インボイス・消費税

インボイスの帳簿のみ保存は10類型。3万円未満の電車代と出張旅費

結論

インボイスなしで帳簿のみ保存の仕入税額控除が認められるのは、国税庁Q&A問104が挙げる10類型です。個人事業主や一人社長に関係するのは主に、1回の取引が税込3万円未満の電車・バス・船の運賃、3万円未満の自動販売機、ポスト投函の郵便、従業員や役員に支給する出張旅費・日当・通勤手当です。少額特例(1万円未満・令和11年9月30日まで)と違い、期限はありません。

  • 公共交通機関特例の対象は船舶・バス・鉄道(軌道を含む)だけ。タクシーと飛行機は対象外
  • 3万円未満かは1回の取引の税込額で判定。13,000円の新幹線を4人分まとめて買えば52,000円で判定する
  • 帳簿には通常の記載事項に加え「3万円未満の鉄道料金」など、帳簿のみ保存の類型に当たる旨を書く

経費の中で「インボイスがもらえない」「もらっても保存しにくい」ものは、制度側が最初から帳簿だけで済むように手当てしています。問題は、その手当てが1万円未満・3万円未満・金額基準なしと別々の物差しで並んでいて、混同しやすいことです。

この記事では、国税庁のインボイスQ&A(問104・問110は令和8年5月改訂)が挙げる10類型を1表にまとめ、個人事業主と一人社長が日常的に使う「3万円未満の公共交通機関」と「出張旅費等」を中心に、どこで外れるかを示します。

帳簿のみ保存が認められる10類型

仕入税額控除は、原則として帳簿と請求書等(インボイス)の両方を保存して初めて受けられます(消費税法30条7項)。そのうえで、請求書等の交付を受けることが困難などの理由から、次の10類型は一定の事項を記載した帳簿のみの保存で控除が認められます(消費税法施行令49条1項、同規則15条の4)。

No.類型金額基準主に関係する人
①公共交通機関(船舶・バス・鉄道)による旅客の運送税込3万円未満ほぼ全員
②適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)がある入場券等が使用時に回収される取引なし(①を除く)3万円以上の乗車券、施設入場券など
③古物商が適格請求書発行事業者でない者から古物を購入なし中古品販売業
④質屋が適格請求書発行事業者でない者から質物を取得なし質屋
⑤宅建業者が適格請求書発行事業者でない者から建物を購入なし不動産業
⑥特定金属くず買受業者が適格請求書発行事業者でない者から特定金属くずを購入なし(令和8年9月1日以後の取引)金属くず買受業
⑦適格請求書発行事業者でない者から再生資源・再生部品を購入なし(⑥を除く)リサイクル業
⑧自動販売機・自動サービス機からの商品の購入等税込3万円未満ほぼ全員
⑨郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出したもの)なしほぼ全員
⑩従業員等に支給する通常必要な出張旅費等(出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当)なし(「通常必要」の範囲)人を雇う事業者・法人

③〜⑦は、いずれも仕入れた物が買い手の棚卸資産であることが条件です。事務所で使う中古パソコンを個人から買っても③には当たりません。

⑥は2026年9月1日以後の取引から加わった新しい類型です。Q&A問104・問110はこれを反映して令和8年5月に改訂されています。それ以外の9類型は、インボイス制度の開始時からの扱いです。

少額特例とは別の制度

混同されやすいのが、税込1万円未満の仕入れを帳簿のみで控除できる少額特例です。こちらは基準期間の課税売上高1億円以下などの事業者だけが使える経過措置で、令和11年9月30日に終わります(詳しくはインボイスの少額特例は1万円未満。期限と法人成り後の判定)。

比較帳簿のみ保存の10類型少額特例
根拠消費税法施行令49条1項(本則)経過措置
対象取引上の10類型に限る取引の種類を問わない
金額類型ごと(3万円未満・基準なし)税込1万円未満
事業者の規模問わない基準期間の課税売上高1億円以下など
期限なし令和11年9月30日まで

10類型は期限のない本則です。少額特例が終わっても、3万円未満の電車代を帳簿だけで控除する扱いは残ります。

3万円未満の公共交通機関特例は「船舶・バス・鉄道」だけ

①の対象は、売手側でインボイスの交付義務が免除される「公共交通機関特例」と同じ範囲です(消費税法施行令70条の9第2項1号)。国税庁Q&A問42は次の3つに限っています。

交通手段対象になる範囲
船舶一般旅客定期航路事業などの旅客運送(対外航路を除く)
バス一般乗合旅客自動車運送事業(路線バス。空港アクセスバスなどの路線不定期運行、予約制の区域運行も含む)
鉄道・軌道第一種・第二種鉄道事業、モノレールなどの軌道

ここにタクシーと飛行機は入っていません。Q&A問41・問42が列挙する船舶・バス・鉄道のいずれにも当たらないためです。

タクシー代・航空券はどうなるか

タクシーや航空券は、原則どおり適格簡易請求書(レシート)や適格請求書の保存が必要です。

  • タクシー:降車時のレシートを保存する。少額特例の対象事業者なら、税込1万円未満は帳簿のみで足りる
  • クレジットカード会社発行のタクシーチケット:チケットを取引先に渡してしまいレシートが残らないケースについて、Q&A問108-2は、利用明細とタクシー事業者のホームページ等で登録事業者と確認できれば、②の回収特例として帳簿のみで控除して差し支えないとしています
  • 航空券:航空会社や旅行会社が発行する適格請求書(領収書・電子データ)を保存する

「交通費は全部帳簿だけでいい」と覚えていると、タクシー代と航空券で書類の保存漏れが起きます。

特急料金は対象、入場料は対象外

Q&A問44によれば、特急料金・急行料金・寝台料金は、旅客の運送に直接附帯する対価として公共交通機関特例の対象です。一方、駅の入場料金や手回品料金は附帯する対価ではないため対象外です。

3万円未満は「1回の取引」の税込額で判定

判定単位は切符1枚ではなく、1回の取引の税込価額です(Q&A問43、消費税法基本通達1-8-12)。月まとめの金額でも判定しません。

Q&Aの例では、大人運賃13,000円の新幹線を4人分まとめて購入すると、52,000円で判定します。1人分は3万円未満でも、この取引は公共交通機関特例の対象外です。

1人で乗る場合でも、新幹線の長距離区間や、グリーン車などで運賃・料金の合計が3万円以上になれば対象外になります。そのときは次のどちらかが必要です(Q&A問105)。

  • 鉄道会社から受け取った適格請求書(領収書など)を保存する
  • 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)を記載した乗車券が改札で回収される場合は、②の回収特例として帳簿のみで控除する

出張旅費等特例は「インボイスがそもそも出ない」支払いの手当て

⑩は性質がほかと違います。支払先が従業員や役員個人で、インボイスを発行する立場にないため、帳簿のみで控除を認めるものです(Q&A問107・問108、消費税法施行令49条1項1号ニ)。

支給するもの帳簿のみで控除できる範囲
国内出張の出張旅費・宿泊費・日当その旅行に通常必要と認められる部分。所得税基本通達9-3で判定し、所得税が非課税となる範囲内
通勤手当通勤に通常必要と認められる部分。所得税の非課税限度額を超えているかは問わない

出張旅費と通勤手当で物差しが違う点に注意が必要です。出張旅費は所得税の非課税範囲と連動しますが、通勤手当は所得税の非課税限度額を超えていても、通勤に通常必要な額であれば帳簿のみで控除できます。

この特例は会社が従業員・役員に支給する場合の話です。個人事業主本人が自分の出張で電車に乗った運賃は、①の公共交通機関特例(3万円未満)や原則の請求書保存で処理します。事業主が自分に「日当」を払うことはできません。

一人社長が旅費規程を作って役員に日当を出す場合の所得税・社会保険・消費税の扱いと金額は、役員の出張日当は非課税。同じ24万円でも報酬に乗せると手取りは減るで計算しています。法人化すると、自分への日当がこの⑩の対象に入るのが個人事業との違いです。

帳簿に追加で書くこと

帳簿のみ保存で控除する場合も、帳簿の通常の記載事項(課税仕入れの相手方、年月日、内容、支払対価の額)は必要です。そのうえで、Q&A問110は次の記載を求めています。

追加の記載事項例(Q&A問110)
帳簿のみ保存の類型のいずれかに該当する旨①なら「3万円未満の鉄道料金」、⑧なら「自販機」「ATM」
仕入れの相手方の住所または所在地②で3万円以上なら「○○施設 入場券」

相手方の住所・所在地は、多くの類型で記載不要とされています(令和5年国税庁告示第26号)。不要なのは①全部、②のうち3万円未満、⑧〜⑩全部、③〜⑦のうち一定のものです。

実務で抜けやすいのは「該当する旨」の一言です。会計ソフトの摘要に「JR 東京-新横浜」とだけ書いていると、帳簿のみ保存の要件を満たしているかが読み取れません。勘定科目や摘要のテンプレートに「3万円未満の鉄道料金」「出張旅費」と入れておけば、毎回考えずに済みます。

法人化の判定にどう効くか

帳簿のみ保存は、原則課税で消費税を計算する事業者にとって意味を持ちます。簡易課税や2割特例(令和8年9月30日を含む課税期間まで)は実際の仕入れを積み上げないため、控除額は変わりません。

インボイス登録済みで法人化すると、新設法人でも消費税の免税は受けられず、原則課税か簡易課税で申告することになります。原則課税を選ぶなら、法人では役員・従業員への出張旅費や通勤手当まで⑩の対象になり、帳簿の付け方で控除できる範囲が変わります。

ただし、この特例で動くのは消費税の書類の手間と控除漏れの防止が中心です。法人化そのものの損得は、役員報酬と社会保険料の組み合わせで決まる部分のほうがはるかに大きくなります。インボイス登録の有無を含めた自分の条件で、まず全体の差額を確かめてください。

まとめ

  • インボイスなしで帳簿のみ保存の仕入税額控除が認められるのは、消費税法施行令49条1項の10類型。⑥特定金属くずは令和8年9月1日以後の取引から加わった
  • 公共交通機関特例の対象は船舶・バス・鉄道(軌道を含む)だけ。タクシーと飛行機は対象外で、特急料金は対象、入場料金は対象外
  • 3万円未満は1回の取引の税込額で判定する。13,000円×4人分なら52,000円で判定
  • 出張旅費等特例は、所得税の非課税範囲の出張旅費・日当と、通勤に通常必要な通勤手当が対象。法人化すると役員への支給も対象になる
  • 10類型は期限のない本則で、令和11年9月30日に終わる少額特例(1万円未満)とは別制度。帳簿には類型に当たる旨を必ず書く

よくある質問

3万円未満の電車代の帳簿のみ保存に期限はありますか

ありません。消費税法施行令49条1項に基づく恒久的な扱いです。令和11年9月30日に終わるのは、税込1万円未満の仕入れを対象とする少額特例のほうです。

タクシー代は3万円未満なら帳簿だけで控除できますか

できません。公共交通機関特例の対象は船舶・バス・鉄道(軌道を含む)に限られます。タクシーは原則として適格簡易請求書の保存が必要です。ただし少額特例の対象事業者なら、税込1万円未満のタクシー代は帳簿のみで控除できます。

新幹線の特急料金も公共交通機関特例の対象ですか

対象です。特急料金・急行料金・寝台料金は旅客の運送に直接附帯する対価とされます。一方、駅の入場料金や手回品料金は対象外です。

帳簿には何と書けばよいですか

通常の記載事項(相手方、年月日、内容、金額)に加え、帳簿のみ保存の類型に当たる旨を書きます。国税庁Q&Aの例では「3万円未満の鉄道料金」「自販機」「ATM」です。3万円未満の公共交通機関は、相手方の住所の記載は不要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。