設立の手続き

法人成りの12月納品・1月入金はどちらの売上か。引渡日で決まる

結論

収入の帰属は入金日ではなく、棚卸資産の販売なら引渡しがあった日、請負なら目的物を引き渡した日、人的役務の提供なら役務の提供を完了した日で決まります(所得税基本通達36-8、法人税法22条の2第1項)。12月に納品して1月に入金される100万円は個人の売上で、個人が課税事業者なら消費税10万円も個人側に生じます。

  • 経費側も支払日ではなく債務が確定した日で切る(所得税法37条1項、法人税法22条3項2号)
  • 法人は会計基準に従って契約の効力が生ずる日など「近接する日」に計上することもできる(法人税法22条の2第2項)。個人にこの規定はない
  • 個人が課税事業者で法人の第1期が免税なら、同じ100万円でも帰属先の違いで消費税が10万円変わる

12月に納品して、入金は1月。法人は1月1日に設立済み。この100万円は個人の売上か、法人の売上か。

帰属を決めるのは入金日ではありません。引渡しや役務の提供が完了した日です。 そして帰属先が変わると、所得税だけでなく消費税まで動きます。

収入の帰属は、取引の型ごとに判定日が違う

所得税基本通達36-8は、事業所得の総収入金額の収入すべき時期を取引の型ごとに定めています。

取引の型収入すべき時期
棚卸資産の販売(試用・委託を除く)その引渡しがあった日
棚卸資産の委託販売受託者がその委託品を販売した日(売上計算書の到達日によることも可)
請負(物の引渡しを要するもの)その目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日
請負(物の引渡しを要しないもの)その約した役務の提供を完了した日
人的役務の提供(請負を除く)その人的役務の提供を完了した日
資産の貸付けによる賃貸料その年の末日(貸付期間が終了する年はその終了の日)

法人側も同じ考え方です。法人税法22条の2第1項は、資産の販売・譲渡または役務の提供に係る収益の額を、その目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の益金に算入すると定めています。

つまり、個人と法人で判定の物差しが違うわけではありません。同じ物差しで、日付が境目のどちら側にあるかを見ます。

「引渡しの日」がいつかは、継続適用で決める

所得税基本通達36-8の2は、棚卸資産の引渡しの日について、出荷した日、船積みをした日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日などを挙げ、合理的であると認められる日のうち、その者が継続して収入金額に計上することとしている日によるとしています。

建設工事等についても36-8の3が同様の定めを置いています。

ここで重要なのは「継続して」という条件です。法人成りの年だけ有利な基準に変えることはできません。個人時代に出荷基準で計上していたなら、その基準で境目を切ります。

法人だけが使える「近接する日」

ひとつだけ、個人にない規定があります。法人税法22条の2第2項です。

法人が、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って、契約の効力が生ずる日その他の引渡しの日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、その事業年度の益金に算入すると定めています。

所得税にこれに対応する規定はありません。個人側は通達の判定日で決まります。

したがって、法人成りの境目では法人側の選択肢のほうが広いことになります。ただし法人側が近接する日で計上しても、個人側の帰属が自動的に変わるわけではありません。両方が同じ取引を計上する、あるいはどちらも計上しないという事態を避けるため、境目の取引は一覧にして突き合わせる必要があります。

経費は「支払った日」ではなく「債務が確定した日」

費用側の物差しも、入出金ではありません。

所得税法37条1項は、必要経費に算入すべき金額を、総収入金額に係る売上原価その他直接に要した費用と、その年における販売費・一般管理費その他の費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く)の額としています。

法人税法22条3項2号も、当該事業年度の販売費・一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)としています。条文の作りがほぼ同じです。

よくある境目どちらに入るか
12月に受けた外注で、支払いは1月役務の提供が12月に完了していれば個人の経費
12月に前払いした1月分の家賃原則として法人の期間に対応する費用
12月に届いた請求書を1月に支払った消耗品12月に引渡しを受けていれば個人の経費

「12月に払ったから個人の経費」「1月に払ったから法人の経費」ではありません。 廃業日をまたぐ請求書は、日付ではなく内容で分けることになります。

法人成りした年の確定申告そのもの(事業所得と給与所得を1枚で申告する構造)は法人成りした年の確定申告で扱っています。

帰属先が変わると、消費税が10万円動くことがある

所得税だけなら、個人と法人のどちらに入っても最終的には自分の負担です。ところが消費税は、帰属先によって納税義務そのものが変わることがあります。

想定するのは、次の組み合わせです。

  • 個人:インボイス登録済みの課税事業者
  • 法人:資本金1,000万円未満で設立し、第1期はインボイス登録をしていない免税事業者

12月納品・1月入金の100万円(税抜)が、どちらの売上になるかで次のように分かれます。

100万円の帰属消費税の扱い
個人(12月に引渡し)個人の課税売上。対応する課税仕入がなければ消費税10万円が個人の納税額に乗る
法人(1月に引渡し)法人は第1期免税。この売上に係る消費税の納税義務は生じない

同じ100万円で、税額が10万円違います。 法人が第1期からインボイス登録をするなら、この差は生じません。登録の有無で結論が変わるのは、インボイス登録済みの個人が法人成りする場合に共通する構造です。第1期の免税が成立する条件は新設法人が消費税の免税を受けられる条件、登録番号の引継ぎは法人成りとインボイス登録番号で扱っています。

ここで強調しておきます。帰属先は選べません。 引渡しや役務の提供の完了という事実で決まります。差が10万円あることを知っておく意味は、有利なほうに寄せるためではなく、境目の取引について引渡日を示せる記録を残しておくためです。納品書、検収書、作業完了報告、メールの日付。あとから説明を求められたときに出せるのはこれらです。

境目の取引は、廃業日までに一覧にする

法人成りの前後で棚卸しておくと迷わないのは、次の4つです。

  1. 納品済み・未請求の取引(引渡日が個人側なら個人の売上)
  2. 請求済み・未入金の取引(売掛金として個人に残る)
  3. 受領済み・未払いの請求書(債務確定日で分ける)
  4. 期間で対応する契約(保守、サブスクリプション、家賃、リース)

1と2は個人の廃業年の事業所得に入り、入金だけが法人成り後になります。法人の口座に入金された場合は法人の売上ではなく、個人への預り金です。売掛金そのものを法人へ引き継ぐ場合の扱いは法人成りの資産引継ぎで扱っています。

在庫は別の扱いになります。棚卸資産の引継ぎは法人成りの棚卸資産が主題です。

法人化の判定そのものは、こうした一度きりの処理ではなく、毎年続く差額で決めることになります。自分の売上と経費で差額を確かめてください。

まとめ

  • 収入の帰属は入金日ではなく、引渡しの日または役務の提供を完了した日(所得税基本通達36-8、法人税法22条の2第1項)
  • 引渡しの日をどの時点とするかは、出荷・着荷・検収などのうち継続して採用している基準による
  • 法人だけは会計基準に従って「近接する日」に計上できる(法人税法22条の2第2項)。個人にこの規定はない
  • 経費は支払日ではなく債務の確定した日で切る(所得税法37条1項、法人税法22条3項2号)
  • 個人が課税事業者で法人の第1期が免税なら、100万円の帰属先の違いで消費税が10万円変わる

よくある質問

請求書の日付を法人設立後にすれば、法人の売上にできますか。

できません。帰属は引渡しや役務の提供の完了という事実で決まり、請求書の日付では動きません。請求書の日付だけを後ろにずらすと、事実と書類が食い違う状態になります。

個人時代の売掛金を法人が回収してもよいですか。

回収の事務を法人が行うこと自体は起こり得ますが、その売上は個人の事業所得のままです。法人の口座に入金された場合、法人から見れば個人への預り金であり、法人の売上にはなりません。入金経路と帰属を分けて記録しておく必要があります。

年をまたぐ保守契約やサブスクリプションはどう分けますか。

所得税基本通達36-8の(5)は、人的役務の提供による報酬を期間の経過に応じて収入する特約や慣習がある場合、その期間の経過に対応する報酬はその収入すべき事由が生じた日によるとしています。契約に期間対応の定めがあるかどうかで分け方が変わるため、契約書の条項を確認してください。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。