税金の基礎

棚卸資産の評価方法は届出なしだと最終仕入原価法。4方法を比較

棚卸資産の評価方法を届け出なければ最終仕入原価法が適用されます。法人の届出期限は設立第1期の確定申告書の提出期限まで。国税庁の設例を4つの方法で計算し直し、期末在庫の評価差が法人化の判定をどう動かすかを示します。

棚卸資産の評価方法を届け出なければ、最終仕入原価法による原価法で評価したものとされます(法人税法施行令第31条第1項)。法人の届出期限は、設立第1期の確定申告書の提出期限までです。

在庫を持つ物販や飲食では、この一枚の届出書を出したかどうかで期末在庫の評価額が変わり、その年の利益が変わります。そして個人事業主のときに出した届出は、法人には引き継がれません。

届出がなければ最終仕入原価法になる

法人は、営んでいる事業の種類ごとに、かつ商品または製品、半製品、仕掛品、主要原材料、補助原材料その他の棚卸資産という区分ごとに、評価方法を選定します(法人税法施行令第29条第1項)。事業所別に分けたり、区分をさらに細分して別々の方法を選ぶこともできます。

選定できるのは、原価法6種類と、それぞれを基礎とする低価法6種類の合計12通りです。

原価法(法人税法施行令第28条第1項第1号)低価法(同項第2号)
個別法個別法による原価法に基づく低価法
先入先出法先入先出法による原価法に基づく低価法
総平均法総平均法による原価法に基づく低価法
移動平均法移動平均法による原価法に基づく低価法
最終仕入原価法最終仕入原価法による原価法に基づく低価法
売価還元法売価還元法による原価法に基づく低価法

このうち個別法は、通常一の取引によって大量に取得され、かつ規格に応じて価額が定められている棚卸資産には選定できません。規格品を大量に仕入れる物販では使えないということです。

この12通りに含まれない方法で評価したい場合は、あらかじめ所轄税務署長の承認を受ける「特別な評価方法」の手続が別にあります(法人税法施行令第28条の2)。以下で扱うのは、承認のいらない12通りのほうです。

そして、この12通りから選んで届け出なかった場合に自動的に適用されるのが、最終仕入原価法による原価法です。届出がないこと自体に加算税がかかるわけではありませんが、選ぶ機会は失われます。会計ソフトの設定で総平均法を選んで計算していても、それは税務上の選定を届け出たことにはなりません。

減価償却の届出と構造は同じですが、落ちる先が違います。減価償却では機械や車両の法定償却方法は定率法です(法人の減価償却は届出なしだと定率法)。棚卸資産では最終仕入原価法です。どちらも「出さなければ決まった方法になる」という点だけが共通しています。

法人化すると届出はやり直しになる

棚卸資産の評価方法の届出は、所得税と法人税で別々の手続です。個人事業主として届け出ていても、法人には引き継がれません。

個人事業主法人
手続名A1-17 所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続C1-25 棚卸資産の評価方法の届出
根拠所得税法施行令第100条法人税法施行令第29条第2項、第184条第5項
対象になる人新たに事業を開始した方、従来の事業のほかに他の種類の事業を開始した方、事業の種類を変更した方評価方法を選定して届け出る法人
提出期限対象者となった日の属する年分の確定申告期限まで普通法人を設立した場合は設立第1期の確定申告書の提出期限まで
届け出なかった場合最終仕入原価法が適用される最終仕入原価法による原価法で評価したものとされる

法人成りした会社は、法人税の側では「普通法人を設立した場合」に当たります。したがって期限は設立第1期の確定申告書の提出期限です。設立日から2か月以内といった短い期限ではないので、1期目の決算を組むときに間に合わせられます。

ただし、1期目の決算を税理士に任せず自分で組む場合は、この届出書の存在自体を知らないまま最終仕入原価法に落ちていることがあります。決算で自分がどこまで手を動かすかは法人の決算・申告を自分でやるで扱っています。

なお、法人成りのときに個人から法人へ在庫そのものをいくらで引き継ぐかは、評価方法の選定とは別の論点です(法人成りで棚卸資産をいくらで引き継ぐか)。消費税の側でも棚卸資産の調整という別の計算があります(免税から課税になるときの棚卸資産の調整)。

国税庁の設例を4つの方法で計算し直す

国税庁 税務大学校の講本「法人税法(令和8年度版)」に、A商品の受払の設例があります。前期繰越100個(単価100円)、第1回仕入200個(単価120円)、第2回仕入100個(単価140円)、払出は合わせて250個で期末残は150個。仕入単価が100円→120円→140円と上がっている局面です。

講本が計算しているのは先入先出法と最終仕入原価法の2つだけなので、同じ受払データから移動平均法と総平均法を当サイトで計算しました。

評価方法期末棚卸資産の評価額売上原価総平均法との差
最終仕入原価法(届出がない場合の法定評価方法)21,000円27,000円+3,000円
先入先出法20,000円28,000円+2,000円
移動平均法18,600円29,400円+600円
総平均法18,000円30,000円

※ 前期繰越100個(単価100円)、第1回仕入200個(単価120円)、第2回仕入100個(単価140円)、払出計250個、期末残150個。取得価額の合計は48,000円。設例は国税庁 税務大学校 講本「法人税法(令和8年度版)」第5章第1節。講本が示すのは先入先出法と最終仕入原価法の2つで、移動平均法と総平均法は同じ受払データから当サイトが計算した。

読み取れることは1つです。仕入単価が上がっているこの設例では、届出をしなかったときに適用される最終仕入原価法が、4つの中で期末在庫を最も高く評価し、売上原価を最も小さくします。 総平均法と比べると期末在庫は3,000円多く、売上原価は27,000円と30,000円で1割違います。その差はそのまま利益の差です。

何もしないほうが利益が小さく出るわけではない、ということです。最終仕入原価法は事業年度の最後に取得したものの単価だけで期末在庫全体を評価するため、期末直前の仕入単価に結果が引っ張られます。

逆向きにも振れます。講本は、この方法について「期末近くに時価の下落がある時には、期末棚卸資産が低く評価されるため、販売利益が少なく計算される」と説明しています。期末付近で仕入単価が下がっていれば、最終仕入原価法のほうが利益は小さく出ます。上がるか下がるかは決算月の直前に何をいくらで仕入れたかで決まります。

期末在庫の評価差は判定を動かす

評価方法の違いは、その年の事業所得を動かします。法人化の判定は事業所得の水準で決まるので、在庫の評価が変われば判定そのものが動きます。まず、判定の基本形を当サイトの計算エンジンで出したものが次の表です。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費800万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

ここに、期末在庫を100万円高く評価した場合を重ねます。売上原価が100万円小さくなるので、事業所得は100万円増えます。その100万円が手取りにどう乗るかを、個人のままの場合と法人化した場合で並べました。

事業所得個人のままの手取り増法人化した場合の手取り増実質差額(評価前)実質差額(100万円高く評価)
600万円57.2万円63.9万円−37.6万円−31.2万円
800万円57.2万円62.9万円−24.1万円−18.4万円
1,000万円61.4万円62.9万円−14.7万円−13.1万円
1,200万円51.3万円61.5万円−6.6万円+3.6万円
1,500万円51.3万円60.3万円+23.9万円+33.1万円
1,800万円51.3万円61.5万円+47.0万円+57.1万円
2,100万円44.2万円58.9万円+80.6万円+95.5万円
2,500万円27.9万円53.2万円+136.1万円+161.3万円

※ 期末在庫を100万円高く評価した場合(売上原価が100万円小さくなり、事業所得が100万円増える)の影響。経費800万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後。

この表から2つ読み取れます。

1つ目。同じ100万円の在庫評価差でも、手元に残る額はどの所得帯でも法人化していたほうが大きくなります。 差が最も開くのは事業所得2,500万円で、個人のままなら27.9万円しか増えないのに対し、法人化していれば53.2万円で、ほぼ2倍です。個人側は所得税の累進が上の段に入るため、増えた100万円の多くが税と社会保険料で抜けます。法人側は役員報酬を動かさなければ増えた分が法人の所得に乗り、税率がおおむね一定に保たれます。

2つ目。事業所得1,200万円の行では、実質差額が−6.6万円から+3.6万円へ符号が反転します。判定が僅差の帯では、在庫の評価が100万円違うだけで「個人のまま有利」と「法人化が有利」が入れ替わるということです。判定が僅差の帯にいる場合、決算前に在庫をどう評価するかは判定の前提そのものになります。

ただし、評価方法の違いは原則としてどの年に利益を計上するかの差です。ある年の期末在庫を高く評価すれば、その在庫は翌期の期首在庫として売上原価に入るので、翌期の利益はその分小さくなります。通算の利益総額が変わるわけではありません。ここで問題になるのは、法人化の判定が単年の所得で行われがちなことと、次に述べるとおり一度決めた方法を当分変えられないことです。

変更できるのは3年経ってから

評価方法を変えたい場合は、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに変更承認申請書を提出し、所轄税務署長の承認を受けます(法人税法施行令第30条第2項)。決算が終わってから振り返って変えることはできません。

そして、いつでも変えられるわけではありません。法人税基本通達5-2-13は、現によっている評価方法を採用してから3年を経過していないときは、合併や分割に伴うものである等の特別な理由があるときを除き、承認の要件である「相当期間を経過していないとき」に該当するとしています。同通達の注書きは、3年を経過した後の申請であっても、変更することについて合理的な理由がないと認められるときは承認しないことができるとしています。

この3年は、変更承認申請における「相当期間」の判定基準であって、届出の期限や帳簿の保存年数とは別のものです。

なお、申請書を提出した場合において、新たな評価方法を採用しようとする事業年度終了の日(その事業年度について中間申告書を提出すべき法人は、その事業年度開始の日以後6月を経過した日の前日)までに承認または却下の処分がなかったときは、その日に承認があったものとみなされます。

つまり、法人化1期目に届出をしなければ最終仕入原価法になり、そこから別の方法に移るには原則として3年待つことになります。1期目の決算のときに決める価値があるのはそのためです。

まとめ

  • 棚卸資産の評価方法を届け出なければ、最終仕入原価法による原価法で評価したものとされます(法人税法施行令第31条第1項)
  • 法人の届出期限は設立第1期の確定申告書の提出期限まで。個人事業主のときの届出は法人に引き継がれず、改めて提出します
  • 国税庁の設例のように仕入単価が上がっている局面では、最終仕入原価法は4つの方法の中で期末在庫を最も高く評価し、利益が最も大きく出ます。期末付近で単価が下がっていれば逆に振れます
  • 期末在庫の評価が100万円違うと、事業所得1,200万円の帯では実質差額が−5.2万円から+5.0万円へ反転します(概算)
  • 一度採用した方法を変更するには、変更しようとする事業年度開始の日の前日までの申請が必要で、採用から3年を経過していないと承認されないのが原則です

在庫をいくらで評価するかで判定が動く帯は、事業所得1,000万〜1,500万円あたりに集中しています。一般論の数字ではなく、自分の売上と経費、そして期末在庫の見込みで確かめてください。

よくある質問

棚卸資産の評価方法の届出書を出し忘れるとどうなりますか?

法人が届出をしなかった場合や届け出た方法で評価しなかった場合は、最終仕入原価法による原価法で評価したものとされます。届出がないこと自体に加算税がかかるわけではありませんが、評価方法は選べなくなります。

個人事業主のときに出した棚卸資産の評価方法の届出は、法人に引き継がれますか?

引き継がれません。個人は所得税法施行令第100条、法人は法人税法施行令第29条第2項に基づく別々の届出です。法人成りした場合は「新たに設立した法人」として改めて提出します。

会計ソフトで総平均法を選んでいれば届け出たことになりますか?

なりません。税務上の評価方法の選定は、所轄税務署長への届出によって行います。届出がなければ、帳簿上どの方法で計算していても法定評価方法である最終仕入原価法によることになります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。