設立の手続き
個人成りの目安。法人から個人事業に戻るのは分岐点の少し下ではない
結論
東京23区・単身・経費200万円の条件では、法人化の損益分岐点は事業所得1,266万円ですが、1,250万円まで下がっても法人を続けた場合の差は年1.5万円で、解散の登録免許税4.1万円を取り返すのに約33か月かかります。事業所得1,100万円以下(年13.1万円以上の差)なら約4か月で取り返せるため、個人成りを検討する目安は分岐点より150万円以上下がった状態が続くときです。
- 法人を続けた場合の年間の差は、事業所得1,200万円で−6.6万円、1,000万円で−14.7万円、600万円で−37.6万円
- 所得が戻って再び法人化する可能性があるなら、再設立の費用も含めて考える。1,200万円なら取り返すのに約26か月かかる
- 戻った後は、開業届(1か月以内)・青色申告承認申請(2か月以内)・国民年金の種別変更(14日以内)に期限がある。インボイスは個人として登録し直す
法人化したあと売上が落ちると、「このまま法人でいるより、個人事業に戻したほうがいいのでは」という疑問が出てきます。法人から個人に戻ることを、法人成りの逆で個人成りと呼ぶことがあります。
判定ツールの損益分岐点は、法人化するかどうかを決めるための数字です。しかし戻る判断では、それだけでは足りません。法人を閉じるにも、将来もう一度作るにも費用がかかるからです。分岐点をどこまで下回ったら戻る理由になるのかを計算しました。
分岐点を下回っても、差はしばらく小さい
判定ツールで、事業所得ごとに「法人を続けた場合と個人事業に戻った場合の年間の差」を出しました。3年目以降の定常状態の数字で、税理士報酬の差も含んでいます。そのうえで、戻るための費用を何か月で取り返せるかを並べました。
| 事業所得 | 法人を続ける場合の最適報酬 | 法人を続けた場合の年間の差(定常状態) | 解散の登録免許税4.1万円を取り返す期間 | 再設立費用10万円も含めた場合 |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 月28万円 | −48.6万円 | 約2か月 | 約4か月 |
| 600万円 | 月42万円 | −37.6万円 | 約2か月 | 約5か月 |
| 800万円 | 月54万円 | −24.1万円 | 約3か月 | 約8か月 |
| 900万円 | 月54万円 | −18.4万円 | 約3か月 | 約10か月 |
| 1,000万円 | 月54万円 | −14.7万円 | 約4か月 | 約12か月 |
| 1,100万円 | 月54万円 | −13.1万円 | 約4か月 | 約13か月 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −6.6万円 | 約8か月 | 約26か月 |
| 1,250万円 | 月54万円 | −1.5万円 | 約33か月 | 約113か月 |
| 1,300万円 | 月54万円 | +3.6万円 | —(法人のほうが有利) | —(法人のほうが有利) |
| 1,400万円 | 月54万円 | +13.7万円 | —(法人のほうが有利) | —(法人のほうが有利) |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。年間の差は判定ツールの実質差額(税理士報酬の差20万円を含む)。戻る費用は登録免許税だけで、官報公告料・清算中の申告費用・在庫や資産の処分損は含めていない
この条件の損益分岐点は事業所得1,266万円です。1,250万円まで下がっても、法人を続けることで失うのは年1.5万円です。解散の登録免許税4.1万円だけでも、取り返すのに約33か月かかります。
分岐点の近くでは、差は所得の変動に比べて小さい数字です。1年だけ売上が落ちた、という理由で閉じると、翌年に売上が戻ったときに設立費用をもう一度払うことになります。
戻る費用は4.1万円では済まない
表で使った4.1万円は、合同会社の解散3万円・清算人の選任9,000円・清算結了2,000円の登録免許税です。法務局の申請書で確認できる金額はここまでです(法人の解散・清算は登記だけで4.1万円)。
実際には、次の費用が上乗せされます。
- 債権者への官報公告の掲載料
- 解散事業年度と清算事業年度の法人税等の申告(税理士に頼めばその報酬)
- 在庫・固定資産を処分したときの損失
- 清算が終わるまでの期間の法人住民税の均等割
さらに、解散しても法人はすぐには消えません。債権者が申し出る期間を2か月未満にできないので、清算結了までは最短でも2か月を超えます。表の「取り返す期間」は下限の目安で、実際はこれより長くなります。
法人に残した利益は、閉じるときに課税される
法人に利益を残してきた場合、会社を閉じるときにその扱いが問題になります。清算の最後に残った財産は出資者に分配され、法人の資本金等の額を超える部分は、みなし配当として個人の配当所得になります。
判定ツールは、会社に残る利益を「退職金や配当で引き出すときに20%のコストがかかる」前提で個人の手取りに換算しています(計算の前提)。解散前に役員退職金として支払えば、退職所得控除が使え、役員としての勤続年数が5年を超えていれば2分の1課税も使えます。どちらで引き出すかで負担が大きく変わる点は法人に残した利益は、退職金で引き出すと負担率3%で計算しています。
会社に利益が積み上がっているほど、閉じ方の設計が個人成りの損得を左右します。 年間の差が数万円の帯では、退職金の設計を誤ったときの差のほうが大きくなり得ます。
閉じずに休眠させる選択肢
解散せず、事業を止めて休眠させる方法もあります。登記費用はかかりませんが、法人住民税の均等割が止まるかどうかは自治体の扱いが分かれます(休眠会社の均等割はかからない?)。また株式会社は、最後の登記から12年たつとみなし解散の対象になります。合同会社は対象外です(休眠会社は12年でみなし解散)。
休眠させた法人を残したまま個人事業を始める場合、同じ事業を法人と個人の両方で行う状態は避ける必要があります。どちらの売上・経費かが曖昧になるからです。
個人に戻った後の届出と期限
個人事業を再開するときは、法人を作る前と同じ届出をもう一度出します。
| 届出 | 期限 | 出す先 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届出書 | 事業開始から1か月以内 | 税務署 |
| 青色申告承認申請書 | 事業開始から2か月以内(1月16日以後に開始した場合) | 税務署 |
| 国民年金の種別変更 | 厚生年金の資格を失った日の翌日から14日以内 | 市区町村 |
| 国民健康保険の加入 | 被保険者となった日から14日以内 | 市区町村 |
| インボイスの登録申請 | 新たに事業を開始した課税期間中に申請すれば、初日から登録を受けられる | 税務署 |
青色申告承認申請を期限内に出さないと、その年は白色申告になり、青色申告特別控除65万円が使えません。判定ツールで見ると、白色申告の分岐点は793万円まで下がります。個人に戻る意味そのものが薄れるので、開業届と青色申告承認申請は同時に出すのが確実です。
インボイスの登録番号は、法人のものを個人で使うことはできません。個人事業者として新たに登録します。消費税の2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終わり、後継の3割特例は個人事業者だけが使える措置とされています(2割特例は令和8年で終了)。戻る年の消費税の計算方法も合わせて確認してください。
まとめ
- 東京23区・単身・経費200万円の条件では、法人化の分岐点は事業所得1,266万円。1,250万円まで下がっても、法人を続けて失うのは年1.5万円
- 解散の登録免許税4.1万円を取り返すのに、1,250万円では約33か月、1,100万円では約4か月。個人成りを考える目安は、分岐点より150万円以上下がった状態が続くとき
- 戻る費用は登録免許税のほかに官報公告・清算の申告・処分損がかかり、清算結了まで最短でも2か月超
- 会社に残した利益は閉じるときに課税される。退職金か残余財産の分配かで負担が変わる
- 個人に戻ったら、開業届(1か月)・青色申告承認申請(2か月)・国民年金(14日)の期限を落とさない
分岐点は条件で大きく動きます。配偶者がいれば1,016万円、白色申告なら793万円です。一般論の数字ではなく、自分の今の売上と経費で年間の差を出し、それが何年続きそうかで判断してください。
よくある質問
法人を解散しないで、個人事業を並行して始めることはできますか?
できます。ただし法人を残せば、法人住民税の均等割や決算申告の手間が続きます。休眠の届出をした法人に均等割がかかるかは自治体によって扱いが分かれます。同じ事業を個人と法人の両方で行うと、どちらの売上か・どちらの経費かの区分も必要になります。
個人成りすると、法人に残っていたお金はどうなりますか?
清算の最後に、借入金や税金を払った残りを残余財産として社員(出資者)に分配します。資本金等の額を超える部分は、みなし配当として個人の配当所得になります。解散前に役員退職金として支払う方法もあり、退職所得の計算になります。
個人に戻ったら、インボイスの登録番号は法人のものを使えますか?
使えません。登録は事業者ごとで、法人の登録を個人に引き継ぐことはできません。個人事業者として新たに登録申請をする必要があり、新たに事業を開始した課税期間中に申請すれば、その課税期間の初日から登録を受ける方法があります。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。