設立の手続き

貸金業の法人成り|個人登録を法人へ移せない理由

結論

個人の貸金業登録は新設法人へ名義変更・承継できません。法人は純資産5,000万円、実務経験者、貸金業務取扱主任者、営業所、社内規則などの要件を法人自身で満たし、新規登録を受けてから貸付けを始めます。既存債権は個人が回収を続けるか法人へ譲渡するかを選び、廃業届、債権譲渡届、顧客通知、帳簿・個人情報の管理を別に設計します。

  • 法人は新規登録を受けるまで、個人の登録番号で貸付業務を行えない
  • 一般の貸金業者は純資産5,000万円以上と人的・組織的な業務体制が必要
  • 個人の廃業、残債権の回収、法人への債権譲渡は法人登録と別の手続である

貸金業の法人成りは、商号や振込口座を会社名へ変えるだけでは完了しません。貸金業登録は登録を受けた個人に属し、新設した株式会社・合同会社は別の者です。法人は法人として新規登録を受けるまで、個人の登録番号を使って貸付けを行えません。

さらに、貸付債権を法人へ移すことと、法人が貸金業を営めることは別問題です。法人登録、個人の廃業、既存債権の回収・譲渡、顧客情報と信用情報の移行を一つに混ぜず、順番を決めて進めます。

法人は変更届ではなく新規登録を受ける

貸金業法3条により、貸金業を営む者は登録が必要です。個人事業主とその人が設立した法人は法律上別の主体なので、個人登録の氏名・商号変更として法人へ切り替えることはできません。法人の定款、役員、株主・社員、営業所、資産、組織体制を前提に新規申請します。

全ての営業所・事務所が一つの都道府県内にある場合は、その都道府県知事の登録です。二つ以上の都道府県に営業所・事務所を置く場合は、主たる営業所を管轄する財務局長等の登録になります。オンラインで全国の顧客を募集するかではなく、営業所・事務所をどこに設けるかで登録行政庁を判定します。

登録の有効期間は3年です。法人の新規登録後も、期間満了前に更新しなければ効力を失います。個人時代の登録回数や更新期限が、そのまま法人へ引き継がれるわけではありません。

法人成りの対象個人側法人側
貸金業登録法人へ承継できない新規登録を申請
登録番号法人は使用できない新しい登録番号を表示
登録の更新回数法人へ引き継がない新規登録から3年ごとに更新
既存貸付債権個人で回収継続または譲渡譲受ける場合は別途設計
新規貸付け廃業日まで個人名義で行う法人登録前は行わない

登録審査には時間がかかるため、会社設立日に個人事業を即時廃業する工程は危険です。法人の登録完了日が確定するまでは個人が登録業者として営業し、法人が登録された後に、新規申込みを法人へ切り替えるのが基本です。具体的な同日切替が可能かは、申請前に登録行政庁へ相談します。

純資産5,000万円は資本金と同じではない

一般の貸金業者は、純資産額が5,000万円以上でなければ登録を受けられません。純資産は資産から負債を控除した額であり、登記した資本金の額そのものではありません。資本金5,000万円で設立しても、設立費用、登録準備費用、設備、評価損や負債によって純資産が5,000万円を下回ることがあります。

新設法人では、設立時貸借対照表やそれに代わる書面、預金残高などで財産的基礎を確認されます。登録直前だけ要件を満たせばよいのではなく、登録後も維持が必要です。神奈川県は、事業年度末の純資産額が5,000万円を下回ると登録取消しの対象になると案内しています。

したがって、設立資金を全額貸付原資に回す計画では足りません。最低純資産額とは別に、審査中の固定費、従業員給与、システム、信用情報機関・指定紛争解決機関への対応費、貸倒れ、税金を支払える運転資金を残します。

非営利特例対象法人等には例外がありますが、通常の株式会社・合同会社による営利事業は一般業者の基準で考えます。「小規模な身内向け貸付だから5,000万円は不要」と自己判断せず、そもそも反復継続する貸付けが貸金業に当たるかを登録行政庁へ確認してください。

実務経験者と貸金業務取扱主任者を法人へ配置する

法人には、お金だけでなく人的な登録要件があります。金融庁資料と東京都の申請案内では、一般業者について主に次の体制が求められます。

  • 常務に従事する役員のうち、貸付けの業務に3年以上従事した経験を持つ者を置く
  • 各営業所等に、貸付けの業務に1年以上従事した経験を持つ常勤の役員または使用人を1人以上置く
  • 各営業所等に、登録済みの貸金業務取扱主任者を置く
  • 主任者は、貸金業務の従事者50人につき1人以上の割合を満たす
  • 法令遵守、審査、契約書面、取立て、苦情、個人情報等を定めた社内規則と業務体制を作る

一人会社でも要件は省略されません。個人事業主として3年以上貸付業務を行った本人が法人の常務役員となり、営業所へ常勤するなら、3年要件と1年要件を兼ねられる場合があります。ただし、経験を裏付ける登録履歴、在籍証明、職務内容等を申請先へ示せるようにします。

貸金業務取扱主任者資格は会社に属する許可ではなく、資格者本人の登録です。個人時代の資格者が法人でも勤務する場合、法人の営業所における主任者として選任し、申請書へ記載します。資格登録の有効性、登録更新、常勤性、兼務状況を確認します。

営業所も法人の実体が必要です。登記事項証明書の本店所在地だけではなく、賃貸借等の使用権限、案内図、室内外の写真、固定電話、帳簿や顧客情報を安全に管理できる設備などを申請書類で確認されます。個人と法人が同じ場所を使う移行期間は、表示、契約主体、書類・データの保管区分を明確にします。

社内規則・信用情報・苦情処理を作り直す

法人登録では、貸付審査だけでなく、勧誘、広告、返済能力調査、契約前・契約時書面、領収書、取立て、債権譲渡、苦情、反社会的勢力排除、個人情報、安全管理、外部委託などの社内規則と運用体制が審査されます。個人時代の規程の社名だけを置換するのではなく、法人の役員・担当者・承認経路に合わせます。

個人向け貸付けでは、指定信用情報機関の信用情報を使用した返済能力調査、記録の作成・保存、総借入残高が原則として年収等の3分の1を超える貸付けの禁止など、総量規制への対応が必要です。信用情報機関との契約や端末権限は個人から法人へ当然に移りません。

また、指定紛争解決機関との手続実施基本契約を締結するか、法令所定の代替措置を講じ、その状況を申請します。日本貸金業協会へ加入するかどうかと、貸金業登録を受けることは同じではありません。非加入の場合も、自主規制規則を考慮した社内体制と苦情・紛争対応が求められます。

広告、ウェブサイト、契約書には法人の正式商号、登録番号、登録有効期間、電話番号、貸付利率などの法定表示を反映します。法人登録前に「法人へ申込み」「法人が審査・融資」と表示すると無登録営業の問題が生じるため、サイト公開日も登録完了後にします。

既存債権は個人で回収するか法人へ譲渡する

法人の新規登録が完了しても、個人名義で締結した金銭消費貸借契約の貸主が自動で法人へ変わるわけではありません。既存債権には二つの基本案があります。

一つは、既存債権を個人に残し、法人は登録後の新規貸付けだけを行う方法です。個人が廃業届を出しても、貸金業法44条により、個人は既存契約を結了する目的の範囲で引き続き貸金業者とみなされます。新規貸付けはできませんが、残債権の回収について取立規制、書面交付、帳簿、報告等の規律が続きます。

もう一つは、個人から法人へ貸付債権を譲渡する方法です。債権譲渡契約を作り、債権を特定し、民法上の対抗要件を備えます。貸金業法上も債権譲渡先の選定、譲受人への適用法令の通知、登録行政庁への債権譲渡に関する届出などを確認します。暴力団員等や取立てを不適切に行うおそれのある者への譲渡は認められません。

法人が登録前に債権だけを買い取り回収すれば自由、とは限りません。反復継続する債権取得の実態、回収受託との関係、サービサー法、貸金業法24条の譲受人への規制を確認する必要があります。法人成りでは、法人登録後の譲渡を基本案として、登録行政庁と弁護士へ事前相談します。

債権譲渡する場合は、次の項目を一件ずつ照合します。

項目切替時に決める内容
債権の特定契約番号、元本、未収利息、遅延損害金、返済期日
譲渡価格貸倒見込みを含む時価・税務上の合理性
対抗要件債務者への通知・承諾の方法と日付
返済口座旧口座の最終日、法人の新口座、誤入金対応
書面・窓口新債権者、連絡先、苦情窓口、受取証書
担保・保証抵当権、質権、保証契約の移転・変更手続
個人情報利用目的、第三者提供、データ移行、安全管理

譲渡日前後の入金、延滞、法的手続、過払金請求、苦情を誰が担当するかも契約で決めます。貸付債権を簿価で移すか割り引くかは法人税・所得税に影響するため、契約締結前に税理士へ評価根拠を確認します。法人成りで契約上の地位を移す方法も併せて整理してください。

廃業届と顧客データを切替日で分ける

個人側は法人の登録完了と新規貸付けの切替を確認してから、廃業等届出を行います。廃業届では、残貸付債権の額、回収方針、債権譲渡の状況などを報告します。残債権が結了するまで、行政庁から定期的な報告を求められることがあります。

顧客名簿、本人確認資料、信用情報、返済能力調査、契約書面、交渉・取立記録、苦情記録は、譲渡した債権と個人に残した債権を分けます。法人が必要な情報を受け取る法的根拠、利用目的の通知・公表、アクセス権、暗号化、保存期間、廃棄方法を決めます。

個人と法人の担当者が同じでも、データの管理主体は同じではありません。法人登録前から個人の顧客データを法人のクラウドへ移し、法人役員の立場で閲覧するような曖昧な運用は避けます。債権譲渡と個人情報移行の日をそろえ、作業ログを保存します。

実務の順序は次のとおりです。

  1. 現在の登録、営業所、残債権、主任者、従事者を棚卸しする
  2. 登録行政庁へ法人成りと債権処理案を事前相談する
  3. 会社設立を自分で行う手順に沿って法人を設立する
  4. 純資産、経験者、主任者、営業所、社内規則を法人で整える
  5. 法人の新規登録を受け、登録番号・書面・広告・信用情報体制を確認する
  6. 新規貸付けの受付を個人から法人へ切り替える
  7. 既存債権を残すか譲渡し、届出・通知・口座・帳簿を処理する
  8. 個人の廃業等届出を行い、残債権があればみなし貸金業者として管理する

法人成りの採算は登録維持費を含めて判断する

標準条件の損益分岐は次のとおりです。npm run calc:table -- breakevenで再現できます。ただし、貸金業の純資産要件5,000万円は経費ではなく財産的基礎であり、この表の「経費200万円」には含まれません。

条件損益分岐となる事業所得
基本(独身・インボイス登録済み)1,266万円
株式会社で設立1,266万円
配偶者あり(無収入)1,016万円
配偶者あり+扶養1人1,066万円
インボイス未登録1,266万円
40〜59歳(介護保険あり)1,243万円
大阪市1,283万円
名古屋市1,270万円
白色申告793万円

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年分

実際の法人化判断では、登録申請、主任者、経験者の人件費、営業所、信用情報、システム、監査・法務、貸倒引当、3年ごとの更新対応を経費へ加えます。税金だけで有利でも、純資産5,000万円を維持しながら貸付原資と固定費を確保できなければ事業は継続できません。

まとめ

  • 個人の貸金業登録は法人へ承継できず、法人が新規登録を受ける
  • 一般業者は純資産5,000万円以上、実務経験者、主任者、営業所、社内規則が必要
  • 法人登録前は、個人の登録番号を使って法人が貸付けを行わない
  • 既存債権は個人に残す方法と法人へ譲渡する方法を比較する
  • 個人の廃業後も残債権の取引を結了する範囲で規制・報告が続く
  • 債権譲渡、顧客通知、口座、帳簿、個人情報を一件ずつ切り替える

最初の相談には、個人の登録通知、直近の事業報告、残債権一覧、法人の資本計画、役員・従業員の業務経歴、主任者登録、営業所図面、債権処理案を持参してください。法人の新規登録が完了する日を基準に、新規貸付け・既存債権・個人廃業を分けて工程化することが、無登録営業と顧客データの混在を避ける要点です。

よくある質問

個人の貸金業登録番号を法人名へ変更できますか?

できません。個人と法人は別の登録主体です。法人は新規登録を受け、個人は貸付停止後の残債権処理を決めたうえで廃業等届出を行います。

資本金を5,000万円にすれば純資産要件を満たしますか?

必ずしも満たしません。判定対象は資本金ではなく資産から負債を引いた純資産額です。設立費用、開業費用、評価損、借入金などを反映した法人の貸借対照表等で確認します。

個人が廃業したら既存債権を回収できなくなりますか?

直ちに回収できなくなるわけではありません。貸金業法44条により、個人は既存契約を結了する目的の範囲で貸金業者とみなされ、取立規制等が続きます。新規貸付けはできず、残債権・回収方針等の報告も必要です。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。