設立の手続き
投資助言・代理業の法人成りは新規登録。営業保証金500万円が二重に
結論
金融商品取引法に、投資助言・代理業の登録を会社へ承継させる規定はありません。個人が事業の全部を譲渡すると個人の登録は効力を失い(50条の2第2項)、会社は登録免許税15万円を払って新規に登録を受けます。会社は営業保証金500万円を供託して届け出るまで業務を始められず、個人の500万円は6か月以上の公示を経て取り戻すため、その間は合計1,000万円が供託所にある計算です。
- 個人の廃業・事業譲渡の届出は、その日から30日以内(50条の2第1項)。事前30日の公告・掲示(同条6項)は、投資助言・代理業の「廃止」を対象から外しているが、「事業の譲渡」には除外の文言がない
- 営業保証金は、銀行・保険会社などと1年以上有効な保証の契約を結べば、その金額分は供託しなくてよい(31条の2第3項、施行令15条の13)
- 経費300万円・東京23区・40〜59歳の試算で、損益分岐は個人事業税5%なら2年目以降1,243万円、法定業種外と扱われるなら2,277万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
個人で投資助言・代理業の登録を受けている人が会社を作っても、**登録は会社に移りません。**会社は金融商品取引業者として新規に登録を受け、営業保証金も会社の名前で供託し直します。
この記事は、個人で投資顧問契約を結んで助言をしている人や、投資顧問契約の代理・媒介をしている人を想定しています。条文の構造、登録免許税と標準処理期間、営業保証金が二重になる期間、顧客との契約の扱いを確認し、最後に個人事業税の業種区分によって損益分岐がどれだけ動くかを計算エンジンで出します。
投資助言・代理業は、内閣総理大臣の登録事業
金融商品取引業は、内閣総理大臣の登録を受けた者でなければ行えません(金融商品取引法29条)。投資助言・代理業は、そのうち次の行為を業として行うものです(28条3項)。
- 投資顧問契約を結び、有価証券の価値などについて助言する行為
- 投資顧問契約・投資一任契約の締結の代理または媒介
登録の事務は財務局が行い、申請書は主たる営業所を管轄する財務局または財務事務所に出します。関東財務局のQ&Aは、法人(株式会社・合名会社・合資会社・合同会社)でも個人でも登録を受けられるとしています。申請の前に事前相談をし、事業のスキームや業務執行体制のヒアリングを受ける流れです。
事業を全部譲渡すると、個人の登録は効力を失う
金融商品取引法には、液化石油ガス法10条のような「事業の全部を譲り受けた者が地位を承継する」規定がありません。逆に50条の2は、事業を譲渡したときの扱いを次のように定めています。
| 条文 | 内容 |
|---|---|
| 50条の2第1項2号・7号 | 業を廃止したとき、事業の全部または一部を譲渡したときは、その日から30日以内に届け出る |
| 50条の2第2項 | 廃止したとき、事業の全部を譲渡したときは、29条の登録は効力を失う |
個人事業主が自分の会社へ投資助言の事業を丸ごと譲る法人成りは、この「事業の全部の譲渡」に当たります。**個人の登録は譲渡の時点で失効し、会社に地位は移りません。**会社は自ら29条の登録を受けている必要があります。
同じように免許・登録を取り直す型は、宅建業の法人成りや貸金業の法人成りにもあります。業法ごとの違いは法人成りで許認可は引き継げるかで整理しています。
相続には60日の猶予があるが、法人成りには使えない
投資助言業務を行う個人が死亡した場合、相続人は死亡後60日間、引き続き業務を行えます(50条の2第3項)。その間に登録を申請すれば、処分が出るまで続けられます。この猶予は相続人に限った規定で、法人成りには適用されません。
事前の公告は、「廃止」なら不要だが「譲渡」は条文上外れていない
50条の2第6項は、金融商品取引業者が業の廃止や事業の譲渡をしようとするとき、その日の30日前までに公告し、すべての営業所に掲示するよう求めています。この項は、廃止の対象となる業から投資助言・代理業を除いています。投資助言・代理業だけを行う個人が業を廃止するなら、事前の公告は要りません。
一方、同じ項の「事業の全部若しくは一部の譲渡」には、投資助言・代理業を除く文言がかかっていません。法人成りを事業の譲渡の形で行う場合に事前の公告が要るかは、条文だけでは言い切れないので、事前相談の段階で財務局に確認しておくのが確実です。公告が要るなら、譲渡日の30日前までに済ませる必要があり、切替えの日程に効いてきます。
会社の新規登録:登録免許税15万円と標準処理期間2か月
会社が新規に登録を受けるときの費用と期間は次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 登録1件につき15万円 | 登録免許税法 別表第一 41号(一) |
| 標準処理期間 | 2か月(補正や事前相談の期間は含まない) | 関東財務局Q&A |
| 資本金の要件 | 投資助言・代理業だけなら定めがない | 29条の4第1項4号は第一種・第二種・投資運用業のみ |
| 業務開始の条件 | 営業保証金を供託し、届け出た後 | 31条の2第5項 |
**事前相談から登録までは、2か月より長く見ておく必要があります。**標準処理期間には補正や事前相談に要した期間が含まれないためです。会社の登録が下りる前に個人の事業を譲渡すると、その間はどちらの名義でも助言業務ができません。
会社の役員にも欠格事由がかかる
登録の拒否事由(29条の4第1項)は、個人と法人で見るところが違います。法人の場合は次の点が審査されます。
- 役員または政令で定める使用人のうちに、拘禁刑以上の刑の執行を終えてから5年を経過しない者などがいないか(2号)
- 業務の執行について十分な知識と経験を持つ役員がいるか(1号の2)
- 業務を適確に遂行する体制が整っているか(1号ヘ)
一人会社なら、個人として登録を受けた本人が役員になるので、知識と経験の点は個人のときと同じ人で満たすことになります。申請書には、法人であれば資本金の額、役員の氏名を書き、定款と登記事項証明書を添えます(29条の2)。会社設立の段階で、定款の目的に投資助言・代理業を入れておく必要があります。
営業保証金500万円が、最低6か月は二重になる
投資助言・代理業だけを行う者は、営業保証金を主たる営業所の最寄りの供託所に供託します(31条の2第1項)。額は500万円です(施行令15条の12第2号)。国債などの有価証券で充てることもできます(31条の2第9項)。
会社は別の業者なので、会社として500万円を供託し、財務局に届け出てからでないと業務を始められません(31条の2第5項)。個人の分は、登録が効力を失った後に取り戻せます(31条の2第10項、施行令15条の15第1項2号)。ただし取戻しには手順があります。
- 管轄財務局長に取戻しの承認申請書を出す(営業保証金規則14条1項)
- 財務局長が、6か月を下らない期間を定めて権利の申出を公示する(同条2項1号)。公示は官報で行い、費用は取り戻す人が負担する(17条)
- 期間内に申出がなければ承認書が交付され、それを添えて供託所から払渡しを受ける(14条5項・15条)
会社が業務を始める時点ではまだ個人の500万円が供託所にあり、少なくとも公示期間の6か月は合計1,000万円が供託されている計算です。顧客から権利の申出があれば、その払渡しが先に行われます。
保証の契約で、手元資金の拘束を減らせる
営業保証金は、銀行・保険会社などとの間で、命令があれば代わりに供託してもらう契約を結び、届け出れば、その契約金額の分は供託しなくてよいとされています(31条の2第3項)。契約は1年以上有効で、金融庁長官の承認なく解除・変更できないものに限られます(施行令15条の13)。
会社の側をこの契約で手当てすれば、設立直後の会社から500万円の現金が出ていくのを避けられます。保証料がかかるので、資本金や手元資金とのバランスで選ぶことになります。営業保証金は戻ってくる預け金なので、後の試算表には入れていません。
顧客との投資顧問契約は、会社が結び直す
登録が個人から会社に移らない以上、顧客との投資顧問契約も会社が新たに結ぶ契約になります。新しい契約には、通常の契約と同じ規制がかかります。
- 契約を結ぶ前に、会社の商号・住所、登録番号、契約の概要、報酬などの情報を顧客に提供する(37条の3第1項)
- 投資顧問契約は、契約締結時の情報の提供を受けた日から10日を経過するまで、顧客が書面などで解除できる(37条の6第1項、施行令16条の3)
10日の解除期間は、会社と結び直した契約にも働きます。解除されても、それまでの期間に相当する報酬として内閣府令で定める額を超えて請求はできません(37条の6第3項)。会員制で月額報酬を受けている事業では、切替えの月に解約が出る前提で資金繰りを見ておく必要があります。
個人事業税の業種で、損益分岐が大きく動く
投資助言業は、個人事業税の業種の扱いが判断の分かれ目になります。地方税法72条の2は第1種から第3種までの法定業種を列挙していますが、「投資助言業」「投資顧問業」という名の業種はありません。第3種にはコンサルタント業(同条10項15号の3、税率5%)があり、第1種には代理業・仲立業(同5%)があります。どれに当たるか、どれにも当たらないかは、都道府県が事業の実態から判断します。
法定業種に当たれば、事業主控除290万円を超えた所得に5%がかかり、法人化するとこの税がなくなります。法定業種外ならもともとかからないので、法人化で消える税がありません。
データ購入・ツール・情報発信などの経費を年300万円、社長を40〜59歳と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。初年度には登録免許税15万円を乗せています。
法定業種(税率5%)に当たる場合
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −34.0万円 | −59.0万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −18.9万円 | −43.9万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −10.0万円 | −35.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −4.3万円 | −29.3万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +26.1万円 | +1.1万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +65.8万円 | +40.8万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 300 --business type3_standard --age 40to64 --fee 150000 --note '税率5%(第3種のコンサルタント業などの法定業種に当たる場合)' で再生成)で算出。経費300万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は税率5%(第3種のコンサルタント業などの法定業種に当たる場合)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用150,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
法定業種外(個人事業税がかからない)と扱われる場合
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −49.5万円 | −74.5万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −44.4万円 | −69.4万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −45.5万円 | −70.5万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −49.8万円 | −74.8万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | −34.4万円 | −59.4万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | −19.7万円 | −44.7万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 300 --business exempt --age 40to64 --fee 150000 --note '法定業種外(課税なし)' で再生成)で算出。経費300万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は法定業種外(課税なし)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円と許認可の取り直し費用150,000円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、税率5%の場合で2年目以降1,243万円、初年度は1,489万円です。法定業種外の場合は2年目以降2,277万円、初年度は2,516万円まで上がります。同じ事業でも、個人のとき事業税を払っていたかどうかで、法人化が有利になる所得の線が1,000万円あまりずれます。
自分の業種がどう扱われているかは、前年の個人事業税の納税通知書が来ているかで確かめられます。業種と税率の全体像は個人事業税は業種でいくらかにまとめています。自分の売上と経費で判定ツールに入れれば、条件を変えて試せます。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にあります。
まとめ
- 投資助言・代理業の登録に承継の規定はなく、事業の全部を譲渡すると個人の登録は効力を失う(50条の2第2項)。会社は登録免許税15万円で新規に登録を受ける
- 標準処理期間は2か月で、事前相談と補正の期間は含まれない。会社の登録と供託・届出が済んでから個人の事業を移すと、空白期間を作らずに済む
- 営業保証金500万円は会社でも供託が要り、個人の分は6か月以上の官報公示を経て取り戻すため、その間は合計1,000万円が供託される。保証の契約で供託に代えることもできる
- 顧客との投資顧問契約は会社が結び直し、契約前の情報提供と10日間の解除の規定が改めて働く
- 経費300万円の試算で、損益分岐は個人事業税5%なら2年目以降1,243万円、法定業種外なら2,277万円
よくある質問
個人の登録番号を、会社がそのまま使うことはできますか。
できません。登録は個人に対して与えられたもので、会社は別の者として新規に登録を受け、新しい登録番号が付きます。顧客に提供する契約締結前の情報には登録番号を記載するため、会社の番号で作り直すことになります。
会社の登録が下りるまで、個人の登録で営業を続けてよいですか。
個人の登録は、廃業するか事業の全部を譲渡するまで有効です。会社の登録と営業保証金の供託・届出が済んでから顧客との契約を会社に切り替え、そのあとに個人の廃業等を30日以内に届け出る順番にすると、営業できない期間を作らずに済みます。
個人が供託した500万円は、いつ戻りますか。
登録が効力を失ったあと、管轄財務局長に取戻しの承認を申請します。財務局長は6か月を下らない期間を定めて権利の申出を官報で公示し、その期間を経てから承認書が交付されます。申出があれば先にその払渡しの手続きが行われます。
出典
- e-Gov法令検索 金融商品取引法 第28条第3項(投資助言・代理業)・第29条(登録)・第29条の2(登録の申請)・第29条の4(登録の拒否)・第31条の2(営業保証金)・第37条の3(契約締結前の情報の提供)・第37条の6(書面による解除)・第50条の2(廃業等の届出等)
- e-Gov法令検索 金融商品取引法施行令 第15条の12(営業保証金の額)・第15条の13(営業保証金に代わる契約の要件)・第15条の15(営業保証金の取戻し)・第16条の3(解除できる契約)
- e-Gov法令検索 金融商品取引業者営業保証金規則 第14条(取戻しの承認と公示)・第17条(官報による公示)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一 第41号(一)(金融商品取引業者の登録)
- 関東財務局 登録に係るQ&A(投資助言・代理業)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2(個人事業税の業種)・第72条の49の17(税率)
- 東京都主税局 個人事業税(法定業種と税率・事業主控除)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。