法人化の判断

起業支援金は個人開業と法人設立どちらで受ける?移住支援金の税も比較

結論

起業支援金は、国の要件では個人事業の開業届と法人の設立のどちらでも対象です。ただし長野県は法人成りを対象外と明記し、三重県・鹿児島県は令和8年3月31日以前に開業済みの個人事業主を対象外としています。課税は受け取る人で分かれ、起業支援金は個人なら事業所得、法人なら益金、移住支援金は起業の形にかかわらず本人の一時所得です。長野県で売上−経費500万円なら、起業支援金200万円のうち個人に残るのは113.6万円、法人では引出コスト控除後126.3万円です(当サイト試算)。

  • 国の支給要件は、国の交付決定日以降、補助事業期間の完了日までに個人事業の開業届出または法人等の設立を行うこと。代表者・役員の人件費は対象経費にならない
  • 起業支援金は個人なら事業所得の総収入金額、法人なら益金。移住支援金は一時所得(国税庁 平成31年の文書回答)。法人で起業しても移住支援金は社長個人の所得になる
  • 最適報酬が月54万円の社長は、世帯の移住支援金100万円(一時所得の課税部分25万円)で合計所得が489万円を超え、所得税の基礎控除が104万円から67万円に下がる

東京23区から地方へ移り住んで起業する人は、移住支援金と起業支援金を組み合わせて受けられます。迷いやすいのが「個人事業で始めるか、最初から会社にするか」です。国の制度はどちらでも対象にしていますが、受け取った支援金に税金がかかる人と仕組みが、形によって変わります。 法人成りを対象外とする県もあるので、「まず個人で始めて、軌道に乗ったら法人化」という順番が裏目に出ることがあります。

国の要件は「開業届か法人設立」のどちらでもよい

起業支援金は、内閣府の地方創生起業支援事業として都道府県(令和7年度第2回の申請分からは市町村も)が支給します。内閣府の令和8年1月の資料による国の枠組みは次のとおりです。

項目国の枠組み
支給額対象経費の1/2、最大200万円
対象地域東京圏以外の道府県・市町村と、東京圏の条件不利地域
起業の形国の交付決定日以降、補助事業期間の完了日までに、個人事業の開業届出または法人等(株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人など)の設立
居住起業する都道府県に住んでいるか、完了日までに住む予定
対象外の経費代表者・役員の人件費(従業員の賃金だけが対象)
受給後の義務5年間の実施状況報告、1件50万円以上の取得財産の処分制限、帳簿の5年保存

令和7年度は43道府県が実施し、東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府は実施していません。上限や対象分野は自治体が決めるので、国の200万円がそのまま上限とは限りません。三重県の令和8年度の上限は100万円です。

移住支援金は別の制度で、東京23区に住んでいたか通勤していた人が対象です。移住前の10年間で通算5年以上かつ直近1年以上という要件があります。世帯100万円以内・単身60万円以内で、18歳未満の子1人につき最大100万円が加算されます。起業で受ける場合は、1年以内に起業支援金の交付決定を受けていることが条件です。移住支援金だけを起業で受けることはできず、起業支援金の採択が入口になります。

すでに開業している個人事業の法人成りは、対象外の県がある

国の要件は「これから開業届を出すか、法人を作るか」です。すでに個人事業を始めている人が会社を作る場合、つまり法人成りの扱いは県の要綱で分かれます。令和8年度の募集で確認できた3県の書き方は次のとおりです。

県開業済み・法人成りの扱い(令和8年度)
長野県「法人成り(個人事業を法人化すること)は対象となりません」と明記
三重県令和8年3月31日以前に設立された法人・開業届出済みの個人事業主は対象外。既存事業と異なる新たな事業を行う法人の設立や、新たな個人としての開業届出は対象
鹿児島県令和8年4月1日以前に開業届・設立登記をしていれば対象外。既存事業と異なる事業の法人設立などは対象になり得る

三重県と鹿児島県は「既存事業と異なる新たな事業」なら法人設立を認めています。裏返すと、同じ事業を個人から会社に移すだけの法人成りは、3県とも起業として扱われない書き方です。移住前に副業で開業届を出していた場合も、同じ線引きに掛かるおそれがあります。

一方で、鹿児島県のQ&Aは、個人で申請して交付決定を受けた人が、その後に法人を設立しても対象になると答えています。条件は、補助対象期間内(令和8年度は令和9年1月15日まで)に開業届または法人設立を済ませることです。申請の時点で形を決めきれなくても、期間内に会社を作れば間に合う県があるということです。

支援金を受けた後に法人成りすると、取得財産の処分に承認が要る

もう1つの落とし穴は、個人で起業支援金を受け、数年後に法人成りする場合です。国の枠組みでは、1件50万円以上の取得財産は処分に承認が要ります。長野県の交付要綱は、耐用年数に相当する期間内に財産を譲渡・貸付けなどをするときに、理事長の承認を受けると定めています。そのうえで、補助金相当額の全部または一部を納付させることができるとしています。

法人成りでは、個人の設備を会社へ売るか現物出資するのが普通です(法人成りで個人の資産を会社に移す方法)。支援金で買った50万円以上の設備は、この譲渡が処分に当たり得ます。三重県は、補助事業の完了後5年以内に正当な理由なく事業を休止・廃止した場合の返還も定めています。個人事業の廃業届がこれに当たるかは要綱に書かれていないので、法人成りの前に執行団体へ確認が必要です。

起業の類型で受けた移住支援金は、起業支援金の交付決定が取り消されると全額返還になります(沖縄県の令和8年度の案内)。法人成りの手続きが2つの支援金の返還に連動する可能性があります。

受け取る人で課税が変わる。起業支援金は事業所得か益金

課税の扱いは、内閣府が照会し、国税庁が平成31年4月10日に「貴見のとおり」と回答した文書回答で整理されています。

支援金誰に支給されるか課税
起業支援金(個人開業)開業した本人事業所得などの総収入金額
起業支援金(法人設立)設立した法人益金(法人税法22条2項)
移住支援金移住した本人(起業の形は問わない)一時所得(所得税法34条1項)

起業支援金は、固定資産の取得に充てた部分が明示されていれば、個人は国庫補助金等の総収入金額不算入、法人は圧縮記帳を使えます。経費に充てた部分は、受けた年の所得になります。三重県と鹿児島県の令和8年度の要綱も、支援金は交付を受けた事業年度の収益で、法人税等の課税対象になると注意しています。

起業支援金200万円を経費に充てた場合(対象経費400万円)、手元に残る額を計算エンジンで出すと次のとおりです。

売上−経費(支援金を除く)個人開業:増える税・国保個人に残る法人設立:増える法人の税法人に残る(引出コスト控除後)法人の最適報酬
300万円62.0万円138.0万円42.7万円125.8万円月20万円
500万円86.4万円113.6万円42.8万円126.3万円月36万円
800万円82.0万円118.0万円42.7万円125.8万円月54万円
1,000万円82.8万円117.2万円43.5万円125.2万円月54万円

※ 経費400万円(支援金の対象経費を含む)、長野県(協会けんぽ)・国保は収録自治体の平均(概算)・40歳未満・単身・インボイス登録済み・青色申告(e-Tax)・合同会社。法人の役員報酬は支援金なしの最適額に固定。法人に残る額は、内部留保から社長個人へ引き出すときのコスト(計算エンジンの既定値20%)を控除した額/2026年(令和8年)分基準。スクリプト:scripts/iju-kigyo-shienkin.mjs

個人は200万円がそのまま事業所得に乗り、所得税・住民税に加えて国民健康保険料と個人事業税も増えます。法人は役員報酬を変えなければ法人税等だけが増えます。売上−経費500万円以上では、法人で受けたほうが7.8〜12.7万円多く残ります。逆に300万円では個人のほうが12.2万円多く残ります。個人の税率がまだ低く、法人に残した利益を引き出すコストのほうが重くなるためです。

移住支援金は、法人で起業しても社長個人の一時所得

移住支援金は、会社を作っても会社ではなく移住した本人に支給されます。一時所得は「収入−特別控除50万円」の2分の1が総所得金額に入ります。単身60万円なら課税部分は5万円、世帯100万円なら25万円、子1人の加算がある200万円なら75万円です。

売上−経費移住支援金課税部分個人開業:増える税・国保うち国保法人設立:社長の増える税社長の合計所得
500万円単身 60万円5.0万円1.4万円0.5万円0.8万円306.6万円
500万円世帯 100万円25.0万円7.2万円2.7万円3.8万円326.6万円
500万円世帯+子1人 200万円75.0万円25.5万円8.2万円11.6万円376.6万円
800万円単身 60万円5.0万円1.9万円0.5万円1.0万円479.4万円
800万円世帯 100万円25.0万円9.5万円2.7万円8.8万円499.4万円
800万円世帯+子1人 200万円75.0万円28.1万円7.6万円21.5万円549.4万円

※ 条件は上の表と同じ。世帯の行は収入のない配偶者ありで計算し、子は16歳未満(扶養控除の対象外)として扶養親族に数えていない。法人の役員報酬は売上−経費500万円で月36万円、800万円で月54万円。個人は一時所得の課税部分を総所得に加え、個人事業税は増やしていない。一時所得の特別控除50万円は、その年の他の一時所得と合わせて1回だけ

個人で起業した人は、一時所得が国民健康保険料の算定にも入ります。法人化した社長の健康保険・厚生年金の保険料は標準報酬月額で決まるので、移住支援金では増えません。表の「うち国保」の差がそのまま、法人で受けた側の軽さになります。

注意したいのは基礎控除の段差です。令和8年分の所得税の基礎控除は、合計所得金額489万円以下なら104万円、489万円超655万円以下なら67万円です。最適報酬が月54万円の社長(給与所得474.4万円)は、世帯の移住支援金100万円で合計所得が499.4万円になり、基礎控除が37万円下がります。 課税部分25万円に対して税が8.8万円増えるのはこのためです。個人で売上−経費500万円の人も、子の加算がある200万円で同じ段差を越えます(事業所得435万円+課税部分75万円)。

受けた年でも、法人化の損得はひっくり返らない

起業支援金200万円を受けた年の「法人化−個人」の実質差額を、支援金なしと並べました。初年度の合同会社の設立費用と、税理士報酬の差(個人15万円・法人35万円)を差し引いています。

売上−経費(支援金を除く)支援金なし支援金200万円あり支援金で動いた差
300万円−54.6万円−57.8万円−3.2万円
500万円−57.8万円−38.8万円+19.0万円
800万円−31.5万円−23.6万円+7.8万円
1,000万円−23.6万円−15.6万円+8.0万円

※ 条件は上の表と同じ。支援金ありは売上に200万円を足し、役員報酬の最適額を探し直した。同じ条件の損益分岐(売上−経費)は1,255万円

支援金を法人で受けたほうが税は軽くなりますが、動くのは最大でも19.0万円です。売上−経費1,000万円以下では、受けた年でも個人のほうが手元に多く残ります。法人化の損得を決めるのは毎年の税金と社会保険料で、一度きりの支援金ではありません。法人化で受けられる補助金が増えるわけではない点は、法人化すれば補助金・助成金がもらえる?でも確かめています。

もう1つの判断材料は設立費用です。三重県の要項は、会社設立登記の登録免許税と定款認証料を対象外の経費に挙げています。法人で起業するなら、合同会社で約10万円、株式会社で約25万円が自己負担になります。市区町村の特定創業支援等事業を受ければ、登録免許税は半額にできます(会社設立の登録免許税が半額に)。

起業支援金の可否は県の要綱で、損得は自分の売上と経費で決まります。移住先の要綱で開業時期と法人成りの扱いを確かめたら、一般論の数字ではなく、事業計画の売上と経費で個人と法人の差を確かめてください。

まとめ

  • 国の要件では、起業支援金は個人事業の開業届と法人設立のどちらでも対象(最大200万円・補助率1/2)。代表者・役員の人件費と、三重県では設立登記の登録免許税も対象外
  • 長野県は法人成りを対象外と明記し、三重県・鹿児島県は令和8年3月31日以前に開業済みの個人事業主を対象外としている。鹿児島県は個人で採択後、期間内の法人設立を認める
  • 起業支援金は個人なら事業所得、法人なら益金。移住支援金は起業の形にかかわらず本人の一時所得で、個人で起業すると国保にも響く
  • 売上−経費500万円以上なら、起業支援金200万円は法人で受けたほうが7.8〜12.7万円多く残るが、受けた年の法人化の損得を逆転させるほどではない
  • 個人で受けた後の法人成りは、50万円以上の取得財産の譲渡に承認が要り、返還につながるおそれがある

よくある質問

東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府で起業しても起業支援金は受けられますか?

内閣府の資料では、令和7年度は43道府県が実施し、東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府は実施していません。東京圏は条件不利地域の市町村だけが対象地域です。令和7年度第2回の申請分から市町村も申請主体に加わったため、移住先の市町村の公募も確認が必要です。

起業支援金で会社の設立費用(登録免許税)は出ますか?

三重県の令和8年度の募集要項は、会社設立登記の登録免許税、定款認証料、収入印紙代を対象とならない経費に挙げています。税理士に払う税務申告・決算書作成の費用も対象外です。法人設立の費用は自己負担と考えておく必要があります。

移住支援金を受けた後、5年以内に引っ越すとどうなりますか?

沖縄県の令和8年度の案内では、申請日から3年未満に転出すると全額、3年以上5年以内の転出は半額の返還です。起業の類型で受けた場合は、起業支援金の交付決定が取り消されたときも全額返還になります。やむを得ない事情があると県と市町村が認めた場合は除かれます。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。