法人化の判断

地方在住の機械設計者の法人化試算事例。国保が概算でも損益分岐はほぼ同じ

結論

長野県松本市・37歳・独身の機械設計者(年商1,000万円・経費50万円)は、国保を全国平均の概算で計算すると、個人のまま626.5万円、法人化で632.0万円、3期目以降は年14.5万円の不利です。政令市と東京23区の20市区の料率で計算し直しても差は年14.3万〜25.3万円の不利で、損益分岐は事業所得1,255万〜1,261万円とほぼ変わりません。

  • 国保の料率差で動くのは、損益分岐より下の所得帯での不利の大きさ。政令市と東京23区の20市区の料率では、事業所得950万円の国保が79.4万〜95.7万円まで16.3万円ばらつく
  • 事業所得1,250万円では、この20市区のどこでも国保が賦課限度額(大阪市・堺市は95万円、ほかは96万円)に達し、法人化の差は年0.5万〜1.1万円の不利でそろう
  • 自分の自治体の料率は、市区町村のサイトにある所得割率・均等割・平等割と賦課限度額で確かめられる

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

当サイトの判定ツールは、国民健康保険料の料率を政令指定都市・東京23区と一部の市について持っています。それ以外の市町村に住む人は「その他(全国平均)」を選び、結果には「概算」と出ます。このケースは、その「概算」で判定した人です。概算のまま判断してよいのかを確かめます。

同じ長野県でも長野市は実データがあり、令和8年度の料率で計算した結果は長野市の国民健康保険料にあります。長野市は概算とほぼ同じ水準です(単身・事業所得600万円で差0.7万円)。

このケースの条件

項目内容
職種機械設計者(メーカーから治具・装置の設計をCADで受託)
年齢・家族37歳・独身
住所長野県松本市(判定ツールでは「その他=全国平均」)
年商(税抜)1,000万円
経費50万円(CADのライセンス・PC・通信費など)
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス登録済み
個人事業税の業種請負業として5%で計算

事業所得(売上−経費)は950万円です。

個人事業主のまま:手取りは626.5万円(国保は概算)

項目金額
事業所得(売上−経費)950.0万円
国民健康保険(全国平均の概算)95.4万円
国民年金21.5万円
所得税(復興特別所得税を含む)100.8万円
住民税72.8万円
個人事業税33.0万円
手取り626.5万円

※ 長野県(国保は全国平均の概算)・37歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準

全国平均の料率は、広島市を除く政令指定都市19市と東京23区の20市区の令和8年度料率の平均です。判定ツールが料率を持つそれ以外の市は、平均に含めていません。

法人化した場合:手取り合計は632.0万円

項目金額
役員報酬(月54万円・年額)648.0万円
社会保険料・本人負担89.5万円
所得税18.7万円
住民税34.4万円
個人に入る手取り505.3万円
社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む)91.8万円
法人の利益(税引前)210.2万円
法人税等(均等割7万円を含む)51.9万円
会社に残る額158.3万円
手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上)632.0万円

※ 合同会社・長野県(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準

法人側の健康保険料は、協会けんぽの長野支部の料率で計算しているので、概算ではありません。概算が入るのは個人側の国保だけです。

1期目2期目3期目以降
手取りの差(法人−個人)+5.5万円+5.5万円+5.5万円
設立費用(合同会社)−10.0万円——
税理士報酬の増加−20.0万円−20.0万円−20.0万円
実質差額−24.5万円−14.5万円−14.5万円

国保の料率を政令市と東京23区の20市区の料率に置き換えると

同じ条件(長野県の協会けんぽ)のまま、国保の料率だけを、全国平均の母集団と同じ20市区(広島市を除く政令指定都市19市と東京23区)の料率に置き換えて計算しました。代表的な市区を抜き出します。

国保の料率国保の額個人のままの手取り実質差額(3期目以降)損益分岐(事業所得)
福岡市79.4万円637.1万円−25.3万円1,256万円
熊本市86.3万円632.5万円−20.6万円1,255万円
名古屋市92.7万円628.3万円−16.4万円1,256万円
東京23区94.8万円626.9万円−14.9万円1,255万円
全国平均(概算)95.4万円626.5万円−14.5万円1,255万円
大阪市94.5万円627.1万円−15.1万円1,261万円
川崎市95.7万円626.3万円−14.3万円1,255万円

※ 年商1,000万円・経費50万円・37歳・独身・個人事業税5%・青色申告(e-Tax)・協会けんぽは長野県で固定/2026年(令和8年)分基準。対象は政令市と東京23区の20市区で、判定ツールが料率を持つそれ以外の市は含めていない

この20市区すべてで計算すると、実質差額は−14.3万〜−25.3万円、損益分岐は1,255万〜1,261万円でした。不利の大きさは11万円ほど動くものの、結論の向きは変わらず、損益分岐はほとんど動きません。

損益分岐が動かない理由

所得別に、料率が低い福岡市・全国平均・料率が高い川崎市を並べると理由が見えます。

事業所得福岡市全国平均(概算)川崎市
600万円国保50.4万円/−42.8万円国保60.6万円/−35.6万円国保62.5万円/−34.3万円
800万円国保68.3万円/−31.3万円国保82.3万円/−21.5万円国保85.4万円/−19.3万円
1,000万円国保82.3万円/−22.6万円国保95.7万円/−13.6万円国保96.0万円/−13.5万円
1,250万円国保96.0万円/−0.6万円国保96.0万円/−0.5万円国保96.0万円/−0.5万円

※ 各欄は「国保の額/法人化の実質差額(3期目以降)」。経費50万円・37歳・独身・個人事業税5%・協会けんぽは長野県

所得が低いうちは料率の差がそのまま国保の差になります。しかし国保には賦課限度額があり、40歳未満なら多くの自治体で合計96万円で止まります。損益分岐の1,250万円前後では、料率の低い自治体もすでに上限に達しているため、どこに住んでいても個人側の保険料がほぼ同じになります。

つまり、国保の料率差は「損益分岐より下で、どれくらい不利か」には効きますが、「どこで逆転するか」にはほとんど効きません。自治体ごとの国保の違いは国民健康保険料の自治体別比較で一覧にしています。

自分の市町村の国保料を確かめる方法

概算との差を確かめたいときは、市町村のサイトで令和8年度の料率を探し、次の式で計算します。

区分計算
所得割(前年の所得−43万円)×所得割率
均等割加入者1人あたりの額×人数
平等割1世帯あたりの額(採用していない市町村もある)
上限医療分・後期高齢者支援金分・介護分・子ども・子育て支援金分ごとに賦課限度額で止まる

「前年の所得」は、青色申告特別控除を引いた後の事業所得です。国保の額が概算と数万円しか違わなければ、判定ツールの結論はそのまま使えます。

まとめ

  • 長野県松本市・年商1,000万円・経費50万円の機械設計者は、概算で個人のまま626.5万円、法人化で632.0万円、3期目以降年14.5万円の不利
  • 政令市と東京23区の20市区の料率に置き換えても不利は年14.3万〜25.3万円で、結論の向きは変わらない
  • 損益分岐は事業所得1,255万〜1,261万円でほぼ同じ。損益分岐の付近ではどの自治体も国保が賦課限度額に達している
  • 料率差が効くのは損益分岐より下の所得帯。自分の市町村の料率で国保を計算し、概算と比べると確かめられる

判定ツールで「その他(全国平均)」を選んだ人も、損益分岐の位置はそのまま参考にできます。

よくある質問

自分の市町村の国保料を判定ツールに入れられますか?

判定ツールは、料率を収録した市区と、それ以外の全国平均(概算)から選ぶ形です。自分の市町村の料率で国保料を計算し、概算の額と比べてください。差が数万円なら、判定の結論はほとんど変わりません。

国保料ではなく国保税の市町村もありますが、違いはありますか?

国民健康保険料と国民健康保険税は、徴収の根拠となる法律が違うだけで、所得割・均等割・平等割と賦課限度額で計算する仕組みは同じです。

法人住民税の均等割も地域で違いますか?

標準は年7万円ですが、県や市が超過課税をしていると少し高くなります。この試算は標準の7万円で計算しています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。