法人化の判断

法人化した翌期に売上が半減したエンジニアの試算事例。報酬を下げられないと年69万円の差

結論

千葉市・36歳のエンジニアが年商1,500万円(経費150万円)で法人化すると、3期目以降は年9.2万円有利です。ところが翌期に年商が700万円へ落ち、期首に決めた月54万円の報酬を払い続けると、個人のままより年116.3万円不利になります。報酬を月39万円に見直せていれば不利は年47.0万円で、報酬を動かせないことの差は年69.3万円です。

  • 役員報酬は期首から3か月以内に決め、その期は同じ額を払う(定期同額給与)。期中に下げられるのは、経営状況が著しく悪化したなどの業績悪化改定事由がある場合に限られる
  • 国税庁は、一時的な資金繰りの都合や業績目標に届かなかっただけでは業績悪化改定事由に当たらないとしている
  • 年商900万円までなら最適な報酬は月54万円のままで、固定による損はない。損が出るのは年商800万円を下回ってから

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

法人化の試算は、たいてい「今の売上が続く」前提で行います。ところが一人で稼ぐ事業は、大口の取引先が1社抜けるだけで売上が半分になることがあります。個人事業主なら、売上が落ちれば税金も保険料も自動的に下がります。法人では、期首に決めた役員報酬を期中に下げられないので、その分だけ損が広がります。

このケースの条件

項目内容
職種フリーランスのインフラエンジニア(大口1社と中小2社の継続契約)
年齢・家族36歳・単身
住所千葉市
法人化した期の年商(税抜)1,500万円
翌期の年商700万円(大口1社の契約が期の初めに終了)
経費150万円
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス登録済み
役員報酬法人化した期に月54万円で決定。翌期も期首に同額で決議していた

年商1,500万円が続くなら、法人化は年9.2万円有利

項目個人のまま法人化(役員報酬月54万円)
手取り(法人は手取り合計)851.2万円880.4万円
実質差額(3期目以降・税理士報酬の増加20万円を引く)—+9.2万円

※ 千葉市・36歳・単身・合同会社・千葉県(協会けんぽ)/2026年(令和8年)分基準。法人の手取り合計は、会社に残る額(469.2万円)を2割引いて計上

事業所得1,350万円は損益分岐(1,260万円)をわずかに超えていて、判定は「ほぼ互角」です。

翌期に年商700万円へ:報酬を下げられないと年116.3万円の不利

翌期の年商が700万円に落ちたときを、3通りで比べました。

個人のままだったら法人・報酬月54万円のまま法人・報酬を月39万円に見直せた場合
手取り(法人は手取り合計)404.2万円307.9万円377.2万円
会社に残る額—−197.2万円—
個人のままとの実質差額—−116.3万円−47.0万円

※ 年商700万円・経費150万円。実質差額は税理士報酬の増加20万円を引いた額。会社の赤字は割り引かずに全額を差し引いて計上/2026年(令和8年)分基準

月54万円を払い続けると、会社は年197.2万円の赤字になります。社会保険料の会社負担と均等割7万円も、売上が落ちても減りません。会社の赤字は、1期目に会社に残した469.2万円で穴埋めすることになり、実質的に前の年の貯金で今年の報酬を払う形です。

報酬を月39万円に見直せていれば、不利は年47.0万円にとどまります。差の年69.3万円が、報酬を期中に動かせないことの代償です。

期中に報酬を下げられるのは「業績悪化改定事由」があるときだけ

役員報酬が法人の経費になるのは、原則として事業年度の開始から3か月以内に決め、その期は毎月同じ額を払う場合です(定期同額給与)。期中に下げても経費として認められるのは、経営状況が著しく悪化したことなどを理由とする「業績悪化改定事由」に当たる場合に限られます。

国税庁は、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に届かなかったことは、これに含まれないとしています。大口の契約終了で売上が半分になったケースが当たるかどうかは、悪化の程度や取引先との関係などの事実で判断されます。減額するなら、理由と経緯を議事録に残すことが前提になります。

期中に増額した場合の扱いは役員報酬を期中に増やした場合で扱っています。

年商900万円までは、報酬を固定しても損はない

売上の落ち方によって、固定による損がどこから出るかを見ました。

翌期の年商最適な報酬(月)月54万円のままの実質差額最適報酬での実質差額固定による損
1,500万円54万円+9.2万円+9.2万円0万円
1,300万円54万円−11.3万円−11.3万円0万円
1,100万円54万円−15.7万円−15.7万円0万円
900万円54万円−27.1万円−27.1万円0万円
800万円45万円−68.6万円−34.2万円34.4万円
700万円39万円−116.3万円−47.0万円69.3万円
600万円32万円−149.8万円−49.2万円100.6万円

※ 経費150万円・千葉市・単身・個人のままとの比較/2026年(令和8年)分基準

年商900万円までは、最適な報酬がもともと月54万円のままです。標準報酬月額53万円の等級の上端に当たる月54万円は、幅広い売上で最適になります。固定による損が出始めるのは、年商が800万円を下回ってからです。

言い換えると、報酬を期首に決めるときに見ておくべきなのは「売上がどこまで落ちたら、この報酬が重くなるか」です。このケースなら、年商900万円が目安になります。売上ごとの最適額の出し方は役員報酬の最適額はいくらかで整理しています。

売上が伸びたときも、報酬を上げられない

逆に、翌期の年商が伸びた場合も、期中に報酬は上げられません。

翌期の年商最適な報酬(月)月54万円のままの実質差額最適報酬での実質差額取り逃がし
1,800万円54万円+34.5万円+34.5万円0万円
2,100万円90万円+40.0万円+63.0万円23.0万円
2,400万円100万円+60.1万円+100.9万円40.8万円

※ 経費150万円・千葉市・単身/2026年(令和8年)分基準

年商2,400万円まで伸びると、最適な報酬は月100万円です。月54万円のままだと会社に利益が1,000万円以上残り、800万円を超える部分に法人税の高い税率がかかります。それでも個人のままより有利ですが、年40.8万円を取り逃がします。上振れの分は、翌期の期首に報酬を見直して取り戻すことになります。

売上の波と法人化の関係を3年単位で見た試算は売上に波がある人の法人化にあります。

まとめ

  • 千葉市・年商1,500万円のエンジニアは、売上が続けば法人化で年9.2万円有利
  • 翌期に年商700万円へ落ちると、月54万円の報酬を払い続けて年116.3万円の不利。見直せていれば年47.0万円で、差は年69.3万円
  • 期中に報酬を下げられるのは業績悪化改定事由がある場合だけ。一時的な資金繰りや目標未達は当たらない
  • このケースでは年商900万円までは報酬を固定しても損はなく、800万円を下回ってから損が広がる
  • 売上が伸びた場合も期中に報酬は上げられず、年商2,400万円なら年40.8万円を取り逃がす

判定ツールでは売上を上下させて、最適な報酬がどこで変わるかを確かめられます。今の売上だけでなく、落ちたときの売上でも試してください。

よくある質問

大口の取引先との契約が終わったら、業績悪化改定事由に当たりますか?

取引先との契約が終わったことだけで決まるわけではなく、その結果として経営状況が著しく悪化したかどうかで判断されます。一時的な資金繰りや目標未達は当たらないとされているため、減額を決める前に、悪化の程度と理由を記録に残して専門家に確認する価値があります。

会社のお金で報酬が払えなくなったらどうなりますか?

会社に前期までの利益が残っていればそこから払えます。残っていなければ、社長が会社に貸し付けて報酬を払う形になり、社長の手元のお金は実質的に増えません。このケースでは、1期目に会社に残った469万円が、2期目の赤字の穴埋めに回ります。

報酬を下げたら、社会保険料はいつから下がりますか?

固定的な報酬が下がり、3か月の平均で標準報酬月額が2等級以上下がると、随時改定で4か月目から保険料が変わります。報酬を下げた月からすぐに下がるわけではありません。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。