設立の手続き
建築士事務所の法人成りは廃業届と新規登録。手数料は2.4万円前後
結論
建築士事務所の登録は開設者ごとに受けるもので、個人の登録を法人へ変更する手続きはありません。個人は廃業届(30日以内)を出し、法人が新規登録を受け直します。手数料は都道府県の条例で決まり、一級建築士事務所で東京都2万3,500円、大阪府2万4,000円、千葉県・埼玉県2万2,000円です。費用より効くのは順序で、1人の建築士は2つの事務所の管理建築士になれないため、一人事務所では個人の廃業から法人の登録までの間、設計・工事監理を受けられません。
- 東京都は、個人開設から法人開設に変わる場合は従前の登録を廃業して新規に登録し直すよう案内しており、新規登録は受理後5日から10日程度かかる
- 大阪府は令和7年7月から一級を1万8,000円→2万4,000円、二級・木造を1万2,000円→2万4,000円に改定。千葉県・埼玉県も同年4月に改定した
- 売上1,500万円・経費300万円(東京23区)では2年目以降の実質差額が年−4.3万円、初年度は設立費用と登録手数料を引いて−16.7万円。損益分岐の事業所得は1,243万円
建築士事務所の法人成りで手間がかかるのは、書類よりも切り替えの日をいつにするかです。管理建築士は1つの事務所にしか置けません。建築士が社長1人の事務所では、個人と法人の登録を同時に持てず、どちらの登録もない期間ができます。
この記事では、登録の仕組みを条文と登録機関の手引きで確認し、手数料が初年度の実質差額をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。同じ型の宅建業は宅建業の法人成りは免許の取り直し、旅行業は旅行業の法人成りは新規登録で扱っています。建築士事務所には営業保証金や基準資産額がないため、論点はお金の預け直しではなく、空白期間と事務所の要件です。
開設者は変更できず、廃業届と新規登録になる
建築士法23条1項は、建築士またはこれを使用する者が、他人の求めに応じ報酬を得て設計等を業として行うときは、事務所を定めて都道府県知事の登録を受けなければならないと定めています。設計等には、設計・工事監理のほか、建築工事契約に関する事務、調査・鑑定、確認申請などの手続の代理が含まれます。有効期間は5年です(同条2項)。
登録申請書には、申請者が個人なら氏名、法人なら名称と役員の氏名を書きます(23条の2第3号)。変更届(23条の5)で直せるのは、登録を受けた開設者の登録事項です。建築士法には、建築士事務所の登録を別の者へ承継させる規定がありません。
東京都建築士事務所協会の手引きは、この点をはっきり書いています。個人事業の事務所は開設者を変更できず(氏名の変更を除く)、個人開設から法人開設に変わる場合は、従前の登録を廃業して新規に登録し直す扱いです。
| 個人(廃業する側) | 法人(新規に受ける側) | |
|---|---|---|
| 手続き | 廃業等の届出(23条の7) | 新規登録の申請(23条の2) |
| 期限・期間 | 業務を廃止した日から30日以内 | 東京都は受理後5日から10日程度で登録 |
| 費用 | なし | 都道府県の条例で定める手数料 |
| 登録番号・有効期間 | 登録は抹消(23条の8) | 新しい番号、有効期間5年は法人の登録日から |
登録の事務は、多くの都道府県で建築士事務所協会が指定事務所登録機関として行っています(26条の3)。手数料は都道府県が条例で定め、指定事務所登録機関に納めさせることができます(26条の4第2項)。
手数料は2万円台。2025年に各地で引き上げられた
新規登録の手数料は全国一律ではありません。主な都道府県の公表値は次のとおりです。
| 都道府県 | 一級建築士事務所 | 二級・木造建築士事務所 | 改定前(一級/二級・木造) |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 23,500円 | 22,200円 | — |
| 大阪府 | 24,000円 | 24,000円 | 18,000円/12,000円(令和7年7月1日から改定) |
| 千葉県 | 22,000円 | 20,000円 | 16,000円/11,000円(令和7年4月1日受付分から改定) |
| 埼玉県 | 22,000円 | 20,000円 | — |
※ scripts/kenchikushi-jimusho-houjinnari.mjs で再生成。各都道府県と東京都建築士事務所協会の公表値。東京都・埼玉県の改定前の額は公式ページで確認できなかったため載せていない
大阪府は二級・木造の手数料が2倍になり、一級と同額になりました。千葉県の二級・木造も1万1,000円から2万円へ上がっています。数年前の解説記事の金額は当てになりません。申請する年の金額を登録機関で確かめてください。
手数料は新規も更新も同じ額です。5年ごとの更新は個人のままでも払うので、法人成りで増えるのは、更新時期の前に登録し直す1回分です。個人の登録に残っていた有効期間は法人に移らず、法人は登録の日から新たに5年を数えます。
一人事務所は、個人と法人の登録を並べられない
宅建業や旅行業と同じく、建築士事務所にも「専任」の人の要件があります。建築士事務所の開設者は、事務所ごとに専任の管理建築士を置かなければなりません(24条1項)。管理建築士の要件を欠く者は登録を拒否されます(23条の4第1項10号)。
管理建築士になれるのは、建築士として3年以上の設計等の業務に従事した後、登録講習機関の管理建築士講習を修了した建築士です(24条2項、施行規則20条の4)。個人で管理建築士をしてきた本人なら、法人でもこの要件はそのまま満たします。
問題は兼任です。東京都の手引きは、1人の建築士が複数の建築士事務所の管理建築士になることはできず、他の事務所に管理建築士として登録されている建築士は、原則として新しい事務所の所属建築士名簿に載せられないとしています。建築士が社長1人の事務所では、次の順序になります。
- 法人を設立する(定款の目的に設計・工事監理を入れておく)
- 個人の事務所の業務を廃止し、廃業届を出す
- 法人で新規登録を申請する(東京都は受理後5日から10日程度)
- 登録の通知を受けてから、法人で設計等の契約を結ぶ
2から4までの間は、個人にも法人にも登録がありません。建築士は、登録を受けないで他人の求めに応じ報酬を得て設計等を業として行ってはならないとされています(23条の10)。この期間は設計・工事監理の新しい受託ができません。
3の申請では、管理建築士が前職を辞めて6か月以内なら、東京都は前職場の退職証明の写しを求めています。前職が個人事業だった場合は、直前期の確定申告書(第一面・第二面)の写しで代えます。法人成りした本人はこちらに当たります。
管理建築士の要件を満たす建築士がもう1人いれば、その人を法人の管理建築士にして先に登録を受け、空白をなくす方法があります。社長本人が個人の管理建築士を続けている間でも、法人の管理建築士は別の人なので兼任の問題は起きません。
進行中の設計・監理契約は、切り替え日の前に整理する
建築士法には、宅建業法76条のような「廃業後も契約の結了の範囲で業者とみなす」規定がありません。また、委託者の許諾があっても、受託した設計・工事監理を建築士事務所の開設者以外に委託することはできません(24条の3第1項)。廃業した個人は開設者ではなくなります。
工事監理のように期間の長い業務が残っているなら、個人で終えてから廃業するか、建築主の承諾を得て法人に契約を移すかを、切り替え日の前に決めておく必要があります。法人が建築主と設計受託契約・工事監理受託契約を新たに結ぶ場合は、締結前に管理建築士等による重要事項の説明と書面の交付が必要です(24条の7)。契約上の地位の移転そのものは民法の話で、法人成りで取引先との契約は移らないで扱っています。
法人で新規登録するときに引っかかりやすい3点
新設の法人は、登記を済ませただけでは登録に進めないことがあります。東京都の手引きから、法人成りの場面で特に効くものを挙げます。
| 項目 | 東京都の手引きの扱い |
|---|---|
| 定款の目的 | 「建築物の設計・工事監理」などの記載が必要。なければ目的を変更して登記してから申請 |
| 事務所の使用権 | 登記上の所在地と違う場合は賃貸借契約書等が必要。賃借人が法人になっているかを確認される。バーチャルオフィスでは登録できない |
| 決算期の確認 | 最初の決算期が来ていない法人は、法人設立届の写しを提出 |
定款の目的は、設立時に入れ忘れると変更登記の登録免許税3万円がかかります(商号変更の登記は3万円と同じ区分)。自宅兼事務所の場合も注意が要ります。代表者個人が所有する建物を事務所にするなら、個人から法人への使用承諾書か賃貸借契約書が必要です。賃貸物件なら、借主を個人から法人へ切り替える交渉が登録の前提になります。
事務所の名称は、東京都では法人名の前後に「一級建築士事務所」などを入れるよう求めています。標識(24条の5)や名刺、契約書のひな形も、法人の名称に合わせて作り直すことになります。
帳簿・図書の保存と業務報告書は、開設者ごとに分かれる
開設者は業務に関する帳簿を備え、事業年度の末日で閉鎖し、閉鎖の翌日から15年間保存します。設計図書や工事監理報告書などの図書も、作成した日から15年間です(24条の4、施行規則21条)。
また開設者は、事業年度ごとに設計等の業務に関する報告書を作成し、事業年度経過後3か月以内に提出します(23条の6)。法人の事業年度は定款で決めた決算期で区切られます。報告書の提出時期は、法人の決算期から3か月以内に変わります。個人時代の最後の期間分の報告を含め、提出時期は登録機関に確認してください。
登録の手数料が、初年度の差額と損益分岐をどれだけ動かすか
建築士の個人事業は、個人事業税の法定業種のうち第3種の「設計監督者業」に当たり、税率は5%です(東京都主税局)。法人化すると個人事業税はなくなり、代わりに法人事業税が計算に入ります。設計事務所は仕入が少ないため、経費300万円で計算しました。
| 売上 | 売上−経費 | 個人事業税(設計監督者業5%) | 最適な役員報酬(月額) | 2年目以降 | 初年度(設立費用のみ) | 初年度(+登録手数料) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 900万円 | 600万円 | 15.5万円 | 42.0万円 | −34.0万円 | −44.0万円 | −46.4万円 |
| 1,100万円 | 800万円 | 25.5万円 | 45.0万円 | −18.9万円 | −28.9万円 | −31.3万円 |
| 1,300万円 | 1,000万円 | 35.5万円 | 45.0万円 | −10.0万円 | −20.0万円 | −22.3万円 |
| 1,500万円 | 1,200万円 | 45.5万円 | 54.0万円 | −4.3万円 | −14.3万円 | −16.7万円 |
| 1,600万円 | 1,300万円 | 50.5万円 | 54.0万円 | +5.8万円 | −4.2万円 | −6.5万円 |
| 2,000万円 | 1,700万円 | 70.5万円 | 54.0万円 | +37.6万円 | +27.6万円 | +25.3万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(scripts/kenchikushi-jimusho-houjinnari.mjs で再生成)で算出。東京23区、単身・40〜64歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社(設立費用10万円)、個人事業税は設計監督者業(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円の前提。登録手数料は東京都の一級建築士事務所2万3,500円。2026年(令和8年)分基準の概算
同じ条件で、法人化の差がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。
| 固定費の前提 | 損益分岐の事業所得 |
|---|---|
| 2年目以降(税理士報酬の差のみ) | 1,243万円 |
| 初年度:設立費用10万円 | 1,341万円 |
| 初年度:設立費用+新規登録の手数料 | 1,365万円 |
手数料2万3,500円が損益分岐を動かすのは24万円分です。設立費用10万円の98万円と比べれば小さく、登録の手数料そのものは法人成りの判断をほとんど左右しません。
数字に表れない費用のほうが大きくなり得ます。空白期間に受けられなかった業務、定款の目的を入れ忘れた場合の変更登記、事務所の賃貸借契約の切り替えです。売上1,500万円の事務所では、2年目以降も年4.3万円のマイナスです。自分の売上と経費を入れて、判定ツールで確かめてください。法人化そのものの費用は法人化にかかる費用、業種ごとの個人事業税は個人事業税がかからない業種があるにまとめています。
まとめ
- 建築士事務所の開設者は変更できない。法人成りでは、個人が30日以内に廃業届を出し、法人が新規登録を受ける。登録番号も有効期間5年も新しくなる
- 新規登録の手数料は一級で東京都2万3,500円、大阪府2万4,000円、千葉県・埼玉県2万2,000円。2025年に大阪府・千葉県・埼玉県で引き上げられた
- 1人の建築士は2つの事務所の管理建築士になれない。一人事務所では、個人の廃業から法人の登録までの間は設計等を受託できない
- 廃業後の契約の結了を認める規定はなく、開設者以外への再委託もできない。進行中の工事監理は切り替え日の前に整理する
- 東京23区・経費300万円の条件で、損益分岐の事業所得は2年目以降1,243万円。登録手数料が動かすのは初年度の24万円分
よくある質問
個人の建築士事務所の開設者を、変更届で法人に変えられますか。
できません。建築士法の変更届(23条の5)は登録事項の変更を届け出るもので、東京都建築士事務所協会の手引きも、個人事業の事務所は開設者を変更できず、個人開設から法人開設に変わる場合は廃業して新規に登録し直すよう案内しています。
法人成りしても、建築士事務所の登録番号や有効期間を引き継げますか。
引き継げません。法人は新規登録を受けた別の建築士事務所として新しい登録番号になり、有効期間5年も法人の登録の日から数えます(建築士法23条2項)。個人の登録の残り期間は法人に移りません。
設立したばかりで決算を迎えていない法人でも登録を申請できますか。
できます。東京都の手引きは、決算期を確認する資料として法人都民税・法人事業税の領収証書などを求めていますが、最初の決算期が来ていない法人は法人設立届の写しを出すよう案内しています。
出典
- e-Gov法令検索 建築士法 第23条(登録)・第23条の2〜第23条の10・第24条(建築士事務所の管理)・第24条の3(再委託の制限)・第24条の4(帳簿・図書の保存)・第24条の7(重要事項の説明)・第26条の3・第26条の4(指定事務所登録機関・手数料)
- e-Gov法令検索 建築士法施行規則 第18条・第19条(添付書類)・第20条の3(業務報告書)・第20条の4(管理建築士の業務要件)・第21条(帳簿・図書の保存期間)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第24号(一)ツ(登記事項の変更の登記)
- 東京都建築士事務所協会 建築士事務所登録申請と変更等の手引き(令和8年8月)
- 大阪府 建築士事務所の登録(新規・更新)手数料改正について
- 大阪府 設計等の業務に関する報告書について
- 千葉県 建築士事務所の登録等(手数料の改定)
- 埼玉県 建築士事務所登録申請手数料改定について
- 東京都主税局 個人事業税(法定業種と税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。