税金の基礎
貸倒損失の要件は3つ。同じ100万円でも戻る額は個人が法人の2倍
売掛金が回収不能になったときに貸倒損失にできる3つの型を、法人税基本通達9-6-1〜3と所得税基本通達51-11〜13で整理。100万円の貸倒れで減る税と社会保険料を個人・法人で計算し、法人成り後に個人時代の売掛金が焦げついた場合の扱いまで示します。
売掛金100万円が回収できなくなったとします。取引先と連絡が取れない、督促しても返事がない。それだけでは、まだ貸倒損失にはできません。
国税庁が認めているのは3つの型だけで、どれに当たるかで損金・必要経費にできる年が決まります。そして同じ100万円が焦げついても、税と社会保険料の減り方は個人事業主と法人でおよそ2倍違います。
貸倒損失にできるのは3つの型だけ
根拠は、法人が法人税基本通達9-6-1〜9-6-3、個人事業主が所得税基本通達51-11〜51-13です。番号は違いますが、3つの型の中身はほぼ同じです。
| 型 | 中身 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|---|
| ①切捨て | 更生計画認可・再生計画認可・特別清算に係る協定の認可による切捨て、債権者集会の協議決定などによる切捨て。債務超過が相当期間続いて弁済を受けられない場合に、書面で明らかにした債務免除額を含む | 9-6-1 | 51-11 |
| ②全額回収不能 | 債務者の資産状況・支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかになった | 9-6-2 | 51-12 |
| ③取引停止後1年 | 継続取引をしていた相手の資産状況等が悪化して取引を停止し、その時・最後の弁済期・最後の弁済の時のうち最も遅い時から1年以上経過した。同一地域の売掛債権の総額が取立費用に満たず、督促しても弁済がない場合も含む | 9-6-3 | 51-13 |
この3つには、見落としやすい縛りが4つ付いています。
- ②は担保物があるとき、その担保物を処分した後でなければ貸倒れにできない
- 保証債務は、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象にできない
- ③の対象は売掛金・未収請負金などの売掛債権だけで、貸付金は含まれない。全額ではなく備忘価額を控除した残額を落とす
- ③の「取引の停止」は、継続的な取引先の資産状況等が悪化して停止した場合を指す。不動産取引のようにたまたま行った取引の売掛債権には適用がない
法人と個人で書き方が違うのは②です。法人税基本通達9-6-2は「貸倒れとして損金経理をすることができる」、所得税基本通達51-12は「必要経費に算入する」。法人は帳簿で貸倒れとして落とさなければ損金になりませんが、個人は経理処理を条件にしていません。 ③はどちらも任意の書き方(法人は損金経理をしたときに認める、個人は必要経費に算入することができる)です。
同じ100万円の貸倒れでも、戻る額は個人が法人の2倍
まず、貸倒れが起きる前の状態です。事業所得別の手取りと、法人化した場合の最適な役員報酬を計算エンジンで出しました。
| 事業所得 | 個人のまま | 法人化(最適報酬) | 最適な役員報酬 | 実質差額(年) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 303.1万円 | 274.5万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 個人のまま有利 |
| 600万円 | 427.3万円 | 409.7万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 個人のまま有利 |
| 800万円 | 540.7万円 | 536.6万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 個人のまま有利 |
| 1,000万円 | 657.1万円 | 662.4万円 | 月54万円 | −14.7万円 | ほぼ互角 |
| 1,200万円 | 774.2万円 | 787.6万円 | 月54万円 | −6.6万円 | ほぼ互角 |
| 1,500万円 | 928.2万円 | 972.0万円 | 月54万円 | +23.9万円 | 法人化が有利 |
| 1,800万円 | 1082.1万円 | 1149.1万円 | 月90万円 | +47.0万円 | 法人化が有利 |
| 2,100万円 | 1232.0万円 | 1332.6万円 | 月95万円 | +80.6万円 | 法人化が有利 |
| 2,500万円 | 1395.0万円 | 1551.1万円 | 月100万円 | +136.1万円 | 法人化が有利 |
| 3,000万円 | 1599.6万円 | 1816.8万円 | 月100万円 | +197.2万円 | 法人化が有利 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額
この「最適な役員報酬」は期首に決める金額です。定期同額給与なので、期の途中で売掛金が焦げついても報酬は動かせません。その前提で、税抜100万円の売掛金が貸倒れたときに税と社会保険料がいくら減るかを計算しました。
| 貸倒れ前の事業所得 | 個人:負担の減少 | 取戻し率 | うち国保の減少 | 法人:負担の減少 | 取戻し率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 290,900円 | 29.1% | 105,800円 | 34,400円 | 3.4% |
| 600万円 | 433,200円 | 43.3% | 105,800円 | 55,500円 | 5.5% |
| 800万円 | 438,000円 | 43.8% | 105,800円 | 131,600円 | 13.2% |
| 1,000万円 | 408,648円 | 40.9% | 50,948円 | 213,600円 | 21.4% |
| 1,200万円 | 442,043円 | 44.2% | 1,343円 | 221,400円 | 22.1% |
| 1,500万円 | 486,900円 | 48.7% | 0円 | 231,500円 | 23.2% |
| 2,000万円 | 487,000円 | 48.7% | 0円 | 231,700円 | 23.2% |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 消費税は課税事業者で固定しているため、この表に貸倒れに係る消費税額の控除は含まれない
内訳を分けると、差がどこから来るかが分かります。
| 事業所得 | 個人:税の減少 | 個人:社会保険料の減少 | うち個人事業税の減少 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 185,100円 | 105,800円 | 50,000円 |
| 800万円 | 332,200円 | 105,800円 | 50,000円 |
| 1,000万円 | 357,700円 | 50,948円 | 50,000円 |
| 1,500万円 | 486,900円 | 0円 | 50,000円 |
| 事業所得 | 役員報酬 | 法人税等の減少 | 社会保険料の減少 | 役員個人の税の減少 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 月28万円 | 34,400円 | 0円 | 0円 |
| 800万円 | 月54万円 | 131,600円 | 0円 | 0円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | 213,600円 | 0円 | 0円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | 231,500円 | 0円 | 0円 |
個人の側が大きいのは、貸倒損失が事業所得をそのまま下げるからです。事業所得が下がると、所得税と住民税だけでなく、国民健康保険料(東京23区の所得割は40歳未満で合計10.58%)と個人事業税(第1種事業の税率5%なので5万円)まで連動して下がります。
法人の側は法人税等しか動きません。役員報酬が期首から変わらない以上、社会保険料も役員個人の所得税・住民税も1円も減らないためです。
事業所得が1,200万円を超えると、貸倒れても国保は減らない
上の表の「取戻し率」を縦に読むと、直感と逆の動きがあります。事業所得800万円の43.8%に対し、1,000万円は40.9%。所得が増えて税率が上がっているのに、貸倒れで取り戻せる割合はいったん下がります。
理由は国民健康保険料の賦課限度額です。国保の減少額は事業所得800万円までは105,800円で一定ですが、1,000万円で50,948円、1,200万円で1,343円、1,500万円ではゼロになります。所得割がすでに限度額に張り付いていれば、事業所得が100万円減っても保険料は減りません。
つまり、限度額の内側にいるか外側にいるかで、同じ貸倒れの痛みの大きさが変わります。国保の限度額の位置は自治体によって違うので、国民健康保険料が高い理由と法人化もあわせて確認してください。
赤字の年に貸倒れても、その年の税額は減らない
事業所得400万円の行で、法人の取戻し率が3.4%まで落ちています。役員報酬(月28万円=年336万円)と会社負担の社会保険料を差し引いた後、法人にほとんど利益が残っていないためです。損金は増えても、減らせる法人税等がわずかしかありません。
その年に使いきれなかった損失は繰り越します。繰越期間は法人10年・個人3年で、法人のほうが長く残せます。個人事業主で前年に所得があった場合は、純損失の繰戻し還付という別の道もありますが、戻るのは所得税だけで住民税や国保は戻りません。
なお、まだ貸倒れが確定していない売掛金については、貸倒引当金という別の制度があります。繰入率は個人5.5%・法人(その他の事業)0.6%で、こちらは個人のほうが9倍以上大きく取れます。貸倒れが確定した債権は引当金ではなく、この記事で扱っている貸倒損失として処理します。
法人成りしたあとに、個人時代の売掛金が焦げついたら
法人成りで個人事業を廃業すると、その後に貸倒れが確定した個人時代の売掛金は、必要経費に入れる相手の年がありません。ここを埋めているのが所得税法63条(事業を廃止した場合の必要経費の特例)で、事業を廃止した日の属する年分、またはその前年分の必要経費に算入します。
すでにその年分を申告しているなら、所得税法152条の更正の請求です。この期限は、事実が生じた日の翌日から2か月以内。 計算誤りなどによる通常の更正の請求が法定申告期限から5年以内であるのとは、別の期限です。5年あるつもりで動くと間に合いません。
例外が1つあります。所得税基本通達152-1により、2か月を経過する日が廃業した年分の確定申告書の提出期限より前に来るときは、その提出期限までに出せば足ります。
もう1つ見落としやすいのが源泉徴収です。所得税基本通達63-3の注は、源泉徴収の対象となる報酬・料金等が貸倒れになった場合、その報酬に係る源泉徴収をされるべき所得税の額はなくなるため、63条を適用して税額を計算し直すときは源泉徴収税額も改算する、としています。原稿料やデザイン料のように支払時に源泉徴収される報酬が焦げついた場合、必要経費が増えるだけでは終わりません。
売掛金を法人へ引き継いでいた場合は、債権の持ち主が法人なので法人側の貸倒損失になります。どちらで処理するかは引継ぎの有無で決まるため、法人成りの資産引継ぎと個人事業の廃業手続きの段階で決めておく話です。
消費税は別枠で引ける。ただし廃業・免税の後は引けない
貸倒れは所得課税だけの話ではありません。消費税法39条により、課税事業者は貸倒れとなった金額に含まれる消費税額を、貸倒れが発生した課税期間の売上げに対する消費税額から控除できます。
計算式は、貸倒額の合計額に110分の7.8(軽減税率の対象は108分の6.24)を乗じ、1円未満を切り捨てた金額です。税込110万円の売掛金が貸倒れたなら、控除する消費税額(国税分)は78,000円になります。適用を受けるには、債権の切捨ての事実を証する書類など、貸倒れの事実を明らかにする書類の保存が必要です。
ここで2つ、条件を確かめてください。
1つは、免税事業者であった課税期間に行った取引の売掛金です。消費税法基本通達14-2-4は、その売掛金が後で貸倒れても消費税法39条1項の適用はない、と明記しています。
もう1つが法人成りに直結します。消費税法基本通達14-2-5は、課税事業者が事業を廃止し、または免税事業者となった後に、課税事業者だった課税期間の売掛金が貸倒れても、消費税法39条1項の適用はないとしています。所得税には63条という受け皿があるのに、消費税には受け皿がありません。廃業のタイミングで、回収に不安のある売掛金がどれだけ残っているかを見ておく価値があります。
なお、タックスアンサーNo.6367が挙げているのは「主な例」の4つで、取引停止後1年の型は載っていません。ただし消費税法基本通達14-2-1が消費税法施行規則18条3号イの「取引を停止した時」の意義を定めているため、この型も消費税側の貸倒れの範囲に入ります。1ページだけ読んで対象外と判断しないところです。
まとめ
- 貸倒損失にできるのは、①法的な切捨て、②全額回収不能が明らかになったこと、③取引停止から1年以上経過したこと、の3つの型。③は売掛債権に限られ、備忘価額を残す
- 法人の②は損金経理が条件(法人税基本通達9-6-2)だが、個人の②は経理処理を条件にしていない(所得税基本通達51-12)
- 税抜100万円の貸倒れで減る税と社会保険料は、事業所得1,500万円の条件で個人48.7万円・法人23.2万円。個人は国保と個人事業税まで連動し、法人は役員報酬が動かないぶん法人税等しか減らない
- 国保の賦課限度額を超えている所得帯では、貸倒れても国保は減らない。事業所得800万円から1,000万円へ上がる区間で、取戻し率がいったん下がる
- 法人成り後に個人時代の売掛金が焦げついたら、所得税は63条・152条で遡れる(期限は事実が生じた日の翌日から2か月以内)が、消費税の貸倒れに係る税額控除は使えない
ここまでの数字はすべて、経費200万円・東京23区・独身という一つの条件で計算したものです。国保の限度額に届いているかどうかで結論が変わるので、自分の売上と経費を入れて確かめてください。
よくある質問
取引先と連絡が取れないだけで貸倒損失にできますか?
連絡が取れないことだけでは要件を満たしません。国税庁が示しているのは、法的な切捨て、全額回収不能が明らかになったこと、取引停止から1年以上経過したことの3つの型です。どれにも当たらないうちは、まだ債権として残ります。
売掛金が貸倒れたら、消費税も戻ってきますか?
課税事業者であれば、貸倒れとなった金額に含まれる消費税額を、貸倒れが発生した課税期間の売上げに対する消費税額から控除できます。ただし免税事業者であった課税期間の売掛金や、事業を廃止した後に生じた貸倒れは対象外です。
法人成りしたあとに個人事業時代の売掛金が焦げついた場合はどうなりますか?
その売掛金を法人へ引き継いでいなければ、所得税法63条により事業を廃止した年分またはその前年分の必要経費に算入する道があります。すでに申告済みなら所得税法152条の更正の請求となり、期限は事実が生じた日の翌日から2か月以内です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。