法人化の判断

法人化の後悔はいつ起きる?所得1,500万円なら2割減で手取りが逆転

結論

事業所得1,500万円で法人化すると年23.9万円有利ですが、所得が2割下がって1,200万円になると年6.6万円の不利に逆転します。逆転の目安は2,000万円なら4割減、3,000万円なら6割減です。所得が半減しても役員報酬を下げられないと傷は広がり、2,000万円・月90万円のまま1,000万円に落ちた場合は年107.1万円の不利で、報酬を下げ直した場合(14.7万円)より92.4万円悪くなります。

  • 東京23区・単身の分岐点は事業所得1,266万円。法人化したときの所得が分岐点に近いほど、小さな下落で逆転する
  • 役員報酬は定期同額給与の決まりがあり、業績悪化を理由にした減額にも条件がある。下げられない間は法人の赤字を社長が埋める形になる
  • 所得1,500万円で月54万円なら法人全体では有利でも、社長個人の手取りは504.8万円で、個人のままの928.2万円より423.4万円少ない

法人化の後悔は、均等割や税理士報酬といった固定費そのものより、法人化した後に状況が変わったときに表面化します。固定費は事前に分かっていますが、所得の下落と資金の拘束は、判定の時点では実感しにくいためです。

ここでは後悔が起きる場面を3つに分け、それぞれ金額で示します。固定費の内訳は法人化のデメリット7つで扱っているので、この記事では繰り返しません。

後悔の1つ目:所得が下がると、有利不利が逆転する

法人化の損得は個人事業主の法人化の目安と損益分岐点で見たとおり、所得の水準で決まります。つまり法人化した後に所得が下がれば、判定そのものがひっくり返ります。

法人化したときの所得から何割下がると逆転するかを出しました。

法人化時の事業所得0%10%減20%減30%減40%減50%減60%減
1,500万円+23.9万円+8.6万円−6.6万円−13.9万円−18.4万円−27.0万円−37.6万円
2,000万円+67.3万円+47.0万円+33.1万円+13.7万円−6.6万円−14.7万円−24.1万円
3,000万円+197.2万円+170.3万円+113.5万円+80.6万円+47.0万円+23.9万円−6.6万円

※ 個人のままと比べた年間の実質差額。その所得に合わせて役員報酬を最適額へ下げ直した場合。税理士報酬の差20万円を含む。事業所得=売上−経費。東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/houjinka-bw-tables.mjs koukai

分岐点ぎりぎりで法人化した人ほど、小さな下落で逆転します。 事業所得1,500万円は分岐点の1,266万円を上回っていますが、余裕は234万円しかありません。主要な取引先を1社失っただけで届く距離です。

ただし、逆転した後の不利は小さめです。1,500万円が半分の750万円に落ちても、不利は年27.0万円にとどまります。問題は下落そのものより、次に説明する「すぐに下げ直せない」ことです。

後悔の2つ目:役員報酬をすぐに下げられない

上の表は、報酬を下げ直せた場合の数字です。実際には、役員報酬は事業年度の途中で自由に変えられません。

定期同額給与として損金にするには、改定は原則として事業年度開始から3か月以内に行います。それ以外は、役職の変更などの臨時改定事由か、経営状況が著しく悪化した業績悪化改定事由に当たる場合に限られます。「今期は売上が少し悪いから」で下げると、損金にならない部分が生じる可能性があります。条件は役員報酬の期中変更で整理しています。

報酬を下げられなかった場合の差は次のとおりです。

事業所得の変化役員報酬下げられない場合最適額に下げ直した場合差
2,000万円 → 1,400万円月90万円+3.1万円+13.7万円(月54万円)10.6万円
2,000万円 → 1,200万円月90万円−24.3万円−6.6万円(月54万円)17.7万円
2,000万円 → 1,000万円月90万円−107.1万円−14.7万円(月54万円)92.4万円
2,000万円 → 800万円月90万円−190.8万円−24.1万円(月54万円)166.7万円
1,500万円 → 600万円月54万円−90.1万円−37.6万円(月42万円)52.5万円
3,000万円 → 1,200万円月100万円−74.5万円−6.6万円(月54万円)67.9万円

※ 条件は上の表と同じ。役員報酬は1年間据え置いたものとして計算

差が急に開くのは、法人が赤字になる境目を越えたときです。2,000万円・月90万円のまま1,000万円に落ちると、法人の税引前利益は−207.4万円になります。赤字でも役員報酬と社会保険料は払い続けるので、不足分は法人の蓄えか社長からの借入で埋めることになります。

社会保険料も遅れて動きます。報酬を下げても、標準報酬月額が変わるのは原則として3か月の平均が2等級以上下がってからです。

このリスクを小さくする方法は、報酬を高く設定しすぎないことです。最適額より低めに置いておけば、下落したときの赤字を避けられます。 反対に、後で説明するように生活費の都合で高くする場合は、この余裕がなくなります。

後悔の3つ目:手取りは増えたのに、使えるお金が減る

判定ツールの「手取り」は、社長個人の手取りと、法人に残る利益の合計です(残る利益は引き出すコスト20%を引いて評価しています)。法人全体では有利でも、自由に使えるお金は大きく減ります。

事業所得個人のまま最適報酬社長個人の手取り個人のままとの差法人に残る利益(税引後)
1,000万円657.1万円月54万円504.8万円−152.3万円197.1万円
1,200万円774.2万円月54万円504.8万円−269.5万円353.6万円
1,500万円928.2万円月54万円504.8万円−423.4万円584.1万円
2,000万円1,184.7万円月90万円784.4万円−400.3万円609.5万円
3,000万円1,599.6万円月100万円860.2万円−739.4万円1,195.8万円

※ 条件は上の表と同じ

事業所得1,500万円で個人のままなら年928.2万円を自由に使えていた人が、法人化すると個人の手取りは504.8万円になります。差の多くは法人に残っていますが、それは会社のお金です。生活費や住宅ローンの返済には使えません。会社から引き出すと役員貸付金の認定利息の問題が生じます。

「法人化で得をしたはずなのに生活が苦しい」という後悔は、この構造から生まれます。

生活費に合わせて報酬を上げると、有利さはどこまで減るか

では、生活費に合わせて報酬を上げるとどうなるか。事業所得1,500万円で試すと、有利さの減り方は思ったより小さいと分かります。

役員報酬社長個人の手取り法人に残る利益(税引後)実質差額(年)
月54万円(最適)504.8万円584.1万円+23.9万円
月60万円547.8万円520.7万円+16.3万円
月70万円625.4万円417.7万円+11.4万円
月80万円704.8万円321.8万円+14.0万円
月90万円784.4万円223.1万円+14.7万円
月100万円860.2万円124.0万円+11.2万円

※ 条件は上の表と同じ

月54万円から月90万円に上げても、実質差額は23.9万円から14.7万円へ、9.2万円減るだけです。最適額にこだわって生活が苦しくなるなら、差額を少し手放して報酬を上げる選択が現実的です。 ただし上げるほど、後悔の2つ目で見た「下落時の赤字」に近づきます。

単年の手取りだけで後悔を判定しない

ここまでの数字には、将来の年金が入っていません。法人化すると厚生年金に加入し、月54万円(標準報酬月額53万円)で20年加入すると、報酬比例部分の年金は年69.7万円増えます。

単年で年6.6万円不利でも、年金まで含めると評価が変わることがあります。回収にかかる年数は法人化で厚生年金はいくら増えるかで計算しています。傷病手当金や出産手当金も、国民健康保険にはない保障です。

戻るなら、いくらかかるか

法人を閉じて個人事業に戻る選択もあります。任意解散の登録免許税は合計4万1,000円で、官報公告料などが加わります。

事業所得1,000万円なら法人を続ける不利は年14.7万円なので、登録免許税は約4か月で取り返せます。一方で所得が戻る見込みがあるなら再設立の費用もかかるので、数か月の落ち込みで閉じるのは得策とは限りません。具体的な線引きは個人成りの目安で扱っています。

売上の変動が大きい業種で、複数年の平均をどう見るかは売上に波がある人の法人化を参照してください。

法人化の前に確かめる3つの数字

後悔の多くは、判定の前に次の3つを見ておくと予測できます。

  1. 所得が2〜3割下がったときの差額。 今の所得だけでなく、悪い年の所得でも試算します
  2. 月々の生活費と、最適報酬の手取り。 手取りが生活費を下回るなら、報酬を上げた場合の差額で判定します
  3. 所得が下がったときの法人の利益。 報酬と社会保険料を払って赤字にならないかを確認します

判定は僅差になりやすいので、結果が数十万円の範囲に収まるなら、個別の条件を専門家に確認する価値があります。まず、自分の売上と経費で、今の所得と悪い年の所得の両方を試してください。

まとめ

  • 事業所得1,500万円は2割減、2,000万円は4割減、3,000万円は6割減で不利に逆転する
  • 役員報酬を下げられないと差は広がる。2,000万円・月90万円のまま1,000万円に落ちると年107.1万円の不利で、下げ直した場合より92.4万円悪い
  • 所得1,500万円なら社長個人の手取りは個人のままより423.4万円少ない。法人に残るお金は生活費に使えない
  • 報酬を月54万円から月90万円に上げても実質差額は9.2万円減るだけ。生活費が足りないなら現実的な選択肢になる
  • 単年の手取りには将来の年金が入っていない。厚生年金は月54万円で20年なら年69.7万円増える

よくある質問

法人化を後悔して個人事業に戻ることはできますか?

できます。会社を解散・清算して個人事業を開業し直す形になります。任意解散の登録免許税は合計4万1,000円で、ほかに官報公告料や専門家への報酬がかかります。戻った後に所得が回復して再び法人化するなら、設立費用も改めてかかります。

所得が下がった年の途中で役員報酬を下げられますか?

無条件には下げられません。定期同額給与として損金にするには、事業年度開始から3か月以内の改定か、臨時改定事由・業績悪化改定事由に当たる改定である必要があります。条件を満たさない減額をすると、損金にならない部分が生じます。

法人に残ったお金を生活費に使ってはいけませんか?

会社のお金と社長個人のお金は別です。生活費として会社から引き出すと、役員貸付金として認定利息の問題が生じたり、役員給与とされたりすることがあります。生活費が足りないなら、次の改定で役員報酬を上げるのが基本です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。