税金の基礎

法人成り1年目の資金繰り。個人事業の後払い226万円が重なる月

結論

売上1,200万円・経費200万円の個人事業を1月に法人成りし、役員報酬を月54万円にすると、1年目は個人事業の後払いが合計225.8万円(所得税の残り37.5万・住民税77.7万・個人事業税35.5万・予定納税75.0万円)重なり、11月は後払いが月の手取り44.2万円を11.0万円上回ります。

  • 後払いの合計225.8万円は、1年目の役員報酬の手取り(年531.0万円)の42.5%にあたる
  • そのうち予定納税75.0万円は7月1日〜15日の減額申請で止められる。申請しなければ戻るのは翌年3月の確定申告
  • 法人の口座は、翌年2月末に1期目の法人税等62.4万円と消費税をまとめて払う。一般課税なら消費税は108.0万円

法人化の損得を計算するとき、比べるのはふつう「毎年の手取り」です。当サイトのシミュレーターも、2年目以降の定常状態で比べています。ところが法人成りした最初の1年だけは、前年までの個人事業の税金を後から払いながら、法人の社会保険料と源泉所得税を新しく払い始めることになります。

損得は同じでも、この1年で資金が詰まると困ります。月ごとに何がいくら出ていくのかを、設例で並べました。

設例:売上1,200万円の個人事業を1月1日に法人成り

条件は次のとおりです。

  • 前年・前々年とも、売上1,200万円・経費200万円の個人事業(東京23区・40歳未満・単身・青色申告65万円・インボイス登録あり)
  • 1月1日に合同会社を設立し、個人事業は前年12月末で廃業。決算は12月
  • 役員報酬は、当サイトの計算で手取りが最大になる月54万円
  • 源泉所得税は納期の特例(半年ごとに納付)を使う

毎月の手取りは、額面54万円から社会保険料の本人分7.5万円と源泉所得税22,310円を引いた44.2万円です。この44.2万円から、個人事業の後払いを払っていくことになります。

月別に並べると、7月・8月・11月が薄い

月個人の口座から出ていく後払い役員報酬の手取り-後払い法人の口座から出ていく税・保険料
1月—44.2万円—
2月—44.2万円社会保険料(前月分・本人分+会社分) 15.2万円
3月前年分 所得税の残り 37.5万円6.7万円社会保険料 15.2万円
4月—44.2万円社会保険料 15.2万円
5月—44.2万円社会保険料 15.2万円
6月住民税 第1期 19.5万円24.7万円社会保険料 15.2万円
7月予定納税 第1期 37.5万円6.7万円社会保険料 15.2万円
源泉所得税(1〜6月分) 13.4万円
8月住民税 第2期 19.4万円
個人事業税 第1期 17.8万円
7.1万円社会保険料 15.2万円
9月—44.2万円社会保険料 15.2万円
10月住民税 第3期 19.4万円24.8万円社会保険料 15.2万円
11月予定納税 第2期 37.5万円
個人事業税 第2期 17.8万円
−11.0万円社会保険料 15.2万円
12月年末調整の還付 −8.1万円52.4万円社会保険料 15.2万円
翌1月住民税 第4期 19.4万円24.8万円社会保険料(11月分・12月分) 30.4万円
源泉所得税(7〜12月分・還付を差引き) 5.3万円
翌2月—44.2万円社会保険料 15.2万円
法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税(1期目) 62.4万円
翌3月予定納税の還付(確定申告) −75.0万円119.3万円社会保険料 15.2万円

※ 1月1日設立・12月決算の合同会社。前年まで売上1,200万円・経費200万円の個人事業(東京23区・40歳未満・単身・青色申告65万円・インボイス登録あり)。役員報酬は月54万円、毎月の手取りは社会保険料(本人分7.5万円)と源泉所得税(令和8年分 月額表・甲欄 22,310円)を引いた44.2万円。住民税は1年目が個人事業の前年所得による普通徴収(6月・8月・10月・翌1月)。消費税・国民健康保険は含めない。当サイトの計算エンジン(scripts/houjinnari-1nenme-shikinguri.mjs)で算出

「役員報酬の手取り-後払い」の列は、生活費を払う前の残りです。3月・7月・8月は6〜7万円しか残らず、11月はマイナス11.0万円になります。生活費を月30万円とすると、3月から11月までの9か月で、手取りだけでは足りない月が6回あります。1月からの累計で見ると、11月の時点で50.0万円が不足します。

各項目の納期は次のとおりです。

  • 所得税の確定申告:3月15日。前年に予定納税を2回払っているので、残りは年税額の3分の1
  • 予定納税:第1期7月1日〜31日、第2期11月1日〜30日(国税庁 No.2040)
  • 個人事業税:8月末と11月末(東京都主税局)
  • 住民税(普通徴収):6月・8月・10月・翌1月の各月末(東京23区)
  • 社会保険料:翌月末日。本人分と会社分をまとめて会社が納める(厚生年金保険法83条)
  • 源泉所得税(納期の特例):1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌1月20日(国税庁 No.2505)

後払いの合計は、1年目の手取りの42.5%

1年目に重なる個人事業の後払いを合計します。

個人事業の後払い納期金額
前年分 所得税の残り(予定納税済みの分を除く)3月15日37.5万円
住民税(普通徴収)6月・8月・10月・翌1月77.7万円
個人事業税8月・11月35.5万円
予定納税(減額申請をしない場合)7月・11月75.0万円
合計225.8万円

※ 設例は上と同じ。当サイトの計算エンジン(scripts/houjinnari-1nenme-shikinguri.mjs summary)で算出

225.8万円は、1年目の役員報酬の手取り(年531.0万円)の42.5%です。これに前年分の消費税が加わります。インボイス登録済みで一般課税なら3月31日に108.0万円です。2割特例(令和8年9月30日を含む課税期間まで)や簡易課税を使っていればこれより少なくなりますが、いずれにしても3月は所得税と消費税が同じ月に来ます。

国民健康保険料も、前年度分の残りの納期が続きます。1月1日に協会けんぽへ切り替えれば1月以降の分は資格喪失の届出で精算されますが、切り替えの月によっては二重に払う月が出ます。月の扱いは法人成りの月の保険料は国保か社保かで計算しています。

住民税が2年目から役員報酬ベースに下がり、手取りが増える仕組みは法人化した年に届く住民税は個人事業の額で扱っています。

予定納税の75.0万円は、7月15日までの申請で止められる

後払いのうち、予定納税だけは性質が違います。所得税・住民税・個人事業税は前年の所得に対する確定した税金ですが、予定納税はその年の所得税の前払いです。

法人成りした年の個人の所得は役員報酬だけで、その所得税は源泉徴収と年末調整で済みます。それでも予定納税は前年の個人事業の所得税で計算されるので、何もしなければ7月と11月に37.5万円ずつ払い、戻ってくるのは翌年3月の確定申告です。

これを止めるのが予定納税の減額申請です。6月30日の現況で見積もった税額が予定納税基準額に満たない場合に、7月1日から7月15日までに申請できます。第2期分だけなら11月1日から15日です。申請の手順と、前年の所得別の金額は法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限があるで詳しく扱っています。

減額申請が通ると、表の7月と11月から37.5万円ずつ消えます。11月のマイナス11.0万円はプラス26.5万円に変わり、手取りだけで足りない月は大きく減ります。

なお、令和8年分に限っては12月にも動きがあります。令和8年度税制改正の基礎控除の引上げは令和8年12月1日の施行で、11月までの源泉徴収には反映されません(国税庁)。設例では毎月の源泉徴収が年税額より多くなり、12月の年末調整で8.1万円戻ります。

法人の口座は、翌年2月末に一度に出ていく

法人の側は、社会保険料が毎月15.2万円(本人分と会社分)、源泉所得税が半年ごとに出ていくほかは、1年目の途中で大きな税金はありません。インボイス登録済みの法人でも、消費税は1期目が終わってから申告するので、中間申告もありません。

その代わり、1期目の決算から2か月後の翌年2月末に、法人税等と消費税がまとめて来ます。設例では法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税の合計が62.4万円、消費税が一般課税で108.0万円で、合わせて170.4万円です。

設例の法人は、売上から経費・役員報酬・会社負担の社会保険料を払っても月20万円余りが残る計算なので、この額は1年で積み上がります。ただし、そのお金を個人の後払いに回すことはできません。個人の税金を法人が払うと役員への貸付金になり、貸付金には認定利息の問題が出てきます(役員貸付金の認定利息はいくら?)。個人の口座と法人の口座は、別々に資金繰りを考える必要があります。

1年目の資金繰りを楽にする3つの手

判断そのものではなく、資金の時期を動かす手段として整理します。

  1. 予定納税の減額申請:7月1日〜15日、または11月1日〜15日。設例では最大75.0万円
  2. 法人成りの時期:1月に法人成りすると、個人事業最後の年の税金が翌年の3月以降にそのまま全部来ます。年の途中で法人成りすれば、個人事業の所得が小さい年ができるぶん、翌年の住民税・個人事業税は小さくなります。時期の選び方は法人化のタイミングと決算期の決め方で扱っています
  3. 個人の手元資金を残して法人成りする:設立時の資本金に預金を入れすぎると、個人の後払いに回す資金がなくなります。設例で予定納税を止めず、生活費を月30万円とすると、11月までに累計50.0万円が不足します。前年分の消費税(一般課税なら108.0万円)も個人の口座から払うので、それを加えた額を個人側に残しておく計算になります

法人化するかどうかは、毎年の手取りの差で判断するものです。1年目の資金繰りはその後の話ですが、判断の前に知っておくと慌てずに済みます。自分の売上と経費で、定常状態の差額をシミュレーターで確かめてください。

まとめ

  • 法人成り1年目は、個人事業の後払い(設例で225.8万円)と、法人の社会保険料・源泉所得税が同じ12か月に重なる
  • 月54万円の役員報酬の手取り44.2万円に対し、3月・7月・8月は6〜7万円しか残らず、11月は後払いが11.0万円上回る
  • 後払いのうち予定納税75.0万円は前払いで、7月1日〜15日の減額申請で止められる
  • 法人は翌年2月末に法人税等62.4万円と消費税(一般課税で108.0万円)をまとめて払う
  • 個人の税金を法人の口座から払うと役員貸付金になるため、個人と法人の資金繰りは別々に考える

よくある質問

法人成りした年の個人の住民税は、会社の給与から天引きできますか

1年目の住民税は個人事業の所得に対するもので、通常は納税通知書で自分で納める普通徴収です。会社を通じた特別徴収に切り替える手続きをとれる自治体もありますが、額は前年の事業所得で決まっているため、どちらで払っても総額は変わりません。

後払いの税金を法人のお金で払ってもいいですか

個人の所得税・住民税・個人事業税は社長個人の税金なので、法人が払うと役員への貸付金か役員給与として扱われます。法人の経費にはならず、貸付金なら認定利息の問題も出てくるため、個人の口座から払えるように役員報酬の額と手元資金を用意しておく必要があります。

予定納税の減額申請をしないと損をしますか

払いすぎた予定納税は翌年の確定申告で還付されるので、最終的な税額は変わりません。変わるのは資金の時期で、設例では75.0万円が7月・11月から翌年3月まで手元から離れます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。