インボイス・消費税

立替金精算書とインボイス。役員の立替払いで控除を残す方法

結論

立替えた人の名前が宛名になったインボイスを受け取るだけでは、会社のインボイスにはなりません。立替えた人が作る立替金精算書を添えて「この仕入れは会社のもの」と明らかにし、インボイスと精算書をセットで保存すれば、会社が仕入税額控除を受けられます(国税庁Q&A問94、基通11-6-2)。

  • 立替えた人がインボイス発行事業者でなくても、支払先が発行事業者なら控除できる
  • 宛名の記載が不要な簡易インボイス(小売・飲食・タクシー等)は、誰が払っても宛名の問題が起きない
  • 社員の出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当のうち通常必要な部分は、帳簿だけの保存で控除できる(Q&A問107・108)

経費の立替えで問題になるのは「インボイスの宛名」です。適格請求書には、交付を受ける事業者の氏名または名称を書くことになっているので、立替えた人が受け取ったインボイスには立替えた人の名前が入ります。その書類を会社がそのまま保存しても、会社宛てのインボイスにはなりません。

この記事では、国税庁Q&A問94を軸に、立替金精算書で何を明らかにすればよいか、精算書がいらない立替えはどれか、一人社長が個人カードで払ったときにどう整えるかを整理します。

国税庁の答え:インボイス+立替金精算書のセットで保存する

Q&A問94は、A社の経費をB社が立て替え、支払先C社からB社宛てのインボイスが交付された場面を扱っています。答えは次の3点です。

論点国税庁Q&A問94の答え
B社宛てインボイスをそのまま受領したらC社からA社に交付されたインボイスとはできない
控除を受けるにはB社から立替金精算書等の交付を受け、C社からの課税仕入れがA社のものであることを明らかにし、インボイスと精算書を保存する(基通11-6-2)
B社が発行事業者でない場合C社が発行事業者であれば控除できる

ポイントは、立替えた人の登録状況は関係ないことです。インボイスの効力は売手(C社)が発行事業者かどうかで決まり、立替えた人は「誰の仕入れか」を明らかにする役にすぎません。だから、インボイス登録をしていない社員や、法人成り後に個人の登録をやめた代表者が立て替えても、精算書さえ整っていれば会社の控除は残ります。

立替金精算書に書くこと

国税庁の記載イメージでは、精算書は次の要素で組み立てられています。

  • 宛名:立替えを受ける会社(例:株式会社A社 御中)
  • 作成者:立替えた人の名称と発行日
  • 内容・金額(税込)・消費税額(税率ごと)
  • 売手の名称(帳簿に売手の名称を書く必要があるため)
  • 立替えた人の登録番号は記載不要

消費税額は、合計額を税率で割り戻して端数処理するか、料金ごとに割り戻して端数処理してから合計するか、のいずれかで出します。「本精算書の保存をもって仕入税額控除の適用が可能」と表示しておくのも一案とされています。

複数人分をまとめて立て替えたとき

1人がまとめて払い、複数の会社や部門に負担させる場合、原則はインボイスのコピーに精算書を添えて各社に渡します。ただ、コピーが大量になって交付が難しいときは、立替えた側が原本を保存し、各社には負担額を書いた精算書だけを渡す方法も認められています(問94参考1)。

この場合、精算書が実質的にインボイスの代わりになるので、次の点を精算書に書く必要があります。

  • その立替金が、発行事業者からの仕入れか、そうでない者からの仕入れか
  • 適用税率ごとの区分
  • 元のインボイスの消費税額を負担割合であん分するなど、合理的な方法で計算した消費税額

あん分した消費税額の合計が元のインボイスの税額と一致しなくても、計算が合理的であれば差し支えないとされています。また、売手の名称・登録番号は、継続的な取引の契約書などで別に明らかにしていれば、精算書に毎回書かなくてもかまいません。

精算書の代わりに「仕入明細書」で受ける方法

立替えを受けた側が明細書を作り、立替えた側の確認を受ける方法もあります(問94参考2)。受領したインボイスの宛名部分を修正し、その修正について立替えた側の確認を受ければ、その書類はインボイスであると同時に仕入明細書にも当たります。確認の方法は仕入明細書はインボイスになる?発注者作成の確認要件で整理しています。

そもそも精算書がいらない立替え

立替経費のすべてに精算書が必要なわけではありません。次の3つは、宛名の問題が最初から起きないか、帳簿だけで足ります。

1. 簡易インボイスで済む業種での支払い

小売業、飲食店業、タクシー等が交付する書類は「適格簡易請求書」でよく、交付を受ける事業者の名称の記載が不要です(タックスアンサーNo.6625)。コンビニでの備品購入、会食、タクシー代などは、誰が払ってもレシートに宛名がないので、宛名の食い違いは生じません。

2. 出張旅費・宿泊費・日当・通勤手当

社員に支給する出張旅費、宿泊費、日当のうち旅行に通常必要と認められる部分、通勤手当のうち通勤に通常必要と認められる部分は、一定の事項を記載した帳簿だけの保存で控除できます(Q&A問107・108、問104の⑩)。帳簿には、通常の記載事項に加えて、帳簿のみで控除できる仕入れに該当する旨を書きます(問110)。

ここで帳簿のみで足りるのは、会社が「旅費・手当として支給する」場合です。実費精算で、ホテルの領収書を集めて精算する運用なら、それは通常の立替経費として扱うことになります。どちらの運用にするかで、保存する書類が変わります。

3. 3万円未満の公共交通機関

券売機で買う3万円未満の電車・バスの運賃は、インボイスの交付義務が免除されており、帳簿のみの保存で控除できます(Q&A問104①、問105)。

少額特例との関係

基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間の課税売上高が5,000万円以下)の事業者は、令和5年10月1日から令和11年9月30日まで、税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿のみの保存で控除できます(Q&A問111)。1万円未満かどうかは1回の取引単位で判定し、月まとめの請求単位では判定しません。設立したばかりで基準期間のない法人も、この特例を使えます。詳細はインボイスの少額特例は1万円未満。期限と法人成り後の判定にまとめています。

ここまでを表にすると次のとおりです。

立替えの種類会社が保存するもの
宛名ありのインボイス(通常の請求書・領収書)インボイス+立替金精算書
簡易インボイス(小売・飲食・タクシー等)簡易インボイス(宛名の問題なし)
旅費・手当として支給する出張旅費・日当・通勤手当帳簿のみ(該当する旨を記載)
3万円未満の公共交通機関帳簿のみ
少額特例の対象者の1万円未満の仕入れ帳簿のみ(令和11年9月30日まで)

一人社長が個人のカードで払ったとき

法人成りした直後に多いのが、代表者が個人のクレジットカードや個人名義のアカウントで会社の経費を払い、インボイスの宛名が個人名になっているケースです。Q&A問94は事業者間の立替えを例にしていますが、その根拠である基通11-6-2は「立替払をした者から、仕入れが自分のものであることが明らかにされている書類」を求める考え方です。代表者個人が立て替えた場合も、代表者名義の立替金精算書を作り、会社宛てにして、インボイスと一緒に保存しておくのが筋の通る形です。

実務でつまずきやすいのは次の3点です。

  • 個人のインボイス登録をやめても関係ない。 立替えた人の登録状況は控除に影響しない(問94)。個人の登録を残すかどうかは、法人成りでインボイス番号は変わる。設立日から登録する方法の判断で決めてよい
  • 継続的な契約は名義を変える。 サブスクやクラウドサービスを個人名で契約したままだと、毎月の請求が個人宛てで届き、精算書を毎月作ることになる。名義を会社に移せば、精算書そのものが不要になる
  • 精算は役員借入金で記録する。 立替えた金額を会社が代表者に返すまでの間は、会社側では代表者からの借入れとして残る。返済の記録と精算書の日付がそろっていると、後から説明しやすい

なお、ここでの扱いは仕入税額控除の書類要件の話です。その支出がそもそも会社の経費に当たるか(私的な支出が混ざっていないか)は別の論点で、精算書を作っても経費性は変わりません。

立替経費の書類が問題になるのは、課税事業者である間だけ

立替金精算書を整える必要があるのは、会社が消費税の課税事業者で、本則課税で仕入税額控除を計算する場合です。簡易課税や2割特例(令和8年9月30日を含む課税期間まで)では、仕入税額は売上から計算するため、個々の立替経費の書類は控除額に影響しません。

法人成りしてもインボイス登録を続けるなら、設立1期目から課税事業者です。いわゆる「法人化すれば2年間消費税免除」は使えません。売上1,200万円・経費200万円・東京都・青色(e-Tax)の条件で計算エンジンを動かすと、次のようになります。

インボイス登録個人の手取り法人の手取り(最適報酬月54万円)実質差額(初年度)実質差額(2年目)
登録あり657.1万円662.4万円−24.7万円−14.7万円
登録なし657.1万円662.4万円+43.3万円+53.3万円

実質差額は、税理士報酬・設立費用を差し引いた値です。3年目以降はどちらも−14.7万円で、損益分岐の所得は1,266万円です。計算前提は計算方法のとおりです。登録を続ける場合、免税期間の上乗せがなくなるぶん、初年度・2年目の差額が大きく悪化します。消費税免税の条件はインボイス登録済みなら法人化しても消費税は免税にならないで詳しく扱っています。

まとめ

  • 立替えた人宛てのインボイスは、そのままでは会社のインボイスにならない。立替金精算書を添えて、会社の仕入れであることを明らかにする
  • 立替えた人がインボイス登録をしていなくても、支払先が発行事業者なら控除できる。精算書に立替えた人の登録番号は不要
  • 簡易インボイス、旅費・手当として支給する出張旅費・通勤手当、3万円未満の公共交通機関、少額特例の対象取引は、精算書なしで足りる
  • 一人社長の個人カード払いも精算書で整える。継続的な契約は会社名義に移すのが根本的な解決
  • 精算書の手間が効いてくるのは本則課税の間だけ。インボイス登録を続けて法人化するかどうかは、手取りの差で判断する

よくある質問

立替金精算書に、立替えた人の登録番号は必要ですか?

不要です。国税庁Q&A問94の記載イメージでも、立替払を行う者の登録番号は記載不要とされています。必要なのは支払先(売手)が発行事業者であることを確認できる情報です。

複数人分をまとめて立て替えたとき、インボイスのコピーを全員に配る必要がありますか?

原則はコピーと精算書の交付ですが、コピーが大量になるなど交付が困難なときは、立替えた側が原本を保存し、負担額を記載した立替金精算書を交付すれば、精算書の保存で控除できます(Q&A問94参考1)。

1万円未満の立替経費なら精算書もいらないのですか?

基準期間の課税売上高が1億円以下などの要件を満たす事業者は、令和11年9月30日までの1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみの保存で控除できる少額特例があります(Q&A問111)。要件に当たらない場合は精算書が必要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。