法人化の判断

売上に波がある人の法人化。3年で比べると差額が40万円動く

結論

3年平均の事業所得が同じ1,100万円でも、毎年1,100万円なら法人化は3年で39.4万円不利、500万→1,800万→1,000万円と大きく上下するなら差額は+0.3万円でほぼ互角まで縮みます。所得が上下するほど個人の累進課税で負担が増える一方、法人は役員報酬を固定して利益の波を会社に吸収させられるためです。

  • 個人のままの3年合計の手取りは、所得が大きく上下するだけで45.5万円減る(毎年1,100万円との比較)
  • 法人で役員報酬を3年平均の最適額(月54万円)に固定すると、所得の波による目減りは5.8万円にとどまる
  • 前年の所得に合わせて毎年報酬を変えると、波の大きいパターンで3年77.2万円不利になり、固定するより悪い

当サイトのシミュレーターは、1年分の売上と経費で法人化の損得を出します。けれども実際の事業は、毎年同じ利益が出るとは限りません。大型の案件が入った年と入らなかった年で、所得が倍以上違う人もいます。

所得が上下すること自体が、個人と法人の損得を動かします。 3年平均の事業所得をそろえた4つのパターンで、3年間の合計を比べました。

3年平均が同じでも、法人化の差額は40万円動く

どのパターンも3年平均の事業所得は1,100万円です。法人側は、役員報酬を3年平均の所得で手取りが最大になる月54万円に固定した場合と、毎年その年の所得に合わせた最適な報酬を払えた場合を並べました。

3年間の事業所得個人のまま(3年合計)法人・報酬を月54万円で固定実質差額法人・毎年その年の最適報酬実質差額
毎年同じ(1100→1100→1100万円)2155.3万円2115.9万円−39.4万円2115.9万円(月54万・月54万・月54万)−39.4万円
小さく上下(800→1400→1100万円)2136.0万円2112.4万円−23.6万円2112.4万円(月54万・月54万・月54万)−23.6万円
大きく上下(500→1800→1000万円)2109.8万円2110.1万円+0.3万円2092.9万円(月36万・月90万・月54万)−16.9万円
1年だけ突出(700→700→1900万円)2102.4万円2087.2万円−15.3万円2097.2万円(月48万・月48万・月90万)−5.2万円

※ 事業所得=売上−経費(青色申告特別控除の前)、3年平均はいずれも1,100万円。経費200万円・東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録あり・合同会社。実質差額は法人−個人で、税理士報酬の差(年20万円×3年)を法人側から差し引いた後。法人に残る利益は3年合計の80%を手取りに算入。法人の赤字は翌年以降の利益と相殺。当サイトの計算エンジン(scripts/uriage-hendou-houjinka.mjs)で算出

毎年1,100万円なら、法人化は3年で39.4万円不利です。ところが500万→1,800万→1,000万円と大きく上下すると、差額は+0.3万円まで縮み、ほぼ互角になります。平均だけ見て「1,100万円なら個人のまま」と判断すると、波の大きい人は結論を取り違えるおそれがあります。

個人は、所得が上下するだけで45.5万円目減りする

変化の中心は個人側です。個人のままの3年合計は、毎年1,100万円なら2,155.3万円、大きく上下すると2,109.8万円で、所得の合計は同じなのに45.5万円少なくなっています。

理由は所得税の累進です。所得税は年ごとに計算するので、1,800万円の年には33%の税率帯まで上がり、500万円の年に使い残した低い税率帯を持ち越すことはできません。同じ3,300万円を3年で稼ぐなら、毎年均等に稼いだほうが所得税は小さくなります。

もう1つ、逆向きに働く力もあります。国民健康保険料には年間の上限があり、東京23区では事業所得1,100万円の時点でほぼ上限に達しています。1,800万円の年も保険料はほとんど増えないので、上限を超えた部分では国保が波の損を少し和らげます。それでも所得税・住民税の累進のほうが大きく、合計では45.5万円の目減りになりました。

法人は、報酬を固定して波を会社に吸わせる

法人側の目減りは5.8万円(2,115.9万円→2,110.1万円)にとどまります。役員報酬を月54万円に固定しているので、個人の所得は毎年同じです。所得の波はすべて会社の利益の波になります。

  • 所得の高い年:会社に利益が残り、法人税がかかる(年800万円以下の部分は15%)
  • 所得の低い年:報酬と社会保険料が会社の利益を上回れば赤字になるが、その欠損金は翌年以降10年間繰り越して黒字と相殺できる

法人税の税率は2段階しかなく、個人の所得税ほど急には上がりません。さらに赤字の年の欠損金が次の黒字の年の所得を減らすので、会社の中で数年分の利益がならされます。欠損金の繰越の仕組みと個人との違いは欠損金の繰越は法人10年・個人3年で扱っています。

前年に合わせて報酬を変えるのが、いちばん悪い

では、毎年報酬を見直せばもっと有利になるのか。役員報酬は定期同額給与として、原則期首から3か月以内に決め、期中は同じ額で払う必要があります(国税庁 No.5211)。期首の時点でその年の所得を正確に見込むことはできないので、現実的なのは「前年の所得に合わせて今年の報酬を決める」方法です。これを固定の場合と比べました。

3年間の事業所得報酬を固定前年の所得に合わせる(1年遅れ)毎年最適(上限)
毎年同じ(1100→1100→1100万円)−39.4万円−39.4万円(月54万・月54万・月54万)−39.4万円
小さく上下(800→1400→1100万円)−23.6万円−23.6万円(月54万・月54万・月54万)−23.6万円
大きく上下(500→1800→1000万円)+0.3万円−77.2万円(月54万・月36万・月90万)−16.9万円
1年だけ突出(700→700→1900万円)−15.3万円−31.8万円(月54万・月48万・月48万)−5.2万円

※ 値は3年間の実質差額(法人−個人)。1年遅れは、1年目を3年平均で決め、2年目以降は前年の所得で手取り最大となる報酬を払う。当サイトの計算エンジン(scripts/uriage-hendou-houjinka.mjs lag)で算出

大きく上下するパターンでは、前年に合わせると3年で77.2万円不利になり、固定する場合より77.5万円悪くなりました。所得の低かった年の翌年(実際は1,800万円の年)に報酬を月36万円へ下げ、高かった年の翌年(実際は1,000万円の年)に月90万円へ上げているので、波と逆向きに報酬を動かしてしまうからです。

意外なのは、その年の所得を完全に見込めた「毎年最適」でも、大きく上下するパターンでは固定より17.2万円悪いことです。1年ごとに最適化すると、所得の低い年にも会社を黒字にしようとして報酬を下げます。固定して赤字にしておけば、その欠損金が翌年の高い利益(23.2%がかかる800万円超の部分を含む)を消してくれる、という効果を捨てることになります。

所得に波がある人ほど、役員報酬は平均的な水準で固定しておくほうが結果がよくなりやすい、というのがこの計算の結論です。途中で報酬を変えたときの損金の扱いは役員報酬を期中に増やすとで説明しています。

自分の数字で確かめるときの考え方

シミュレーターは単年で計算するので、所得に波がある人は次のように使うと実態に近づきます。

  1. 過去3年ほどの事業所得の平均で1回計算し、最適な役員報酬の目安を見る
  2. 所得の高い年と低い年でも計算し、個人のままの手取りがどれだけ動くかを見る。個人側の手取りの振れ幅が大きいほど、この記事の表のように法人化の差額は法人寄りに動く
  3. 低い年に会社が赤字になっても、欠損金として翌年以降に持ち越せる。ただし赤字の年も法人住民税の均等割は年7万円かかる

平均の所得で「僅差で個人のまま」と出た人は、波の大きさ次第で結論が入れ替わる帯にいます。まずは平均の売上と経費で、シミュレーターの結果を確かめてください。

まとめ

  • 3年平均の事業所得が同じ1,100万円でも、法人化の3年間の差額は−39.4万円(毎年同じ)から+0.3万円(大きく上下)まで動く
  • 個人は累進課税のため、所得が上下するだけで3年で45.5万円目減りする。国保の上限は波の損をわずかに和らげるだけ
  • 法人は役員報酬を固定して波を会社に吸わせ、赤字の年の欠損金を翌年以降の黒字と相殺できる
  • 前年の所得に合わせて報酬を変えると、波と逆向きに動いて固定より大きく不利になる
  • 所得に波がある人ほど、報酬は平均的な水準で固定するほうが結果がよくなりやすい

よくある質問

売上が落ちた年に役員報酬を下げられますか

役員報酬は原則として期首から3か月以内に決め、期中は同額で払う必要があります。経営状況が著しく悪化したなどの業績悪化改定事由があれば期中の減額も認められますが、単に利益が少なそうだという理由では認められません。

報酬を固定して会社が赤字になったらどうなりますか

青色申告の法人なら、赤字(欠損金)は翌年以降10年間繰り越して、黒字の年の所得から差し引けます。この記事の計算でも、所得の低い年に生じた赤字を翌年以降の利益と相殺しています。ただし赤字の年も法人住民税の均等割は払います。

個人事業主のまま所得の波をならす方法はありますか

原稿料・作曲料・著作権の使用料など特定の所得には変動所得の平均課税という仕組みがありますが、一般の事業所得には使えません。小規模企業共済の掛金を所得の高い年に多くするなど、所得控除の額を調整する方法が中心になります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。