税金の基礎
貸倒引当金は個人5.5%、法人0.6%。同じ売掛金で9倍違う
売掛金1,000万円の貸倒引当金を個人事業主と中小法人で比較。個人5.5%、法人のその他事業0.6%という法定繰入率、対象債権、翌年の戻入れを解説します。
年末の売掛金が1,000万円あるとします。まだ入金期限が来ておらず、特定の取引先が倒産したわけでもありません。それでも青色申告の個人事業主なら、一定の要件のもとで55万円まで貸倒引当金を必要経費にできます。
同じ売掛金を持つ中小法人が「その他の事業」の法定繰入率を使う場合は6万円です。個人5.5%に対して法人0.6%で、繰入限度額は約9.2倍違います。 法人化すれば貸倒引当金が大きくなる、とは限りません。
ただし、これは実際に55万円または6万円を失ったという話ではありません。将来の貸倒れを見積もって当期の費用にし、翌期にいったん戻す制度です。対象者、対象債権、計算方法、翌期の戻入れをセットで見ないと節税額を過大に見積もります。
個人は5.5%、法人は業種別の‰単位
国税庁No.2070によると、事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者は、年末にある売掛金・貸付金などの帳簿価額の合計額について、原則として5.5%以下を貸倒引当金として必要経費に算入できます。金融業は3.3%です。
一方、法人の一括評価金銭債権は、原則として過去3年間の貸倒実績を基礎にした貸倒実績率で計算します。一定の中小法人等は、貸倒実績率に代えて次の法定繰入率を使えます。
| 中小法人等の事業区分 | 法定繰入率 | 債権1,000万円なら |
|---|---|---|
| 卸売業・小売業(飲食店業等を含む) | 10‰(1.0%) | 10万円 |
| 製造業等 | 8‰(0.8%) | 8万円 |
| 割賦小売業等 | 7‰(0.7%) | 7万円 |
| その他の事業 | 6‰(0.6%) | 6万円 |
| 金融業・保険業 | 3‰(0.3%) | 3万円 |
この表の「その他の事業」と個人の5.5%を比較すると、1,000万円×0.6%=6万円と、1,000万円×5.5%=55万円です。差は49万円になります。
法人の法定繰入率を使える中小法人等には、資本金または出資金が1億円以下の普通法人などが含まれます。ただし大法人との完全支配関係などによる除外があり、所得金額が極めて大きい法人には別の除外もあります。「資本金1億円以下だから必ず使える」とは判断しません。
売掛金なら何でも対象になるわけではない
法人の一括評価金銭債権には、通常の売掛金だけでなく、貸付金、未収の売買代金・加工料・請負金・手数料・保管料・地代家賃、益金に算入した未収利息などが含まれます。
反対に、次のようなものを一括評価の残高へ機械的に足してはいけません。
- 預貯金や保証金など、国税庁が対象外として示す債権
- 個別評価による貸倒引当金の対象にした金銭債権
- 現金取引で、そもそも期末に債権が残っていない売上
- 事業に関係しない個人的な貸付け
個人事業主も、事業所得を生ずべき事業に係る売掛金・貸付金などが対象です。不動産所得だけを生ずべき業務に係る債権まで、5.5%の一括評価へ自動的に含める制度ではありません。
さらに、取引先の破産申立てや長期の債務超過などにより回収不能の危険が具体化した債権は、一般的な一括評価とは別に個別評価を検討します。債権が法的に切り捨てられた、全額回収不能が明らかになったといった段階では、貸倒引当金ではなく貸倒損失の3つの要件を確認します。
「まだ普通に回収できそうな債権の集団的な見積り」「特定先に具体的な危険が生じた見積り」「貸倒れが確定した損失」は、同じ経費処理ではありません。
売掛金1,000万円で当期負担を計算する
当サイトの2026年分計算エンジンで、法人と個人をそれぞれ試算しました。
- 法人:繰入前利益500万円、東京23区の小規模法人、その他の事業
- 個人:売上700万円、通常経費200万円、青色申告65万円控除、東京23区、40歳未満、インボイス登録あり
- 両者の一括評価対象債権:1,000万円
| 区分 | 使用した率 | 繰入限度額 | 当期負担の減少 |
|---|---|---|---|
| 中小法人(その他の事業) | 0.6% | 6万円 | 1万3,900円 |
| 個人の青色申告(金融業以外) | 5.5% | 55万円 | 18万6,773円 |
法人の当期負担は、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税の合計です。個人は所得税、住民税、個人事業税、国民健康保険料の合計差です。個人の国民健康保険料は前年所得を基礎に翌年度へ反映されるため、表の18万6,773円が申告と同時にすべて減るわけではありません。
また、法人と個人は前提となる所得も税・保険の構造も違うため、18万6,773円と1万3,900円をそのまま法人化の損得にしないでください。ここで比べたいのは、同じ債権残高でも繰入限度額が大きく違うという点です。
計算はscripts/kashidaore-hikiatekin-hojin-kojin.mjsで再現できます。売掛金残高、法人の利益、個人の売上・経費を変えると、税率帯による負担差も確認できます。
翌年は55万円を戻して、また計算する
貸倒引当金は、1回計上したら永久に利益が減る制度ではありません。
たとえば個人事業主が1年目に55万円を必要経費へ算入したとします。2年目は前年の55万円を収入側へ戻し、2年目末の対象債権について新しい貸倒引当金を計算します。
| 年 | 年末の対象債権 | 繰入れ | 前年分の戻入れ | 当年所得への純影響 |
|---|---|---|---|---|
| 1年目 | 1,000万円 | 55万円の経費 | なし | 55万円減 |
| 2年目 | 1,000万円 | 55万円の経費 | 55万円の収入 | ほぼ0円 |
| 3年目 | 0円 | 0円 | 55万円の収入 | 55万円増 |
債権残高が同じなら、2年目以降は前年分の戻入れと当年分の繰入れが相殺されます。売掛金が増えれば追加分に対応する引当金が所得を減らし、減れば戻入れが所得を増やします。
実際の貸倒れが起きず、最終的に全額回収すれば、初年度の課税を後へ送った効果が中心です。資金繰りには意味がありますが、初年度の減税額だけを何年も繰り返せる節税策ではありません。
損金や必要経費の時期をずらす制度という点では減価償却と似ていますが、法人と個人の違いは逆方向です。減価償却を止められるのは法人だけでは、法人に計上額を抑える余地があり、個人は毎年の償却が進む仕組みを比較しています。
計上前に残高表を作る
貸倒引当金を使うなら、決算日または12月31日時点の残高を取引先別に並べます。
- 売掛金・貸付金・未収金の内訳を相手先別に確認する
- 一括評価の対象外となる債権を除く
- 個別評価を検討する債権を分ける
- 貸倒実績率と法定繰入率のどちらを使えるか確認する
- 前年の貸倒引当金を戻し、当年の限度額を計算する
- 申告書・青色申告決算書へ明細を残す
売掛金の残高が総勘定元帳と請求書一覧で合わない場合は、先に入金消込や売上計上の時期を直します。引当率を掛ける前の残高が違えば、計算式が正しくても申告額は正しくなりません。
また、赤字で繰入れても当期に減らす税金がなければ、即時の現金効果は小さくなります。法人の赤字を将来へ回す要件と期間は法人の欠損金は10年、個人は3年で確認してください。
まとめ
- 青色申告の個人事業主は、対象債権について原則5.5%以下を一括評価できる。金融業は3.3%
- 法人は貸倒実績率が原則で、一定の中小法人等は業種別の法定繰入率3〜10‰を使える
- その他の事業では、債権1,000万円に対して個人55万円、法人6万円となる
- 対象債権、個別評価する債権、確定した貸倒損失を混同しない
- 前年の引当金は翌年に戻し、その年末残高で新しい引当金を計算する
- 初年度の負担減は永久的な非課税ではなく、将来損失の見積りによる課税時期の調整が中心
法人化によって変わるのは税率だけではありません。同じ売掛金でも、個人と法人では対象者の要件と繰入率が違います。 年末残高を整理し、翌年の戻入れまで含めて資金繰りを見てください。
よくある質問
個人事業主の貸倒引当金は売掛金の5.5%ですか?
青色申告者が営む事業所得を生ずべき事業の売掛金・貸付金などについては、年末帳簿価額の合計額の5.5%以下を必要経費にできます。金融業は3.3%です。個別評価の対象にした債権などは一括評価から除きます。
中小法人なら売掛金の何%を貸倒引当金にできますか?
一括評価金銭債権は原則として貸倒実績率で計算します。一定の中小法人等が法定繰入率を使う場合、卸売・小売10‰、製造業等8‰、割賦小売等7‰、その他6‰、金融・保険3‰です。資本金だけで適用可否を決めず、支配関係などの要件も確認します。
貸倒引当金を計上すると翌年も同じだけ節税できますか?
前期に計上した貸倒引当金は翌期に戻し入れ、その期末の債権残高で新しい繰入額を計算します。残高と率が同じなら、2年目以降は戻入れと繰入れがほぼ相殺されます。永久的な非課税ではなく、損失見込みを先に費用化する仕組みです。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。