設立の手続き
補助金の途中で法人成りするとどうなる?事前承認と返還の注意点
結論
持続化補助金の第20回公募要領は、交付決定後に補助事業を他に承継させるときや中止・廃止するときに事前承認を求めています。単価50万円(税抜)以上の機械装置や同額以上のウェブサイトなどは処分制限財産で、支払後も会社への譲渡に承認が必要です。承認なしの処分は交付取消・返還命令(加算金付き)の対象です。法人成りを実施期限まで最長17か月遅らせるコストは、事業所得1,500万円で約33.8万円です。
- 公募要領は法人成りを名指ししていない。自分の場合の扱いは、法人化を決める前に事務局へ確認する必要がある
- 補助金適正化法22条の制限には譲渡だけでなく貸付けも入っている。個人名義のまま会社に使わせる形も、確認せずに進めると問題になり得る
- 事業所得が分岐点(東京23区・単身で1,266万円)を下回る人は、補助事業が終わるまで法人化を待ってもコストが生じない
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
補助金の採択が決まった、あるいは申請中という時期に、法人化の話が同時に進むことがあります。所得が伸びて法人化を考える時期と、事業を広げて補助金を使う時期は重なりやすいからです。
順番を間違えると、補助金を受け取れなくなったり、返還を求められたりする可能性があります。法人成りは申請者が変わる出来事だからです。ここでは小規模事業者持続化補助金の第20回公募要領(商工会議所地区)を読み、タイミング別に整理します。
最初に断っておくと、この公募要領に「法人成り」という語は出てきません。 以下は一般的な定めの読み方で、最終的な扱いは事務局に確認するものです。ほかの補助金は制度ごとに交付規程が違います。
タイミング別の扱い
法人成りの時期によって、確認することが変わります。
| 法人成りの時期 | 公募要領で読める定め | やること |
|---|---|---|
| 申請の前 | 個人事業主も会社も補助対象。上限・補助率は同じ | どちらの名義で申請するか決める |
| 申請後〜交付決定の前 | 交付決定の前の発注・契約・支出は補助対象外 | 申請者が変わる扱いを事務局に確認 |
| 交付決定後〜補助事業の実施中 | 他に承継させる、中止・廃止するときは事前に事務局の承認 | 承認を得てから動く |
| 実施の完了後〜補助金の支払い前 | 実績報告・確定検査の対象 | 帳簿・物件の確認に応じられるようにする |
| 支払い後 | 処分制限財産は一定期間、処分に承認が必要 | 資産を会社へ移す前に承認 |
| 終了の1年後 | 事業効果などの報告 | 報告者と名義を事務局に確認 |
出典:小規模事業者持続化補助金<一般型 通常枠>公募要領 第20回
個人事業を畳む前提の場合は、廃業そのものが補助事業の廃止にあたらないかも確認が要ります。公募要領は「中止(一時中断)、廃止(実施取りやめ)」にも事前承認を求めているためです。
会社の設立手順そのものは会社設立を自分でやる手順にまとめています。
処分制限:法人成りで引っかかるのはここ
補助事業が終わって補助金を受け取った後も、取得した一部の資産には制限が残ります。公募要領が挙げる処分制限財産は次のとおりです。
| 対象 | 基準 | 制限の内容 |
|---|---|---|
| 機械装置等 | 単価50万円(税抜)以上 | 目的外使用・譲渡・担保提供・廃棄など |
| ウェブサイト・システム | 50万円(税抜)以上で作成・更新 | 同上。通常は取得日から5年間 |
| 店舗改装 | 50万円(税抜)以上の外注工事など、不動産の効用増加 | 同上 |
処分するには事前に事務局の承認が必要で、承認にあたって残存簿価などから算出する金額の納付を求められることがあります。承認を得ずに処分すると、交付取消・返還命令(加算金付き)の対象です。
公募要領は「無償譲渡も含まれます」としています。つまり法人成りでよくある次の方法は、いずれも譲渡に当たる可能性があります。
- 個人から会社へ資産を売る(法人成りの資産引継ぎ)
- 資本金の代わりに現物出資する(法人成りの現物出資)
- 無償で会社に渡す
個人名義のまま会社に貸しても、問題は残る
それなら資産を個人に残して会社に貸せばよい、と考えるかもしれません。ただし補助金適正化法22条は、承認なしに「使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、又は担保に供」することを制限しています(交付の目的に反する場合)。
貸付けも条文に入っています。 個人事業を廃業して資産だけ会社に貸す形は、確認なしでは安全とは言えません。
なお、公募要領には「補助事業の目的を遂行するために必要な」ホームページの改良や機能強化は処分に当たらないという説明もあります。何が処分に当たるかは一律には決まらないので、資産の一覧を持って事務局に相談するのが確実です。
法人化を待つと、いくらかかるか
補助事業が終わるまで法人化を待てば、この問題の多くは避けられます(処分制限の期間は別です)。第20回の補助事業の実施期限は2028年3月31日で、2026年10月末から数えると最長17か月ほどです。待つことのコストを出します。
| 事業所得 | 法人化の実質差額(年) | 1か月あたり | 6か月待つ | 12か月待つ | 17か月待つ |
|---|---|---|---|---|---|
| 800万円 | −24.1万円 | 待つほうが得 | — | — | — |
| 1,000万円 | −14.7万円 | 待つほうが得 | — | — | — |
| 1,200万円 | −6.6万円 | 待つほうが得 | — | — | — |
| 1,500万円 | +23.9万円 | 2.0万円 | 11.9万円 | 23.9万円 | 33.8万円 |
| 2,000万円 | +67.3万円 | 5.6万円 | 33.7万円 | 67.3万円 | 95.4万円 |
| 3,000万円 | +197.2万円 | 16.4万円 | 98.6万円 | 197.2万円 | 279.4万円 |
※ 実質差額は3年目以降の定常状態で、設立費用は入っていない(待っても設立費用は将来かかる)。東京23区・40歳未満・単身・インボイス登録済み・青色申告(e-Tax)・合同会社/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/houjinka-bw-tables.mjs hojokin
持続化補助金の通常枠の上限は50万円です。これと比べると次の判断軸が見えます。
- 分岐点より下(東京23区・単身で1,266万円未満):待つコストはありません。補助事業を終えてから改めて判定すれば十分です
- 分岐点より少し上(1,500万円前後):待っても年23.9万円程度。上限50万円の補助金なら、事業が終わるまで待つ選択が成り立ちます
- 大きく上(3,000万円):17か月待つと279.4万円。補助金の額より法人化の差のほうが大きく、事務局に承認の可否を確認して早めに進める価値があります
ここまで差が大きい場合は、補助金の承継や辞退を含めて検討することになります。「補助金をもらえるから法人化を遅らせる」が割に合うとは限りません。 分岐点は個人事業主の法人化の目安で確認できます。判定ツールに自分の売上と経費を入れると、1か月あたりの差が出せます。
法人名義で受け直す方法
まだ申請していないなら、法人を設立してから申請する方法もあります。持続化補助金は個人事業主も会社も補助対象で、法人化で上限は変わりません(法人化で補助金は増えるか)。
ただし電子申請に使うGビズIDプライムは、法人番号ごとです。個人のIDは会社に使えないので、発行までの時間を見込みます(GビズIDプライムと法人成り)。
第20回の申請受付は2026年11月5日から12月15日17時までで、事業支援計画書(様式4)の発行の受付締切は12月4日です。法人設立と同じ時期に申請するには、余裕がありません。 確実に間に合わせるなら、個人で申請して終わらせるか、次回以降に会社で申請するかの選択になります。
事務局に確認する項目
相談の前に、次の情報をまとめておくと話が早く進みます。
- 交付決定の有無と、現在の段階(実施中・実績報告済み・支払い済み)
- 法人成りの予定日と、個人事業を廃業するかどうか
- 補助金で買った資産の一覧(品名・金額・取得日)
- 資産を会社へ移す方法(売却・現物出資・貸付け)
- 実績報告と入金の名義、事業効果報告の提出者
回答は記録に残してください。税務の扱い(入金が廃業の後になった場合の帰属や、圧縮記帳・総収入金額不算入を使っているときの扱い)は別の論点なので、補助金の税金の個人と法人の比較を確認のうえ、税理士に確かめてください。
ほかの補助金は制度ごとに確かめる
この記事の内容は持続化補助金の第20回を読んだものです。補助金ごとに交付規程が違い、法人成りの扱いも異なります。たとえば移住者向けの起業支援金は、開業済みの個人事業の法人成りを対象外とする県があります(起業支援金は個人開業と法人設立どちらで受けるか)。
国の補助金で交付を受けた資産については、適正化法22条の考え方が共通の出発点になります。
まとめ
- 公募要領は法人成りを名指ししていない。法人化を決める前に事務局へ確認する
- 交付決定後の承継・中止・廃止は事前承認が必要。承認なしの処分は返還命令(加算金付き)の対象
- 単価50万円(税抜)以上の機械装置、50万円以上のウェブサイト、店舗改装などは支払い後も処分が制限される
- 無償譲渡も対象で、適正化法22条には貸付けも入っている
- 分岐点より下なら待つコストはない。所得1,500万円で17か月待つと33.8万円、3,000万円なら279.4万円
よくある質問
採択された後、交付決定の前なら法人成りしてよいですか?
公募要領からは判断できません。申請者と実際に事業を行う者が変わることになるため、法人化の前に事務局へ確認してください。交付決定前の発注・契約・支出は補助対象外という定めもあるので、会社名義での発注の時期にも注意が必要です。
補助金で作ったホームページを会社で使うと問題になりますか?
50万円(税抜)以上で作成・更新したウェブサイトは処分制限財産に当たり、通常は取得日から5年間、目的外使用や譲渡などが制限されることがあります。法人成りして会社が使う形になるなら、事前に事務局へ確認してください。
法人成りした後に、会社として改めて申請できますか?
持続化補助金は個人事業主も会社も補助対象です。ただし公募要領の要件を満たす必要があり、電子申請に使うGビズIDプライムは法人番号ごとなので、会社の分を取得し直します。過去の採択との関係や回数の制限は、その回の公募要領で確認してください。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。