法人化の判断
66歳のコンサルタントの法人化試算事例。国民年金がない分、損益分岐が141万円上がる
結論
東京23区・66歳・単身の経営コンサルタント(年商1,400万円・経費200万円)は、個人のまま手取り786.3万円、法人化で787.6万円です。税理士報酬の増加を引くと3期目以降は年18.7万円の不利で、損益分岐は事業所得1,384万円。同じ人が40〜59歳なら損益分岐は1,243万円で、年齢だけで141万円上がります。
- 国民年金の第1号被保険者は60歳未満まで。65歳以上の個人事業主には国民年金の保険料がなく、法人化で「消える負担」が年21.5万円小さい
- 最適な役員報酬は月54万円(標準報酬月額53万円)。老齢厚生年金の基本月額が12万円以下なら、令和8年4月からの基準65万円に収まり年金は止まらない
- 厚生年金は70歳まで加入し、65歳以降の加入分は毎年10月分の年金額に反映される(在職定時改定)。標準報酬月額53万円なら1年の加入で年3.5万円増える
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
ほかの試算事例 法人化の試算事例35人を1つの表で比較。損益分岐を動かすのは家族・年齢・業種
この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。
会社員を早期に退職してコンサルタントとして独立し、66歳で売上が安定してきた人を想定します。年齢以外は、これまでの事例と同じ型で計算しています。結論を動かしているのは、65歳以上には国民年金の保険料がないという1点です。
このケースの条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 職種 | 経営コンサルタント(中小企業の顧問契約が中心) |
| 年齢・家族 | 66歳・単身 |
| 住所 | 東京23区 |
| 年商(税抜) | 1,400万円 |
| 経費 | 200万円 |
| 申告 | 青色申告(e-Tax・65万円控除) |
| インボイス | 登録済み |
| 個人事業税の業種 | コンサルタント業(第3種・5%) |
| 年金 | 老齢厚生年金を受給中(会社員時代の分。基本月額10万円と仮定) |
事業所得(売上−経費)は1,200万円です。年金の収入はこの試算の手取りには入れていません。年金は個人のままでも法人化しても同じだけ入り、差を生むのは「法人化すると止まるかどうか」だけだからです。
個人事業主のまま:手取りは786.3万円
| 項目 | 66歳 | (参考)同じ人が40〜59歳 |
|---|---|---|
| 事業所得(売上−経費) | 1,200.0万円 | 1,200.0万円 |
| 国民健康保険 | 96.0万円 | 113.0万円 |
| 国民年金 | 0万円 | 21.5万円 |
| 所得税 | 172.3万円 | 159.3万円 |
| 住民税 | 99.8万円 | 96.0万円 |
| 個人事業税 | 45.5万円 | 45.5万円 |
| 手取り | 786.3万円 | 764.7万円 |
※ 東京23区・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準
66歳の国保には介護分がありません。65歳以上の介護保険料は、国保から外れて市区町村の第1号保険料に変わるためです。国民年金もかかりません。第1号被保険者は20歳以上60歳未満だからです。
その分、社会保険料控除が小さくなり、所得税と住民税は40〜59歳より高く出ています。それでも手取りは21.6万円多い計算です。
法人化した場合:手取り合計は787.6万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 役員報酬(月54万円・年額) | 648.0万円 |
| 社会保険料・本人負担(健康保険・厚生年金) | 90.2万円 |
| 所得税 | 18.6万円 |
| 住民税 | 34.4万円 |
| 個人に入る手取り | 504.8万円 |
| 社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む) | 92.5万円 |
| 法人の利益(税引前) | 459.5万円 |
| 法人税等(均等割7万円を含む) | 105.8万円 |
| 会社に残る額 | 353.6万円 |
| 手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上) | 787.6万円 |
※ 合同会社・東京都(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準
法人側の社会保険料にも、65歳以上なので介護保険料(1.62%)が入っていません。
| 1期目 | 2期目 | 3期目以降 | |
|---|---|---|---|
| 手取りの差(法人−個人) | +1.3万円 | +1.3万円 | +1.3万円 |
| 設立費用(合同会社) | −10.0万円 | — | — |
| 税理士報酬の増加 | −20.0万円 | −20.0万円 | −20.0万円 |
| 実質差額 | −28.7万円 | −18.7万円 | −18.7万円 |
40〜59歳との違いは、国民年金が「消える側」に入らないこと
法人化が有利になるかどうかは、法人化で消える負担と新しく生じる負担の差で決まります。個人事業主の国民年金は、法人化で消える負担の代表です。厚生年金に入れば、国民年金の保険料は別に払いません。
65歳以上はもともと国民年金を払っていないので、この消える負担がゼロです。年齢以外の条件を同じにして、売上別に比べました。
| 年商(経費200万円) | 66歳:実質差額(3期目以降) | 40〜59歳:実質差額(3期目以降) |
|---|---|---|
| 1,200万円 | −29.0万円 | −10.0万円 |
| 1,400万円 | −18.7万円 | −4.3万円 |
| 1,600万円 | +1.6万円 | +16.0万円 |
| 1,800万円 | +21.0万円 | +35.8万円 |
| 2,000万円 | +34.9万円 | +45.5万円 |
※ 東京23区・単身・コンサルタント業(5%)・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み/2026年(令和8年)分基準
どの売上でも、66歳のほうが10万〜19万円ほど法人化の分が悪くなります。損益分岐は事業所得1,243万円から1,384万円へ141万円上がります。60〜64歳も国民年金の加入義務がないため、同じ条件の損益分岐は1,362万円で、66歳に近い水準です。
一般に出回っている「所得○○万円で法人化」という目安は、ほとんどが国民年金を払っている現役世代を前提にしています。65歳を過ぎた人がそのまま当てはめると、法人化を早く判断しすぎます。目安の数字そのものの成り立ちは個人事業主の法人化の目安で整理しています。
役員報酬月54万円で、年金は止まるか
年金を受け取りながら役員報酬を取ると、在職老齢年金の仕組みで老齢厚生年金の一部が止まることがあります。令和8年4月から、全額支給される条件は「基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下」になりました(改正前は51万円)。
このケースの最適報酬は月54万円で、標準報酬月額は53万円です。賞与を出さなければ総報酬月額相当額も53万円になります。
| 老齢厚生年金の基本月額 | 53万円との合計 | 年金の停止 |
|---|---|---|
| 10万円(このケース) | 63万円 | 止まらない |
| 12万円 | 65万円 | 止まらない |
| 15万円 | 68万円 | 月1.5万円止まる(超えた3万円の半分) |
※ 支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額−65万円)÷2。令和8年4月以降の基準
基本月額が15万円の人は、報酬を月51万円(標準報酬月額50万円)に下げれば合計65万円に収まります。このときの手取り合計は786.9万円で、月54万円より0.7万円少ないだけです。年金の停止額(年18万円)より、報酬を下げたときの減り方のほうがずっと小さくなります。
止まる額の計算と、改正前後で何が変わったかは在職老齢年金と法人化で詳しく扱っています。当サイトの判定ツールは年金の停止を計算に入れていないので、受給中の人は表の上に自分で重ねてください。
70歳までの厚生年金は、年金額に毎年上乗せされる
単年の手取りでは不利でも、法人化には見えない戻りがあります。65歳以上70歳未満で厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている人は、毎年9月1日を基準日に、前年9月から当年8月までの加入分が10月分の年金額から反映されます(在職定時改定)。
報酬比例部分は「平均標準報酬額×5.481÷1000×加入月数」で計算されます。標準報酬月額53万円で加入した場合の増え方は次のとおりです。
| 加入期間 | 増える老齢厚生年金(年額) |
|---|---|
| 1年(12か月) | 3.5万円 |
| 4年(66歳〜70歳・48か月) | 13.9万円 |
※ 報酬比例部分のみ。賞与なし・標準報酬月額53万円で計算
4年加入すると、生涯にわたって年13.9万円が上乗せされます。単年で見た年18.7万円の不利と比べるかどうかは、何歳まで受け取るかの見通しによって変わります。社会保険料のうち、厚生年金が年金として返ってくる仕組みは法人化で年金はいくら増えるかで整理しています。
このケースの結論を動かす条件
| 条件の変化 | 結論が動く方向 |
|---|---|
| 売上が1,600万円を超える | 法人化が有利に転じる(+1.6万円) |
| 第1号の介護保険料を入れる | 法人化がやや有利な方向(役員報酬のほうが所得が低い) |
| 基本月額が12万円を超える | 報酬を下げる必要があり、わずかに不利な方向 |
| 70歳を過ぎる | 厚生年金の保険料がなくなり、法人化が有利な方向 |
65歳以上の第1号保険料は自治体と所得の段階で決まり、この試算には入っていません。役員報酬にすると本人の所得が下がるので、段階が下がる方向に動きます。
まとめ
- 東京23区・66歳・年商1,400万円のコンサルタントは、法人化で3期目以降年18.7万円の不利
- 65歳以上は国民年金がないため、法人化で消える負担が年21.5万円小さい。損益分岐は40〜59歳より141万円高い1,384万円
- 最適報酬の月54万円は、老齢厚生年金の基本月額12万円以下なら令和8年4月からの基準で年金が止まらない
- 70歳までの厚生年金加入は在職定時改定で毎年反映され、4年で年13.9万円の上乗せになる
年齢の欄を「65歳以上」にすると、判定ツールでも国民年金を外して計算します。一般論の目安ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
65歳を過ぎてから法人化しても、厚生年金に入らなければいけませんか?
70歳未満の役員が報酬を受け取っていれば、法人は厚生年金の適用事業所なので加入します。70歳になると厚生年金の資格はなくなりますが、健康保険は75歳になるまで続きます。
老齢厚生年金を受け取っていない(繰下げ待機中の)場合はどうなりますか?
受け取っていない年金は在職老齢年金で止まることはありません。ただし繰下げで増える額は、在職中に止まるはずだった部分を除いて計算されるため、報酬の額によっては繰下げの増額が小さくなります。
65歳以上の介護保険料は、この試算に入っていますか?
入っていません。65歳以上は介護保険料が国保・健康保険から外れ、市区町村が本人の所得に応じて決める第1号保険料に変わります。個人のままより役員報酬のほうが所得が低くなるので、第1号保険料は法人化で下がる方向に動きます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。