税金の基礎
業務委託は事業所得か雑所得か。分け目は帳簿と300万円
所得税基本通達35-2は、帳簿書類の保存がない場合は業務に係る雑所得に当たるとしています。事業所得でなくなると青色申告特別控除65万円も損益通算も使えません。300万円が3か所に出てくる紛らわしさを整理し、雑所得だと法人化の分岐点がどう動くかを計算エンジンで出しました。
業務委託で受け取る報酬を事業所得として申告するか、業務に係る雑所得として申告するか。これは申告する側が好きに選べるものではなく、国税庁の所得税基本通達35-2が判定の考え方を示しています。
区分が変わると、失うものが具体的です。青色申告特別控除65万円が使えず、赤字が出ても他の所得と損益通算できません。当サイトの判定ツールは事業所得であることを前提に個人側を計算しているので、ここが崩れると比較の土台が変わります。
やっかいなのは、この話に300万円という数字が3か所で出てくることです。3つとも指しているものが違います。
判定は社会通念。ただし実務上の入口は帳簿の保存
所得税基本通達35-2の(注)は、二段構えになっています。前段は判定の原則です。
事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
後段が、令和4年10月の改正で加わった部分です。その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合には業務に係る雑所得に該当する、としたうえで、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合をその例外として括弧書きで除いています。
「社会通念」だけでは判定できないので、国税庁は解説のなかで過去の判例を挙げています。最高裁昭和56年4月24日判決は事業所得を「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」としています。東京地裁昭和48年7月18日判決はさらに細かく、営利性・有償性の有無、継続性・反復性の有無、自己の危険と計算における企画遂行性の有無、費やした精神的・肉体的労力の程度、人的・物的設備の有無、取引の目的、その者の職歴・社会的地位・生活状況といった点を挙げています。
これらを総合勘案する、というのが建前です。ただ、個人が自分で判定するには使いにくい。そこで国税庁は解説に、区分のイメージとして次の表を付けています。
| 収入金額 | 記帳・帳簿書類の保存あり | 記帳・帳簿書類の保存なし |
|---|---|---|
| 300万円超 | 概ね事業所得 | 概ね業務に係る雑所得 |
| 300万円以下 | 概ね事業所得 | 業務に係る雑所得 |
国税庁 解説「事業所得と業務に係る雑所得等の区分(イメージ)」より。資産の譲渡から生ずる所得は、雑所得ではなく譲渡所得またはその他雑所得になります。
表の縦軸と横軸を見比べると、効いているのは収入金額ではなく帳簿書類の保存のほうだと分かります。保存があれば、収入金額にかかわらず概ね事業所得です。国税庁は、帳簿に記録して保存している場合は一般的に営利性・継続性・企画遂行性を有し、社会通念での判定において事業所得に区分される場合が多いと考えられる、と説明しています。
逆に保存がない場合は、事業所得者に義務付けられた記帳や帳簿書類の保存が行われていない点を考慮して、原則として事業所得に区分されないものと考えられる、としています。
帳簿を保存していても、事業所得にならない2つの場合
上の表の「概ね」には続きがあります。解説は、帳簿書類を保存している場合であっても次の2つに当たるときは、事業と認められるかどうかを個別に判断するとしています。
1つ目は、収入金額が僅少と認められる場合です。解説は例として、その所得の収入金額が例年300万円以下で、かつ主たる収入に対する割合が10%未満の場合を挙げています。ここでの「例年」は概ね3年程度の期間を指す、という注記も付いています。
会社員が副業として業務委託を受けているケースがこれに当たりやすい形です。給与が800万円あって副業の収入が50万円なら、割合は6.25%で、3年続けばこの例に近づきます。
2つ目は、その所得を得る活動に営利性が認められない場合です。解説は、その所得が例年赤字で、かつ赤字を解消するための取組を実施していない場合を挙げています。「赤字を解消するための取組を実施していない」とは、収入を増加させる、あるいは所得を黒字にするための営業活動等を実施していない場合をいう、とされています。
つまり、赤字であること自体が問題なのではなく、赤字のまま何もしていないことが問題にされます。
「300万円」は3か所に出てくる。指しているものが違う
ここまでで300万円は2回出てきました。所得税法にもう1つあります。3つを並べると次のようになります。
| どこに出てくるか | 何を決める数字か |
|---|---|
| 通達35-2の(注)の括弧書き | 帳簿書類の保存がない場合に、事業所得として扱う余地が残るかどうか。収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実があることが条件 |
| 解説の「僅少と認められる場合」 | 帳簿書類の保存があっても個別判断になるかどうか。例年300万円以下で、かつ主たる収入に対する割合が10%未満 |
| 所得税法232条(記帳・帳簿書類の保存) | 業務に係る雑所得の記録の義務。前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超えると、現金預金取引等関係書類の保存が必要 |
1つ目は「超」が有利に働き、2つ目は「以下」が不利に働きます。3つ目はそもそも所得区分の判定の話ではなく、雑所得に区分された後の義務の話です。しかも3つ目だけ、判定するのが前々年分の収入金額です。
なお国税庁は解説の注記で、通達の「収入金額300万円」は、この所得税法232条の改正で収入金額300万円以下の小規模な業務を行う人に取引に関する書類の保存を求めないこととされたことを踏まえたものだ、と説明しています。3つが無関係に決まった数字ではない、という点は押さえておくと整理しやすくなります。
1,000万円も別の意味で2回出てきます。 前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が1,000万円を超える人が確定申告書を提出するときは、総収入金額や必要経費の内容を記載した書類(収支内訳書など)の添付が必要です。これは所得税の話で、消費税の課税事業者になるかどうかを判定する基準期間の課税売上高1,000万円とは別の制度です。同じ金額なので、どちらの話をしているかを毎回確認してください。
前々年分の収入金額が300万円以下であれば、その年に収入した金額と支出した費用の額で計算する現金主義の特例を選べます。ただし確定申告書にこの特例を受ける旨を記載する必要があります。
雑所得になると、計算の前提が4つ崩れる
業務に係る雑所得でも、必要経費は差し引けます。総収入金額から必要経費を引いた額が雑所得の金額です。崩れるのはその先です。
1. 青色申告特別控除が使えない。 青色申告ができるのは不動産所得、事業所得、山林所得のある人です。雑所得しかなければ、e-Taxによる電子申告や優良な電子帳簿の要件を満たしていても、青色申告特別控除65万円は適用されません。
2. 損失を他の所得と損益通算できない。 損益通算の対象は不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の損失です。雑所得の計算上生じた損失は、他の各種所得の金額から控除できません。設備を買った年に赤字が出ても、給与所得や他の所得とは相殺できないということです。
3. 純損失の繰越控除が使えない。 純損失を翌年以後3年間繰り越せるのは、損益通算をしてもなお控除しきれない純損失の金額がある場合です。損益通算の対象にならない雑所得の損失は、この土俵に上がりません。
4. 青色事業専従者給与が使えない。 生計を一にする親族に払った給与を必要経費に算入する制度は、青色申告者の事業に専ら従事している場合のものです。同じく青色申告者向けの貸倒引当金の繰入れも、事業所得を生ずべき事業を営む場合の制度です。
配偶者に手伝ってもらっている人にとっては、1つ目と4つ目が同時に効きます。
一方で、雑所得になっても残る制度もあります。経費がほとんどかからない働き方の人が使える家内労働者等の必要経費の特例は必要経費側の特例なので、事業所得でも雑所得でも、要件を満たせば使えます。
手取りで見ると、所得800万円あたりで逆転する
では実際にいくら変わるのか。当サイトの計算エンジンで、同じ売上・同じ経費のまま所得区分だけを変えて出しました。
まず、事業所得として青色申告(e-Tax)をしている場合です。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
次に、同じ収入が業務に係る雑所得と判定された場合です。青色申告特別控除が0円になり、あわせて個人事業税も課されないものとして計算しています(後述のとおり、事業税が課されないことは所得区分から自動的には決まりません)。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 291.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −36.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 418.2万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −28.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 541.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −25.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 670.7万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −28.3万円 | 個人のまま有利 |
| 1,200万円 | 791.3万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −23.7万円 | 個人のまま有利 |
| 1,500万円 | 960.3万円 | 972.0万円 | 月54万円 | −8.2万円 | ほぼ互角 |
| 1,800万円 | 1129.2万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | −0.1万円 | ほぼ互角 |
| 2,100万円 | 1289.5万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +23.1万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1464.5万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +66.6万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1702.1万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +94.7万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・白色申告・インボイス登録済み・合同会社・個人事業税0%/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
2つの表の「個人のまま」列を上から見比べると、順番が途中で入れ替わります。所得400万円では事業所得のほうが12.0万円多く、600万円では9.1万円多い。ところが800万円では雑所得のほうが1.0万円多くなり、そこから先は差が開き続けて、3,000万円では雑所得のほうが102.5万円多くなります。
理由は個人事業税です。事業税には事業主控除290万円があるので、所得が低いうちは税額そのものが小さく、失った65万円の控除のほうが重く効きます。所得が増えるにつれて事業税は所得に比例して膨らむ一方、65万円の控除がもたらす節税額は税率の分しか増えません。どこかで大小が入れ替わり、それが所得800万円のあたりにある、ということです。
一方で「法人化(最適報酬)」列は2つの表でまったく同じ数字です。法人側は個人の所得区分の影響を受けません。
法人化の分岐点は、直感と逆に遠ざかることがある
同じ計算エンジンで、実質差額がプラスに転じる事業所得のラインを出すと3通りになります。
- 事業所得として青色申告(e-Tax):1,266万円
- 65万円の控除だけを失い、個人事業税は課される場合:793万円
- 65万円の控除を失い、個人事業税も課されない場合:1,802万円
真ん中の793万円は、白色申告で計算したときの数字です。控除が減った分だけ個人の手取りが下がるので、法人化が有利になるラインが手前に来ます。この比較は青色申告65万円控除で法人化の分岐点は473万円変わるで詳しく扱っています。
問題は3つ目です。控除を失ったのに、分岐点は基準の1,266万円より536万円も後ろへずれます。「雑所得と判定されると不利になるのだから、法人化が近づくはずだ」という直感とは逆の向きです。
理屈はひとつ前の節と同じで、個人事業税が外れる影響が65万円の控除を失う影響を上回るからです。税制上の取扱いとしては雑所得のほうが不利なのに、法人化との比較という土俵では個人のまま続けるほうが長く有利に見える、という結果になります。
この3つの数字は前提が違うだけで、どれも同じ条件(経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・インボイス登録済み・合同会社)で出したものです。自分の売上と経費で確かめる場合は、判定ツールの申告方法と業種の指定を変えて比べてください。計算の前提は計算の根拠にまとめています。
個人事業税がかかるかどうかは、所得税の区分では決まらない
上の表で個人事業税を0円とした条件について補足します。個人事業税は地方税法で定められた法定業種に対してかかる税金で、現在70業種あります。所得税の所得区分とは別の物差しです。
東京都主税局は税額の算出方法の説明で、事業所得または不動産所得について「所得税の確定申告書第1表及び青色申告決算書、収支内訳書の所得金額欄の金額が当該所得です」としたうえで、括弧書きで**「ただし、雑所得が課税の対象となる場合もあります」**と明記しています。雑所得として申告したから事業税が自動的に外れる、という関係ではありません。
逆方向の注意点もあります。事業所得であっても、法定業種に当たらなければ事業税はかかりません。どの業種が対象で、どこが判断の割れやすいところかは個人事業税がかからない業種があるで整理しています。
なお個人事業税の計算では、青色申告特別控除額は所得金額に加算し直します。事業税の側には青色申告特別控除の適用がないためです。事業主控除は年間290万円です。
法人にすると、この区分の判定自体がなくなる
所得税は所得を10種類に区分して、区分ごとに計算方法と使える特例を変えています。事業所得か雑所得かで揉めるのは、この構造があるからです。
法人税にはこの区分がありません。法人の所得は益金から損金を引いた一本の数字で、活動が社会通念上の事業に当たるかどうかを所得区分のために判定する場面は出てきません。個人側に残るのは役員報酬で、これは給与所得と決まっています。
発注者から見た「外注費か給与か」の判定は、これとは別の論点として残ります。そちらは外注費と給与の判定で扱っています。
ただし法人には、赤字でも毎年かかる法人住民税の均等割と、税理士報酬などの固定費が乗ります。上の表の実質差額は、これらを差し引いた後の数字です。所得区分の争いがなくなることと、手取りが増えることは別の話です。
一般論の数字ではなく、自分の売上と経費、そして申告方法で確かめてください。
まとめ
- 事業所得と業務に係る雑所得の判定は社会通念が原則だが、国税庁が示した区分のイメージでは、収入金額よりも記帳・帳簿書類の保存の有無が先に効く
- 帳簿を保存していても、収入が例年300万円以下かつ主たる収入の10%未満のとき、または例年赤字で解消の取組がないときは個別判断になる
- 300万円は通達の括弧書き・僅少の判定・所得税法232条の保存義務の3か所に出てくる。それぞれ「超」「以下」「前々年分」と条件が違う
- 雑所得になると、青色申告特別控除・損益通算・純損失の繰越控除・青色事業専従者給与の4つが使えなくなる
- 65万円の控除を失っても個人事業税が外れる場合は、法人化の分岐点は1,266万円から1,802万円へ遠ざかる(概算)。ただし雑所得なら事業税が外れると決まっているわけではない
よくある質問
開業届を出していれば事業所得になりますか?
開業届の提出だけで決まるものではありません。国税庁は、事業所得と認められるかどうかは社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するとしたうえで、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合は業務に係る雑所得に当たるとしています。
収入が300万円以下だと必ず雑所得になりますか?
なりません。国税庁の解説が示す区分のイメージでは、記帳・帳簿書類の保存があれば収入金額にかかわらず概ね事業所得です。300万円という金額が効くのは、帳簿書類の保存がない場合に事業所得として扱う余地が残るかどうかの場面です。
雑所得でも必要経費は引けますか?
引けます。業務に係る雑所得の金額は総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。引けなくなるのは青色申告特別控除で、青色申告ができるのは不動産所得・事業所得・山林所得のある方に限られます。
雑所得の赤字は給与所得と相殺できますか?
できません。損益通算の対象となるのは不動産所得・事業所得・譲渡所得・山林所得の損失で、雑所得の計算上生じた損失は他の各種所得の金額から控除できないとされています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。