法人化の判断

年商900万円の雑貨店の法人化試算事例。免税の個人は消費税で得しない

結論

福岡市の雑貨店(年商900万円・経費450万円・インボイス未登録)は、個人のままの手取りが384.9万円、法人化(役員報酬月36万円)で348.7万円です。個人のときから消費税が免税なので、新設法人の免税は上乗せになりません。税理士報酬の差を含め3期目以降は年56.2万円の不利です。

  • 年商1,000万円以下で免税の人は、個人でも法人でも消費税を納めない。法人化で増えるのは均等割・税理士報酬・社会保険料だけ
  • 年商1,100万円に伸びて課税事業者になる年に法人化しても、粗利が薄いと1期目−13.7万円・2期目−3.7万円で免税期間中も届かない
  • 法人化の損得を決めるのは年商ではなく売上から経費を引いた事業所得。このケースは450万円で、損益分岐の1,277万円から遠い

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

法人化のメリットとしてよく挙がる「設立から2年間は消費税が免除される」は、個人のときに消費税を納めている人にとってのメリットです。もともと免税の人には、上乗せされるものがありません。このケースで、その当たり前の話が数字ではどう出るかを確かめます。

このケースの条件

項目内容
職種雑貨店(実店舗とネットショップ。商品の多くは仕入れ、一部は自作)
年齢・家族36歳・独身
住所福岡市
年商(税抜)900万円
経費450万円(仕入れ・家賃・送料・決済手数料など)
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス未登録(客の大半が個人のため)
個人事業税の業種物品販売業(第1種・5%)

前々年の課税売上高が1,000万円以下なので、消費税は免税です。インボイスに登録していないので、免税のまま事業を続けられます。

個人事業主のまま:手取りは384.9万円

項目金額
事業所得(売上−経費+納めずに済んだ消費税)513.0万円
国民健康保険42.5万円
国民年金21.5万円
所得税(復興特別所得税を含む)18.6万円
住民税34.3万円
個人事業税11.2万円
手取り384.9万円

※ 福岡市・36歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス未登録・物品販売業5%/2026年(令和8年)分基準

売上と経費は税抜で入れています。免税事業者は、売上で受け取った消費税相当額を納めずに済みます。仕入れや経費で払った消費税を差し引くと、その額は年63.0万円で、事業所得に含めています。

法人化した場合:役員報酬は月36万円が上限

役員報酬を月5万〜100万円まで試すと、手取り合計が最大になったのは月36万円でした。月37万円以上にすると、会社の利益がマイナスになります。

項目金額
役員報酬(年額)432.0万円
社会保険料・本人負担61.9万円
所得税6.9万円
住民税19.9万円
個人に入る手取り343.3万円
社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む)63.4万円
法人の利益(税引前)17.6万円
法人税等(均等割を含む)10.8万円
会社に残る額6.8万円
手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上)348.7万円

※ 合同会社・資本金1,000万円未満・福岡県(協会けんぽ)・インボイス未登録/2026年(令和8年)分基準

法人も設立から2期は免税です。しかし個人のときも免税なので、消費税の63.0万円はどちらでも同じだけ手元に残ります。差を生まない項目です。

差を生んでいるのは社会保険料です。個人の国保+国民年金は64.0万円、法人の社会保険料は労使で125.3万円でした。61.3万円増えます。法人住民税の均等割は、福岡県の超過課税の上乗せがあるため、標準の7万円より1,000円高くなります。

1期目2期目3期目以降
手取りの差(法人−個人)−36.2万円−36.2万円−36.2万円
設立費用(合同会社)−10.0万円——
税理士報酬の増加−20.0万円−20.0万円−20.0万円
実質差額−66.2万円−56.2万円−56.2万円

免税の2年間も、3期目以降も同じ額の不利です。判定ツールの区分は「個人のまま有利」です。

年商が1,000万円を超えたら変わるか

よくある助言は「売上が1,000万円を超えたら、課税事業者になる前に法人化して2年の免税を取る」です。同じ粗利率(経費が売上の半分)のまま年商を伸ばして試しました。

年商経費個人の消費税1期目2期目3期目以降
900万円(このケース)450万円免税−66.2万円−56.2万円−56.2万円
1,100万円550万円課税(年77.0万円)−13.7万円−3.7万円−54.0万円
1,300万円650万円課税(年91.0万円)+5.8万円+15.8万円−41.6万円

※ 福岡市・36歳・独身・物品販売業5%・インボイス未登録。個人の消費税は、課税事業者になった後の本則課税の納税額

年商1,100万円で個人が課税事業者になってから法人化すると、免税の効果が年77.0万円出ます。それでも1期目・2期目ともマイナスです。年商1,300万円でようやく免税期間中だけプラスになり、3期目以降は年41.6万円の不利に戻ります。

物販は売上が大きくても、仕入れを引いた事業所得が小さくなりがちです。法人化の社会保険料と固定費は事業所得から払うので、年商が伸びても粗利が薄ければ届きません。免税の仕組みそのものは法人成りと消費税・インボイスにまとめています。

個人が課税事業者になるのは2年後

個人の消費税の納税義務は、前々年の課税売上高で判定します。2026年に年商が1,000万円を超えても、課税事業者になるのは2028年からです。超えた年にあわてて法人化する理由はありません。

インボイスに登録している人は別です。登録した時点で課税事業者になり、法人化しても免税にはなりません。免税が効くケースはインボイス未登録の出張カメラマンの試算事例で扱っています。

このケースで先に効くもの

事業所得450万円の帯では、法人化より先に、個人のままで使える制度のほうが手取りに効きます。

  • 小規模企業共済。掛金は全額が所得控除になる
  • iDeCo。個人事業主は掛金の上限が会社員より大きい
  • 青色申告の65万円控除を維持する。e-Taxと複式簿記が条件

節税の順番は個人事業主の節税は順番があるで整理しています。

まとめ

  • 福岡市・年商900万円・経費450万円の雑貨店は、個人のまま384.9万円、法人化で348.7万円
  • 個人のときから免税なので、新設法人の消費税免税は上乗せにならない。3期目以降も年56.2万円の不利
  • 差の大半は社会保険料の増加61.3万円。役員報酬は月36万円が上限で、会社にはほとんど残らない
  • 年商1,100万円で課税事業者になってから法人化しても、粗利が薄いと免税の2年間もマイナス
  • 判定を動かすのは年商ではなく事業所得。このケースの損益分岐は事業所得1,277万円

判定ツールでは、インボイスの登録有無と売上・経費を入れると、免税期間と3期目以降を分けて表示します。自分の数字で確かめてください。

よくある質問

年商が1,000万円を超えたら、すぐ法人化したほうがよいですか?

個人の消費税の納税義務は、前々年の課税売上高で判定します。1,000万円を超えた年の2年後から課税事業者になるため、超えた年にすぐ法人化する必要はありません。ただし免税期間だけで判断すると、このケースのように粗利が薄い事業は免税中でも法人化が届かないことがあります。

役員報酬が月36万円と低いのはなぜですか?

事業所得が450万円しかないためです。報酬を月37万円以上にすると会社にお金が残らず、赤字になります。月36万円で会社に残るのは6.8万円です。

雑貨の販売は個人事業税がかかりますか?

物品販売業は個人事業税の法定業種(第1種事業・5%)です。このケースでは事業主控除290万円を引いた残りにかかり、年11.2万円でした。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。