インボイス・消費税
事務所家賃のインボイスは「契約書+通帳」で足りる?口座振替の保存要件
結論
請求書が来ない事務所家賃の口座振替でも、登録番号などの記載事項が入った賃貸借契約書と、引落しの日付が分かる通帳を一緒に保存すれば、仕入税額控除の要件を満たします(国税庁インボイスQ&A問95)。振込で払う場合は通帳の代わりに振込金受取書でも構いません。ただし貸主が登録をやめると、令和8年10月1日以後の家賃は消費税相当額の70%しか控除できません。
- 適格請求書の記載事項は1枚に全部そろっている必要はなく、契約書(日付以外)と通帳(取引の日付)で合わせて満たせばよい
- 令和5年9月30日以前に結んだ契約で登録番号が書かれていなければ、貸主から登録番号などの通知を受けて契約書と一緒に保存する
- 月11万円(税込)の家賃で貸主が免税事業者だと、控除できるのは年12万円のうち8.4万円。年3.6万円が控除できなくなる
事務所の家賃や月極駐車場代は、毎月の請求書も領収書も来ないまま口座から引き落とされるのが普通です。インボイス制度の下では「請求書がない=控除できない」と思いがちですが、国税庁は契約書と通帳の組み合わせで足りるという答えを出しています。問題は、その組み合わせが成り立つ条件と、成り立たなくなる瞬間です。
国税庁の答え:記載事項は複数の書類で満たせばよい
国税庁のインボイスQ&A問95は、まさに「事務所を賃借し、口座振替で家賃を払い、請求書も領収書もなく通帳に記録が残るだけ」という事例を扱っています。
答えの骨格は次の2点です。
- 契約書に基づく決済でも、仕入税額控除には原則として適格請求書の保存が必要
- ただし適格請求書の記載事項は1つの書類にすべてそろっている必要はなく、複数の書類全体で満たせばよい
そのため、日付以外の記載事項が書かれた契約書と、取引の日付を示す通帳を併せて保存すれば要件を満たす、という整理になります。口座振込で払う場合は、通帳の代わりに銀行が発行した振込金受取書でもよいとされています。
もう1つの方法として、貸主から一定期間(たとえば1年分)の家賃をまとめた適格請求書を交付してもらうこともできます。適格請求書はまとめて交付してよいためです。
契約書に必要な記載事項
適格請求書の記載事項は、Q&Aで次の5つと示されています。家賃の場合に、それぞれを何で満たすかを並べるとこうなります。
| 適格請求書の記載事項 | 家賃の口座振替では何で満たすか |
|---|---|
| ① 発行事業者の氏名・名称と登録番号 | 契約書(貸主名と登録番号) |
| ② 取引の年月日 | 通帳の引落し日(振込なら振込金受取書) |
| ③ 取引の内容 | 契約書(物件・用途) |
| ④ 税率ごとに区分した対価の額 | 契約書(月額賃料) |
| ⑤ 税率ごとの消費税額等または適用税率 | 契約書(消費税額か「10%」の記載) |
見落としやすいのは①と⑤です。賃料を「月額11万円」とだけ書いて消費税の内訳も税率もない契約書では、⑤が欠けます。管理会社が作った雛形の契約書では、登録番号の欄がそもそもないことも珍しくありません。手元の契約書でこの5項目のうち②以外がそろっているかを、一度確かめておくと安心です。
令和5年9月以前からの契約は「通知」で補う
インボイス制度が始まる前(令和5年9月30日以前)から続いている契約は、契約書に登録番号がないのが普通です。Q&Aは、この場合は貸主から登録番号など不足していた事項の通知を受け、それを契約書と一緒に保存すればよいとしています。契約を巻き直す必要はありません。
通知の形式は決まっていないので、貸主や管理会社から届いた「登録番号のお知らせ」の書面・メールを契約書と同じファイルに綴じておく、という運用で足ります。
通帳だけ、契約書だけでは足りない
逆に言えば、片方しかない状態では要件を満たしません。
- 通帳だけ:登録番号も税率も分からない。①③④⑤が欠ける
- 契約書だけ:その月に実際に払った事実と日付が分からない。②が欠ける
ネット銀行で紙の通帳がない場合は、取引日と金額が分かる入出金明細を保存する形になります。Q&Aが通帳に求めている役割は「取引の年月日の事実を示すもの」なので、同じ情報が残る記録を用意しておくという考え方です。
なお、税込1万円未満の支払いは帳簿だけで控除できる少額特例(基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者、令和11年9月30日まで)がありますが、事務所家賃は通常1万円を超えるので対象外です。月額1万円未満の月極駐車場なら、この特例で済むことがあります。
いちばん気づきにくいのは「貸主が登録をやめた」とき
契約書+通帳の方式には弱点があります。毎月の書類が来ないので、貸主が途中で適格請求書発行事業者でなくなっても、借主の側からは分からないのです。Q&A問95も、連絡がなければその事実の把握は難しいとして、必要に応じて国税庁の公表サイトで相手が登録事業者かを確認するよう促しています。
登録をやめた貸主に払う家賃は、原則として仕入税額控除ができません。ただし免税事業者からの仕入れには経過措置があり、控除できる割合は令和8年9月30日までは80%、**令和8年10月1日からは70%**に下がりました(令和10年10月からは50%)。この段階的な縮小の全体像はインボイス8割控除は9月末で終了。10月から7割で負担はいくら増える?で詳しく整理しています。
家賃の場合の影響を、月額賃料で示すとこうなります(一般課税の事業者・税込賃料)。
| 月額賃料(税込) | 年間の消費税相当額 | 80%控除のとき | 70%控除のとき | 控除できなくなる額(70%時) |
|---|---|---|---|---|
| 11万円 | 12万円 | 9.6万円 | 8.4万円 | 3.6万円 |
| 16.5万円 | 18万円 | 14.4万円 | 12.6万円 | 5.4万円 |
経過措置を使うには、帳簿に「80%控除対象」「免」など経過措置の適用を受ける旨を書く必要があります(Q&A問113)。毎月同じ仕訳を自動で起こしている家賃は、貸主の登録が切れたことに気づかないまま通常の控除を続けてしまいやすい費目です。年に1回、契約書の登録番号を公表サイトで照合するだけで防げます。
簡易課税や2割特例で申告している場合は、仕入税額を売上から計算するので、この論点は申告額に影響しません。
法人成りすると、契約書の名義から作り直しになる
個人事業で借りていた事務所を法人成り後も使う場合、借主が個人から法人に変わるので、多くは契約の名義変更や新規契約になります。このとき、新しい契約書に登録番号・税率・消費税額が入っているかを最初に確認しておくと、通知書類で補う手間がかかりません。引落し口座も法人名義の口座に切り替わるので、「契約書の借主」と「通帳の名義」がそろっているかも合わせて見ておきたいところです。
親など家族が貸主になる場合は、貸主が免税事業者であることがほとんどです。その場合は最初から7割控除の対象になります。家族間の家賃の扱いは親の家を事務所にして家賃を払う場合で整理しています。
住居部分の家賃は消費税が非課税なので、自宅兼事務所では事務所として使う部分(課税される賃料)だけがこの話の対象です。
法人化したときに家賃や消費税がどう効くかは、売上・経費の条件で大きく変わります。インボイス登録の有無を含めて、自分の数字でシミュレーターに入れて確かめてみてください。
まとめ
- 請求書が来ない事務所家賃の口座振替は、記載事項の入った契約書と通帳(振込なら振込金受取書)の併せ保存で仕入税額控除の要件を満たす
- 契約書で満たすのは登録番号・内容・賃料・税率または税額。日付は通帳が担う
- 令和5年9月以前からの契約で登録番号がなければ、貸主からの通知を契約書と一緒に保存すればよい
- 貸主が登録をやめると令和8年10月以降は70%控除になり、帳簿に経過措置の旨の記載が要る。年1回の公表サイト照合で防げる
よくある質問
事務所家賃を口座振替で払っていて請求書が来ません。インボイスはどうすればいいですか
登録番号などの記載事項が入った賃貸借契約書と、引落しの日付が分かる通帳を一緒に保存すれば、仕入税額控除の要件を満たします。貸主から一定期間分をまとめた適格請求書をもらう方法もあります。
古い賃貸借契約書に登録番号が書かれていません
令和5年9月30日以前からの契約なら、貸主から登録番号など不足している事項の通知を受け、その通知を契約書と一緒に保存すれば差し支えないとされています。
住居として借りている部屋の家賃にもインボイスは必要ですか
住宅の貸付けは消費税が非課税なので、住居部分の家賃はそもそも仕入税額控除の対象になりません。インボイスの論点が出るのは事務所・店舗・駐車場など課税される賃料です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。