法人化の判断

年収700万円の動画編集者の法人化試算事例。横浜で年35万円の不利

結論

横浜市・29歳・独身の動画編集者(年商700万円・経費80万円)は、個人のままの手取りが437.0万円、法人化(役員報酬月42万円)で421.6万円です。税理士報酬の差を含めると3期目以降は年35.4万円の不利で、税理士を使わず自分で決算しても年15.4万円の不利が残ります。

  • 差の中心は社会保険料。個人の国保+国民年金84.9万円に対し、法人は労使で141.7万円と56.8万円増える
  • 役員報酬を月10万円まで下げて社会保険料を抑えても、手取り合計は399.7万円で月42万円のときより21.9万円少ない
  • 損益分岐は事業所得1,272万円。このケース(620万円)からは売上が2倍以上にならないと届かない

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

独立して売上が伸び、会社員時代の年収を超えたころに「法人化したほうが節税になる」と言われることがあります。このケースはその典型で、結論ははっきり個人のままのほうが有利です。どこで差がつき、どんな工夫をしても埋まらないのかを内訳で見ます。

このケースの条件

項目内容
職種フリーランスの動画編集者(YouTubeチャンネル・企業PR動画の編集を受託)
年齢・家族29歳・独身
住所横浜市
年商(税抜)700万円
経費80万円(PC・編集ソフト・素材サイト・通信費など)
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス登録済み(取引先の制作会社に求められたため)
個人事業税の業種請負業として5%で計算

事業所得(売上−経費)は620万円です。

個人事業主のまま:手取りは437.0万円

項目金額
事業所得(売上−経費)620.0万円
国民健康保険63.4万円
国民年金21.5万円
所得税(復興特別所得税を含む)38.6万円
住民税43.0万円
個人事業税16.5万円
手取り437.0万円

※ 横浜市・29歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準

所得税は38.6万円で、かかっている税率は最高でも20%の帯です。法人化で税率を下げる余地が、もともと小さい所得帯です。

法人化した場合:社会保険料が56.8万円増える

役員報酬を月5万〜100万円まで試すと、手取り合計が最大になったのは月42万円でした。

項目金額
役員報酬(年額)504.0万円
社会保険料・本人負担70.0万円
所得税9.4万円
住民税24.9万円
個人に入る手取り399.7万円
社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む)71.8万円
法人の利益(税引前)44.2万円
法人税等(均等割を含む)16.9万円
会社に残る額27.4万円
手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上)421.6万円

※ 合同会社・神奈川県(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準

所得税・住民税・事業税は、個人の98.1万円から法人化で合計51.2万円まで下がります。下がった分は46.9万円です。一方、社会保険料は個人の84.9万円から労使合計141.7万円へ、56.8万円増えます。税金で浮いた額より、保険料で増えた額のほうが大きくなっています。残りの差5.5万円は、会社に残る27.4万円を2割引いて数えている分です。

横浜市の法人住民税の均等割は、横浜みどり税の上乗せがあるため標準の7万円より少し高くなります。

1期目2期目3期目以降
手取りの差(法人−個人)−15.4万円−15.4万円−15.4万円
設立費用(合同会社)−10.0万円——
税理士報酬の増加−20.0万円−20.0万円−20.0万円
実質差額−45.4万円−35.4万円−35.4万円

判定ツールの区分は「個人のまま有利」です。

よくある工夫を2つ試しても、届かない

役員報酬を下げて社会保険料を抑える

社会保険料が重いなら、役員報酬を下げればよいという考え方があります。報酬を変えたときの手取り合計を並べました。

役員報酬(月額)個人に入る手取り会社に残る額社会保険料(健保・厚年の労使計)手取り合計
10万円102.8万円371.1万円33.5万円399.7万円
20万円196.2万円263.9万円68.3万円407.3万円
30万円289.1万円155.7万円102.4万円413.6万円
42万円(最適)399.7万円27.4万円140.0万円421.6万円

※ 年商700万円・経費80万円・横浜市。手取り合計は会社に残る額を2割引いて計上

報酬を下げると社会保険料は減りますが、そのぶん会社に利益が残り、法人税等がかかります。さらに会社に残したお金を個人に移すときにも税金がかかります。報酬を月10万円にすると、手取り合計はかえって21.9万円減ります。報酬を極端に下げる型の問題はマイクロ法人は意味ないのかでも扱っています。

税理士に頼まず、自分で決算する

この試算は、法人の税理士報酬を年35万円、個人の確定申告を年15万円と置いています。法人の決算を自分でやり、税理士報酬の差をゼロにしても、手取りの差−15.4万円はそのまま残ります。

差の原因が費用ではなく、社会保険料と税金の構造にあるためです。費用を削っても埋まりません。

逆転するのは、売上が2倍になってから

損益分岐は事業所得1,272万円でした。経費80万円のままなら年商1,352万円前後で、このケースの約2倍です。

年商事業所得実質差額(3期目以降)
630万円(−10%)550万円−46.0万円
700万円(このケース)620万円−35.4万円
770万円(+10%)690万円−30.3万円

売上が伸びても、差は1割で5万円ほどしか縮みません。年商1,200万円まで伸びたエンジニアでも年13.9万円の不利が残る例は、東京のWebエンジニアの試算事例で扱っています。法人化の目安全体は個人事業主の法人化の目安にまとめています。

この所得帯で先に効くもの

法人化の代わりに、個人のままで手取りを増やす手段があります。

手段内容
小規模企業共済掛金は月7万円まで全額が所得控除。廃業時に共済金を受け取れる
iDeCo個人事業主の掛金上限は会社員より大きい。掛金は全額が所得控除
青色申告65万円控除の維持e-Taxと複式簿記で続ける。55万円や10万円の控除に下がると税負担が増える

所得税と住民税の税率がかかる分だけ、掛金に対して税金が軽くなります。個人事業主のiDeCoの上限額は個人事業主のiDeCoはいくらまでで確認できます。

まとめ

  • 横浜市・年商700万円・経費80万円の動画編集者は、個人のまま437.0万円、法人化で421.6万円
  • 3期目以降も年35.4万円の不利。税金は46.9万円下がるが、社会保険料が56.8万円増える
  • 役員報酬を月10万円に下げると手取り合計はさらに21.9万円減る。自分で決算しても年15.4万円の不利が残る
  • 損益分岐は事業所得1,272万円。年商が約2倍になるまで逆転しない
  • この所得帯では、小規模企業共済・iDeCo・青色65万円控除のほうが先に効く

売上が伸びたら、そのときの数字で判定ツールを使い直してください。

よくある質問

取引先から「法人のほうが取引しやすい」と言われたら?

取引上の理由で法人化するなら、この試算の年35.4万円は「信用のために払う費用」と考えることになります。取引の条件が変わって売上が増える見込みがあるなら、その分を入れて判定ツールで計算し直してください。

動画編集は個人事業税がかかりますか?

動画編集は法定業種に名前がなく、都道府県が仕事の内容で判断します。受託制作は請負業として5%とされることが多く、この試算も5%で計算しています。課税されない扱いなら、個人のままの手取りは16.5万円増え、法人化の不利はさらに広がります。

法人化しない場合、手取りを増やす方法はありますか?

個人のままで使える控除が先に効きます。小規模企業共済とiDeCoは掛金の全額が所得控除になり、このケースの所得帯では、掛金に対して最大で約3割の税金が軽くなります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。