設立の手続き

旅行業の法人成りは新規登録。営業保証金は承継できても分担金は不可

結論

旅行業の登録は個人に与えられたもので、法人成りでは法人が新規に登録を受け直します(第2種・第3種・地域限定は都道府県知事、大阪府の手数料は2万600円。第1種は登録免許税9万円)。法人は基準資産額(第3種300万円)に加えて営業保証金か分担金を差し引いても足りる純資産が要ります。供託した営業保証金は事業の全部譲渡なら16条で法人へ承継できますが、旅行業協会の分担金に承継の仕組みはなく、個人の分は6か月以上の公告の後に返還されます。

  • 第3種・協会加入の法人は、基準資産額300万円+分担金60万円+設立費用10万円で純資産370万円が目安。個人分の返還までは分担金が計120万円になる
  • 営業保証金の承継は、個人の登録抹消から6か月以内に法人が登録を受け、承継の届出をするのが条件(旅行業法16条)
  • 売上2,500万円・経費1,000万円(大阪市)では2年目以降の実質差額が年+24.3万円、初年度は設立費用と知事登録の手数料を引いて+12.3万円

旅行業の法人成りで最初に決めるべきなのは、営業保証金で行くか、旅行業協会に入るかです。普段は分担金のほうが5分の1で済みますが、法人成りの場面では、法律上の扱いが逆になります。供託した営業保証金には法人へ承継する条文があり、分担金にはありません。

この記事では、登録と保証の仕組みを条文で確認し、法人に必要な純資産と、登録の実費が実質差額をどれだけ動かすかを計算エンジンで出します。同じ型の宅建業は宅建業の法人成りは免許の取り直し、古物商・建設業・飲食店は法人成りで許認可は引き継げるかで扱っています。

旅行業の登録は法人へ移らず、法人で新規登録を受ける

旅行業法3条は、旅行業を営もうとする者は観光庁長官の登録を受けなければならないと定めています。実際の登録先は業務の範囲で分かれ、第2種・第3種・地域限定は主たる営業所の所在地の都道府県知事です(施行令5条、施行規則1条の2)。

種別業務の範囲(施行規則1条の3)登録先新規登録の実費
第1種すべての旅行業務観光庁長官登録免許税9万円
第2種海外の募集型企画旅行を除く都道府県知事都道府県の手数料
第3種募集型企画旅行は拠点区域内のみ都道府県知事都道府県の手数料
地域限定企画旅行・手配とも拠点区域内のみ都道府県知事都道府県の手数料

拠点区域は、営業所のある市町村、その隣接市町村、観光庁長官の定める区域です。第1種の9万円は登録免許税法別表第一の142号(一)によります。知事登録の手数料は全国一律の標準額がなく、都道府県の条例で決まります。大阪府は2万600円、愛知県は1万9,000円、京都府は2万3,560円です。

旅行業法が登録の引継ぎを認めているのは、相続人が死亡後60日以内に登録を申請した場合の営業継続だけです(15条4項)。個人から法人への引継ぎの規定はありません。個人は事業の廃止または全部譲渡から30日以内に届け出て(15条1項)、登録は抹消されます(20条1項)。法人は新しい登録番号で、有効期間5年(6条の2)も法人の登録の日から始まります。

法人に必要な純資産は「基準資産額+保証の額」

登録の拒否事由の1つが、財産的基礎を持たないことです(6条1項10号)。施行規則3条は、基準資産額を第1種3,000万円、第2種700万円、第3種300万円、地域限定100万円と定めています。

見落としやすいのは計算方法です。施行規則4条は、基準資産額を「資産の総額から負債の総額と営業保証金の額を差し引いた額」としています。協会の保証社員になることが確実なら、営業保証金の代わりに分担金の額を差し引きます。創業費などの繰延資産と営業権は、資産に数えません。

つまり保証に充てる額は、基準資産額とは別に要ります。設立費用を資本金から払うと、その分も純資産から減ります。

種別基準資産額協会加入の法人の純資産の目安供託する法人の純資産の目安
第2種700万円930万円1,810万円
第3種300万円370万円610万円
地域限定100万円113万円125万円

※ scripts/ryokogyo-houjinnari-touroku.mjs で再生成。目安=基準資産額+分担金(または営業保証金)+合同会社の設立費用10万円。年間取引額400万円未満の区分で計算。分担金は愛知県の案内にある額(第2種220万円・第3種60万円・地域限定3万円)

営業保証金の額は、前事業年度の旅行者との取引額で決まります(8条1項、施行規則別表第一)。新規登録の年は、申請書に書いた年間取引見込額を使います(施行規則6条の2)。第3種は取引額2億円未満なら300万円ですが、2億円以上4億円未満では450万円です。個人時代の実績で見込額を書くと、表の区分より上になることがあります。

新設の法人は決算書がありません。京都府は、決算期を迎えていない法人は登記事項で基準資産を確認し、確認できなければ別途書類を求めるとしています。資本金の額をいくらにするかが、登録の可否に直結します。資本金の決め方全般は法人化の資本金は1,000万円未満?にまとめています。

営業保証金は承継できるが、分担金は二重に預ける

ここが宅建業と違うところです。宅建業の法人成りでは法人が保証を一から積み直しますが、旅行業法には営業保証金を事業の譲受人へ承継させる16条があります。

供託した営業保証金は、16条で法人のものとみなされる

旅行業者が事業の全部を譲渡して登録が抹消された場合、その日から6か月以内に譲受人が旅行業の登録を受け、営業保証金の権利を承継した旨を届け出れば、その営業保証金は譲受人が供託したものとみなされます(16条1項)。この届出は、事業開始の前提になる供託の届出(7条2項)とみなされます(16条3項)。

大阪府は、事業の全部譲渡の場合の登録抹消日を譲渡日とし、承継の届出には供託書の写しと、権利を承継した事実を証明する書類を求めています。法人成りを事業の全部譲渡の形で行えば、個人が積んだ300万円を取り戻して積み直す必要はありません。

ただし条文の順序は「個人の登録が抹消された後に、法人が登録を受ける」です。譲渡日に個人の登録は抹消されるので、法人の登録と承継の届出が済むまで、どちらも営業できない期間が生まれます。愛知県は、申請から保証の届出までおよそ2週間と案内しています。

協会の分担金には承継の仕組みがない

大阪府は、旅行業協会へ納付した分担金には権利の承継はないと明記しています。法人は協会に加入しようとする日までに分担金を納めます(49条1項1号)。

個人の分担金は、社員の地位を失った後に返還されます。ただし協会は、個人と取引した旅行者に向けて6か月を下らない期間の公告をし、その期間が過ぎるまで返還しません(51条4項・5項)。

種別法人の分担金個人の分担金返還までの合計
第2種220万円220万円440万円
第3種60万円60万円120万円
地域限定3万円3万円6万円

協会加入の場合、新たに用意する現金は営業保証金の承継よりずっと少なく済みます。第3種なら、供託300万円に対して分担金60万円です。ただし半年以上は個人と法人の分が並びます。入会金や年会費は協会ごとの定めで法令の金額ではないため、ここでは数字を出しません。

旅行業務取扱管理者は、個人と法人の営業所を兼ねられない

旅行業者は営業所ごとに1人以上の旅行業務取扱管理者を選任します。従業者が1人の営業所でも同じです(11条の2第1項・3項)。管理者は他の営業所の管理者になれません(同条4項)。

社長本人が管理者の場合、法人の役員のまま管理者になれます。問題は移行の期間です。個人の営業所と法人の営業所は別の旅行業者の営業所なので、同じ人を両方の管理者に選任することはできない読み方になります。管理者が全員欠けた営業所は、新たに選任するまで旅行業務の契約を結べません(同条2項)。

営業保証金の承継を使う場合は、個人の登録が先に抹消されるため、この問題は空白期間に吸収されます。協会加入で法人の登録を先に受ける場合は、管理者の資格を持つ人がもう1人いるかどうかで、個人の営業を止める日が決まります。申請前に登録行政庁へ順序を確認してください。

すでに受注している旅行の契約を個人から法人へ移すかどうかは、旅行業法とは別の話です。民法上の契約上の地位の移転は法人成りで取引先との契約は移らないで扱っています。

登録の実費が、初年度の差額と損益分岐をどれだけ動かすか

旅行業は売上に宿泊や運送の仕入が含まれるため、売上が大きく見えても所得は小さくなりがちです。ここでは経費1,000万円で計算しました。

売上売上−経費個人事業税(5%の場合)2年目以降初年度(設立費用のみ)初年度(+知事登録)初年度(+第1種)
1,800万円800万円25.5万円−11.9万円−21.9万円−24.0万円−30.9万円
2,000万円1,000万円35.5万円−11.6万円−21.6万円−23.7万円−30.6万円
2,200万円1,200万円45.5万円−6.1万円−16.1万円−18.2万円−25.1万円
2,500万円1,500万円60.5万円+24.3万円+14.3万円+12.3万円+5.3万円
3,000万円2,000万円85.5万円+63.3万円+53.3万円+51.2万円+44.3万円

※ 当サイトの計算エンジン(scripts/ryokogyo-houjinnari-touroku.mjs で再生成)で算出。大阪市、単身・40〜64歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社(設立費用10万円)、個人事業税は第1種(5%)。法人の税理士報酬年35万円・個人15万円の前提。知事登録は大阪府の2万600円、第1種は登録免許税9万円。分担金・営業保証金は戻る預け金のため含めない。2026年(令和8年)分基準の概算

同じ条件で、法人化の差がプラスに転じる事業所得(青色申告特別控除前)は次のとおりです。

固定費の前提損益分岐の事業所得
2年目以降(税理士報酬の差のみ)1,261万円
初年度:設立費用10万円1,359万円
初年度:設立費用+知事登録1,379万円
初年度:設立費用+第1種1,448万円
参考:2年目以降・個人事業税がかからない場合2,337万円

個人事業税の扱いで、損益分岐は1,076万円動く

最後の行が、旅行業で確かめておきたい点です。個人事業税は法定業種にだけかかります。東京都主税局が示す法定業種の一覧に、「旅行業」という名前の業種はありません。どの業種に当たるかは、都道府県が事業の実態で判断します。

第1種事業(5%)として課税される場合、法人化すればこの税はなくなるので、損益分岐は1,261万円です。課税されない場合は法人化で消える税がない分、損益分岐は2,337万円まで上がります。自分が個人事業税を納めているかは、都道府県から届く納税通知書で確かめられます。業種の区分の詳細は個人事業税がかからない業種があるを参照してください。

登録の実費は一度きりで、5年ごとの更新は個人のままでも同じようにかかります。法人成りで増えるのは初年度の登録し直しの分だけです。自分の売上と経費、個人事業税の有無を入れて判定ツールで確かめてください。法人化そのものの費用は法人化にかかる費用にまとめています。

まとめ

  • 旅行業法には登録を法人へ移す規定がなく、法人が新規登録を受ける。実費は知事登録が都道府県の手数料(大阪府2万600円)、第1種が登録免許税9万円
  • 基準資産額は営業保証金(協会加入なら分担金)を差し引いて計算する。第3種・協会加入の法人は純資産370万円、供託なら610万円が目安
  • 供託した営業保証金は、事業の全部譲渡なら16条で法人へ承継できる。ただし個人の登録抹消から法人の届出までは営業できない
  • 協会の分担金は承継できず、個人の分は6か月以上の公告の後に返還される。第3種なら合計120万円が並ぶ
  • 大阪市・経費1,000万円の条件で、法人化の損益分岐は2年目以降1,261万円。個人事業税がかからない場合は2,337万円

よくある質問

法人成りしても、旅行業の登録番号を引き継げますか。

引き継げません。旅行業法には登録を法人へ移す規定がなく、法人は新規登録を受けた別の旅行業者として新しい登録番号になります。有効期間5年も法人の登録の日から数え直しです。

個人で旅行業協会に納めた分担金を、法人の分担金に振り替えられますか。

旅行業法には分担金の承継や振替の規定がなく、大阪府も分担金に権利の承継はないと案内しています。法人は加入しようとする日までに分担金を納め、個人の分は社員の地位を失った後、6か月以上の公告期間を経てから返還されます。協会ごとの実務は加入先の協会に確認してください。

設立したばかりで決算を迎えていない法人でも、基準資産額の審査を受けられますか。

受けられます。京都府は、決算期を迎えていない新設法人は貸借対照表・損益計算書の提出を不要とし、登記事項で基準資産を確認できない場合に別途書類を求めるとしています。実際には資本金の額で基準資産額を満たせるかが見られるため、設立時の資本金の決め方が要件に直結します。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。