法人化の判断

一人建築設計事務所の法人化試算事例。堺・年商1,600万円で年6万円の差

結論

堺市・45歳の一級建築士(年商1,600万円・経費400万円、無収入の妻と16歳以上の子1人)は、個人のままの手取りが767.2万円、法人化(役員報酬月54万円)で793.5万円です。税理士報酬の差を含め3期目以降は年6.3万円の有利、1期目は設立費用と事務所登録の手数料2.4万円で年6.1万円の不利です。

  • 建築士事務所の登録は法人に引き継げない。個人は廃業届を出し、法人が新規に登録を受ける。大阪府の一級建築士事務所の手数料は2万4,000円
  • 一人事務所では、個人の廃業から法人の登録までの間、設計・工事監理の契約を結べない。切り替えの時期は工程の切れ目に合わせる必要がある
  • 妻がいるので損益分岐は事業所得1,016万円。このケースは1,200万円で上回るが、売上が1割落ちると差はほぼゼロになる

この記事は、実在の人物ではなく、条件を設定したモデルケースを当サイトの計算エンジンで試算したものです。

設計事務所の法人化は、税金の計算だけでは終わりません。建築士事務所の登録は個人から法人へ移せず、取り直しになるからです。このケースでは、手取りの差が小さいぶん、その手続きのほうが判断を左右します。

このケースの条件

項目内容
職種一級建築士事務所(住宅・小規模店舗の設計と工事監理。所員なし)
年齢・家族45歳・妻(無収入)・子1人(高校2年生)
住所堺市
年商(税抜)1,600万円
経費400万円(設計ソフト・構造設計の外注・交通費・事務所の按分など)
申告青色申告(e-Tax・65万円控除)
インボイス登録済み
個人事業税の業種設計監督者業(第3種・5%)

事業所得(売上−経費)は1,200万円です。

個人事業主のまま:手取りは767.2万円

項目金額
事業所得(売上−経費)1,200.0万円
国民健康保険(3人・介護分を含む)112.0万円
国民年金(本人+妻)43.0万円
所得税(配偶者控除・扶養控除あり)141.7万円
住民税90.6万円
個人事業税45.5万円
手取り767.2万円

※ 堺市・45歳・妻(無収入)・16歳以上の子1人・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・設計監督者業5%/2026年(令和8年)分基準

国保は4区分とも賦課限度額に達しています。妻の国民年金21.5万円もかかっています。

法人化した場合:手取り合計は793.5万円

項目金額
役員報酬(月54万円・年額)648.0万円
社会保険料・本人負担(介護保険料を含む)96.3万円
所得税(配偶者控除・扶養控除あり)10.3万円
住民税27.2万円
個人に入る手取り514.3万円
社会保険料・会社負担(子ども・子育て拠出金を含む)98.6万円
法人の利益(税引前)453.4万円
法人税等(均等割7万円を含む)104.5万円
会社に残る額349.0万円
手取り合計(会社に残る額は2割引いて計上)793.5万円

※ 合同会社・大阪府(協会けんぽ)・役員報酬は手取り合計が最大になる額/2026年(令和8年)分基準

1期目・2期目・3期目以降の実質差額

1期目2期目3期目以降
手取りの差(法人−個人)+26.3万円+26.3万円+26.3万円
設立費用(合同会社)−10.0万円——
税理士報酬の増加−20.0万円−20.0万円−20.0万円
建築士事務所の新規登録手数料(大阪府・一級)−2.4万円——
実質差額−6.1万円+6.3万円+6.3万円

※ 登録手数料は判定ツールに入っていないため、ここで別に差し引いた

2期目以降は法人化が年6.3万円有利です。判定ツールの区分では「ほぼ互角」に入ります。損益分岐は事業所得1,016万円で、妻がいる効果で独身より下がっています。

建築士事務所の登録は取り直し

建築士事務所の登録は、開設者ごとに受けるものです。個人で受けた登録を、法人の名義に変更する手続きはありません。法人成りでは、個人は廃業の届出をし、法人が新たに登録を受けます。大阪府の一級建築士事務所の登録手数料は2万4,000円です。

費用より効くのは順序です。1人の建築士は、2つの事務所の管理建築士を兼ねられません。所員のいない一人事務所では、個人の事務所を廃業してから法人の事務所が登録されるまで、設計や工事監理の契約を結べない期間が生まれます。手続きの詳細と、都道府県ごとの手数料は建築士事務所の法人成りで扱っています。

切り替えの時期をどう選ぶか

確認すること理由
進行中の設計契約・監理契約個人で結んだ契約を最後まで個人で履行するか、発注者の同意を得て法人に移すかを決める
確認申請の予定申請書に記載する建築士事務所の名称・登録番号が変わる
登録までの日数都道府県の受付から登録までの日数を見込み、空白の期間を工程の切れ目に置く

売上が上下すると

年商事業所得実質差額(2期目以降)
1,440万円(−10%)1,040万円+0.4万円
1,600万円(このケース)1,200万円+6.3万円
1,760万円(+10%)1,360万円+20.5万円

設計事務所の売上は、大型の案件が入る年と入らない年で動きます。1割落ちる年は差がほぼゼロです。数字だけなら「どちらでも大差ない」水準で、登録の取り直しや契約の切り替えの手間を含めて判断することになります。法人化の判断全体は個人事業主の法人化の目安で整理しています。

まとめ

  • 堺市・年商1,600万円・妻子ありの一級建築士は、個人のまま767.2万円、法人化で793.5万円
  • 2期目以降は年6.3万円の有利。1期目は設立費用と登録手数料で年6.1万円の不利
  • 建築士事務所の登録は法人に移せず、廃業と新規登録になる。大阪府の一級の手数料は2万4,000円
  • 一人事務所は切り替えの間、設計・監理の契約を結べない。進行中の案件と工程を見て時期を決める
  • 売上が1割落ちる年は差がほぼゼロ。手続きの負担と合わせて判断する水準

判定ツールで家族構成と売上を入れると、自分の条件での差が分かります。

よくある質問

建築設計は個人事業税がかかりますか?

設計監督者業として個人事業税の法定業種(第3種事業・5%)に入っています。このケースでは事業主控除290万円を引いた残りにかかり、年45.5万円でした。法人化するとこの税はなくなり、代わりに法人事業税がかかります。

法人成りの前に結んだ設計契約はどうなりますか?

個人として結んだ契約は、個人の事業として最後まで履行するか、発注者の同意を得て法人に引き継ぐかを決める必要があります。建築士事務所の登録が切り替わる時期と重なるため、進行中の案件がある時期の法人成りは手順を慎重に組む必要があります。

子どもが大学生になると変わりますか?

19〜22歳の子は特定扶養親族になり、扶養控除が大きくなります。個人のままでも所得税・住民税が下がるため、法人化の有利幅は小さくなる方向に動きます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。