法人化の判断
インボイス未登録カメラマンの法人化試算事例。免税2年で+94万、3年目から逆転
結論
北九州市の出張カメラマン(年商1,200万円・経費200万円・インボイス未登録)は、法人化すると設立1期目は年42.1万円、2期目は年52.1万円有利です。消費税の免税が年108.0万円効くためです。免税が切れる3期目以降は年15.8万円の不利に転じ、3年間の合計では+78.4万円になります。
- 個人のままだと、前々年の売上が1,000万円を超えているので消費税の課税事業者。本則課税で年108.0万円を納める
- 資本金1,000万円未満の新設法人は、インボイスに登録しなければ設立1期目と2期目は原則として免税になる
- 顧客が個人中心でインボイスを求められないことが前提。法人がインボイスに登録すると免税の効果はなくなる
このテーマの全体像 法人成りと消費税・インボイス
ほかの試算事例 法人化の試算事例35人を1つの表で比較。損益分岐を動かすのは家族・年齢・業種
この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。
「法人化すれば2年間は消費税が免除される」という説明は、インボイス制度が始まってから成り立たない人が増えました。インボイスに登録している人は、法人化しても免税になりません。
このケースは逆です。インボイスに登録しておらず、今後も登録する必要が薄い人です。この条件なら、新設法人の免税はいまも効きます。ただし効くのは2年間だけです。
このケースの条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 職種 | 出張カメラマン(七五三・家族写真・ウェディングの前撮りなど個人客が中心) |
| 年齢・家族 | 34歳・独身 |
| 住所 | 北九州市 |
| 年商(税抜) | 1,200万円 |
| 経費 | 200万円(機材・交通費・データ管理・広告など) |
| 申告 | 青色申告(e-Tax・65万円控除) |
| インボイス | 未登録(顧客の大半が個人で、仕入税額控除を必要としないため) |
| 個人事業税の業種 | 写真業(第1種・5%) |
顧客が一般の個人なら、インボイスを発行できなくても取引に影響しません。個人は消費税の仕入税額控除をしないからです。
事業所得(売上−経費)は1,000万円です。
個人事業主のまま:消費税を年108万円納めている
前々年の課税売上高が1,000万円を超えているので、インボイスに登録していなくても消費税の課税事業者です。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 事業所得(売上−経費) | 1,000.0万円 |
| 国民健康保険 | 95.7万円 |
| 国民年金 | 21.5万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 112.5万円 |
| 住民税 | 77.7万円 |
| 個人事業税 | 35.5万円 |
| 手取り | 657.0万円 |
| (別に納める消費税) | 108.0万円 |
※ 北九州市・34歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス未登録・写真業5%/2026年(令和8年)分基準。消費税は本則課税
消費税は、預かった売上の消費税から経費の消費税を引いて納めます。売上は税抜で書いているので、手取りからは引いていません。免税になると、この108.0万円が手元に残ります。
法人化した場合:1期目と2期目は免税
資本金1,000万円未満で設立し、インボイスに登録しなければ、新設法人は設立1期目と2期目が原則として免税事業者になります。基準期間(前々事業年度)がないためです。
| 項目 | 1〜2期目 | 3期目以降 |
|---|---|---|
| 役員報酬(月額) | 54万円 | 54万円 |
| 個人に入る手取り | 504.1万円 | 504.1万円 |
| 消費税 | 0円(免税) | 108.0万円 |
| 法人税等 | 85.3万円 | 62.2万円 |
| 会社に残る額 | 281.4万円 | 196.4万円 |
| 手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上) | 729.2万円 | 661.2万円 |
※ 合同会社・資本金1,000万円未満・福岡県(協会けんぽ)・インボイス未登録/2026年(令和8年)分基準
役員報酬は、免税の期間も月54万円が最適でした。免税で残った108.0万円は法人の利益になり、法人税等が23.1万円増えます。それでも会社に残る額は85.0万円増えます。
1期目・2期目・3期目以降の実質差額
| 1期目 | 2期目 | 3期目以降 | |
|---|---|---|---|
| 手取りの差(法人−個人) | +72.1万円 | +72.1万円 | +4.2万円 |
| 設立費用(合同会社) | −10.0万円 | — | — |
| 税理士報酬の増加 | −20.0万円 | −20.0万円 | −20.0万円 |
| 実質差額 | +42.1万円 | +52.1万円 | −15.8万円 |
1期目と2期目を合わせると+94.2万円です。3期目からは毎年15.8万円ずつ不利になります。単純に足すと、8期目の途中で累計がマイナスに戻る計算です。
つまり、このケースの法人化は「2年分の免税を前払いで受け取り、3年目から毎年少しずつ返していく」形になっています。判定ツールが3期目以降で「ほぼ互角」と出すのはこのためです。
免税を当てにするときの3つの落とし穴
1. 上半期の売上が1,000万円を超えると、2期目は課税
設立2期目の納税義務は、1期目の最初の6か月(特定期間)の課税売上高等でも判定します。ここが1,000万円を超えると、2期目は課税事業者になります。このケースは年商1,200万円なので上半期は600万円前後で、超えません。繁忙期が上半期に集中する事業は注意が必要です。
2. 法人化した後にインボイスを求められる
撮影の依頼に企業や式場が増えて、インボイスを求められた時点で登録すれば、その日から課税事業者です。免税の2年間は途中で終わります。法人化とインボイス登録の関係は法人成りと消費税・インボイスで整理しています。
3. 本則課税か簡易課税かで、効果の大きさが変わる
この試算は本則課税です。個人のときに簡易課税を選んでいれば、個人のままの納税額はもっと小さくなります。そのぶん法人化で免税になる効果も小さくなり、1〜2期目の有利幅は縮みます。簡易課税の事業区分は国税庁の分類で確認できます。
インボイス登録済みなら、同じ条件でどうなるか
同じ北九州市・同じ年商で、インボイスに登録している場合と比べます。
| 1期目 | 2期目 | 3期目以降 | |
|---|---|---|---|
| インボイス未登録(このケース) | +42.1万円 | +52.1万円 | −15.8万円 |
| インボイス登録済み | −25.8万円 | −15.8万円 | −15.8万円 |
登録済みなら、1期目から免税の効果はありません。3期目以降の差は同じです。違いは最初の2年間だけです。
年商が1,000万円以下で、個人のままでも免税の人はまた話が違います。その場合は個人と法人のどちらでも消費税を納めないため、法人化で免税の効果は生まれません。この型は年商900万円・インボイス未登録の雑貨店の試算事例で扱っています。
まとめ
- 北九州市・年商1,200万円・インボイス未登録の出張カメラマンは、法人化の1期目+42.1万円、2期目+52.1万円
- 効いているのは新設法人の消費税免税(年108.0万円)。資本金1,000万円未満・インボイス未登録が条件
- 3期目以降は年15.8万円の不利。累計は8期目の途中でマイナスに戻る
- 上半期の売上1,000万円超、法人のインボイス登録で免税は早く終わる
- インボイス登録済みなら、最初の2年も含めて毎年不利
自分の売上で、インボイスの登録有無を切り替えて判定ツールで確かめてください。
よくある質問
2年経ったら会社をたたんで、また新しい会社を作れば免税が続きますか?
繰り返し新しい法人を作って免税を受けることには、特定新規設立法人の規定などの制限があり、税務上の否認や手間を考えると現実的ではありません。この試算は、3期目以降も同じ法人で事業を続ける前提です。
法人化した年の途中で、法人向けの仕事が入ってインボイスを求められたらどうなりますか?
法人がインボイスに登録すると、登録した日から課税事業者になり、免税の効果はその時点で終わります。取引先に法人が増える見込みがあるなら、免税の2年間を前提にした計算は崩れます。
簡易課税を使っている場合も同じ結果になりますか?
結果は変わります。この試算は本則課税(売上の消費税から経費の消費税を引く方法)で計算しています。簡易課税を選んでいると個人のままの納税額は小さくなり、法人化で免税になる効果もその分だけ小さくなります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。