法人化の判断
所得2,000万・3,000万円の個人事業主は法人化でいくら得か
結論
東京23区・単身なら、法人化の差額は事業所得2,000万円で年67.3万円、3,000万円で年197.2万円、5,000万円で年418.4万円の有利です。ただし3,000万円の差の前提は、毎年法人に残る1,195.8万円を20%のコストで引き出せること。引き出しコストが40%なら月100万円の報酬では年42.0万円の不利に変わり、報酬を月200万円まで上げると年101.8万円の有利に戻ります。
- 所得3,000万円なら税・社会保険料の合計は個人1,400.4万円、法人941.2万円。差の大部分は法人に利益を残すことで生まれる
- 月100万円の報酬で年1,195.8万円残すと10年で約1.2億円。報酬月100万円・勤続10年・功績倍率3.0の計算例では、退職金は3,000万円で全部は引き出せない
- 所得が高いほど、最適な報酬は「引き出す方法」で決まる。引き出しコスト20%の前提では月100万円と月200万円の差は小さい
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
事業所得が2,000万円を超えると、法人化の判定はたいてい「有利」と出ます。ただ、この水準では**「有利かどうか」より「その差が本当に手に入るか」のほうが重要です**。差の大部分は、会社に残っている利益だからです。
差額は確かに大きい
| 事業所得 | 個人のまま | 最適報酬 | 社長個人の手取り | 法人に残る利益(税引後) | 実質差額(年) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1,500万円 | 928.2万円 | 月54万円 | 504.8万円 | 584.1万円 | +23.9万円 |
| 2,000万円 | 1,184.7万円 | 月90万円 | 784.4万円 | 609.5万円 | +67.3万円 |
| 2,500万円 | 1,395.0万円 | 月100万円 | 860.2万円 | 863.7万円 | +136.1万円 |
| 3,000万円 | 1,599.6万円 | 月100万円 | 860.2万円 | 1,195.8万円 | +197.2万円 |
| 4,000万円 | 2,041.2万円 | 月100万円 | 860.2万円 | 1,860.0万円 | +286.9万円 |
| 5,000万円 | 2,441.1万円 | 月100万円 | 860.2万円 | 2,524.1万円 | +418.4万円 |
※ 実質差額は税理士報酬の差20万円を含む。法人に残る利益は引き出すコスト20%を引いて手取りに算入。報酬は判定ツールの探索上限(月100万円)まで。東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。法人税額が500万円を超える部分にかかる防衛特別法人税は入っていない(防衛特別法人税)。スクリプト:scripts/houjinka-bw-tables.mjs koshotoku
税と社会保険料の合計で見ても、差ははっきりしています。
| 事業所得 | 個人の税・社会保険料 | 法人の税・社会保険料(労使とも) | 差 |
|---|---|---|---|
| 2,000万円 | 815.3万円 | 603.3万円 | 212.0万円 |
| 3,000万円 | 1,400.4万円 | 941.2万円 | 459.2万円 |
| 5,000万円 | 2,558.9万円 | 1,612.9万円 | 946.0万円 |
※ 条件は上の表と同じ。引き出すときの税金は含まない
個人は所得税と住民税を合わせて最高55%の帯に入りますが、法人の所得は軽減税率の枠を超えた部分でもそこまでの税率にはなりません(法人税の実効税率)。この税率差が差額の源泉です。 ただしそれは、利益を会社に置いている間の話です。
差の中身は、会社に残ったお金
事業所得3,000万円で月100万円の報酬なら、社長個人の手取りは860.2万円で、個人のままの1,599.6万円より739.4万円少なくなります。その代わり、法人に1,195.8万円が残ります。
判定ツールはこの残った利益を、引き出すコスト20%で個人の手取りに換算しています。退職金で引き出せば税負担が軽いことを踏まえた置き方ですが、いつ、どの程度引き出せるかは人によります。
| 引き出しコスト | 1,500万円 | 2,000万円 | 3,000万円 | 5,000万円 |
|---|---|---|---|---|
| 0% | +154.7万円 | +230.2万円 | +479.5万円 | +966.4万円 |
| 10% | +87.1万円 | +132.9万円 | +316.8万円 | +670.8万円 |
| 20%(判定の前提) | +23.9万円 | +67.3万円 | +197.2万円 | +418.4万円 |
| 30% | −1.2万円 | +14.4万円 | +77.6万円 | +166.0万円 |
| 40% | −13.6万円 | −36.9万円 | −42.0万円 | −86.4万円 |
| 50% | −26.0万円 | −88.2万円 | −161.5万円 | −338.8万円 |
※ 報酬は月5万〜100万円の範囲で、それぞれの引き出しコストに対する最適額を選んだ場合
引き出しコストが30%と40%の間で、3,000万円以上でも結論がひっくり返ります。 差額の大きさは、この前提の上に立っています。
退職金だけでは引き出しきれない
退職金で引き出せる額には現実の限度があります。実務で使われる「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算例を出します(功績倍率3.0に法令上の根拠はありません。役員退職金はいくらまで損金か)。
| 条件 | 計算例 |
|---|---|
| 報酬月100万円・勤続10年・倍率3.0の退職金 | 3,000万円 |
| 事業所得3,000万円・月100万円で10年間に残る利益(単純計算) | 約1億1,958万円 |
10年で残るのは退職金の計算例の約4倍です。残りは配当で受け取るか、会社に置き続けるか、事業に再投資することになります。 配当は給与と合算する総合課税で、この所得水準では税負担が重くなります(役員報酬を配当に替えると)。
つまり20%は、所得が2,000万円台なら説明しやすいものの、3,000万円を超えて毎年残し続ける場合には楽観的になり得る前提です。
引き出しにくいなら、報酬を上げる
判定ツールの探索上限は月100万円ですが、実際の報酬に上限はありません。上の表より上の報酬を計算すると、次のようになります。
| 事業所得 | 引き出しコスト | 月100万円 | 月150万円 | 月200万円 | 月250万円 | 月300万円 | 月400万円 | 個人のまま |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 3,000万円 | 20% | 1,816.8万円 | 1,817.6万円 | 1,789.4万円 | 1,617.3万円 | 1,312.2万円 | — | 1,599.6万円 |
| 3,000万円 | 40% | 1,577.6万円 | 1,661.5万円 | 1,721.4万円 | 1,617.3万円 | 1,312.2万円 | — | 1,599.6万円 |
| 5,000万円 | 20% | 2,879.5万円 | 2,880.3万円 | 2,886.0万円 | 2,832.2万円 | 2,808.4万円 | 2,665.2万円 | 2,441.1万円 |
| 5,000万円 | 40% | 2,374.6万円 | 2,458.5万円 | 2,543.8万円 | 2,569.8万円 | 2,625.7万円 | 2,660.0万円 | 2,441.1万円 |
※ 手取り(税理士報酬の差20万円を引く前)。役員報酬を上げると法人が赤字になる範囲(3,000万円で月250万円以上)は、不足を社長が補填する計算で手取りが下がる
2つのことが読み取れます。
前提が20%なら、月100万円でも月200万円でもほとんど差がありません。 3,000万円でも月150万円まではほぼ同じです。報酬の額より、生活や投資に使える現金をいくら個人に残したいかで決めてよい帯です。
前提が40%なら、報酬を上げるほど有利です。 3,000万円で月200万円なら1,721.4万円で、個人のままより税理士報酬の差を引いて年101.8万円有利です。月100万円のまま「法人化は不利」と結論を出すのは早すぎます。
報酬を上げるほど社会保険料は上限に近づきます。健康保険は標準報酬月額139万円、厚生年金は65万円が上限です(健康保険の標準報酬の上限)。ただし、報酬が高額すぎると損金算入で問題になることがあります(役員報酬はいくらまで損金か)。
所得がこの水準で、ほかに確認すること
差額の大きい帯では、判定に入っていない項目も金額が大きくなります。
| 項目 | 内容 | 参考 |
|---|---|---|
| 配偶者・家族の給与 | 分けると手取りが増える帯がある | 夫婦で役員報酬を分ける |
| 社宅 | 家賃の負担を法人に移せる | 役員社宅の家賃 |
| 共済・保険 | 引き出す時期を調整する手段になるが、資金は拘束される | 経営セーフティ共済 |
| 会社を2つに分ける | 軽減税率の枠の重複を狙うと否認の問題がある | 法人を2社に分けると |
| 所得の変動 | 下がったときの報酬を下げられない期間 | 法人化の後悔はいつ起きるか |
判定の土台は個人事業主の法人化の目安と損益分岐点で扱っています。
自分の場合の見方
- 毎年いくら個人に必要かを決める。それを手取りで満たす報酬が出発点になる
- 残る利益の使い道を考える。再投資・退職金・配当のどれかで、引き出しコストの見当がつく
- 20%と40%の両方で試す。 判定ツールの詳細設定で引き出しコストを変えられる
この水準では、前提の置き方で年100万円単位の差が動きます。まず自分の売上と経費で判定を出し、結果を持って税理士に確認すると話が早く進みます。
まとめ
- 差額は事業所得2,000万円で年67.3万円、3,000万円で年197.2万円、5,000万円で年418.4万円(引き出しコスト20%・報酬月100万円まで)
- 差の中身は法人に残る利益。3,000万円なら社長個人の手取りは個人のままより739.4万円少ない
- 引き出しコストが30%と40%の間で結論が逆転する
- 月100万円で10年残すと約1.2億円。退職金の計算例3,000万円では引き出しきれない
- 引き出しにくいなら報酬を上げる。3,000万円で40%の前提なら月200万円で年101.8万円の有利に戻る
よくある質問
判定ツールの最適報酬が月100万円で止まるのはなぜですか?
判定ツールは月5万〜100万円を1万円刻みで総当たりしているためです。結果が月100万円に張り付いた場合は探索の上限に達した可能性があり、画面にも表示されます。この記事では上限より上の報酬を別に計算して示しています。
役員報酬を月200万円にしても損金になりますか?
実質基準と形式基準があり、一人社長では職務の内容や利益の状況などから不相当に高額かどうかが問われることがあります。金額だけで決まるものではないので、個別に確認してください。
所得がこの水準だと個人のままは不利ですか?
この記事の条件では手取りは法人が上回りますが、法人に残った利益を引き出せる見込みが前提です。使い道がすぐにあり、毎年全額を生活や投資に回したい場合は報酬を上げることになり、差は縮みます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。