法人化の判断

法人化と同時にインボイス登録を求められたWeb制作者の試算事例。差は年56万円開く

結論

京都市・34歳のWeb制作者(年商950万円・経費100万円・インボイス未登録)は、法人化しても登録しなければ3期目以降年17.3万円の不利ですが、法人化と同時に取引先から登録を求められると年73.3万円の不利になります。個人のままなら年商1,000万円以下で消費税を納めていないのに、法人で登録すると本則課税で年89万円を納めることになるためです。

  • 個人は基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下なので免税。インボイスに登録しない限り、消費税を納めていない
  • 法人でインボイスに登録すると、設立1期目から課税事業者になり、新設法人の免税は使えない。このケースでは年89万円の納税が新たに生じる
  • 登録を求められる売上が年商の一部だけなら、その取引を続ける価値と納税額を比べる判断になる。法人化そのものの損得とは切り分けて考える

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

「法人化するなら、ついでにインボイスも登録してほしい」。取引先からこう言われる場面は珍しくありません。法人の新しい登録番号を取引先の台帳に載せる手続きが、ちょうど同じ時期に来るからです。ただ、個人のときに免税事業者だった人にとっては、法人化と登録は別々の判断です。このケースでは、登録するかどうかで法人化の結論が年56万円動きます。

このケースの条件

項目内容
職種Web制作者(地元の店舗・中小企業のサイト制作と保守)
年齢・家族34歳・単身
住所京都市
年商(税抜)950万円
経費100万円
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス(個人)未登録。取引先の多くが登録を求めてこなかった
法人化のきっかけ大口の新規取引先から、法人との契約とインボイス登録を求められた
個人事業税の業種デザイン業として5%で計算

年商が1,000万円以下なので、個人のままなら消費税の免税事業者です。

個人事業主のまま:消費税を納めていない分、手取りは621.1万円

項目金額
売上(税抜)−経費850.0万円
売上と一緒に受け取った消費税のうち、納めずに残る分89.0万円
事業所得(青色申告特別控除前)939.0万円
国民健康保険93.3万円
国民年金21.5万円
所得税98.8万円
住民税71.9万円
個人事業税32.5万円
手取り621.1万円

※ 京都市・34歳・単身・青色申告(e-Tax)・インボイス未登録・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準。免税事業者が受け取った消費税相当額は収入に含めて計算

免税事業者でも、請求額に消費税相当分を上乗せして受け取っていれば、その分は手元に残り、事業所得に入ります。このケースでは年89万円です。

法人化した場合:登録するかどうかで手取りが56万円違う

役員報酬は、どちらも手取り合計が最大になる月54万円になりました。

項目法人で登録しない法人で登録する
消費税の納税なし89.0万円
個人に入る手取り(役員報酬月54万円)504.6万円504.6万円
会社に残る額149.0万円79.0万円
手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上)623.8万円567.8万円

※ 合同会社・京都府(協会けんぽ)・3期目以降/2026年(令和8年)分基準

登録しなければ、法人は設立1期目・2期目は基準期間がないため免税、3期目以降も基準期間の売上が1,000万円以下なら免税が続きます。個人のときと同じく、消費税を納めない状態のまま法人化できます。

登録すると、設立1期目から課税事業者です。新設法人の2年間の免税は、登録した時点で使えなくなります。

実質差額(法人−個人)1期目2期目3期目以降
法人で登録しない−27.3万円−17.3万円−17.3万円
法人で登録する−83.3万円−73.3万円−73.3万円

※ 設立費用10万円(1期目)と税理士報酬の増加20万円を差し引いた額

登録しなくても、このケースは法人化で年17.3万円の不利です。事業所得が損益分岐(1,266万円)に届いていないからです。そこに登録の負担が重なると、年73.3万円の不利まで開きます。

「法人化の損得」と「登録の損得」を分けて見る

上の数字を分解すると、次のようになります。

要因年額(3期目以降)
法人化そのもの(登録しない場合の実質差額)−17.3万円
インボイス登録による追加の負担−56.0万円
合計−73.3万円

納める消費税は89万円ですが、手取りで見た負担は56万円です。消費税を納めれば法人の利益が減り、その分の法人税や会社に残る額の評価が下がるためです。

ここで考えるべきなのは、大口の取引先との取引にいくらの価値があるかです。その取引で増える粗利が年56万円を上回るなら、登録してでも取る意味があります。下回るなら、法人化も登録も見送る選択肢があります。法人化そのものは年17.3万円の不利なので、登録を求められていなくても、この売上では急ぐ理由がありません。

インボイス登録と法人化の消費税の関係はインボイス登録済みなら法人化しても消費税の免税は受けられないで整理しています。

売上が1,000万円を超えると、話が変わる

売上を動かして、登録の有無による差を見ました。

年商法人で登録しない法人で登録する登録による差
950万円−17.3万円−73.3万円−56.0万円
1,200万円−13.2万円−13.2万円0万円
1,500万円+13.5万円+13.5万円0万円
1,800万円+36.6万円+36.6万円0万円

※ 3期目以降の実質差額。経費100万円・京都市・単身/2026年(令和8年)分基準

年商が1,000万円を超えると、個人のままでも消費税の課税事業者になります。3期目以降は法人も同じく課税されるので、登録してもしなくても差は消えます。登録の負担が法人化の判断を大きく動かすのは、年商1,000万円以下の人だけです。

ただし年商が1,000万円を超えていても、設立1〜2期目の免税は、登録しなければ使えて、登録すれば使えません。その差はインボイス未登録カメラマンの法人化試算事例で扱っています。

まとめ

  • 京都市・年商950万円のWeb制作者は、個人のままなら消費税を納めていない(年89万円が手元に残っている)
  • 法人化しても登録しなければ、3期目以降年17.3万円の不利。登録を求められると年73.3万円の不利になる
  • 差の56万円は、法人化ではなく登録から生じている。大口取引の価値と比べて判断する
  • 年商1,000万円を超える人は、3期目以降は登録の有無で差が出ない

判定ツールでは、個人と法人のインボイス登録を別々に指定できます。取引先の要望がある場合は「法人で登録する」に切り替えて、自分の売上と経費で確かめてください。

よくある質問

個人のままでもインボイス登録を求められたら、同じことになりますか?

なります。個人でも登録すれば課税事業者になり、年商1,000万円以下でも消費税を納めます。この記事の差は「法人化したこと」ではなく「登録したこと」から生じています。法人化と登録を同じ時期に決めると、両方の効果が混ざって見えにくくなります。

法人で登録したら、2割特例は使えますか?

2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間までの措置です。これから設立して登録する法人は使えません。簡易課税を選ぶと納める額は本則より小さくなる場合がありますが、届出の期限と2年間の継続が条件になります。

登録しないまま法人化すると、取引先に迷惑がかかりますか?

取引先は免税事業者からの仕入れについて、経過措置で一定割合の仕入税額控除を受けられます。その割合は令和8年10月1日から70%に下がっています。取引先の負担が増える分、値下げや登録を求められることがあります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。