法人化の判断

55歳コンサルの法人化試算事例。会社に残すお金の見方で+40万〜−28万円

結論

熊本市・55歳・独身の経営コンサルタント(年商1,300万円・経費150万円)は、会社に残す利益を2割の負担で取り出せると見ると、法人化は3期目以降年9.6万円の不利です。1割で取り出せると見ると年39.8万円の有利、3割なら年28.3万円の不利で、同じ数字の事業でも結論が逆になります。

  • 取り出しコストを1割と見ると、最適な役員報酬は月22万円まで下がり、毎年649.9万円を会社に残す計算になる
  • 役員退職金の損金算入には相当な額という制約がある。月22万円の報酬・勤続10年なら、功績倍率3.0でも退職金は660万円にとどまる
  • 退職金で無理なく取り出せる範囲を超えて会社に残すと、残りは配当や解散時の分配で受け取ることになり、負担は2〜3割に近づく

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

法人化の試算には、必ず1つ「前提」が入ります。会社に残した利益を、将来どれくらいの負担で個人に移せるかです。当サイトの判定ツールは初期値を2割にしています。このケースでは、その2割を1割に変えるだけで結論が逆転します。50代で法人化を考える人ほど、この前提が効きます。

このケースの条件

項目内容
職種経営コンサルタント(地元企業の顧問・事業計画の策定支援)
年齢・家族55歳・独身。65歳で引退する予定
住所熊本市
年商(税抜)1,300万円
経費150万円
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス登録済み
個人事業税の業種コンサルタント業(第3種・5%)

事業所得(売上−経費)は1,150万円です。

個人事業主のまま:手取りは738.0万円

項目金額
事業所得(売上−経費)1,150.0万円
国民健康保険(介護分を含む)112.8万円
国民年金21.5万円
所得税(復興特別所得税を含む)143.8万円
住民税91.0万円
個人事業税43.0万円
手取り738.0万円

※ 熊本市・55歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・コンサルタント業5%/2026年(令和8年)分基準

法人化した場合:初期値(取り出しコスト2割)では年9.6万円の不利

項目金額
役員報酬(月54万円・年額)648.0万円
個人に入る手取り500.1万円
社会保険料(労使計・子ども・子育て拠出金を含む)194.6万円
法人税等(均等割7万円を含む)93.2万円
会社に残る額310.4万円
会社に残る額の評価(2割引き)248.3万円
手取り合計748.4万円

※ 合同会社・熊本県(協会けんぽ)・55歳/2026年(令和8年)分基準

手取り合計は個人のままより10.4万円多く、税理士報酬の差20万円を引くと3期目以降は年9.6万円の不利です。判定ツールの区分では「ほぼ互角」です。

ここで「会社に残る額の評価」を見てください。310.4万円を2割引いて248.3万円と数えています。この2割が、取り出すときにかかる税金の見込みです。

取り出しコストの前提を変えると、結論が逆転する

取り出しコストを1割・2割・3割で動かし、それぞれで役員報酬を総当たりし直しました。

取り出しコスト最適な役員報酬個人に入る手取り会社に残る額(年)手取り合計実質差額(3期目以降)
1割(退職金で取り出す想定)月22万円212.8万円649.9万円797.7万円+39.8万円
2割(判定ツールの初期値)月54万円500.1万円310.4万円748.4万円−9.6万円
3割(配当で取り出す想定)月84万円730.1万円ほぼ0円729.7万円−28.3万円

※ 年商1,300万円・経費150万円・熊本市・55歳・コンサルタント業5%/2026年(令和8年)分基準

取り出しコストを1割と見ると、報酬を低くして会社にお金を残すほど有利になり、最適な役員報酬は月22万円まで下がります。3割と見ると、会社に残さず報酬で受け取るほうがよくなり、月84万円が最適です。損益分岐も、1割なら事業所得736万円、2割なら1,252万円、3割なら1,629万円と大きく動きます。

同じ事業・同じ売上で、前提1つで年68万円の幅があることになります。

1割で取り出せるのは、退職金の範囲だけ

取り出しコストを1割前後と見られるのは、主に役員退職金で受け取る場合です。退職所得は、勤続年数に応じた退職所得控除を引いた残りの2分の1に課税されるため、毎年の報酬や配当より税負担が軽くなります。仕組みは法人に残した利益を退職金で引き出すで計算しています。

ただし、役員退職金はいくらでも損金にできるわけではありません。不相当に高額な部分は損金に算入されません。相当な額かどうかの目安としてよく使われるのが、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率という計算です。

このケースで1割を前提にすると、次のような食い違いが出ます。

金額
最適な役員報酬(月額)22万円
勤続年数(55歳→65歳)10年
会社に残る額の10年分(単純合計)約6,500万円
最終報酬月額×勤続年数×3.0660万円

功績倍率3.0は裁判例などで目安として使われる数字で、法令で決まった上限ではありません(功績倍率3.0に法令の根拠はない)。それでも、報酬を低く抑えたまま巨額の退職金を出すのは難しく、会社に残したお金の大半は退職金では取り出せない計算になります。

退職金で取り出せない部分は、配当や会社を解散するときの残余財産の分配で受け取ります。こちらは配当所得として課税されるため、負担は2〜3割に近づきます。1割の前提が成り立つのは、会社に残す額が退職金の範囲に収まるときだけです。

55歳という年齢で、もう1つ変わること

60歳で国民年金がなくなる

個人事業主の国民年金の加入は60歳までです。60歳以降は年21.5万円の保険料を納めなくなるため、個人のままの手取りが増えます。一方、法人化していれば厚生年金に70歳まで加入し続け、保険料を払う代わりに老齢厚生年金が増えます。55歳時点の1年だけで比べると、この先の変化が入らない点に注意が必要です。厚生年金でいくら増えるかは法人化で年金はいくら増えるかで計算しています。

引退までの年数が短い

退職所得控除は勤続年数20年までは1年40万円、20年を超えると1年70万円です。10年なら400万円です。30代で会社を作る人と比べて、退職金で軽く取り出せる枠は小さくなります。

まとめ

  • 熊本市・55歳・年商1,300万円のコンサルタントは、取り出しコスト2割(初期値)なら法人化は3期目以降年9.6万円の不利
  • 1割と見れば年39.8万円の有利、3割なら年28.3万円の不利。前提1つで年68万円の幅がある
  • 1割の前提では最適報酬が月22万円まで下がり、会社に毎年649.9万円を残す計算になる
  • 月22万円・勤続10年なら、功績倍率3.0でも退職金は660万円。残りは配当などで受け取るため、1割の前提は崩れやすい
  • 60歳で国民年金の納付が終わるなど、単年の比較に入らない変化もある

取り出しコストは判定ツールの詳細設定で変えられます。自分が会社のお金をどう受け取るつもりかで、確かめてください。法人化の判断全体は個人事業主の法人化の目安にまとめています。

よくある質問

判定ツールで、会社に残す利益の取り出しコストはどこで変えられますか?

詳細設定にある「内部留保の引出コスト」の欄です。初期値は20%で、退職金中心なら10%前後、配当中心なら20〜30%程度を目安にしています。税制で決まる値ではなく前提値なので、自分の受け取り方に合わせて変えてください。

55歳から会社を作っても、退職金の勤続年数は個人事業の期間を含められますか?

役員退職金の勤続年数は、原則として法人の役員だった期間です。個人事業主として働いた期間は含まれません。55歳で法人化して65歳で退任すれば、勤続年数は10年です。

60歳になったら何が変わりますか?

個人事業主のままなら、国民年金の加入は60歳までなので保険料(年21.5万円)を納めなくなります。法人化していれば、厚生年金には70歳まで加入し続けます。この試算は55歳時点の1年分で比べています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。