法人化の判断
50代の法人化は遅い?年金の回収は加入年数で変わらず、壁は退職金5年
結論
東京23区・単身で40〜59歳の分岐点は事業所得1,243万円で、40歳未満の1,266万円より低く、年齢だけで遅いとは言えません。手取りの目減りを年金で取り返す年数は加入期間に関係なく決まり、事業所得1,000万円なら3.4年です。一方、60〜64歳は分岐点が1,362万円に上がります。退職金は役員勤続5年以下だと2分の1課税がなく、1,000万円で税が202.9万円と、6年の71.9万円より131.0万円重くなります。
- 40〜59歳の分岐点が低いのは、国保の介護分(上限17万円)が消えて社会保険の介護保険料に置き換わるため
- 60〜64歳は個人のままなら国民年金を払わないので、法人化で増える負担が大きく、分岐点は119万円上がる
- 役員等勤続年数は法人での年数で、個人事業の期間は入らない。1年未満は切り上げるので、5年1か月は6年の扱いになる
このテーマの全体像 個人事業主の法人化の目安と損益分岐点
50代で法人化を考えると、「今から厚生年金に入っても元が取れないのでは」「もう遅いのでは」という疑問が出ます。計算すると、年金については遅くありません。遅さが効いてくるのは別の場所です。
40〜59歳の分岐点は、むしろ低い
年齢区分ごとに、法人化の分岐点と差額を出しました。
| 年齢 | 分岐点の事業所得 | 800万円 | 1,000万円 | 1,200万円 | 1,500万円 | 2,000万円 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 40歳未満 | 1,266万円 | −24.1万円 | −14.7万円 | −6.6万円 | +23.9万円 | +67.3万円 |
| 40〜59歳 | 1,243万円 | −18.9万円 | −10.0万円 | −4.3万円 | +26.1万円 | +65.8万円 |
| 60〜64歳 | 1,362万円 | −33.9万円 | −24.3万円 | −16.4万円 | +14.1万円 | +53.7万円 |
※ 個人のままと比べた実質差額(年)。税理士報酬の差20万円を含む。最適報酬で計算。東京23区・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・配偶者なし/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/houjinka-bw-tables.mjs 50dai
40〜59歳は40歳未満よりわずかに有利です。 個人のときの国保には介護分があり、事業所得1,000万円なら国保と国民年金の合計は年134.1万円で、40歳未満の117.1万円より17.0万円多いためです。法人に移ると、この介護分が社会保険の介護保険料に置き換わります(40歳で法人化すると介護保険料はいくらか)。
60〜64歳は不利になります。 個人のままなら国民年金の保険料を払わなくて済むので、個人側の負担が下がり(1,000万円で年112.6万円)、法人化で増える負担が相対的に大きくなるからです。分岐点は119万円上がります。
分岐点の全体像は個人事業主の法人化の目安と損益分岐点で扱っています。
年金の回収は、加入年数で変わらない
次に年金です。役員報酬ごとの、報酬比例部分の増え方は次のとおりです。
| 役員報酬 | 標準報酬月額 | 5年加入 | 10年加入 | 15年加入 |
|---|---|---|---|---|
| 月30万円 | 30万円 | 9.9万円 | 19.7万円 | 29.6万円 |
| 月42万円 | 41万円 | 13.5万円 | 27.0万円 | 40.4万円 |
| 月45万円 | 44万円 | 14.5万円 | 28.9万円 | 43.4万円 |
| 月54万円 | 53万円 | 17.4万円 | 34.9万円 | 52.3万円 |
| 月65万円 | 65万円 | 21.4万円 | 42.8万円 | 64.1万円 |
※ 年額。標準報酬月額×5.481/1000×加入月数。賞与なし
加入期間が短いと年金は少なくなります。だから「50代では元が取れない」と考えがちですが、手取りの目減りも同じだけ短くなります。
事業所得1,000万円の40〜59歳で月45万円なら、目減りは年10.0万円、年金の増加は加入1年につき年2.89万円です。
| 加入年数 | 目減りの累計 | 年金の増加(年) | 回収にかかる年数 |
|---|---|---|---|
| 5年 | 50.0万円 | 14.5万円 | 3.4年 |
| 10年 | 100.0万円 | 28.9万円 | 3.4年 |
| 15年 | 150.0万円 | 43.4万円 | 3.4年 |
※ 全期間を40〜59歳の差額で計算した参考値。60歳以降は区分が変わるので下の表を参照
加入年数を増やしても回収年数は同じです。 回収年数は「年の目減り÷1年あたりの年金の増加」で決まり、期間の長さが打ち消し合うからです。
事業所得別・年齢別に出すと次のようになります。
| 事業所得 | 40〜59歳の最適報酬 | 40〜59歳:回収年数 | 60〜64歳:回収年数 |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | 12.6年 | 18.2年 |
| 800万円 | 月45万円 | 6.5年 | 11.7年 |
| 1,000万円 | 月45万円 | 3.4年 | 8.4年 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 1.2年 | 4.7年 |
| 1,500万円 | 月54万円 | 目減りしない | 目減りしない |
※ 実質差額がマイナスの場合に、その差を増える年金で割った年数。65歳から受け取り始める前提で、受給期間の税・社会保険料は考慮していない
事業所得1,000万円の50代なら、65歳から受け取り始めて69歳にならないうちに回収の計算です。20年加入の場合の計算は法人化で厚生年金はいくら増えるかで扱っています。
長く働くほど別の上積みもある
50代からの加入には、ほかにも関係する制度があります。
- 経過的加算:60歳以降の厚生年金加入でも一定の条件で年金が増えます(経過的加算)
- 加給年金:厚生年金の加入が20年以上で付きます。もともとの会社員期間と合わせて届くなら価値があります(加給年金)
- 在職老齢年金:65歳以降に報酬と年金の合計が基準を超えると年金が調整されます(在職老齢年金)
壁は、役員退職金の「5年」
年齢が効いてくるのはここです。法人に残した利益を退職金で引き出すのは、法人化の差額の前提の1つです。ところが役員としての勤続が5年以下だと、退職金の税金が大きく変わります。
退職所得は通常、(退職金−退職所得控除)×2分の1です。ところが役員等の勤続年数が5年以下の「特定役員退職手当等」には、2分の1の適用がありません。
| 退職金 | 勤続5年 | 勤続6年 | 勤続10年 | 勤続15年 |
|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 50.7万円 | 19.6万円 | 7.5万円 | 0円 |
| 1,000万円 | 202.9万円 | 71.9万円 | 50.7万円 | 30.5万円 |
| 2,000万円 | 629.6万円 | 229.7万円 | 202.9万円 | 169.4万円 |
※ 所得税(復興特別所得税を含む)と住民税の合計。退職所得だけの場合。退職所得控除は勤続20年以下で40万円×年数(最低80万円)
退職金1,000万円なら、勤続5年と6年で税額が131.0万円違います。 2,000万円なら399.9万円です。
ここで注意が3つあります。
- 個人事業の年数は入りません。 法人の役員としての期間です
- 1年未満は切り上げます。 5年1か月は6年の扱いです
- 判定ツールの引き出しコスト20%は、勤続5年の2,000万円には低すぎます。 上の表で税は31.5%です。一方、勤続6年の1,000万円なら7.2%です
たとえば55歳で法人化して60歳で引退する計画なら、5年以内に出すと重くなります。61歳まで続けて6年以上にするか、退職金に頼らない計画にするかを、最初に考えておく必要があります。
退職金を増やしすぎない別の手段として、小規模企業共済は法人の役員でも続けられます(小規模企業共済は法人成りしても続けられるか)。退職金と共済の順番については役員退職金の引き出しも参照してください。
何歳まで続けるかで判定が変わる
会社をたたむ時期が近いと、ほかの費用も早く回ってきます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 設立費用(判定の前提) | 合同会社10万円・株式会社25万円 |
| 解散の登録免許税 | 4.1万円 |
| 均等割(毎年) | 7万円 |
有利になる差額が小さい人が短い期間で閉じると、この費用を回収しきれません。事業所得1,500万円の40〜59歳で年26.1万円の有利なら、設立費用10万円は1年以内に戻りますが、分岐点ぎりぎりの僅差では戻りにくくなります(個人成りの目安)。
50代の見方
- 事業をあと何年続けるかを決める。 5年以下か6年以上かで、退職金の扱いが変わる
- 分岐点と比べる。 40〜59歳の分岐点は事業所得1,243万円。60歳が近いなら1,362万円も見ておく
- 目減りは年金で何年で戻るかを見る。 加入年数ではなく、所得の水準で決まる
- 自分の年金記録を確かめる。 会社員の期間があれば加給年金なども関わる
判定ツールの年齢区分を選ぶと、この記事の差額を自分の売上と経費で確かめられます。
まとめ
- 40〜59歳の分岐点は1,243万円で、40歳未満の1,266万円より低い。60〜64歳は1,362万円に上がる
- 年金の回収年数は加入期間に関係ない。事業所得1,000万円の40〜59歳なら3.4年
- 60〜64歳は同じ所得でも回収に時間がかかる(1,000万円で8.4年)
- 役員の勤続5年以下の退職金は2分の1課税がない。1,000万円で202.9万円と、6年の71.9万円より131.0万円重い
- 個人事業の年数は入らず、1年未満は切り上げ。何年続けるかを先に決める
よくある質問
55歳で法人化すると、厚生年金はいくら増えますか?
役員報酬月54万円(標準報酬月額53万円)で65歳まで10年加入すると、報酬比例部分は年34.9万円の計算です。月45万円(標準報酬月額44万円)なら年28.9万円です。賞与なし、令和8年度の乗率5.481/1000で計算しています。
個人事業の年数は役員の勤続年数に入りますか?
入りません。役員としての勤続年数は法人の役員である期間で数えます。退職所得控除の勤続年数も同じ考え方なので、長く個人事業を続けていても、法人化の後の年数で計算します。
65歳以上でも法人化できますか?
できます。ただし65歳以上は年金を受け取りながらの役員報酬になり、在職老齢年金で年金が調整されることがあるので、別の計算が必要です。70歳で厚生年金、75歳で健康保険の加入条件も変わります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。