税金の基礎

生命保険を個人から法人へ。契約者変更は無税で済まない

結論

個人が契約していた生命保険を法人に契約者変更する場合、対価をもらって譲渡すれば、解約返戻金相当額から既払込保険料と特別控除50万円を差し引いた額の2分の1が個人の一時所得になります(所得税法34条・22条2項2号)。対価なしで名義だけを付け替えると、受け手の法人が無償で資産を譲り受けたことになり、その時点の解約返戻金相当額が法人の益金(受贈益)に算入されます(法人税法22条2項)。契約者変更そのものに贈与税がかからないという扱いは個人間の贈与税の話で、受け手が法人の場合には当てはまりません。

  • 有償で譲渡すれば個人に一時所得。一時所得=解約返戻金相当額−既払込保険料−特別控除50万円で、総所得に加算されるのはその2分の1(所得税法34条・22条2項2号)
  • 無償で契約者を付け替えると、法人が無償で資産を譲り受けたことになり、その時点の解約返戻金相当額が法人の益金(受贈益)になる(法人税法22条2項)
  • 個人間の契約者変更は、名義を変えた時点では贈与税がかからず、解約して現金化した時に初めて課税される(相続税法基本通達3-36)。この扱いは受け手が法人の場合には及ばない

個人事業主として契約していた生命保険を、法人成りに際して法人の契約に切り替えたい。そう考えたとき、契約者を書き換えるだけでは済まないことがあります。 対価を伴う譲渡なら個人に一時所得が生じ、対価のない付け替えなら受け手の法人に法人税がかかる可能性があります。

契約者変更そのものに贈与税がかからないのは、個人間の話

国税庁の質疑応答事例は、生命保険契約について契約者変更があった場合の扱いを示しています。契約者の変更があっても、その変更に対して贈与税が課せられることはありません。ただし、その契約者たる地位に基づいて保険契約を解約し、解約返戻金を取得した場合には、解約返戻金相当額を元の保険料負担者から贈与により取得したものとみなされて贈与税が課税されます。

つまり、名義を変えた時点では無税で、実際に解約してお金を受け取った時点で初めて課税される、という扱いです。この扱いの根拠は相続税法5条2項と、その解釈を示す相続税法基本通達3-36です。しかし、この規定は贈与税の話です。 贈与税は個人が個人から財産をもらったときにかかる税金で、法人には贈与税はかかりません。契約者変更の相手が法人になると、この「変更時点では無税」という扱いはそのまま当てはまりません。

対価をもらって法人に譲渡すれば、個人に一時所得

法人が解約返戻金相当額に見合う対価を個人に払って契約者になる場合は、通常の資産の譲渡と同じ扱いです。個人側には一時所得が生じます。

所得税法34条は、一時所得の金額を「総収入金額から、その収入を得るために支出した金額を差し引き、さらに特別控除額を差し引いた金額」と定めています。特別控除額は50万円です。生命保険契約の譲渡であれば、次のように計算します。

一時所得 = 受け取った対価(解約返戻金相当額) − それまでに個人が支払った保険料 − 特別控除50万円

さらに、所得税法22条2項2号により、一時所得のうち総所得金額に加算されるのはこの金額の2分の1です。給与所得や事業所得と合算して所得税・住民税が計算されるのはこの2分の1の部分になります。

対価なしで付け替えると、法人に受贈益

対価を払わずに名義だけを法人に付け替える場合は、法人が無償で資産を譲り受けたことになります。法人税法22条2項は、内国法人の益金に算入すべき金額として「無償による資産の譲受け」を挙げています。契約者変更の時点で、その保険の解約返戻金相当額が法人の益金(受贈益)になると考えられます。

個人間の贈与税が「解約して現金化した時点」まで課税を待つのに対し、法人が受け手になる場合はこの先延ばしの扱いがありません。法人税は事業年度ごとに損益を計算する仕組みで、贈与税のような延期のルールを持たないためです。「契約者変更なら税金はかからない」という理解のまま、法人へ無償で付け替えるのは危険です。

実務では、個人の契約を残すか法人で新規契約するかも選択肢

契約者変更以外の道もあります。個人の契約はそのまま個人が続け、法人では改めて新しく契約する方法です。法人保険は全額損金にならないで扱った最高解約返戻率による資産計上のルールは、新規契約であれば契約時点から明確に適用できます。既存の個人契約を無理に法人へ移すより、切り分けたほうが扱いが単純になる場合があります。

どちらを選ぶかは、保険の種類、これまでの解約返戻金の積み上がり方、残りの保険期間によって変わります。契約者変更を決める前に、保険会社に解約返戻金相当額を確認し、税理士に個人側・法人側それぞれの課税関係を確認してください。

まとめ

  • 生命保険の契約者変更そのものに贈与税がかからないのは、受け手が個人の場合の扱い。受け手が法人だと当てはまらない
  • 対価をもらって法人に譲渡すれば、個人に一時所得が生じる。総所得に加算されるのは(解約返戻金相当額−既払込保険料−50万円)の2分の1
  • 対価なしで付け替えると、その時点の解約返戻金相当額が法人の受贈益として法人税の対象になりうる
  • 法人税には贈与税のような「現金化まで課税を待つ」扱いがなく、契約者変更の時点で課税関係が生じる可能性がある
  • 個人の契約を残したまま法人で新規契約するという選択肢もあり、既存契約を移すより扱いが単純になる場合がある

よくある質問

生命保険の契約者を個人から法人に変更するだけなら税金はかかりませんか?

契約者変更という手続き自体は、国税庁の質疑応答事例が示すとおり、個人間であれば贈与税の対象にはなりません。ただしこの扱いは受け手が個人の場合の贈与税の話です。受け手が法人になると贈与税は関係せず、対価の有無によって一時所得または法人の受贈益として課税される可能性があります。

法人が対価を払って契約者になれば問題になりませんか?

対価を払うこと自体は問題ではありませんが、その対価を受け取った個人には一時所得が生じます。対価の額を解約返戻金相当額からかけ離れた低い金額にすると、無償に近い部分について別の課税問題が生じる可能性があります。

法人成りのときは、個人の生命保険をどう扱うのが一般的ですか?

契約者変更のほかに、個人の契約はそのまま個人が続け、法人では別に新しく契約するという選択もあります。どちらが有利かは保険の種類や解約返戻金の状況によって変わるため、契約者変更を検討する前に保険会社や税理士に確認するのが実務的です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。