社会保険

経過的加算は60歳以降の厚生年金1年で2.1万円増える。役員報酬の額は無関係

結論

昭和31年4月2日以後生まれの人が60歳以降に厚生年金に1年加入すると、老齢厚生年金の経過的加算が年21,192円(1,766円×12月)増えます。この額は役員報酬の額に関係なく一定で、月10万円の報酬なら報酬比例部分の年6,446円の3倍を超えます。報酬比例部分だけでは保険料(労使計)の回収に33.4年かかりますが、経過的加算を含めると月10万円では7.8年になります。

  • 経過的加算=定額部分(1,766円×加入月数、上限480月)から、20歳以上60歳未満の厚生年金期間に対応する老齢基礎年金相当額(847,300円×月数÷480)を引いた額。令和8年4月分からの単価
  • 20歳から60歳までの厚生年金期間は老齢基礎年金に反映されるため、経過的加算は1か月あたり1円未満しか増えない。増えるのは60歳以降と20歳未満の加入期間
  • 定額部分の月数は480月が上限。60歳までに会社員などで厚生年金に420月入っていた人は、60歳以降は60月分しか経過的加算が増えない

厚生年金に入ると年金が増える、という説明はたいてい報酬比例部分の話です。ところが60歳を過ぎてから厚生年金に入る場合、報酬比例部分よりも経過的加算のほうが大きく増えることがあります。しかもその額は、役員報酬をいくらにしても変わりません。

経過的加算は「定額部分」と「老齢基礎年金」の差額

経過的加算は、昭和60年の年金制度改正の名残です。改正前の厚生年金には、加入月数に応じて決まる定額部分がありました。改正後はこれが国民年金の老齢基礎年金に置き換わりましたが、2つの計算方法は一致しません。その差を埋めるために、老齢厚生年金に上乗せされているのが経過的加算です。

日本年金機構が示す令和8年4月分からの計算式は、次のとおりです(昭和31年4月2日以後生まれの場合)。

経過的加算 = 定額部分 − 847,300円 × 昭和36年4月以降で20歳以上60歳未満の厚生年金保険の被保険者月数 ÷ 480

定額部分は、1,766円 × 生年月日に応じた率 × 被保険者期間の月数で計算します。率は昭和21年4月2日以後生まれなら1.000、月数の上限は480月です。昭和31年4月1日以前生まれの人は単価が1,761円、老齢基礎年金の満額が844,900円になります。

2つの項を1か月あたりに直すと違いが見えます。

項目1か月あたり数える期間
定額部分1,766円厚生年金の全加入期間(上限480月)
差し引く老齢基礎年金相当額1,765.2円(847,300円÷480)20歳以上60歳未満の厚生年金期間だけ
差額=経過的加算20〜60歳の期間は約0.8円、それ以外は1,766円—

20歳から60歳までの厚生年金期間では、経過的加算はほぼ増えません。 その期間は老齢基礎年金の計算に入るので、定額部分とほぼ同じ額がすでに基礎年金として支払われるからです。差し引く側に入らない60歳以降と20歳未満の期間だけ、1か月1,766円がまるごと経過的加算として残ります。

60歳以降の1年は、報酬に関係なく年21,192円

60歳以降に法人の役員として厚生年金に1年(12月)入ると、経過的加算は1,766円 × 12月 = 年21,192円増えます。この計算には標準報酬月額が出てきません。役員報酬が月10万円でも月65万円でも同じです。

一方、報酬比例部分は報酬に比例します。両者を並べると、報酬が低いほど経過的加算の比重が大きくなります。

役員報酬標準報酬月額(厚生年金)厚生年金保険料(労使計・年)報酬比例部分の増加(年)経過的加算の増加(年)増加に占める経過的加算
月10万円98,000円215,208円6,446円21,192円77%
月20万円200,000円439,200円13,154円21,192円62%
月30万円300,000円658,800円19,732円21,192円52%
月40万円410,000円900,360円26,967円21,192円44%
月54万円530,000円1,163,880円34,859円21,192円38%
月65万円650,000円1,427,400円42,752円21,192円33%

※ 60歳以降に1年加入した場合。厚生年金保険料率18.3%、報酬比例部分は平均標準報酬額×5.481÷1000×12月、賞与なし。端数処理前の概算/2026年(令和8年)度の単価

月30万円あたりで2つがほぼ並び、それより低い報酬では経過的加算のほうが大きくなります。厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円なので、報酬比例部分は1年あたり年42,752円が天井です。経過的加算はその半分に届く額が報酬に関係なく付くため、低い報酬で入るほど、年金の増え方の主役は経過的加算になります。

保険料を何年で取り返すか

60歳以降は国民年金の加入義務がありません。個人事業主のままなら年金保険料はかからず、法人の役員になれば厚生年金保険料がかかります。その保険料(労使計)を、増えた年金で何年で取り返せるかを計算しました。

役員報酬報酬比例部分だけで見た場合経過的加算を含めた場合
月10万円33.4年7.8年
月20万円33.4年12.8年
月30万円33.4年16.1年
月40万円33.4年18.7年
月54万円33.4年20.8年
月65万円33.4年22.3年

※ 1年加入分の保険料(労使計)÷1年加入で増える年金額(年額)。税・社会保険料控除の効果、在職老齢年金による支給停止、物価・賃金による改定は含めない

報酬比例部分だけで見ると、どの報酬でも33.4年です。保険料率18.3%と給付乗率5.481/1000の比が一定なので、報酬額で回収年数は変わりません。65歳から受け取り始めて98歳を超える計算です。

経過的加算を入れると景色が変わります。月10万円なら7.8年で、65歳から受け取れば72〜73歳で取り返す計算になります。60歳以降の厚生年金加入を「保険料の払い損」と説明する資料は、たいてい報酬比例部分だけで計算しています。定額部分の名残を数え忘れると、低い報酬での加入を過小評価します。

法人化で厚生年金に入ることの全体像は、法人化で厚生年金はいくら増えるかで報酬比例部分を中心に計算しています。この記事の数字はそこに足し込む部分です。

480月の上限に、60歳までの加入月数で先に当たる

経過的加算が年21,192円ずつ増えるのは、定額部分の月数が480月に届くまでです。60歳までに会社員などで厚生年金に入っていた月数が多い人は、60歳以降に積める月数が少なくなります。

60歳までの厚生年金加入月数想定60〜65歳の5年加入で増える経過的加算60〜70歳の10年加入で増える経過的加算
0月ずっと個人事業主(国民年金のみ)105,960円211,920円
120月会社員10年のあと独立105,960円211,920円
240月会社員20年のあと独立105,960円211,920円
360月会社員30年、50歳で法人化105,960円211,920円
420月会社員35年105,960円105,960円
456月22歳から60歳まで会社員42,384円42,384円
480月20歳から60歳まで会社員0円0円

※ 昭和31年4月2日以後生まれ。60歳までの加入月数はすべて20歳以上60歳未満の期間とした。増加額は年額

厚生年金は70歳まで加入できるので、60歳から70歳までの最大120月が対象になり得ます。60歳までの加入が360月以下なら、その120月がまるごと経過的加算に入り、年211,920円になります。

ここに個人事業主出身の社長らしさが出ます。独立して国民年金だった期間が長い人ほど、480月の上限まで余白が残っています。 22歳から60歳まで会社員を続けた人は60歳以降の加入で経過的加算がほとんど増えませんが、40代で独立して50代で法人化した人は、60歳以降の10年分がそのまま上乗せされます。

在職老齢年金で止まらないのも経過的加算の特徴

60歳以降も役員報酬を取り続けると、在職老齢年金で年金が止まることを心配する人がいます。日本年金機構は、在職による支給停止が行われる場合でも、老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給されるとしています。止まるのは老齢厚生年金の報酬比例部分だけです。

つまり、役員報酬を高く取って報酬比例部分が止まる社長でも、経過的加算は受け取れます。支給停止の計算と、報酬比例部分がどこから止まるかは在職老齢年金と役員報酬で扱いました。

年金額への反映の時期にも触れておきます。60歳から65歳までの加入分は、65歳から受け取る老齢厚生年金に含めて計算されます。65歳以降も加入を続ける場合は、在職定時改定によって毎年の加入分が年金額に反映され、退職したときや70歳に達したときにも改定されます。70歳を超えた後の健康保険と厚生年金の扱いは70歳・75歳の一人社長の社会保険にまとめています。

ここまでの年金額は、日本年金機構の令和8年度の単価と保険料率から計算した概算です。法人化した場合の手取りと保険料の総額は、判定ツールで自分の売上と経費を入れると役員報酬別に確かめられます。計算の前提は計算方法にまとめています。

まとめ

  • 経過的加算は、定額部分(1,766円×加入月数、上限480月)から、20歳以上60歳未満の厚生年金期間に対応する老齢基礎年金相当額(847,300円×月数÷480)を引いた額。令和8年4月分からの単価
  • 20〜60歳の厚生年金期間では経過的加算はほぼ増えない。60歳以降と20歳未満の期間だけ、1か月1,766円が上乗せされる
  • 60歳以降の1年加入で増える経過的加算は、役員報酬に関係なく年21,192円。月10万円なら報酬比例部分(年6,446円)の3倍を超える
  • 保険料(労使計)の回収年数は、報酬比例部分だけなら33.4年、経過的加算を含めると月10万円で7.8年、月54万円で20.8年
  • 60歳までの厚生年金加入が360月以下なら、60〜70歳の120月がすべて経過的加算に入り年211,920円。在職老齢年金でも止まらない

よくある質問

経過的加算は在職老齢年金で止まりますか。

止まりません。日本年金機構は、在職による支給停止が行われる場合でも、老齢基礎年金と経過的加算額は全額支給されるとしています。役員報酬が高く報酬比例部分が止まる人でも、経過的加算は受け取れます。

60歳から65歳までに増えた経過的加算は、いつから受け取れますか。

経過的加算は65歳から受け取る老齢厚生年金の一部です。65歳以降も厚生年金に加入している場合は、毎年の在職定時改定や退職時の改定で、それまでの加入月数が年金額に反映されます。

個人事業主のまま60歳以降に国民年金に任意加入しても、経過的加算は増えますか。

増えません。経過的加算は厚生年金保険の被保険者期間から計算するもので、国民年金の任意加入期間は対象外です。任意加入で増えるのは、40年に満たない納付月数を埋める範囲の老齢基礎年金です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。