役員報酬
役員報酬はいくらまで損金になるか。過大と判定される2つの基準
結論
損金にならないのは、実質基準(職務の内容・法人の収益・同種同規模法人の支給状況等に照らして相当と認められる額を超える部分)と形式基準(定款や株主総会等の決議で定めた限度額を超える部分)のうち、いずれか多い金額です(法人税法施行令70条1号)。年間報酬1,200万円のうち300万円が否認されると、法人税等は100.8万円増えます。
- 否認されても個人側の給与所得課税と源泉徴収は減らない。同じ300万円に法人税と所得税が重ねてかかる
- 形式基準の物差しは自分で決めた限度額。定款や社員総会で限度額を定め、その範囲で支給していれば形式基準では否認されない
- 使用人兼務役員の使用人分の賞与を他の使用人と違う時期に支給した額は、それだけで損金不算入(施行令70条3号)
法人化して役員報酬を払うと、その全額が会社の損金になる——とは限りません。法人税法34条2項は、役員に支給する給与のうち不相当に高額な部分の金額を損金に算入しないと定めています。
問題は「いくらから不相当なのか」です。条文は金額を書いていません。代わりに、政令が2つの物差しを置いています。
否認額は「実質基準」と「形式基準」の多いほう
法人税法施行令70条1号は、次のイとロのうちいずれか多い金額を損金不算入とすると定めています。
| 基準 | 何と比べるか | |
|---|---|---|
| イ(実質基準) | 職務に対する対価として相当と認められる金額を超える部分 | 役員の職務の内容、法人の収益、使用人への給与の支給状況、同種の事業を営む事業規模が類似する法人の役員給与の支給状況等 |
| ロ(形式基準) | 定款の規定または株主総会・社員総会等の決議で定めた限度額を超える部分 | 自社で定めた限度額 |
どちらか一方ではありません。 両方で計算して、大きいほうの金額が否認されます。限度額の範囲内に収めていても、実質基準で過大と判定されれば否認されます。逆に、金額が相当であっても限度額を超えて払えば、その超過部分は形式基準で否認されます。
このほか、同条2号は退職給与の過大部分、3号は使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与を他の使用人と異なる時期に支給した額を挙げています。3号は金額の多寡と関係なく、支給時期がずれているというだけで全額が損金不算入になります。
形式基準は、自分で作った物差しで測られる
形式基準が独特なのは、比較対象が自社の決議だという点です。世の中の相場ではありません。
定款や社員総会で「役員報酬は年額1,500万円を限度とする」と定め、実際に1,200万円を支給していれば、形式基準では否認されません。一方、限度額を年額1,000万円と定めたまま1,200万円を支給すれば、200万円が形式基準での否認額になります。
合同会社には株主総会がありませんが、施行令70条1号ロは「定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議」と書いています。定款に定めるか、総社員の同意を書面で残す形になります。
限度額を決めていない会社では、形式基準は働きません。 物差しが存在しないためです。ただしその場合でも実質基準は働くので、決めていないほうが安全ということにはなりません。むしろ、金額の根拠を残す機会を失うことになります。
否認されると、同じ金額に法人税と所得税が重なる
否認の実害は、法人税が増えることだけではありません。個人側の課税は1円も減りません。
売上3,000万円・経費500万円・東京23区・合同会社で、役員報酬を月100万円(年1,200万円)とした場合を当サイトの計算エンジンで計算しました。
| 金額 | |
|---|---|
| 年間役員報酬 | 1,200.0万円 |
| 個人の給与所得 | 1,005.0万円 |
| 個人の所得税 | 125.8万円 |
| 個人の住民税 | 83.4万円 |
| 法人の税引前利益 | 1,166.6万円 |
| 法人税等(否認なし) | 302.8万円 |
前提:2026年(令和8年)分の税率・保険料率。東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・合同会社。法人税等には法人住民税の均等割7万円を含みます。
この状態で否認が起きたときの法人税等の増加額です。
| 否認額 | 法人税等 | 増加額 | 否認額に対する割合 |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 336.4万円 | 33.6万円 | 33.6% |
| 300万円 | 403.6万円 | 100.8万円 | 33.6% |
| 600万円 | 504.3万円 | 201.5万円 | 33.6% |
300万円が否認されれば、法人税等は100.8万円増えます。そして個人側では、この300万円を含めた1,200万円に対する所得税125.8万円・住民税83.4万円がそのまま残ります。支払った事実は消えないので、給与所得としての課税も消えません。
法人化の利点は、個人事業では経費にならない自分への給与を損金にできることです。その利点が否認された部分だけ失われ、しかも給与課税は残る。ここが、報酬額を上げ続けても得にならない理由の1つになります。最適な報酬額そのものは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。
定期同額給与の要件とは、別々にかかる
役員報酬には2つの関門があります。混同されやすいので分けておきます。
| 条文 | 内容 | 判定の対象 |
|---|---|---|
| 法人税法34条1項 | 定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれにも当たらない給与は損金不算入 | 支給の形式 |
| 法人税法34条2項 | 不相当に高額な部分は損金不算入 | 支給の金額 |
34条1項の関門を通っても、2項で金額を見られます。期の途中で報酬を増額すれば1項で増額部分が否認され、そのうえで金額が過大なら2項でも否認されます。期中の増額については役員報酬の期中変更で扱っています。
なお、家族を役員にして報酬を分散する場合、その家族の報酬も同じ34条2項の対象です。職務の実態がなければ実質基準で否認されます。みなし役員の判定は家族への給与とみなし役員、使用人兼務役員の賞与は使用人兼務役員の賞与が主題です。役員退職金の過大判定(施行令70条2号)は役員退職金と功績倍率で扱っています。
使用人に対する給与にも、同じ構造の規定がある
法人税法36条は、役員と特殊の関係のある使用人に支給する給与のうち不相当に高額な部分を損金不算入とすると定めています。役員にしていない配偶者や子に高額な給与を払う形も、この規定の対象です。
役員報酬を抑えて家族の給与を増やす、という組み替えで34条2項を回避できるわけではありません。
報酬額をどこに置くかは、損金になる上限より手前で、給与所得控除と社会保険料の組み合わせによって決まります。自分の売上と経費で最適額がどこになるかを確かめてください。
まとめ
- 損金不算入額は実質基準と形式基準のいずれか多い金額(法人税法施行令70条1号)
- 実質基準は職務の内容・法人の収益・使用人への支給状況・同種同規模法人の支給状況等で判定する
- 形式基準の物差しは定款や社員総会等で定めた自社の限度額。合同会社は定款または総社員の同意で定める
- 否認されても個人側の給与所得課税と源泉徴収は減らない。年1,200万円のうち300万円が否認されれば法人税等が100.8万円増える
- 定期同額給与の要件(34条1項)と過大の判定(34条2項)は別々にかかる
よくある質問
一人社長の会社でも、同業他社との比較で否認されることがありますか。
実質基準は同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの支給状況等も考慮要素にしています。ただし職務の内容や法人の収益も同時に見る規定なので、比較だけで決まるものではありません。売上や利益に見合った額であることを説明できる状態にしておくことが実務上の備えになります。
合同会社には株主総会がありませんが、限度額はどう定めますか。
施行令70条1号ロは「定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議」と定めています。合同会社であれば定款に定めるか、総社員の同意による決定を書面で残す形になります。書面がないと、形式基準の物差しそのものが存在しないことになります。
損金不算入になった分は、あとで戻ってきますか。
戻りません。損金不算入は永久差異で、翌期以降に損金として認められるものではありません。役員報酬を法人が実際に支払い、個人が受け取っている以上、個人側の給与所得課税も取り消されません。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。