法人化の判断
法人化の試算事例35人を1つの表で比較。損益分岐を動かすのは家族・年齢・業種
結論
試算事例35人のうち、3期目以降に法人化が有利と判定されたのは6人、ほぼ互角が20人、個人のままが有利が9人でした。60歳未満の単身で個人事業税5%の人の損益分岐は事業所得1,232万〜1,283万円にほぼ集まり、外れたのは配偶者や子がいる人(730万〜1,183万円)、白色申告(747万円)、60歳以上の単身(1,334万〜1,384万円)、個人事業税3%(1,508万円)、個人事業税がかからない業種(2,276万円)でした。
- 住む自治体(国保の料率差)は損益分岐をほとんど動かさない。単身・5%の人は札幌でも大阪でも長野でも1,230万〜1,280万円台に収まる
- インボイス未登録・資本金・株式会社かどうかは、損益分岐ではなく設立1〜2期の差額を動かす。1期目にプラスだった10人のうち3期目以降もプラスなのは7人
- 35人中20人が「ほぼ互角」(実質差額が年±20万円以内)。一般論の目安より、自分の条件での差額の大きさを見たほうが判断を誤らない
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
当サイトでは、職種・地域・家族・売上を固定した1人を最初から最後まで追う「試算事例(モデルケース)」を公開しています。実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースです。この記事では、そのうち35人を同じ計算エンジンで計算し直し、1つの表に並べました。1人ずつ読むと見えにくい「何が結論を動かすのか」を、横に並べて確かめます。
35人の一覧
| 事例 | 人物 | 年商/経費 | 結論を動かした論点 | 1期目 | 3期目以降 | 損益分岐(事業所得) | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ① | 東京23区・32歳・Webエンジニア | 1,200万/150万円 | 基本形 | −23.9万円 | −13.9万円 | 1,266万円 | ほぼ互角 |
| ② | 大阪市・38歳・Webデザイナー(妻・子2人) | 1,000万/200万円 | 配偶者と15歳以下の子 | −14.3万円 | −4.3万円 | 1,016万円 | ほぼ互角 |
| ③ | 名古屋市・47歳・コンサルタント | 1,800万/200万円 | 40〜59歳(介護保険) | +25.4万円 | +35.4万円 | 1,247万円 | 法人化が有利 |
| ④ | 札幌市・35歳・ライター | 1,300万/100万円 | 個人事業税がかからない業種 | −64.0万円 | −54.0万円 | 2,276万円 | 個人のままが有利 |
| ⑤ | 北九州市・34歳・出張カメラマン | 1,200万/200万円 | インボイス未登録(設立2期の免税) | +42.1万円 | −15.8万円 | 1,277万円 | ほぼ互角 |
| ⑥ | 福岡市・36歳・雑貨店 | 900万/450万円 | 年商1,000万円以下で個人も免税 | −66.2万円 | −56.2万円 | 1,277万円 | 個人のままが有利 |
| ⑦ | 横浜市・29歳・動画編集者 | 700万/80万円 | 所得が低い | −45.4万円 | −35.4万円 | 1,272万円 | 個人のままが有利 |
| ⑧ | さいたま市・42歳・ITコンサルタント | 2,400万/300万円 | 最適報酬が月54万円を超える | +68.7万円 | +78.7万円 | 1,234万円 | 法人化が有利 |
| ⑨ | 神戸市・39歳・ネットショップ | 3,000万/2,200万円 | 年商は大きいが利益は小さい | −34.5万円 | −24.5万円 | 1,279万円 | 個人のままが有利 |
| ⑩ | 仙台市・33歳・プログラマー | 900万/100万円 | 白色申告 | −6.6万円 | +3.4万円 | 747万円 | ほぼ互角 |
| ⑪ | 熊本市・55歳・コンサルタント | 1,300万/150万円 | 会社に残すお金の取り出し方 | −19.6万円 | −9.6万円 | 1,252万円 | ほぼ互角 |
| ⑫ | 静岡市・38歳・受託開発 | 1,500万/600万円 | 外注費が多い | −32.6万円 | −22.6万円 | 1,255万円 | 個人のままが有利 |
| ⑬ | 千葉市・31歳・SESエンジニア | 1,400万/100万円 | 株式会社 | −20.9万円 | +4.1万円 | 1,260万円 | ほぼ互角 |
| ⑭ | 京都市・36歳・Webマーケター(妻) | 1,400万/200万円 | 配偶者 | +2.5万円 | +12.5万円 | 1,016万円 | ほぼ互角 |
| ⑮ | 堺市・45歳・建築士(妻・高校生の子) | 1,600万/400万円 | 40代・配偶者・16歳以上の子 | −3.7万円 | +6.3万円 | 1,016万円 | ほぼ互角 |
| ⑯ | 長野県松本市・37歳・機械設計者 | 1,000万/50万円 | 国保が全国平均の概算 | −24.5万円 | −14.5万円 | 1,255万円 | ほぼ互角 |
| ⑰ | 東京23区・39歳・デザイン事務所(妻) | 2,000万/300万円 | 配偶者・高所得 | +50.1万円 | +60.1万円 | 1,016万円 | 法人化が有利 |
| ⑱ | 東京23区・48歳・コンサルタント | 5,000万/800万円 | 年商5,000万円 | +291.9万円 | +301.9万円 | 1,243万円 | 法人化が有利 |
| ⑲ | 岡山市・46歳・開発者(妻・高校生2人) | 1,500万/300万円 | 子の年齢 | −9.5万円 | +0.5万円 | 1,127万円 | ほぼ互角 |
| ㉑ | 東京23区・66歳・コンサルタント | 1,400万/200万円 | 65歳以上(国民年金なし) | −28.7万円 | −18.7万円 | 1,384万円 | ほぼ互角 |
| ㉒ | 浜松市・45歳・機械設計者 | 1,300万/250万円 | 役員報酬を低く抑える案 | −19.6万円 | −9.6万円 | 1,232万円 | ほぼ互角 |
| ㉓ | 相模原市・38歳・出張マッサージ師 | 1,100万/150万円 | 個人事業税3%・インボイス未登録 | +20.5万円 | −33.1万円 | 1,508万円 | 個人のままが有利 |
| ㉔ | 京都市・34歳・Web制作者 | 950万/100万円 | 法人化と同時にインボイス登録 | −83.3万円 | −73.3万円 | 1,266万円 | 個人のままが有利 |
| ㉕ | さいたま市・42歳・受託開発者(妻・子2人) | 1,600万/200万円 | 最適報酬では生活費が足りない | +26.1万円 | +36.1万円 | 730万円 | 法人化が有利 |
| ㉖ | 千葉市・36歳・インフラエンジニア | 1,500万/150万円 | 翌期に売上が落ちても報酬を下げられない | −0.8万円 | +9.2万円 | 1,260万円 | ほぼ互角 |
| ㉗ | 堺市・41歳・中古カメラ販売 | 2,000万/1,400万円 | 仕入れが多いと免税の効果が小さい | +7.7万円 | −24.9万円 | 1,261万円 | 個人のままが有利 |
| ㉘ | 名古屋市・43歳・運用代行(妻・子2人) | 900万/120万円 | 40代・配偶者・15歳以下の子が重なる | −9.4万円 | +0.6万円 | 740万円 | ほぼ互角 |
| ㉙ | 大阪市・39歳・写真スタジオ | 1,600万/300万円 | 資本金1,000万円(免税なし) | −23.2万円 | +1.8万円 | 1,283万円 | ほぼ互角 |
| ㉛ | 福岡市・61歳・技術顧問 | 1,500万/200万円 | 60歳で国民年金がなくなる | −17.5万円 | −7.5万円 | 1,374万円 | ほぼ互角 |
| ㉜ | 熊本市・61歳・中小企業診断士(妻56歳) | 1,300万/150万円 | 60歳未満の妻が第3号になる | −12.3万円 | −2.3万円 | 1,182万円 | ほぼ互角 |
| ㉝ | 横浜市・66歳・PM(妻58歳) | 1,400万/200万円 | 社長が65歳で妻が第3号から外れる | −27.2万円 | −17.2万円 | 1,370万円 | ほぼ互角 |
| ㉞ | 仙台市・52歳・設備設計者(妻62歳) | 1,300万/200万円 | 年上の妻(国民年金なし) | −12.7万円 | −2.7万円 | 1,183万円 | ほぼ互角 |
| ㉟ | 東京23区・63歳・コンサルタント | 2,500万/300万円 | 65歳から在職老齢年金が効く | +72.0万円 | +82.0万円 | 1,362万円 | 法人化が有利 |
| ㊱ | 新潟市・61歳・技術顧問 | 900万/80万円 | 定年後の独立・60代前半 | −40.4万円 | −30.4万円 | 1,334万円 | 個人のままが有利 |
| ㊲ | 静岡市・63歳・コンサルタント(妻61歳) | 1,300万/150万円 | 夫婦とも60歳以上 | −23.4万円 | −13.4万円 | 1,280万円 | ほぼ互角 |
※ 実質差額は法人化の手取り合計−個人のままの手取りから、税理士報酬の増加(年20万円)と、1期目は設立費用を差し引いた額。損益分岐は青色申告特別控除前の事業所得。⑳(売上が伸びていく5年間の事例)と、入力の取り違えを扱った事例は条件が1つに定まらないため除いた。各事例の記事と同じ条件で scripts/jirei-ichiran.mjs から再計算/2026年(令和8年)分基準
判定の内訳は、法人化が有利6人・ほぼ互角20人・個人のままが有利9人です。半分以上の人が、実質差額が年±20万円以内の「ほぼ互角」に入りました。
60歳未満・単身・5%の人の損益分岐は、1,230万〜1,280万円に集まる
60歳未満の単身で、個人事業税が5%の業種の人だけを抜き出すと、損益分岐は次の範囲に収まります。
| 事例 | 住所 | 年齢 | 損益分岐 |
|---|---|---|---|
| ㉒ | 浜松市 | 45歳 | 1,232万円 |
| ⑧ | さいたま市 | 42歳 | 1,234万円 |
| ③ | 名古屋市 | 47歳 | 1,247万円 |
| ⑪ | 熊本市 | 55歳 | 1,252万円 |
| ⑫ | 静岡市 | 38歳 | 1,255万円 |
| ⑯ | 長野県松本市(全国平均の概算) | 37歳 | 1,255万円 |
| ㉖ | 千葉市 | 36歳 | 1,260万円 |
| ① | 東京23区 | 32歳 | 1,266万円 |
| ⑦ | 横浜市 | 29歳 | 1,272万円 |
| ⑨ | 神戸市 | 39歳 | 1,279万円 |
住む自治体が違っても、損益分岐は50万円ほどの幅に収まりました。この所得帯では国保が賦課限度額に達していて、料率の差が保険料に出にくいからです。40〜59歳の人がやや低めに出るのは、国保の介護分(上限17万円)が消える効果です。
一般に言われる「所得800万円で法人化」という目安は、単身の人には当てはまりません。この表の人たちは、事業所得1,250万円前後が分かれ目です。目安の数字がどこから来ているかは個人事業主の法人化の目安で整理しています。
損益分岐を大きく動かしたのは、家族・年齢・業種・申告の種類
1,230万〜1,280万円の帯から外れた人は、次の条件を持っていました。60歳未満の単身の帯(1,232万〜1,283万円)と比べて読んでください。
| 条件 | 事例 | 損益分岐 | 動く理由 |
|---|---|---|---|
| 配偶者+子+40代 | ㉕・㉘ | 730万〜740万円 | 配偶者の国民年金、国保の介護分、子の均等割が法人化で消える |
| 白色申告 | ⑩ | 747万円 | 個人のままに青色申告特別控除65万円がない |
| 配偶者(+子) | ②・⑭・⑮・⑰ | 1,016万円 | 配偶者の国民年金(年21.5万円)と国保が消える |
| 配偶者+16歳以上の子 | ⑲ | 1,127万円 | 扶養控除は個人のままの高い税率で大きく効く |
| 60代前半・60歳未満の妻 | ㉜ | 1,182万円 | 本人の国民年金はないが、妻の分が第3号になって消える |
| 年上の妻(60歳以上) | ㉞ | 1,183万円 | 妻に国民年金がなく、配偶者の効果は国保の均等割と控除だけ |
| 60代の夫婦(ともに60歳以上) | ㊲ | 1,280万円 | 配偶者の効果は、所得1,000万円超で消える配偶者控除が戻る分だけ |
| 60〜64歳の単身 | ㉛・㉟・㊱ | 1,334万〜1,374万円 | 60歳で国民年金がなくなり、法人化で消える負担が小さい |
| 65歳以上・60歳未満の妻 | ㉝ | 1,370万円 | 妻は第3号になれず、法人化しても妻の国民年金が残る |
| 65歳以上 | ㉑ | 1,384万円 | もともと国民年金がなく、介護分も外れて消える負担が小さい |
| 個人事業税3% | ㉓ | 1,508万円 | 法人化で消える個人事業税が小さい |
| 個人事業税がかからない業種 | ④ | 2,276万円 | 消える個人事業税がなく、法人事業税だけ新たにかかる |
向きを整理すると、法人化で消える負担が大きい人ほど損益分岐は下がり、小さい人ほど上がります。配偶者の国民年金や介護分は「消える負担」を増やし、60歳以上や個人事業税の軽い業種は減らします。60代では、本人と配偶者のどちらが60歳未満か、社長が65歳を過ぎたかで、同じ「配偶者あり」でも結論が200万円近く動きます。60代の事例は59歳と60歳で結論が入れ替わる技術顧問の試算事例から順に読めます。
同じ「家族がいる」でも、配偶者と15歳以下の子は損益分岐を下げ、16歳以上の子は上げる方向に効きます。子の年齢でどこまで動くかは子ども2人を扶養する開発者の試算事例で扱っています。
インボイス・資本金・法人形態は、最初の2年だけを動かす
損益分岐はほとんど動かさないのに、1期目・2期目の差額を大きく動かす条件もあります。
| 条件 | 事例 | 1期目 | 3期目以降 |
|---|---|---|---|
| インボイス未登録(設立2期の免税) | ⑤ | +42.1万円 | −15.8万円 |
| インボイス未登録・個人事業税3% | ㉓ | +20.5万円 | −33.1万円 |
| インボイス未登録・仕入れが多い物販 | ㉗ | +7.7万円 | −24.9万円 |
| 資本金1,000万円(免税なし) | ㉙ | −23.2万円 | +1.8万円 |
| 法人化と同時にインボイス登録 | ㉔ | −83.3万円 | −73.3万円 |
| 株式会社(設立費用25万円) | ⑬ | −20.9万円 | +4.1万円 |
1期目にプラスだった10人のうち、3期目以降もプラスのままだったのは7人です。⑤・㉓・㉗の3人は、設立直後の消費税の免税で最初だけ有利に見え、3期目から逆転しました。最初の2年の数字だけで法人化を決めると、この逆転を見落とします。免税の効果は、年商ではなく「売上の消費税−仕入れの消費税」で決まるので、物販では小さくなります。
「ほぼ互角」の20人は、金額以外で決まる
35人のうち20人は、3期目以降の実質差額が年±20万円以内でした。この帯では、単年の手取りで結論は決まりません。
- 法人化で得るもの:厚生年金による将来の年金、傷病手当金・出産手当金、配偶者の第3号被保険者
- 法人化で負うもの:決算と申告の事務、役員報酬を期中に変えられない制約、毎年の社会保険の手続き
さらに、差額がゼロの近くを平らに進む人は、損益分岐の数字が条件のわずかな違いで大きく動きます(40代・妻と子2人の試算事例)。分岐点の数字だけを見るより、自分の売上での差額の大きさを見たほうが判断を誤りません。
まとめ
- 試算事例35人のうち、法人化が有利6人・ほぼ互角20人・個人のままが有利9人
- 60歳未満の単身・個人事業税5%の人の損益分岐は、住む自治体に関係なく事業所得1,230万〜1,280万円に集まる
- 損益分岐を大きく動かすのは家族(730万〜1,183万円)、60歳以上(1,280万〜1,384万円)、業種(1,508万〜2,276万円)、白色申告(747万円)
- インボイス・資本金・法人形態は最初の2年の差額を動かすが、3期目以降の結論はほとんど変えない
- 半数以上が「ほぼ互角」。この帯ではお金以外の条件で判断する
表の中に自分とまったく同じ人はいません。近い事例で向きをつかんだら、判定ツールに自分の売上と経費を入れて確かめてください。
よくある質問
自分に近い事例はどう探せばよいですか?
表の「結論を動かした論点」の列で、自分に当てはまる条件(家族・年齢・業種・インボイス)を探してください。条件が2つ以上当てはまるときは、それぞれの事例の向きが重なります。最終的には判定ツールに自分の数字を入れて確かめるのが確実です。
「ほぼ互角」はどういう意味ですか?
税理士報酬の増加を差し引いた3期目以降の実質差額が、年±20万円以内に収まっていることを指します。単年の手取りでは決まらない帯なので、厚生年金や傷病手当金などの給付、事務負担といった金額以外の条件で判断することになります。
事例の数字は更新されますか?
税率や保険料率が改正されたら、計算エンジンで全事例を計算し直します。この記事の表は、事例の条件をまとめたスクリプトから計算エンジンで出しています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。