税金の基礎

家内労働者等の必要経費の特例は69万円。対象になる人とならない人

令和8年分から69万円に上がった家内労働者等の必要経費の特例を、対象者の線引きから整理しました。給与所得控除の最低保障74万円と5万円ずれる理由、実経費が少ない人の手取りが所得帯ごとにいくら変わるか、法人化の分岐点が最大361万円後ろへ動くことを計算エンジンで出しています。

令和8年分から、家内労働者等の必要経費の特例は69万円になりました。実際にかかった経費が20万円でも、69万円までを必要経費として認めてもらえる制度です。経費がほとんどかからない働き方をしている人にとっては、青色申告特別控除に次ぐ大きさになります。

ただし「フリーランスなら誰でも」ではありません。国税庁が対象としているのは、家内労働法に規定する家内労働者や外交員などのほか、特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人です。

そしてこの69万円は、給与所得控除の最低保障額74万円とは5万円ずれています。同じ改正の話に見えて、別の金額で動いています。

令和8年分は69万円。3年で55万円から2回動いた

国税庁タックスアンサー No.1810 の金額は次のとおりです。

年分必要経費として認められる額
令和2年分〜令和6年分55万円
令和7年分65万円
令和8年分以降69万円

根拠法令は租税特別措置法27条です。令和8年分の金額について、国税庁は「令和8年12月1日に施行され、令和8年分から適用される金額です」と注記しています。適用は令和8年分の確定申告からで、令和7年分の申告に69万円は使えません。

この特例がある理由は、給与との釣り合いにあります。会社に雇われて給与をもらう人には、経費を1円も使っていなくても給与所得控除の最低保障額があります。同じ仕事を請負や業務委託で受けると、所得の計算は「収入−実際の経費」になり、経費が少ない人ほど不利になります。その差を埋めるための特例なので、金額も給与所得控除の最低保障額に合わせて動いてきました

給与所得控除の最低保障74万円とは5万円ずれる

ところが令和8年分では、両者が一致していません。

制度令和8年分の金額内訳
給与所得控除の最低保障額74万円本則69万円+特例加算5万円
家内労働者等の必要経費の特例69万円本則のまま

令和8年分の給与所得控除は、最低保障額が74万円です。この74万円のうち5万円は、令和8年・9年分限りの特例加算です。家内労働者等の特例には、その5万円がありません。同じ「69万円」という数字が、片方では本則の一部、もう片方では上限そのものになっています。

このずれは、国税庁自身が書いている「所得税がかからない収入の上限」に現れます。

働き方所得税がかからない年間収入内訳
家内労働者等の特例だけの人173万円特例69万円+基礎控除104万円
給与だけの人178万円給与所得控除74万円+基礎控除104万円

No.1810 は「この特例に該当する所得しかない人で、その年の総収入金額が173万円以下の場合は、総所得金額が基礎控除額の104万円以下となりますので、本人に所得税は課されません」としています。給与側の178万円は年収の壁は令和8年に178万円へで扱っているとおりで、同じ収入額でも、受け取り方が給与か請負かで境目が5万円違うということです。

なお、この173万円は所得税だけの話です。住民税の基礎控除は43万円で据え置かれているので、住民税がかかり始める収入はこれより手前に来ます。基礎控除104万円そのものが令和8年・9年分限りの特例加算を含む金額である点は、基礎控除104万円が使えるのは所得489万円までで整理しています。

No.1810 は続けて、この特例に該当する所得しかない人の総収入金額が131万円以下であれば、扶養者の所得税額の計算上、配偶者控除または扶養控除の対象になるとしています。扶養に入れるかどうかの境目も、給与で受け取る場合とは別の位置にあります。

対象は「特定の者に対して継続的に」。取引先が増えると外れる

No.1810 が挙げる対象者は次の4つと、そのあとに続く1つです。

  • 家内労働法に規定する家内労働者
  • 外交員
  • 集金人
  • 電力量計の検針人
  • 特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人

実務で問題になるのは最後の1つです。1社から継続して業務委託を受けているエンジニアやライター、配送を1社と契約している人などが、ここに当たるかどうかで判断が分かれます。国税庁が挙げているのは「特定の者」であって「1社だけ」ではありませんが、不特定多数の顧客を相手にしている場合は当たらないという方向に働きます。自分がどちらかを決めきれない場合は、契約の形と相手先の数を持って税務署か税理士に確認する価値があります。

給与収入がある場合

兼業している場合の扱いは、No.1810 が2段階で書いています。

  1. 給与の収入金額が69万円以上あるときは、この特例は受けられない
  2. 給与の収入金額が69万円未満のときは、69万円からその給与に係る給与所得控除額を差し引いた残額と、実際にかかった経費とを比べて高い方が必要経費になる

つまり、パートやアルバイトの給与が年69万円以上になった時点で、特例は消えます。69万円ちょうどでも適用はありません。

事業所得と雑所得の両方がある場合

両方の実際の経費の合計が69万円未満のときは、合計で69万円まで認められます。このとき、69万円と実際の経費の合計との差額は、まず雑所得の実際の経費に加えるという順番が決まっています。

また、特例で使える必要経費の額は、事業所得や公的年金等以外の雑所得の収入金額が限度です。収入30万円の人が69万円の経費を立てて赤字を作ることはできません。

青色申告特別控除との関係

この2つは働く場所が違います。家内労働者等の特例は必要経費を膨らませる側、青色申告特別控除は不動産所得または事業所得から差し引く側です。国税庁 No.2072 は、55万円控除の要件として「不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること」を挙げ、65万円控除はそれに電子帳簿保存またはe-Tax送信を加えたものとしています。

したがって、所得区分が雑所得にしかならない場合、青色申告特別控除は使えません。家内労働者等の特例は雑所得でも使えるので、ここで扱いが分かれます。控除額そのものの動きは青色申告特別控除は令和9年分から75万円で扱っています。

49万円を上乗せしても、手取りは14万〜24万円しか増えない

ここからは当サイトの計算エンジンで出した数字です。実際にかかった経費が年20万円の人が、特例で必要経費を69万円として申告した場合、手取りがいくら変わるかを売上別に並べました。上乗せできる額は49万円で全行共通です。

年間売上特例を使わない手取り特例を使った手取り
400万円288.9万円303.2万円+14.3万円
500万円357.4万円373.8万円+16.5万円
600万円415.9万円440.2万円+24.3万円
800万円529.3万円550.2万円+21.0万円
1,000万円644.8万円664.7万円+19.8万円
1,200万円764.0万円786.5万円+22.5万円
1,500万円917.9万円941.8万円+23.9万円

※ 実際にかかった経費は年20万円。特例で必要経費を69万円として計算した場合との比較 ※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準

上乗せ額は49万円で一定なのに、手取りの増え方は所得に比例しません。 売上600万円で24.3万円と跳ね、売上1,000万円ではいったん19.8万円まで縮み、売上1,200万円以降で23.9万円に戻ります。理由は2つあります。

1つ目は基礎控除の段差です。売上600万円・経費20万円・青色申告特別控除65万円の場合、特例を使わなければ事業所得は515万円で、基礎控除は67万円です。特例を使うと事業所得が466万円になり、合計所得489万円以下の区分に入って基礎控除が104万円に上がります。49万円の経費上乗せが、37万円の基礎控除の増加を連れてくるのがこの帯です。売上750万円前後にも、合計所得655万円の段差をまたぐ小さな山(+22.0万円)があります。

2つ目は国民健康保険の賦課限度額です。売上1,000万円から1,150万円の帯では、特例を使う前も後も保険料が上限近くに張り付いており、所得が49万円下がっても保険料がほとんど減りません。この帯の差は18.9万〜19.8万円で、表の中で最も小さくなります。限度額の仕組みは東京23区の国民健康保険料の計算方法で扱っています。

いずれにしても、49万円を上乗せして戻ってくるのは14.3万〜24.3万円です。経費を69万円まで水増しできる制度ではなく、49万円分の課税所得が消える制度だと考えるほうが実態に近くなります。

実経費が69万円を超えると、特例の価値はゼロになる

上乗せできるのは69万円と実際の経費の差額だけです。売上800万円で固定して、実際の経費別に並べます。

実際にかかった経費特例で上乗せできる額手取りの差
0万円69.0万円+29.5万円
10万円59.0万円+25.3万円
20万円49.0万円+21.0万円
40万円29.0万円+12.4万円
60万円9.0万円+3.9万円
69万円0円+0.0万円
80万円0円+0.0万円

※ 年間売上800万円で固定 ※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準

実際の経費が69万円に達した時点で、この特例は何も足しません。実際の経費が年69万円以上の人にとっては、自分が対象者に当たるかどうかを調べる実益がありません。

法人化の分岐点は、最大361万円後ろへ動く

この特例には、法人側に対応する制度がありません。法人の経費は実額のままです。したがって、特例を使える人が法人化を比べるときは、個人側だけが69万円で計算され、法人側は実際の経費で計算されることになります。

実質差額(法人化後の手取り − 個人のままの手取り − 税理士報酬の差)がプラスに転じる年間売上を、実際の経費別に計算しました。

実際にかかった経費特例なしの分岐点(売上)特例ありの分岐点(売上)動き
0万円1,266万円1,627万円+361.0万円
20万円1,285万円1,520万円+235.0万円
40万円1,305万円1,445万円+140.0万円
60万円1,325万円1,369万円+44.0万円
69万円1,334万円1,334万円+0.0万円
100万円1,366万円1,366万円+0.0万円

※ 実質差額がプラスに転じる年間売上 ※ 東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 特例は個人側だけに適用。法人側の経費は実額のまま計算している

この表には、直感と逆になっている列があります。

特例を使わない人は、経費が増えるほど分岐点が後ろへ動きます(経費0万円の1,266万円から経費100万円の1,366万円へ)。ところが特例を使える人は、経費が増えるほど分岐点が手前へ動きます(経費0万円の1,627万円から1,334万円へ)。2つの列は69万円の行で合流します。

理由は単純です。特例を使える人にとって、69万円までの経費は使っても使わなくても必要経費が69万円のままです。個人側は何も変わらず、法人側だけが経費で軽くなります。その結果、経費を使うほど法人化が有利な方向へ近づきます。経費を使えば個人側の税負担も下がる、という通常の関係がここでは成り立ちません。

比較の元になる、特例を考えない場合の所得別の数字は次のとおりです。

事業所得個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)判定
400万円303.1万円274.5万円月28万円−48.6万円個人のまま有利
600万円427.3万円409.7万円月42万円−37.6万円個人のまま有利
800万円540.7万円536.6万円月54万円−24.1万円個人のまま有利
1,000万円657.1万円662.4万円月54万円−14.7万円ほぼ互角
1,200万円774.2万円787.6万円月54万円−6.6万円ほぼ互角
1,500万円928.2万円972.0万円月54万円+23.9万円法人化が有利
1,800万円1082.1万円1149.1万円月90万円+47.0万円法人化が有利
2,100万円1232.0万円1332.6万円月95万円+80.6万円法人化が有利
2,500万円1395.0万円1551.1万円月100万円+136.1万円法人化が有利
3,000万円1599.6万円1816.8万円月100万円+197.2万円法人化が有利

※ 経費20万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 実質差額は税理士報酬の差(年20万円)と法人住民税の均等割を差し引いた後の金額

なお、法人化して役員報酬を受け取る立場になれば、その報酬には給与所得控除がかかります。令和8年分の最低保障額は74万円なので、金額だけを見れば法人化後のほうが5万円大きいことになります。それでも分岐点が後ろへ動くのは、法人化によって社会保険料と法人住民税の均等割が新しく乗るためです。計算の前提は計算の根拠にまとめています。

判定ツールで試すときの入れ方

当サイトの判定ツールは、この特例を計算に入れていません。対象になるかどうかが契約の実態で決まるためです。特例を使える見込みがある場合は、経費の欄には実際の金額を入れたうえで、個人のままの手取りに上の表の差(売上600万円なら24.3万円、800万円なら21.0万円)を足して読んでください。分岐点は、経費の欄の金額に応じて上の表のぶんだけ後ろへ動きます。

一般論の数字ではなく、ご自身の売上と実際の経費で確かめてください。

まとめ

  • 家内労働者等の必要経費の特例は、令和8年分から69万円(令和7年分65万円、令和2〜6年分55万円)。令和8年12月1日施行で令和8年分から適用
  • 令和8年分の給与所得控除の最低保障額74万円(本則69万円+特例加算5万円)とは5万円ずれる。所得税がかからない収入は、特例だけの人が173万円、給与だけの人が178万円
  • 対象は家内労働者・外交員・集金人・電力量計の検針人と、特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人。給与の収入金額が69万円以上あると使えない
  • 経費20万円の人が49万円を上乗せしても、手取りの増加は14.3万〜24.3万円。売上600万円では基礎控除の段差が重なって最大になり、売上1,000万〜1,150万円では国保の賦課限度額で最小になる
  • 法人側にこの特例はないため、法人化の分岐点は実際の経費が0円の人で361万円後ろへ動く。実際の経費が69万円以上なら動かない

よくある質問

フリーランスなら誰でも家内労働者等の特例を使えますか?

使えません。国税庁は対象者を、家内労働法に規定する家内労働者、外交員、集金人、電力量計の検針人のほか、特定の者に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人としています。不特定多数の相手と取引している場合は、この「特定の者」に当たるかどうかが問題になります。

令和8年分の特例額はいくらですか?

69万円です。令和7年分は65万円、令和2年分から令和6年分までは55万円でした。令和8年分の金額は令和8年12月1日に施行され、令和8年分から適用されます。

給与収入があっても特例は使えますか?

給与の収入金額が69万円以上あるときは使えません。69万円未満のときは、69万円からその給与に係る給与所得控除額を差し引いた残額と、実際にかかった経費を比べて高い方が必要経費になります。

青色申告特別控除と両方使えますか?

家内労働者等の特例は必要経費側の特例で、青色申告特別控除は不動産所得または事業所得から差し引く控除です。控除の対象が事業所得であれば、複式簿記やe-Tax送信といった青色申告特別控除の要件を満たすかどうかで別に判定します。雑所得にしかならない場合、青色申告特別控除は使えません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。