税金の基礎
事務所の礼金は20万円以上なら5年償却。更新料・仲介手数料・敷金の扱い
結論
事務所の礼金・更新料は「建物を賃借するための権利金等」で、1回の支出が20万円未満ならその年に全額を経費にでき、20万円以上なら繰延資産です。礼金は原則5年、更新のたびに払う更新料は賃借期間(2年契約なら2年)で償却します。仲介手数料は払った年に全額を経費にでき、返ってくる敷金は経費になりません。
- 家賃10万円で礼金2か月(20万円)なら、1年目に落ちるのは4万円だけ。礼金1か月なら家賃19万円までは全額がその年の経費
- 20万円の判定は経理方式による。税込経理なら税抜18万1,819円以上の礼金は20万円以上として扱う
- 礼金30万円を1年目に全額落とせるかどうかで、1年目の税負担は法人で5.1万円、個人で9.4万円違う(5年間の合計はほぼ同じ)
独立して最初の事務所を借りるとき、あるいは法人成りに合わせて事務所を法人名義に切り替えるとき、契約時に払うお金は家賃の何か月分にもなります。そのうち何がその年の経費になり、何が数年かけて経費になるのかは、1回に払う金額が20万円未満かどうかで分かれます。
礼金・更新料は「繰延資産」、仲介手数料は払った年の経費
事務所の契約で払うお金を、税務上の扱いで分けると次のようになります。
| 支払い | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 礼金 | 繰延資産(20万円未満なら支出した年に全額経費) | 法人税基本通達8-1-5(1)、法人税法施行令134条 |
| 更新料 | 繰延資産(20万円未満なら支出した年に全額経費) | 同上 |
| 仲介手数料 | 支払った年に全額経費にできる | 法人税基本通達8-1-5(注) |
| 敷金・保証金(返ってくる部分) | 資産。経費にならない | 返還される預け金のため |
| 前払いの家賃 | 前払費用。その期間の家賃として経費 | — |
法人税基本通達8-1-5は、「建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用」を繰延資産に当たるとしています。礼金はこの権利金等の典型です。一方で同じ通達の注書きは、建物の賃借に際して払った仲介手数料は、払った事業年度の損金にできると明記しています。同じ契約時の支払いでも、礼金と仲介手数料で扱いが分かれるわけです。
個人事業主も考え方は同じです。所得税法施行令7条は「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立ちのき料その他の費用」で支出の効果が1年以上に及ぶものを繰延資産としています。
20万円未満ならその年の経費、以上なら償却
繰延資産でも、1回に支出する金額が20万円未満なら、支出した年(事業年度)に全額を経費にできます。法人は法人税法施行令134条(損金経理が条件)、個人は所得税法施行令139条の2です。
20万円以上なら、効果の及ぶ期間で均等に償却します。建物を借りるための権利金等の償却期間は、法人税基本通達8-2-3で次のように決まっています。
- 原則は5年
- 賃借期間が5年未満で、契約の更新時に再び権利金等を払うことが明らかなときは、その賃借期間
- 新築ビルの建設費の大部分にあたる権利金や、借家権として転売できる権利金は、建物の耐用年数の7割など別の年数
一般的な事務所の礼金は、更新のときにもう一度払うことはないので5年です。通達は更新料を名指ししていませんが、2年ごとに更新料を払う契約なら、更新料は次の更新までの2年分の効果しかないため、表の読み方としては賃借期間の2年で償却することになります。償却は月数按分なので、期の途中で契約すると1年目は契約月からの月数分だけです(法人税法施行令64条1項2号)。
家賃別に、どちらに入るか
| 月額家賃(税抜) | 礼金1か月 | 1年目に落ちる額 | 礼金2か月 | 1年目に落ちる額 | 更新料1か月(2年契約) | 1年目に落ちる額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 8万円 | 8.0万円 | 8.0万円(全額) | 16.0万円 | 16.0万円(全額) | 8.0万円 | 8.0万円(全額) |
| 10万円 | 10.0万円 | 10.0万円(全額) | 20.0万円 | 4.0万円 | 10.0万円 | 10.0万円(全額) |
| 12万円 | 12.0万円 | 12.0万円(全額) | 24.0万円 | 4.8万円 | 12.0万円 | 12.0万円(全額) |
| 15万円 | 15.0万円 | 15.0万円(全額) | 30.0万円 | 6.0万円 | 15.0万円 | 15.0万円(全額) |
| 19万円 | 19.0万円 | 19.0万円(全額) | 38.0万円 | 7.6万円 | 19.0万円 | 19.0万円(全額) |
| 20万円 | 20.0万円 | 4.0万円 | 40.0万円 | 8.0万円 | 20.0万円 | 10.0万円 |
| 25万円 | 25.0万円 | 5.0万円 | 50.0万円 | 10.0万円 | 25.0万円 | 12.5万円 |
※ 期首に契約・支払い(1年目は12か月分)。礼金は更新時に再び払わない契約で償却期間5年、更新料は2年ごとに払う契約で償却期間2年。20万円未満は支出した年に全額を経費にできる。消費税は税抜経理の前提。当サイトで計算(scripts/jimusho-reikin-koshinryo.mjs)
目を引くのは家賃10万円・礼金2か月の行です。礼金はちょうど20万円で、「20万円未満」に1円届かないため、1年目に落ちるのは4万円だけになります。家賃9万9,999円なら全額がその年の経費でした。
税込経理だと、家賃18.2万円から判定が変わる
事務所の家賃と礼金には消費税がかかります(住宅として借りる部分は非課税)。そこで問題になるのが、20万円を税抜で見るか税込で見るかです。
法人税の取扱いを定めた国税庁の個別通達(平成元年3月1日直法2-1)の9は、法人税法施行令134条の金額基準を満たすかどうかは、その法人が適用している税抜経理方式か税込経理方式かに応じ、その方式で算定した価額で判定するとしています。
| 礼金(税抜) | 税込 | 税抜経理の判定 | 税込経理の判定 |
|---|---|---|---|
| 18万円 | 19万8,000円 | 20万円未満(全額経費) | 20万円未満(全額経費) |
| 18万1,819円 | 20万円 | 20万円未満(全額経費) | 20万円以上(償却) |
| 19万円 | 20万9,000円 | 20万円未満(全額経費) | 20万円以上(償却) |
税込経理の会社や個人事業主は、税抜18万1,819円以上の礼金が20万円以上になり、償却に回ります。家賃1か月分の礼金なら、家賃18万2,000円〜20万円の帯で結論が変わります。経理方式の選び方そのものは税込経理と税抜経理で何が変わるかで扱っています。
1年目に全額落とせるかで、税負担はいくら違うか
償却になっても、5年間で経費になる総額は同じです。変わるのは経費になる時期で、1年目の税負担に差が出ます。礼金30万円(家賃15万円・2か月分)で計算しました。
| 1年目に落とせる額の差 | 1年目の税・保険料の差 | |
|---|---|---|
| 法人(税引前利益259.5万円) | 24.0万円 | 5.1万円 |
| 個人事業主(売上1,200万・経費200万) | 24.0万円 | 9.4万円 |
※ 礼金30万円を1年目に全額落とせた場合と、5年償却で6万円だけ落とす場合の比較。法人は法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税、個人は所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険(東京23区・40歳未満・単身・青色65万円)。当サイトの計算エンジンで算出(scripts/jimusho-reikin-koshinryo.mjs tax)
同じ24.0万円の差でも、個人事業主のほうが税負担の差は大きくなります。個人の事業所得には所得税・住民税に加えて個人事業税と国民健康保険料もかかるためです。法人の税率がどこまで下がるかは法人税は15%では済まないで計算しています。
ただしこの差は2年目以降の償却で取り戻すので、5年間の合計はほぼ同じです。礼金の条件を交渉するときに、税金の違いを理由にするほどの金額ではありません。
法人成りで事務所を法人名義にするとき
個人事業主として借りていた事務所を、法人成りに合わせて法人の契約に切り替えると、次の点が問題になります。
- 新しい礼金・名義変更料:大家によっては、借主の変更を新しい契約として扱い、礼金や名義変更の手数料を求めます。これは法人が「建物を賃借するために支出する費用」で、20万円基準と償却期間の考え方は上と同じです
- 個人で預けた敷金:敷金は返ってくるお金なので個人の資産です。大家が敷金を法人の契約に引き継ぐ場合は、個人の資産を法人に移したことになります。法人がその分を個人に払うか、役員借入金として記録するかを決める必要があります。資産の引き継ぎ方は法人成りの資産引継ぎで扱っています
- 自宅兼事務所をやめるかどうか:自宅の一部を事務所にしていた人は、法人成りを機に自宅を社宅にする方法もあります。家賃の扱いは役員社宅で法人化の分岐点は909万円に下がるで計算しています
事務所の家賃は、個人でも法人でも経費です。事務所を持つかどうかで法人化の損得そのものは大きく変わりませんが、経費の額は事業所得を動かします。家賃を含めた自分の経費で、法人化の差額をシミュレーターで確かめてください。
まとめ
- 礼金・更新料は建物を賃借するための権利金等で繰延資産。仲介手数料は払った年に全額経費にでき、返ってくる敷金は経費にならない
- 1回の支出が20万円未満ならその年に全額経費。20万円以上なら礼金は原則5年、更新のたびに払う更新料は賃借期間で償却する
- 家賃10万円で礼金2か月(20万円)は償却に回り、1年目に落ちるのは4万円
- 20万円の判定は経理方式による。税込経理なら税抜18万1,819円以上の礼金が償却になる
- 1年目の税負担の差は礼金30万円で法人5.1万円・個人9.4万円だが、5年間の合計はほぼ同じ
よくある質問
事務所の礼金や家賃に消費税はかかりますか
事務所として借りる物件の家賃・礼金には消費税がかかり、課税事業者なら仕入税額控除の対象になります。住宅として借りる部分の家賃は非課税です。
自宅の一部を事務所にしている場合の礼金はどうなりますか
住居として借りた物件の礼金は、事業に使う割合だけが経費の対象です。事業分の金額が20万円未満か以上かで、その年の経費にするか償却するかが決まります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。