法人化の判断

中小企業実態基本調査で個人と法人を比較。同じ売上なら稼ぎは同じ

結論

中小企業実態基本調査(令和7年確報、令和6年度決算)で売上1,000万〜3,000万円の階級を見ると、1社当たり営業利益は個人企業415.7万円、法人企業−35.7万円です。ただし法人は社長の役員報酬を人件費として先に引いています。人件費を足し戻すと法人553.4万円、個人552.9万円でほぼ同じで、従業者数も2.9人と3.0人です。同じ売上なら稼ぎの大きさは変わらず、利益の差は役員報酬をどこに書くかの違いです(当サイト集計)。

  • 法人が個人より多くなるのは売上1,000万〜3,000万円の階級から(法人の割合51.2%)。3,000万〜5,000万円で71.6%、5,000万〜1億円で86.6%
  • 売上3,000万円以下の階級では、法人の平均営業利益はマイナス。社長の報酬を人件費に回して利益を残さない形が平均像になっている
  • 個人企業の階級平均を判定ツールに入れると、法人化の実質差額は1,000万〜3,000万円で年−46.0万円、プラスに転じるのは1億〜5億円の階級(+18.4万円)

国の統計で「法人の利益」と「個人事業の利益」を並べると、法人のほうが小さく、しばしば赤字に見えます。法人化すると儲からなくなるように読めますが、これは社長の報酬が法人では経費、個人では利益に入るという会計の違いです。

中小企業庁の中小企業実態基本調査は、同じ調査の中で法人企業と個人企業を、同じ売上高の階級に分けて集計しています。この表を使えば、報酬の書き場所の違いをそろえたうえで、同じ規模の法人と個人を比べられます。

中小企業実態基本調査とは

中小企業基本法に基づいて中小企業庁が毎年行う標本調査で、令和7年調査は約11万社を対象に、母集団(法人企業170万1,437社、個人企業138万9,265社)へ拡大推計しています。売上高や営業費用は、法人は決算書、個人は確定申告書類を基に調べています(利用上の注意)。

この記事で使ったのは、統計表「3.売上高及び営業費用 (4)産業別・売上高階級別表」の法人企業版と個人企業版です。どちらも同じ売上高の階級と同じ業種で区切られています。読むときに押さえる定義は次の3つです(用語の解説)。

項目法人企業個人企業
人件費役員を含む給料・賞与・退職金(労務費・法定福利費を除く)従業員の給料など(専従者給与を除く)
営業利益役員報酬を払った後の利益事業主の取り分と専従者給与を含む
経常利益営業利益+営業外損益専従者控除前の所得金額(営業利益と同額)

法人の営業利益は社長に報酬を払った後の残りで、個人の営業利益は事業主本人の取り分そのものです。営業利益どうしを比べると、法人には社長の取り分が入っていないことになります。そこでこの記事では、**営業利益に人件費を足した額(法人は売上原価の労務費も足す)**を「人に払った分と利益の合計」として並べました。

同じ売上の階級なら、稼ぎの大きさはほぼ同じ

全産業を売上高の階級別に並べた結果です。

売上高の階級法人企業数個人企業数法人の割合売上高(法人/個人)営業利益(法人/個人)人件費+営業利益(法人/個人)
500万円以下103,024社570,264社15.3%262.1/243.5万円−134.5/42.1万円−6.6/56.9万円
500万〜1,000万円131,453社337,271社28.0%754.5/737.5万円−118.3/178.5万円169.7/218.7万円
1,000万〜3,000万円348,842社331,898社51.2%1,912.3/1,754.7万円−35.7/415.7万円553.4/552.9万円
3,000万〜5,000万円195,066社77,239社71.6%3,919.2/3,816.0万円19.1/724.4万円1,197.8/1,135.0万円
5,000万〜1億円266,929社41,480社86.6%7,175.2/7,011.7万円93.8/1,040.9万円2,119.9/1,973.1万円
1億〜5億円450,354社29,809社93.8%22,464.7/20,756.1万円595.4/1,424.1万円5,965.6/3,591.7万円

※ 1社当たりの金額は、統計表の合計額(百万円)を母集団企業数で割った当サイト集計 ※ 人件費は販売費及び一般管理費の人件費(法人は役員報酬を含む。個人は専従者給与を含まない)。法人は売上原価の労務費も足した ※ 個人企業の営業利益は事業主の取り分と専従者給与を含む(専従者控除前の所得金額) ※ 出典:中小企業庁「令和7年中小企業実態基本調査」。計算は scripts/chusho-jittai-kihon-houjin-kojin.mjs による

売上1,000万〜3,000万円の階級では、法人の人件費+営業利益が553.4万円、個人が552.9万円で、差は0.5万円しかありません。1社当たりの従業者数も法人2.9人、個人3.0人です。同じ売上の階級にいる法人と個人は、人を雇う規模も、人に払う分と利益を合わせた稼ぎも、ほぼ同じです。

それなのに営業利益は、法人−35.7万円、個人415.7万円と450万円以上離れています。法人は社長の報酬を含む人件費533.9万円を先に引いているためで、会社の利益を残さず報酬で受け取るという形が平均像になっています。

しかも法人側の人件費には、社長の社会保険料の会社負担(法定福利費)が入っていません。法人の数字はそれを引いた後の額で、個人の数字は事業主本人の国保・国民年金を引く前の額です。法人は社会保険料の会社負担を払った後で、個人と同じ水準を残している計算です。

なお、売上500万円以下の階級では、法人の人件費+営業利益がマイナスです。この階級の法人は、役員報酬を払う前の段階で赤字の会社が平均を引き下げています。赤字の会社がどれくらいあるかは赤字法人の割合で扱っています。

法人が多数派になるのは売上1,000万〜3,000万円から

同じ表から、売上の階級ごとの法人の割合が分かります。500万円以下では15.3%、500万〜1,000万円では28.0%で、個人企業が多数です。1,000万〜3,000万円の階級で51.2%と初めて半数を超え、3,000万円を超えると7割以上が法人になります。

業種によって分かれ目は動きます。売上1,000万〜3,000万円の階級だけを業種別に見ました。

業種法人の割合営業利益(法人/個人)人件費+営業利益(法人/個人)法人の人件費+営業利益÷個人
全産業51.2%−35.7/415.7万円553.4/552.9万円100%
建設業66.5%−29.4/415.2万円559.4/562.9万円99%
製造業59.6%−122.4/440.1万円568.7/646.7万円88%
情報通信業97.3%−73.6/436.3万円727.3/583.6万円125%
運輸業,郵便業87.9%−146.0/509.8万円698.5/757.6万円92%
卸売業67.8%−153.9/179.9万円230.6/253.2万円91%
小売業37.6%−93.6/243.7万円331.3/329.2万円101%
不動産業,物品賃貸業77.5%121.1/580.9万円603.9/641.2万円94%
学術研究,専門・技術サービス業45.7%−45.4/839.9万円796.2/1,061.8万円75%
宿泊業,飲食サービス業23.3%−86.9/301.4万円411.8/422.2万円98%
生活関連サービス業,娯楽業43.7%−44.3/649.2万円654.1/863.9万円76%
サービス業(他に分類されないもの)61.0%−23.0/386.1万円719.2/531.2万円135%

※ 1社当たりの金額は当サイト集計。計算は scripts/chusho-jittai-kihon-houjin-kojin.mjs による

情報通信業はこの階級でも97.3%が法人で、個人企業は少数です。反対に宿泊業・飲食サービス業は23.3%、小売業は37.6%で、売上が数千万円あっても個人のまま営む店が多い業種です。

人件費+営業利益の比は、多くの業種で90〜100%台に収まります。目立つのは学術研究・専門技術サービス業(75%)と生活関連サービス業(76%)で、同じ売上でも個人企業のほうが稼ぎが大きく出ます。士業や理美容のように、事業主本人の技能で売上を立て、人件費があまりかからない業種です。個人の営業利益839.9万円・649.2万円は、事業主1人の取り分としてはかなり大きく、法人化の判断に近い水準にいる人が多い業種とも言えます。

個人企業の平均を判定ツールに入れると

個人企業の階級平均(売上高と営業利益)を、そのまま当サイトの判定ツールに入れた結果です。営業利益を青色申告特別控除前の事業所得とみなしています。

売上高の階級個人企業の平均売上平均営業利益(事業所得として入力)個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)
1,000万〜3,000万円1,755万円416万円306.6万円280.5万円月28万円−46.0万円
3,000万〜5,000万円3,816万円724万円485.6万円482.2万円月45万円−23.4万円
5,000万〜1億円7,012万円1,041万円671.0万円681.6万円月45万円−9.4万円
1億〜5億円20,756万円1,424万円879.6万円918.0万円月54万円+18.4万円

※ 東京23区・40〜59歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。万円未満は四捨五入 ※ 統計の営業利益は専従者給与を含み、税込・税抜の回答が混在する。実質差額は税理士報酬の差と均等割を引いた3年目以降の定常状態 ※ この条件での損益分岐は事業所得1,243万円

平均の営業利益で見る限り、法人化の実質差額がプラスになるのは1億〜5億円の階級からです。法人が多数派になる1,000万〜3,000万円の階級では、平均的な個人企業が法人化すると年46.0万円の不利になります。

前の節と合わせると、売上1,000万〜3,000万円の階級では、税と社会保険料の手取りだけでは説明できない法人が半数を占めていることになります。平均像で見る限り、この階級の法人の多くは手取りの損得だけで法人を選んだわけではない計算です。手取りで比べるなら、平均的な事業は「まだ個人のほうが有利」な位置にいます。損益分岐の考え方は個人事業主の法人化の目安と損益分岐点で整理しています。

この統計を読むときの注意

1社当たりの金額は平均で、分布は公表されていません。売上の大きな少数の企業が平均を押し上げている可能性があります。

売上高は消費税込みと税抜きの回答が混在しています(利用上の注意)。個人企業の営業利益は専従者給与を含むので、家族に給与を払っている事業主本人の取り分はこれより小さくなります。

同じ型の統計として、総務省の個人企業経済調査を業種別に読み替えた記事があります(個人企業経済調査の業種別営業利益)。そちらは個人企業だけの調査ですが、中小企業実態基本調査は法人と個人を同じ物差しで並べられる点が違います。法人側の役員報酬の水準そのものは、財務省の法人企業統計を使った資本金1千万円未満の会社の役員給与で扱っています。

統計の平均は、あなたの事業の数字ではありません。自分の売上と経費を判定ツールに入れて、手取りの差を確かめてください。

まとめ

  • 中小企業実態基本調査(令和7年確報)で売上1,000万〜3,000万円の階級を見ると、営業利益は個人415.7万円、法人−35.7万円
  • 法人は社長の役員報酬を人件費に入れている。人件費を足し戻すと法人553.4万円、個人552.9万円でほぼ同じ。従業者数も2.9人と3.0人
  • 法人が個人より多くなるのは売上1,000万〜3,000万円の階級から(51.2%)。情報通信業は97.3%、飲食は23.3%と業種で差が大きい
  • 個人企業の階級平均を判定ツールに入れると、法人化の実質差額がプラスになるのは1億〜5億円の階級(+18.4万円)から
  • 統計は平均で、売上は税込・税抜が混在する。自分の数字は判定ツールで確かめる

よくある質問

中小企業実態基本調査の個人企業の営業利益は、確定申告の所得と同じですか。

近いものですが同じではありません。調査の個人企業の経常利益(営業利益と同額)は、青色申告決算書の差引金額か、専従者控除前の所得金額です。家族への専従者給与や青色申告特別控除を引く前なので、申告書の所得金額より大きくなります。

法人の営業利益が赤字なのに、なぜ会社を続けられるのですか。

この調査の法人の人件費には社長の役員報酬が入っています。社長が報酬として受け取った後の残りが営業利益なので、会社の利益がゼロ前後でも社長の手元には報酬が入っています。売上1,000万〜3,000万円の法人の人件費は1社当たり533.9万円でした。

調査の売上高は税込みですか、税抜きですか。

消費税込みでの回答を求めていますが、税込みで答えられない場合は税抜きで回答しており、統計表では補正せずに混在しています(利用上の注意)。1社当たりの金額は、税込み・税抜きの差(最大で約1割)の幅を持って読む必要があります。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。