月設立の119.0万円が最小です。差は108.8万円。年間の利益は同じなのに、設立の月だけでこれだけ動きます。

そして「控除の率」の列を見ると、直感と逆の動きが見えます。給与所得控除は収入が増えるほど額は増えますが、率は下がります。1月設立で12か月分648万円を受け取ると26.8%ですが、11月設立で2か月分108万円なら68.5%です。法人成りが遅い月ほど、役員報酬1円あたりの控除は厚くなります。

9月・10月・11月の3行で給与所得控除が74.0万円のまま動かないのも、同じ理由です。令和8年分の給与所得控除には最低保障額74万円(本則69万円+令和8年・9年分限りの特例加算5万円)があり、給与収入220万円以下はここで一律になります。収入が216万円から108万円へ半分になっても、控除は74万円のままです。

両端の月では、控除の片方が消える

表の上端と下端は、他の月と性質が違います。

1月設立では、青色申告特別控除が0円になります。 前年12月に廃業して1月から役員報酬だけという形にすると、その年に事業所得がありません。国税庁は、青色申告特別控除の額は事業所得などの金額が限度だとしています。控除する相手の所得がなければ、65万円は使えずに消えます。

ただし1月設立は給与を12か月分受け取るので、給与所得控除が173.6万円と最大になります。差し引きすると、控除の合計は2月設立より54.2万円少ないという結果です。65万円をまるごと失うわけではありませんが、「年明けからきれいに法人へ」という切り替え方は、控除の面では最も分が悪いことになります。

12月設立では、逆に給与所得控除が余ります。 1か月分の役員報酬54万円に対して最低保障額74万円のほうが大きいため、控除額は収入と同じ54万円で頭打ちになり、給与所得は0円です。つまり12月に法人成りした場合、その月に受け取った役員報酬54万円は、個人の合計所得を1円も増やしません

このとき会社側では、定期同額給与として支払った役員報酬54万円が損金になります。個人の所得を増やさずに会社の利益を減らせるという意味で、この1か月だけは他の月と効き方が違います。法人化の時期そのものの判断は法人化のタイミングは年度途中でもいいのかで扱っています。

合計所得489万円の段差を、設立月がまたぐ

令和8年分の所得税の基礎控除は、合計所得金額で段階的に変わります。同じ前提で基礎控除だけを並べると、次のようになります。

法人成りした月合計所得所得税の基礎控除住民税の基礎控除
2月449.5万円104.0万円43.0万円
3月489.7万円67.0万円43.0万円
4月529.8万円67.0万円43.0万円
5月569.9万円67.0万円43.0万円
6月610.1万円67.0万円43.0万円
7月653.8万円67.0万円43.0万円
8月699.3万円62.0万円43.0万円
9月743.7万円62.0万円43.0万円
10月773.0万円62.0万円43.0万円
11月802.3万円62.0万円43.0万円
12月851.7万円62.0万円43.0万円

※ 年間の事業利益(売上−経費)1,000万円・役員報酬月54万円・青色申告(e-Tax)・2026年(令和8年)分 基準

2月設立と3月設立の間で、所得税の基礎控除が104.0万円から67.0万円へ37.0万円下がります。段差があるのは合計所得489万円で、3月設立の合計所得489万6,667円はここを6,667円だけ超えています。6,667円の差で37万円の控除を失う計算です。7月設立と8月設立の間にも、合計所得655万円の段差があり、こちらは5.0万円下がります。

ここは数字の出どころを取り違えやすいところです。489万円という段差は所得税の基礎控除のもので、住民税にはありません。 住民税の基礎控除は43万円で据え置かれており、表の全ての月で一定です。104万円という額も、令和8年・9年分限りの特例加算を含んだ額です。基礎控除そのものの仕組みは基礎控除104万円は誰に効くのかにまとめています。

3月15日を落とすと、65万円が10万円になる

青色申告特別控除の65万円・55万円には、その年分の確定申告期限(翌年3月15日)までに申告書を提出することという要件があります。国税庁は、還付申告書を提出する人であっても期限内提出が必要だと注記しています。期限に遅れると、要件を満たさないため10万円の控除に下がります。

法人成りした年は、会社の設立手続き・届出・初めての決算が重なります。会社の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内で、個人の3月15日とは別です。決算月によっては両方が近い時期に来ます。法人側の期限は法人の確定申告期限は決算後2か月で扱っています。

判定ツールの数字は定常状態。この年だけは当てはまらない

当サイトの判定ツールが出すのは、法人化が済んで1年まるごと回った状態の比較です。参考までに、同じ条件での定常状態を挙げます。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

法人成りした年は、この表のどちらの列にも当てはまりません。事業所得1,000万円の行を例にとると、その年のあなたの所得は「個人のまま」でも「法人化」でもなく、両方が月割で混ざった姿になります。

この年の手取りそのものを当サイトが出していないのには理由があります。国民健康保険から協会けんぽへ年の途中で切り替わり、しかも国民健康保険料は前年の所得で決まるためです。通年の料率で計算するエンジンでは再現できません。根拠のない概算を出さない方針なので、上の2つの表も税額や手取りではなく所得の計算だけを扱っています。

同じ理由で、法人成りした翌年6月に届く住民税の納付書も個人事業のときの金額になります。そちらは法人化した年に届く住民税は個人事業の額で金額まで計算しました。移行期の資金繰りを見るときは、判定ツールの実質差額にこの分を足して考えてください。

一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で定常状態を確かめたうえで、この記事の移行年の話を上に乗せてください。計算の前提は計算方法についてにまとめてあります。

まとめ

  • 法人成りした年は、廃業までの事業所得と設立後の役員報酬の給与所得を1枚の申告書で合算する
  • 会社で年末調整を受けても、給与所得と退職所得を除く所得が20万円を超えれば確定申告が必要。同族会社の役員が会社から賃貸料や貸付金の利子を受け取っている場合は、20万円以下でも必要
  • 青色申告特別控除と給与所得控除が両方効くのはこの年だけ。控除の合計は2月設立の227.8万円から12月設立の119.0万円まで108.8万円動く
  • 1月設立は事業所得がないため青色申告特別控除が0円。12月設立は1か月分の役員報酬54万円が給与所得0円になる
  • 所得税の基礎控除は合計所得489万円で37.0万円の段差があり、3月設立はこれを6,667円超える。住民税の基礎控除43万円にこの段差はない

よくある質問

法人成りした年も個人の確定申告は必要ですか?

廃業までの事業所得があるため、その年分の個人の確定申告が必要になるのが通常です。会社で年末調整を受けても、給与所得と退職所得以外の所得が20万円を超える人は確定申告をしなければならないと国税庁は案内しています。

法人成りした年の確定申告では、事業所得と給与所得をどう書きますか?

1月から廃業までの事業所得と、設立後に受け取った役員報酬の給与所得を、同じ申告書に両方記載して合算します。別々に申告するものではありません。

法人成りした年でも青色申告特別控除は受けられますか?

複式簿記による記帳、貸借対照表などの添付、期限内申告という55万円の要件を満たせば適用されます。65万円にするにはこれに加えてe-Taxでの送信か優良な電子帳簿の保存が必要です。ただし控除額は事業所得などの金額が限度なので、事業を営んだ期間が短く所得が小さい年は満額を使えないことがあります。

会社の決算申告と個人の確定申告は同じ期限ですか?

違います。個人の確定申告は原則として翌年2月16日から3月15日までで、法人の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。決算月によって時期がずれます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。