法人化の判断
役員報酬を月5万円に抑える法人化の試算事例。社会保険料は131万円減るが手取りは52万円減る
結論
浜松市・45歳の機械設計者(年商1,300万円・経費250万円)が役員報酬を月5万円にすると、社会保険料(労使計)は年159.0万円から27.7万円へ131.3万円減りますが、手取り合計は688.0万円から635.6万円へ52.4万円減ります。会社に残る利益が737万円に膨らみ、法人税等が98.9万円から238.8万円に増えるためです。
- このケースで手取り合計が最大になる役員報酬は月45万円。月5万円は最適額より年52.4万円少なく、個人のまま(677.6万円)も下回る
- 会社に残すお金は、取り出すときの税負担を見込んで2割引いて数えている。1割で取り出せる前提なら最適は月15万円まで下がり、低報酬案の損は小さくなる
- 報酬を月5万円にすると、標準報酬月額は健康保険5.8万円・厚生年金8.8万円まで下がり、傷病手当金は日額1,287円、1年分の厚生年金の上乗せは年0.6万円になる
このテーマの全体像 役員報酬の決め方(最適額の計算)
ほかの試算事例 法人化の試算事例35人を1つの表で比較。損益分岐を動かすのは家族・年齢・業種
この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。
法人化の節税策として「役員報酬を低くして社会保険料を抑える」という話をよく見かけます。保険料が減るのは本当です。ただ、その分の利益は会社に残り、そこに法人税がかかります。このケースでは、保険料の削減額より、税金と取り出しコストの増加のほうが大きく出ました。
このケースの条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 職種 | 機械設計者(輸送機器メーカーの部品設計を受託) |
| 年齢・家族 | 45歳・単身 |
| 住所 | 浜松市 |
| 年商(税抜) | 1,300万円 |
| 経費 | 250万円(CADのライセンス・設備の減価償却など) |
| 申告 | 青色申告(e-Tax・65万円控除) |
| インボイス | 登録済み |
| 個人事業税の業種 | 請負業として5%で計算 |
事業所得(売上−経費)は1,050万円です。45歳なので、国保にも健康保険にも介護保険料が上乗せされます。
個人事業主のまま:手取りは677.6万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 事業所得(売上−経費) | 1,050.0万円 |
| 国民健康保険(介護分を含む) | 111.0万円 |
| 国民年金 | 21.5万円 |
| 所得税 | 120.7万円 |
| 住民税 | 81.2万円 |
| 個人事業税 | 38.0万円 |
| 手取り | 677.6万円 |
※ 浜松市・45歳・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準
法人化して、手取りが最大になる報酬は月45万円
当サイトの判定ツールは、役員報酬を月5万円から100万円まで1万円刻みで全部計算し、手取り合計が最大になる額を探します。このケースでは月45万円でした。
| 項目 | 月5万円(低報酬案) | 月45万円(最適) |
|---|---|---|
| 標準報酬月額(健康保険/厚生年金) | 5.8万円/8.8万円 | 44万円/44万円 |
| 社会保険料(労使計・子ども・子育て拠出金を含む) | 27.7万円 | 159.0万円 |
| 個人に入る手取り | 45.9万円 | 423.5万円 |
| 法人税等(均等割7万円を含む) | 238.8万円 | 98.9万円 |
| 会社に残る額 | 737.1万円 | 330.6万円 |
| 手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上) | 635.6万円 | 688.0万円 |
※ 合同会社・静岡県(協会けんぽ)・45歳・個人の所得税・住民税は役員報酬にかかる分/2026年(令和8年)分基準
月5万円にすると、社会保険料は年131.3万円減ります。ここまでは「低報酬で保険料を抑える」という話のとおりです。
ところが法人税等は年139.9万円増え、会社に残る額は737.1万円に膨らみます。会社のお金を2割引いて数えると、手取り合計は52.4万円少なくなりました。個人のまま(677.6万円)よりも42万円少ない数字です。
| 1期目 | 2期目 | 3期目以降 | |
|---|---|---|---|
| 最適(月45万円)の実質差額 | −19.6万円 | −9.6万円 | −9.6万円 |
※ 設立費用10万円(1期目)と税理士報酬の増加20万円を引いた額
最適な報酬でも、このケースは3期目以降年9.6万円の不利で、判定は「ほぼ互角」です。
低報酬にすると、なぜ税金が増えるのか
会社の利益が800万円を超えると税率が上がる
中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です。月5万円の報酬だと、会社の税引前利益は900万円を超え、800万円を超えた部分に高い税率がかかります。法人事業税や住民税の法人税割もこれに連動して増えます。
反対に、報酬として個人に払えば給与所得控除が使えます。年540万円の報酬なら給与所得控除は152万円で、個人の所得税・住民税は合わせて37.9万円にとどまります。同じお金でも、個人に払うと控除が効き、会社に残すと控除なしで課税されるのが差の正体です。
会社に残ったお金は、そのままでは使えない
会社に残った利益は、個人の生活費には使えません。役員報酬・賞与・配当・退職金のどれかで取り出すときに、もう一度税金がかかります。判定ツールはこの取り出しの負担を2割と見込み、会社に残る額を2割引いて手取りに数えています。
月5万円の案では、個人に入るのは年45.9万円、月4万円弱です。生活費は会社に貯めたお金から出せないので、別に貯金を取り崩すことになります。
取り出しコストの見込み次第で、最適な報酬は月15万〜76万円に動く
会社に残すお金をどれくらいの負担で取り出せると見るかで、最適な報酬は大きく変わります。
| 取り出しコストの見込み | 最適な役員報酬 | 最適時の手取り合計 | 月5万円の手取り合計 | 月5万円との差 |
|---|---|---|---|---|
| 1割(退職金中心) | 月15万円 | 732.5万円 | 709.3万円 | −23.2万円 |
| 2割(判定ツールの初期値) | 月45万円 | 688.0万円 | 635.6万円 | −52.4万円 |
| 3割(配当中心) | 月76万円 | 670.6万円 | 561.8万円 | −108.8万円 |
※ 浜松市・45歳・年商1,300万円・経費250万円/2026年(令和8年)分基準
退職金で安く取り出せる前提なら、低めの報酬(月15万円)が最適になります。それでも月5万円まで下げると23.2万円の損です。低報酬が合理的になるのは「会社に残したお金を、低い税負担で取り出せる」前提があるときだけで、その前提の置き方は役員退職金と内部留保の試算事例で詳しく扱っています。
低報酬で下がるのは、保険料だけではない
標準報酬月額が下がると、そこから計算される給付も下がります。
| 給付 | 月5万円 | 月45万円 |
|---|---|---|
| 傷病手当金(日額) | 1,287円 | 9,780円 |
| 1年加入で増える老齢厚生年金(年額) | 0.6万円 | 2.9万円 |
※ 傷病手当金は「標準報酬月額÷30日(10円未満四捨五入)×2/3」、老齢厚生年金は報酬比例部分「標準報酬月額×5.481÷1000×12か月」で計算。月5万円のとき、厚生年金の標準報酬月額は下限の8.8万円
健康保険の標準報酬月額は5.8万円、厚生年金は8.8万円が下限です。月5万円の報酬でも、保険料と給付はこの下限の額で決まります。病気で働けなくなったときの傷病手当金は日額1,287円で、1か月休んでも4万円に届きません。
役員報酬の決め方の全体像は役員報酬の最適額はいくらかにまとめています。報酬を0円にした場合の社会保険の扱いは役員報酬0円と社会保険で扱っています。
まとめ
- 浜松市・45歳・年商1,300万円の機械設計者は、手取り合計が最大になる役員報酬が月45万円
- 月5万円にすると社会保険料は年131.3万円減るが、法人税等が139.9万円増え、手取り合計は52.4万円減る
- 会社の利益が800万円を超えると法人税の税率が上がり、会社に残すお金には給与所得控除も効かない
- 低報酬が合理的になるのは、会社に残したお金を低い負担で取り出せる前提があるときだけ
- 報酬を下げると、傷病手当金や将来の厚生年金も下限の額まで下がる
判定ツールは役員報酬ごとの手取りを一覧で出します。保険料だけを見て報酬を決めず、自分の売上と経費で手取り合計を確かめてください。
よくある質問
役員報酬を0円にすれば、社会保険料もゼロになりますか?
報酬が0円なら、社会保険の被保険者にならないのが原則です。その場合は個人で国民健康保険と国民年金に入ることになり、法人化で消えるはずだった負担が残ります。利益はすべて会社に残るので、法人税の負担はさらに重くなります。
低い報酬で始めて、あとから上げることはできますか?
役員報酬は原則として事業年度の開始から3か月以内に決め、その年度は同じ額を払い続けないと、増えた分を経費にできません。期の途中で生活費が足りなくなっても、自由には上げられません。
低報酬にして、会社に貯めたお金は退職金で受け取れば得ではありませんか?
退職金で取り出せるなら取り出しコストは小さくなり、このケースでも最適な報酬は月15万円まで下がります。ただし退職金が経費として認められる額には上限の考え方があり、何年も先の制度に依存する前提です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。