社会保険
加給年金は厚生年金20年が条件。法人化で届くと年42万円
結論
加給年金は、厚生年金の被保険者期間が20年以上ある人が65歳になったとき、生計を維持している65歳未満の配偶者がいれば付く加算で、令和8年度は特別加算を含めて年42万3,700円です。会社員として12年加入していた個人事業主なら、法人化して8年で20年に届き、配偶者が5歳下なら合計約211.8万円になります。
- 国民年金だけの個人事業主のままでは、厚生年金の期間は1か月も増えない。20年に届かせる手段は法人化か会社員に戻ることだけ
- 配偶者5歳下・会社員12年の例で、加給年金を法人化8年に按分すると年26.5万円。事業所得800万円の単年差額−3.6万円が+22.8万円に変わる
- 65歳以降も高い役員報酬を続けて在職老齢年金で老齢厚生年金が全額停止になると、加給年金も止まる
法人化の損得を判定ツールで計算すると、厚生年金の保険料は負担として入りますが、将来受け取る年金は入りません。単年の手取りで比べる以上、そうするしかないからです。
そのうち、金額がはっきりしていて、しかも特定の年数を境に0円か満額かが分かれるものがあります。加給年金です。会社員時代の厚生年金が20年に少し足りない個人事業主にとっては、法人化の判断材料の中でいちばん見落とされやすい数字かもしれません。
加給年金は「厚生年金20年以上」の人にだけ付く
日本年金機構の説明を整理すると、加給年金の条件は次のとおりです。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 本人 | 厚生年金保険の被保険者期間が20年(240月)以上 |
| 時点 | 65歳に到達したとき(65歳以後に20年に届いた場合は、在職定時改定・退職改定のとき) |
| 配偶者 | 65歳未満で、本人に生計を維持されている |
| 生計維持 | 生計を同じくし、前年の収入が850万円未満(または所得が655万5千円未満) |
| 手続き | 加算には届出が必要 |
令和8年4月からの額は、配偶者が24万3,800円、そこに受給者の生年月日に応じた特別加算(昭和18年4月2日以後生まれなら17万9,900円)が付いて、年42万3,700円です。子がいれば、18歳到達年度の末日まで1人目・2人目は各24万3,800円、3人目以降は各8万1,300円が加わります。
受け取れるのは、本人が65歳になってから配偶者が65歳になるまでの間です。配偶者が65歳になると加給年金は終わり、条件を満たせば配偶者自身の老齢基礎年金に振替加算が付きます(振替加算は昭和41年4月1日以前生まれの配偶者に限られます)。
| 配偶者との年齢差 | 加給年金を受け取る期間 | 合計(令和8年度の額) |
|---|---|---|
| 1歳下 | 本人65歳から1年 | 42.4万円 |
| 3歳下 | 本人65歳から3年 | 127.1万円 |
| 5歳下 | 本人65歳から5年 | 211.8万円 |
| 7歳下 | 本人65歳から7年 | 296.6万円 |
| 10歳下 | 本人65歳から10年 | 423.7万円 |
※ 計算は scripts/kakyu-nenkin-houjinka.mjs で再現できます。将来の年金額改定は反映していません
条件は「20年以上」です。19年11か月なら0円、20年ちょうどなら満額。段差の大きさは、配偶者が5歳下なら200万円を超えます。
個人事業主のままでは、厚生年金の期間は増えない
個人事業主は国民年金の第1号被保険者です。国民年金をいくら払っても、iDeCoや国民年金基金に入っても、厚生年金の被保険者期間は1か月も増えません。会社員時代に厚生年金に入っていた期間は、個人事業主になった時点で止まったままです。
法人化すると、役員報酬を受け取る代表者は厚生年金の被保険者になります。一人社長の社会保険の加入義務で扱ったとおり、報酬を払う法人は加入が義務です。つまり法人化は、止まっていた厚生年金の期間を再び積み上げる手段になります。
| 会社員として厚生年金に入っていた期間 | 法人化後に必要な期間 | 45歳で法人化した場合に20年に届く年齢 |
|---|---|---|
| 5年 | 15年 | 60歳 |
| 8年 | 12年 | 57歳 |
| 10年 | 10年 | 55歳 |
| 12年 | 8年 | 53歳 |
| 15年 | 5年 | 50歳 |
| 18年 | 2年 | 47歳 |
厚生年金には70歳までしか加入できないので、届くかどうかは法人化する年齢と会社員期間の組み合わせで決まります。会社員期間がちょうど15〜19年ある人は、法人化して数年で線をまたぎます。自分の加入月数は「ねんきん定期便」やねんきんネットで確認できます。
法人化で年金がいくら増えるかの全体像は法人化で年金はいくら増えるかの記事にまとめています。加給年金はその報酬比例部分とは別枠で、報酬の多い少ないに関係なく定額で付く点が違います。
判定ツールの差額に加給年金を按分すると、結論が変わる帯がある
判定ツールの差額は単年の手取りです。そこに加給年金を足すとどうなるか。会社員12年・45歳で法人化・8年で20年に届くケースで、加給年金の合計を法人化後の8年に単純に按分し、計算エンジンの差額に足しました。
| 事業所得 | 最適な役員報酬 | 単年の実質差額 | 配偶者3歳下(+15.9万円/年) | 配偶者5歳下(+26.5万円/年) |
|---|---|---|---|---|
| 800万円 | 月48万円 | -3.6万円 | 12.3万円 | 22.8万円 |
| 1,000万円 | 月48万円 | 3.0万円 | 18.8万円 | 29.4万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 15.0万円 | 30.9万円 | 41.5万円 |
※ 経費200万円・東京23区・40〜64歳・配偶者あり(収入なし)・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社・税理士報酬の差を含む/2026年(令和8年)分基準 ※ 加給年金は20年以上先に受け取るため、割引も物価変動も考慮しない単純な按分。報酬比例部分の老齢厚生年金の増加は含まない
事業所得800万円では、単年で見ると法人化は3.6万円の不利です。配偶者が5歳下なら、加給年金を足すと年22.8万円の有利に変わります。単年の手取りでは僅差で不利と出た人ほど、加給年金の有無で結論が入れ替わる可能性があります。
ただし、この按分は1つの見方にすぎません。加給年金を受け取るのは20年以上先で、それまでに事業をやめたり役員報酬を止めたりすれば、20年に届きません。一方で、20年に届いた後も法人を続ければ、按分する年数は長くなり、1年あたりの価値は薄まります。加給年金は「20年に届くまで法人を続けられるか」とセットで考える数字です。
令和7年の年金制度改正法では、子に係る加算を引き上げる一方で、老齢厚生年金の配偶者加給年金の額を見直すことが決まっており、施行は令和10年4月1日です。20年以上先に受け取る人は、額が今のままではない前提で見てください。
65歳以降も報酬が高いと、加給年金も止まる
もう1つ、法人の代表者ならではの注意点があります。65歳を過ぎても役員として報酬を受け取り続けると、在職老齢年金の仕組みで老齢厚生年金が減らされます。
令和8年4月からは、基本月額(加給年金額を除いた報酬比例部分の月額)と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えると、超えた分の2分の1が支給停止になります。停止額が基本月額以上になると老齢厚生年金は全額停止で、日本年金機構はこのとき加給年金額も含めて全額支給停止になると説明しています。
全額停止になるのは、総報酬月額相当額が「65万円+基本月額」以上のときです。基本月額が10万円の人なら、役員報酬(賞与を含めた月額換算)が75万円以上で加給年金も0円になります。一部停止の段階では加給年金は減らされません。
65歳以降の報酬の決め方は在職老齢年金と法人化の記事で詳しく計算しています。加給年金がある人は、65歳から配偶者が65歳になるまでの期間、報酬を全額停止のラインより下に置くかどうかで年42万円が動きます。
配偶者側の条件にも注意が必要です。配偶者を役員にして報酬を払う場合、配偶者の厚生年金の期間が20年以上になると、配偶者が老齢厚生年金を受け取る権利を得た時点で加給年金は止まります。配偶者の前年の収入が850万円以上なら、そもそも生計維持の条件を満たしません。
まとめ
- 加給年金は厚生年金の被保険者期間20年以上が条件。配偶者分は令和8年度で年42万3,700円、配偶者が65歳になるまで続く
- 個人事業主のままでは厚生年金の期間は増えない。法人化すると代表者は厚生年金に入り、止まっていた期間を積み上げられる
- 会社員12年なら法人化8年で20年。配偶者5歳下なら合計約211.8万円で、按分すると事業所得800万円の単年差額−3.6万円が+22.8万円に変わる
- 65歳以降、在職老齢年金で老齢厚生年金が全額停止になると加給年金も止まる
- 配偶者加給年金の額は令和10年4月から見直される
一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。判定ツールで僅差だった人は、ねんきん定期便で厚生年金の加入月数を見て、240月まであと何か月かを数えてみてください。
よくある質問
65歳を過ぎてから20年に届いた場合も、加給年金はもらえますか。
もらえます。日本年金機構によると、65歳到達後に被保険者期間が20年以上となった場合は、在職定時改定(毎年9月1日が基準日)か退職改定のときに、生計を維持している配偶者や子がいれば加算されます。ただし加算には届出が必要です。
配偶者が自分の厚生年金を受け取っていても加給年金は付きますか。
配偶者の厚生年金の被保険者期間が20年以上ある場合は、配偶者がその老齢厚生年金を受け取る権利がある間、配偶者加給年金額は支給停止になります。令和4年4月からは、在職などで実際には受け取っていなくても、受け取る権利があれば停止されます。
子どもがいる場合はどうなりますか。
18歳到達年度の末日までの子(1級・2級の障害がある子は20歳未満)がいれば、1人目・2人目は各24万3,800円、3人目以降は各8万1,300円が加算されます(令和8年度)。配偶者の特別加算は子には付きません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。