法人化の判断

年商1,200万円のWebエンジニア、法人化の試算事例。東京で年14万円の差

結論

東京23区・32歳・独身のWebエンジニア(年商1,200万円・経費150万円)は、個人のままの手取りが687.8万円、法人化して役員報酬を月54万円にすると693.9万円です。税理士報酬の差20万円を引くと、3期目以降も法人化のほうが年13.9万円少なくなります。

  • 損益分岐は事業所得1,266万円。このケース(事業所得1,050万円)からは売上があと216万円ほど伸びると逆転する
  • 個人のときに重いのは国保95.7万円と個人事業税38.0万円。法人化で消えるが、社会保険が労使計182.8万円に増える
  • 同じ条件で新潟市に住んでいても差は年11.0万円の不利。住む場所より売上の伸びのほうが判定を動かす

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。リフォームの施工事例のように、1人の条件を最初から最後まで追います。

取り上げるのは、法人化の相談でもっとも多い型です。会社員から独立して数年、売上が1,000万円を超えて「そろそろ法人化か」と言われ始めたエンジニアです。

このケースの条件

項目内容
職種フリーランスのWebエンジニア(企業から開発を受託)
年齢・家族32歳・独身
住所東京23区
年商(税抜)1,200万円
経費150万円(PC・通信費・自宅の按分・交通費など。社会保険と税金は除く)
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス登録済み(取引先が法人のため)
個人事業税の業種請負業(第1種・5%)

開発の受託は、個人事業税では請負業として扱われることが多い業種です。東京都の法定業種では第1種事業に入り、税率は5%です。

売上から経費を引いた事業所得は1,050万円です。以下、この1,050万円が、個人のままと法人化でどう配分されるかを比べます。

個人事業主のまま:手取りは687.8万円

項目金額
事業所得(売上−経費)1,050.0万円
国民健康保険95.7万円
国民年金21.5万円
所得税(復興特別所得税を含む)124.3万円
住民税82.7万円
個人事業税38.0万円
手取り687.8万円

※ 東京23区・32歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・請負業5%/2026年(令和8年)分基準

社会保険と税金を合わせると362.2万円です。事業所得の3分の1強が出ていきます。

目立つのは国民健康保険です。青色申告特別控除後の所得は985万円で、東京23区の国保は上限の96万円にほぼ届いています。個人事業税38.0万円も、会社員時代にはなかった負担です。事業主控除290万円を引いた残りに5%がかかります。

法人化した場合:役員報酬は月54万円がもっとも多く残る

同じ事業所得1,050万円を合同会社で受け取り、役員報酬を月5万〜100万円まで1万円刻みで試しました。手取り合計がもっとも多くなったのは**月54万円(年648万円)**です。

項目金額
役員報酬(年額)648.0万円
社会保険料・本人負担90.2万円
所得税18.6万円
住民税34.4万円
個人に入る手取り504.8万円
社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む)92.5万円
法人の利益(税引前)309.5万円
法人税等(法人税・地方法人税・住民税・事業税・均等割)73.1万円
会社に残る額236.4万円
手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上)693.9万円

※ 合同会社・東京都(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準

個人の所得税は124.3万円から18.6万円に下がります。給与所得控除が174万円ほど効くうえ、残りの利益を法人の軽い税率で受けるためです。法人税等73.1万円には、赤字でもかかる均等割7万円が入っています。

一方、社会保険料は本人と会社を合わせて182.8万円です。個人のときの国保+国民年金117.2万円より65.6万円増えます。

会社に残る236万円をどう数えるか

会社に残る236.4万円は、すぐには個人の財布に入りません。配当や役員退職金で取り出すときに税金がかかります。この試算では2割を差し引いた189.1万円を手取りに含めました。この扱いの理由は計算の根拠に書いています。

1期目・2期目・3期目以降の実質差額

手取りの単純な差は、法人化のほうが年6.1万円多い結果でした。ここに法人化で増える費用を乗せます。

1期目2期目3期目以降
手取りの差(法人−個人)+6.1万円+6.1万円+6.1万円
設立費用(合同会社)−10.0万円——
税理士報酬の増加−20.0万円−20.0万円−20.0万円
実質差額−23.9万円−13.9万円−13.9万円

税理士報酬は、個人の確定申告で年15万円、法人の決算申告で年35万円を置いています。インボイス登録済みなので、新設法人の消費税免税(設立2期)は使えません。1期目と2期目で差が変わらないのはそのためです。

このケースでは、どの年を取っても法人化のほうが少なくなります。差は年14万円前後なので、判定ツールの区分では「ほぼ互角」に入ります。

何が変われば逆転するか

売上が216万円伸びれば逆転する

同じ条件で事業所得だけを動かすと、損益分岐は事業所得1,266万円でした。経費150万円のままなら、年商1,416万円前後です。

年商事業所得実質差額(3期目以降)
1,080万円(−10%)930万円−16.7万円
1,200万円(このケース)1,050万円−13.9万円
1,320万円(+10%)1,170万円−9.7万円

売上が1割増えても差は4万円ほどしか縮みません。最適な役員報酬が月54万円で止まり、増えた利益は法人税の側で受ける区間に入っているためです。月54万円が選ばれる理由は役員報酬の決め方で扱っています。売上が伸びていく途中で何年目に法人化するかは、売上が伸びているエンジニアの試算事例で比べています。

住む場所はあまり効かない

同じ条件で新潟市に住んでいると、3期目以降の差は−11.0万円、損益分岐は事業所得1,237万円でした。東京より差が3万円ほど縮むだけです。国保の料率は自治体で違いますが、このケースはどちらも上限近くにいるため差が出にくくなります。自治体ごとの違いは国民健康保険料の自治体別比較にまとめています。

家族がいると話が変わる

無収入の配偶者がいると、個人のままでは配偶者の国民年金と国保の均等割がかかります。法人化すれば配偶者は被扶養者になり、この負担が消えます。妻と子のいる場合の事例は大阪・妻子ありのデザイナーの試算事例で扱っています。

この試算に入っていないもの

単年の手取りだけで判定すると、法人化で得られるものの一部が抜けます。

  • 厚生年金の上乗せ。月54万円の報酬で加入すると、将来の年金が国民年金だけの場合より増える
  • 傷病手当金。病気で働けないとき、協会けんぽから報酬の約3分の2が出る。国保にはない
  • 退職金の準備。法人なら役員退職金を経費にでき、退職所得控除を使える

逆に、社会保険の手続きや法人の決算といった事務の手間も、数字には入っていません。このケースのように差が年14万円程度なら、こうした数字にならない要素で結論が変わりえます。個人事業主の法人化の目安では、この判断の全体像をまとめています。

まとめ

  • 年商1,200万円・経費150万円の東京のWebエンジニアは、個人のまま687.8万円、法人化で693.9万円
  • 税理士報酬の増加20万円を引くと、3期目以降も年13.9万円の不利。1期目は設立費用が乗り年23.9万円の不利
  • 損益分岐は事業所得1,266万円。年商で1,416万円前後まで伸びると逆転する
  • 法人化で個人事業税38.0万円は消えるが、社会保険料が65.6万円増える

年商の数字だけでは判定できません。自分の売上と経費で、判定ツールの結果を確かめてください。

よくある質問

年商1,200万円なら法人化したほうがよいと言われました。この試算と違うのはなぜですか?

「年商」は経費を引く前の数字だからです。法人化の損得を決めるのは売上から経費を引いた事業所得で、このケースは1,050万円です。さらに法人化すると税理士報酬が年20万円ほど増えるため、その分を引くと差がマイナスに戻ります。

役員報酬を月54万円以外にすると結果は変わりますか?

月45万円にすると手取り合計は693.2万円、月60万円だと685.1万円で、月54万円がもっとも多くなりました。月50万〜56万円の間なら差は数万円にとどまります。

会社に残る236万円はそのまま自分のお金と考えてよいですか?

そのままではありません。会社のお金を個人に移すには配当や退職金などを経由し、そのとき税金がかかります。この試算では、会社に残る額を2割引いた189.1万円を手取りに含めています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。