税金の基礎

減価償却を止められるのは法人だけ。個人は赤字でも進む

減価償却の法人と個人事業主の違いを、300万円・5年の資産で比較。法人の任意償却、個人の強制償却、償却を抑えたときの税額と注意点を解説します。

300万円の機械を買い、5年の定額法なら、1年分の減価償却費は60万円です。この60万円を「今年は赤字だから計上しない」と決められるかは、法人と個人事業主で違います。

法人は、決算で損金経理しないことで当期の償却を0円または限度額未満にできます。個人事業主は、法定の方法で計算した減価償却費を必要経費へ算入するため、任意に止めません。

「法人は任意償却、個人は強制償却」と短く説明される違いです。ただし法人で止めれば得になるわけではありません。多くの場合は税金を先に払うだけで、使わなかった当期の償却限度額を翌期にまとめて使うこともできません。

法人は「限度額」と「損金経理額」の小さいほう

法人税法第31条では、減価償却資産の償却費について、その事業年度に損金経理した金額のうち、償却限度額までを損金に算入します。

ここには2つの上限があります。

  1. 決算書で減価償却費として費用計上した金額
  2. 税法の方法で計算した償却限度額

たとえば当期の償却限度額が60万円でも、決算で30万円しか費用計上しなければ、原則として損金は30万円です。0円なら損金も0円です。反対に決算で80万円を計上しても、限度額が60万円なら、超えた20万円は当期の損金になりません。

決算で計上した償却費税務上の限度額当期の損金税務上の扱い
0円60万円0円償却を見送る
30万円60万円30万円限度額未満だけ償却
60万円60万円60万円限度額どおり
80万円60万円60万円20万円は償却超過額

これが法人の任意償却と呼ばれる仕組みです。償却方法そのものを毎年自由に替えるという意味ではありません。選定した定額法・定率法などで限度額を計算したうえで、決算にいくら費用計上するかを調整する余地がある、という意味です。

国税庁のNo.5410は、定額法の限度額を「取得価額×定額法の償却率」、定率法の限度額を原則として「未償却残高×定率法の償却率」と示しています。方法・耐用年数・事業に使った月数で限度額は決まり、利益に合わせて限度額自体を作り替えるものではありません。

個人事業主は必要経費への配分が毎年進む

所得税では扱いが異なります。国税庁のNo.2100は、減価償却を「取得に要した金額を一定の方法によって各年分の必要経費として配分していく手続」と説明しています。

個人事業主は、選定した方法または法定の方法でその年の減価償却費を計算し、必要経費へ算入します。届出をしていなければ、一般には定額法が法定の方法です。

したがって、次のような利益調整はしません。

  • 赤字だから今年の償却費を0円にする
  • 融資を受けたいから半額だけ必要経費にする
  • 来年の税率が高そうだから今年分を来年へ回す

青色申告決算書の減価償却費の計算欄には、取得価額、償却方法、耐用年数、償却率、事業専用割合などを記載します。任意の金額を入力する欄ではありません。

事業と私用の両方に使う車やパソコンなら、減価償却費を計算したあとに事業専用割合を掛けます。これは強制償却の例外ではなく、家事使用分を必要経費から外す計算です。

なお、そもそも資産に計上するのか、その年の経費で落とすのかは償却の手前の論点です。修理や改良の費用については修繕費と資本的支出の判定で、20万円・60万円・おおむね3年の3本の線の当て方を扱っています。

300万円・5年の資産で税額を比較する

取得価額300万円、耐用年数5年、定額法の償却率0.200、期首から1年間使った資産を例にします。年間の償却限度額は60万円です。

法人の償却前利益を200万円とし、東京23区の小規模法人について、当サイトの2026年分計算エンジンで法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税を概算しました。

法人の当期償却損金算入額法人税等償却0円との差期末帳簿残高
限度額どおり60万円36万8,900円12万8,000円減240万円
半額だけ30万円43万2,900円6万4,000円減270万円
当期は0円0円49万6,900円0円300万円

※ 均等割7万円を含む概算。資産購入時の支出300万円そのものは、3パターンとも同じです。

限度額どおり償却した法人は、0円の法人より当期の法人税等が12万8,000円少なくなりました。償却を止めると手元資金が増えるのではなく、当期の税支払いが増えます

個人事業主が同じ資産を同じ条件で事業だけに使うなら、その年の必要経費は60万円です。事業所得が償却前20万円なら、償却後は40万円の赤字になります。黒字20万円のまま申告するために、償却費を0円にはできません。

この表はscripts/genka-shokyaku-hojin-kojin.mjsで再計算できます。資産額、限度額、償却前利益を変えれば、利益帯による税額差も確認できます。

見送った限度額は翌年に上乗せできない

法人の任意償却で最も注意したい点です。

1年目の限度額60万円を使わず0円にしても、2年目の定額法の限度額が120万円になるわけではありません。2年目も原則60万円です。使わなかった1年目分は「繰越控除」のような別枠で翌期へ移りません。

その結果、5年間すべて限度額どおり償却した法人より、未償却残高が後まで残ります。将来、残高を損金にするには、その後の事業年度にも資産を保有して事業に使い、各期の償却限度額の範囲で損金経理を続ける必要があります。

途中で売却すれば、帳簿価額と売却額との差が売却損益に反映されます。廃棄した場合も、実際の除却と証拠に基づいて処理します。「いつか全額落とせるから同じ」と考えるだけでは、資産の処分時期や会社の存続期間を見落とします。

赤字なら、任意償却より欠損金を先に比較する

法人が初年度赤字だからといって、償却を止めるのが自動的な正解ではありません。

青色申告書を期限内に提出するなどの要件を満たす法人は、欠損金を後の事業年度へ繰り越せます。償却費を計上して赤字を増やし、その欠損金を将来の黒字と相殺できるなら、償却を止める必要性は下がります。

比較するのは次の2案です。

当期将来の管理
償却する赤字・欠損金が増える欠損金の繰越期限と連続申告を管理
償却しない決算上の利益を高くする固定資産の未償却残高と各期限度額を管理

欠損金の制度と要件は法人の欠損金は10年、個人は3年で整理しています。税務だけを見れば将来の控除時期が違う選択でも、融資審査では当期の決算利益や自己資本も見られます。金融機関へ出す決算書の見え方も含め、毎期一貫した方針にします。

定率法から定額法へ自由に替える話ではない

任意償却と償却方法の変更は別です。

個人も法人も、資産の種類ごとに定額法・定率法などを選びます。建物や一定時期以後の建物附属設備・構築物は定額法に限られるなど、選べない資産もあります。届出をしなかったときは法定償却方法が適用されます。

法人ができるのは、採用している方法で計算した当期の償却限度額以下に損金経理額を抑えることです。「今年は定額法、来年は定率法」と利益に応じて自由に変更することではありません。

また、10万円未満の資産、10万円以上20万円未満の一括償却資産、一定の青色申告者が使える少額減価償却資産の特例には、それぞれ別の処理があります。取得価額だけでなく、取得日、事業供用日、資産の種類、会社規模、年間合計額を確認してください。

車の法人・個人の違いと事業割合は社用車の経費は法人と個人でどう違うか、税務上の繰延資産である創立費・開業費の任意償却は法人の創立費・開業費は任意償却で扱っています。固定資産の減価償却と、創立費・開業費の任意償却は限度額の計算が同じではありません。

決算前に確認する5項目

法人で償却額を抑える前に、次の順で確認します。

  1. 固定資産台帳の取得価額・取得日・事業供用日が正しいか
  2. 資産区分、法定耐用年数、採用している償却方法が正しいか
  3. 当期の償却限度額はいくらか
  4. 償却後の欠損金を将来使える見込みと申告要件はどうか
  5. 決算利益を重視する融資・出資・許認可への影響があるか

個人事業主は、同じ1〜3を確認したうえで、事業専用割合を掛けて必要経費を計算します。赤字か黒字かを理由に償却額を変えません。

まとめ

  • 法人は、確定決算で損金経理した額のうち償却限度額までを損金算入する
  • 法人は損金経理を0円または限度額未満にできるため、任意償却と呼ばれる
  • 個人事業主は法定の方法で計算した減価償却費を毎年の必要経費へ算入する
  • 300万円・5年、償却前利益200万円の例では、60万円償却すると法人税等が12万8,000円減った
  • 法人が当期の償却を見送っても、未使用の限度額を翌期に上乗せはできない
  • 赤字法人は、償却を止める前に青色欠損金の繰越と比較する
  • 任意償却は、定額法と定率法を毎年自由に変更する制度ではない

違いは「法人なら節税額を好きに増やせる」ことではありません。法人には当期の損金経理額を抑える余地があり、個人にはないという違いです。税額、欠損金、決算書の見え方を並べてから判断してください。

よくある質問

法人は減価償却費を0円にできますか?

税務上は、確定した決算で減価償却費を費用として計上しなければ、その期の損金算入額を0円にできます。ただし未使用の償却限度額を翌期に上乗せできるわけではなく、決算書の利益や金融機関の評価にも影響します。

個人事業主は赤字なら減価償却をしなくてもよいですか?

できません。事業用資産の減価償却費は、法定の方法で計算して各年の必要経費に算入します。赤字を小さく見せる目的で任意に0円へ下げる扱いはしません。

法人が減価償却をしないと節税になりますか?

通常は当期の税額が増えるため、節税ではなく損金算入時期の先送りです。将来の高い利益に備える意図があっても、各期の償却限度額や欠損金の繰越と比較して判断します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。