法人化の判断
株式会社で法人化したSESエンジニアの試算事例。千葉・年商1,400万円
結論
千葉市・31歳・独身のSESエンジニア(年商1,400万円・経費100万円)は、株式会社にすると1期目は設立費用25万円が乗って年20.9万円の不利、2期目以降は年4.1万円の有利です。合同会社なら1期目は年5.9万円の不利で、手取りの差は設立費用の15万円だけです。
- 株式会社か合同会社かで、法人税・社会保険料・最適な役員報酬(月54万円)は変わらない。差が出るのは設立と維持の費用
- 株式会社は決算公告の義務があり、官報に載せると年7万円台かかる。電子公告(自社サイト)なら掲載料はかからない
- 法人化そのものは損益分岐(事業所得1,260万円)を40万円上回る程度の僅差。売上が1割落ちると年10.1万円の不利になる
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
ほかの試算事例 法人化の試算事例35人を1つの表で比較。損益分岐を動かすのは家族・年齢・業種
この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。
法人化の理由が税金ではなく、取引先の要望というケースです。SES(システムエンジニアリングサービス)の案件で、契約先から「次の更新からは株式会社と契約したい」と言われた。費用の安い合同会社ではなく、株式会社を作ることになった。このとき、手取りはどう動くのかを見ます。
このケースの条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 職種 | SESエンジニア(常駐型の準委任契約、月額単価で請求) |
| 年齢・家族 | 31歳・独身 |
| 住所 | 千葉市 |
| 年商(税抜) | 1,400万円 |
| 経費 | 100万円(PC・書籍・通信費・交通費など) |
| 申告 | 青色申告(e-Tax・65万円控除) |
| インボイス | 登録済み |
| 個人事業税の業種 | 請負業として5%で計算 |
| 法人の形 | 株式会社(資本金1,000万円未満) |
事業所得(売上−経費)は1,300万円です。
個人事業主のまま:手取りは825.5万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 事業所得(売上−経費) | 1,300.0万円 |
| 国民健康保険 | 96.0万円 |
| 国民年金 | 21.5万円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む) | 198.8万円 |
| 住民税 | 107.7万円 |
| 個人事業税 | 50.5万円 |
| 手取り | 825.5万円 |
※ 千葉市・31歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・個人事業税5%/2026年(令和8年)分基準
株式会社にした場合:手取り合計は849.6万円
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 役員報酬(月54万円・年額) | 648.0万円 |
| 社会保険料・本人負担 | 89.9万円 |
| 所得税 | 18.7万円 |
| 住民税 | 34.4万円 |
| 個人に入る手取り | 505.1万円 |
| 社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む) | 92.2万円 |
| 法人の利益(税引前) | 559.8万円 |
| 法人税等(均等割7万円を含む) | 129.1万円 |
| 会社に残る額 | 430.7万円 |
| 手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上) | 849.6万円 |
※ 株式会社・千葉県(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準
この表は、合同会社で計算しても1円も変わりません。法人税・法人住民税・法人事業税・社会保険料は、会社の形ではなく利益と報酬で決まるからです。法人住民税の均等割も、資本金等と従業者数で決まるので、どちらも年7万円です。
株式会社と合同会社の差は、設立と維持の費用
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 手取りの差(法人−個人) | +24.1万円 | +24.1万円 |
| 設立費用(1期目のみ) | −25.0万円 | −10.0万円 |
| 税理士報酬の増加(毎年) | −20.0万円 | −20.0万円 |
| 1期目の実質差額 | −20.9万円 | −5.9万円 |
| 2期目以降の実質差額 | +4.1万円 | +4.1万円 |
※ 設立費用は判定ツールの前提値。株式会社は登録免許税15万円と定款認証の手数料など、合同会社は登録免許税6万円と実費
株式会社は、登録免許税が最低15万円(合同会社は最低6万円)で、公証役場での定款認証も必要です。その差が1期目の15万円です。設立費用の内訳は合同会社と株式会社の設立費用の差で詳しく比べています。
株式会社だけにかかる毎年の費用
判定ツールの試算には入っていませんが、株式会社には維持の費用もあります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 決算公告 | 義務(官報なら年7万円台、電子公告なら掲載料なし) | 義務なし |
| 役員の任期 | あり(株式に譲渡制限があれば定款で最長10年まで延長可) | なし |
| 任期満了の登記 | 再任でも必要(登録免許税1万円) | 不要 |
決算公告を官報に載せると、毎年の固定費が7万円台増え、2期目以降の+4.1万円は消えます。電子公告を選ぶなど費用を抑える方法は株式会社の決算公告にまとめています。任期と変更登記は役員変更登記と任期の期限で扱っています。
法人化そのものは僅差
形の話を外すと、このケースの法人化は損益分岐(事業所得1,260万円)をわずかに上回るだけです。
| 年商 | 事業所得 | 実質差額(2期目以降) |
|---|---|---|
| 1,260万円(−10%) | 1,160万円 | −10.1万円 |
| 1,400万円(このケース) | 1,300万円 | +4.1万円 |
| 1,540万円(+10%) | 1,440万円 | +18.3万円 |
SESは月額単価×稼働月で売上が決まります。案件の切れ目で1〜2か月の空白ができれば、売上は1割前後落ちます。その年は法人化が不利になります。
取引先の要望で法人化するなら、判定の問いは「法人化で得をするか」ではなく「この取引を続けるために、年数万〜十数万円の差を受け入れるか」です。会社設立の手順全体は会社設立の手続きにまとめています。
まとめ
- 千葉市・年商1,400万円・31歳のSESエンジニアは、株式会社にすると1期目は年20.9万円の不利、2期目以降は年4.1万円の有利
- 株式会社と合同会社で、法人税・社会保険料・最適報酬は変わらない。差は設立費用の15万円と維持費
- 株式会社は決算公告が義務。官報に載せると2期目以降の有利分がほぼ消える
- 法人化そのものは損益分岐をわずかに上回る程度で、売上が1割落ちる年は不利になる
取引先が求めているのが「株式会社」なのか「法人」なのかを確かめてから、判定ツールで法人形態を切り替えて試してください。
よくある質問
SESの契約で株式会社を求められるのはなぜですか?
取引先の社内規程で、取引先の登録に法人格や会社の形態を条件にしていることがあります。合同会社でよいかは取引先ごとに違うので、設立前に確認するのが確実です。
合同会社で作って、後から株式会社に変えることはできますか?
できます。組織変更の手続きで、資本金2,000万円以下なら登録免許税は計6万円、これに官報公告の費用が加わります。最初から株式会社を作る場合と比べて、合計の実費はほぼ変わりません。
株式会社の役員の任期が切れるとどうなりますか?
任期が満了したら、同じ人が再任されても役員変更の登記が必要です。資本金1億円以下の会社なら登録免許税は1件1万円です。株式に譲渡制限がある会社なら、定款で任期を最長10年まで延ばせます。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。