法人化の判断
「法人の6割が赤字」は本当か。資本金階級別に数えなおす
国税庁の会社標本調査(令和6年度分)を資本金階級別・業種別に再集計しました。欠損法人の割合は全体で60.3%ですが、1億円超は25.6%、200万円超500万円以下は64.5%。この数字を法人化の失敗率と読むと何を見落とすかを示します。
「日本の法人の6割は赤字」という数字は、法人化を検討していると必ず目に入ります。出どころは国税庁の会社標本調査で、令和6年度分の欠損法人の割合は60.3%。これは公表値そのものです。
ただしこの60.3%は、全国299万9,680社を1つに均した平均です。当サイトで公式Excelを資本金階級別に再集計したところ、割合は25.6%から64.5%まで開きました。そして統計上の「欠損法人」は、決算が赤字の会社という意味ではありません。
60.3%を読む前に、3つの前提を確認する
会社標本調査は昭和26年分から続く調査で、令和6年度分は令和8年3月に公表された第75回目にあたります。対象は令和6年4月1日から令和7年3月31日までに終了した事業年度で、令和7年7月31日までに申告のあった事績を集計しています。読み違えを避けるために、押さえておく前提が3つあります。
1つ目は、欠損法人の定義です。 国税庁の用語の説明では、欠損法人は「所得金額が負(損失)又は0(繰越欠損金を控除した結果、所得金額が0となった場合を含む)である法人」とされています。つまりその事業年度の決算が黒字でも、過去の赤字を繰越欠損金として使って課税所得が0になれば、統計上は欠損法人です。
資本金1億円以下の中小法人等(法人税法上の区分で、消費税の1,000万円とは別の基準です)には、繰越欠損金の控除限度額の制限がありません。所得の全額まで控除できるので、所得がちょうど0で着地することが起こります。国税庁のタックスアンサーも、繰越欠損金150万円・控除前の所得100万円なら「その事業年度の所得金額は0となります」と説明しています。令和6年度分の繰越欠損金の当期控除額は10兆5,157億円、翌期への繰越額は75兆4,819億円です。この規模の控除が働いた後の数字が60.3%だ、ということになります。
2つ目は、休眠会社が入っていないことです。 調査対象は活動中の内国普通法人で、休業中・清算中の法人は除かれています。「赤字法人が多いのは休眠会社が多いから」という説明は、少なくともこの統計には当てはまりません。
3つ目は、推計値であることです。 全数調査ではなく標本調査で、標本法人数は241万7,580社、標本法人割合は全法人で80.6%です。資本金500万円以下の階級では77.7%と低くなります。国税庁自身が「他の税務統計の関連数値とは一致しない」と注記しています。
なお欠損法人の割合は下がり続けています。平成26年度分は66.4%で、令和2年度分(62.3%)で一度上向いた以外は毎年低下し、令和6年度分の60.3%は直近11年で最も低い水準です。「6割が赤字」は、6割を割り込む手前まで来ている数字です。
資本金階級別に数えなおすと、割合は25.6%から64.5%まで開く
ここからが当サイトの再集計です。国税庁が公表している概要編には業種別の欠損法人割合(第8表)はありますが、資本金階級別の割合は表として出ていません。そこで統計表の第9表(所得階級別・資本金階級別法人数)のExcelを読み、資本金階級ごとに利益計上法人と欠損法人を足し上げました。
| 資本金階級 | 利益計上法人 | 欠損法人 | 法人数計 | 欠損法人の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 100万円以下 | 269,419社 | 416,234社 | 685,653社 | 60.7% |
| 100万円超200万円以下 | 34,440社 | 60,385社 | 94,825社 | 63.7% |
| 200万円超500万円以下 | 406,743社 | 738,626社 | 1,145,369社 | 64.5% |
| 500万円超1,000万円以下 | 280,396社 | 418,362社 | 698,758社 | 59.9% |
| 1,000万円超2,000万円以下 | 71,714社 | 70,902社 | 142,616社 | 49.7% |
| 2,000万円超5,000万円以下 | 81,476社 | 71,710社 | 153,186社 | 46.8% |
| 5,000万円超1億円以下 | 33,257社 | 26,794社 | 60,051社 | 44.6% |
| 1億円超 | 14,310社 | 4,912社 | 19,222社 | 25.6% |
| 合計 | 1,191,755社 | 1,807,925社 | 2,999,680社 | 60.3% |
出典:国税庁「令和6年度分 会社標本調査」第9表より当サイトが集計(2026年8月25日取得)。単位は社、推計値。企業組合・医療法人は他の業種にも含まれる内数のため除いています。集計結果の合計299万9,680社・欠損法人180万7,925社・60.3%は、国税庁の公表値と一致します。
読み取れることは3つあります。
資本金の階級間の差(38.9ポイント)は、後で見る業種間の差(21.3ポイント)よりずっと大きい。 「うちの業種は赤字が多いらしい」という話より、会社の規模のほうが強く効いています。
割合が最も高いのは、最も小さい階級ではありません。 ピークは資本金200万円超500万円以下の64.5%で、100万円以下の60.7%より3.8ポイント高くなっています。この200万円超500万円以下の階級は114万5,369社と最大で、全体の38.2%を占めます。60.3%という平均は、この階級に強く引っ張られた数字です。
資本金1,000万円以下に法人が集中しています。 262万4,605社で全体の87.5%、欠損法人180万7,925社のうち90.4%がこの範囲に入ります。この階級だけで見た欠損法人の割合は62.2%、1,000万円超1億円以下では47.6%です。個人事業主が法人化して設立する会社は、資本金の面ではほぼ確実に前者に入ります。資本金1,000万円は消費税の納税義務と法人住民税の均等割の両方で境目になる金額なので、実務上もここを超える設立は多くありません。
ちなみに第11表(法人数の内訳。通算法人を除く単体法人の集計です)を同じように読むと、資本金100万円以下の階級では合同会社が15万4,265社・22.5%を占めます。200万円超500万円以下では3.0%なので、最小の階級だけ組織の構成が明らかに違います。当サイトが既定にしている合同会社は、統計の上でもこの階級に偏っています。
業種別も、資本金1,000万円以下に絞ると景色が変わる
業種別の欠損法人割合は国税庁も公表していますが、公表されているのは全規模を合わせた数字です。そこで第9表を業種と資本金階級のクロスで読み、資本金1,000万円以下だけに絞った場合を並べました。
| 業種 | 全規模の法人数 | 全規模の欠損法人割合 | 資本金1,000万円以下の法人数 | 同・欠損法人割合 | 差 |
|---|---|---|---|---|---|
| 出版印刷業 | 26,607社 | 73.7% | 22,159社 | 76.1% | +2.4pt |
| 繊維工業 | 8,616社 | 71.3% | 6,848社 | 73.8% | +2.5pt |
| 料理飲食旅館業 | 140,208社 | 72.2% | 131,218社 | 72.5% | +0.3pt |
| 食料品製造業 | 42,609社 | 67.5% | 34,693社 | 70.3% | +2.9pt |
| その他の製造業 | 80,297社 | 66.6% | 68,452社 | 69.1% | +2.5pt |
| 小売業 | 311,981社 | 66.5% | 288,196社 | 67.6% | +1.1pt |
| 化学工業 | 30,770社 | 59.1% | 21,375社 | 66.2% | +7.1pt |
| 機械工業 | 71,875社 | 61.3% | 55,631社 | 66.1% | +4.7pt |
| 鉄鋼金属工業 | 45,287社 | 60.8% | 36,636社 | 65.2% | +4.4pt |
| 鉱業 | 3,016社 | 58.4% | 1,990社 | 64.5% | +6.2pt |
| 運輸通信公益事業 | 99,864社 | 58.8% | 76,058社 | 62.4% | +3.6pt |
| サービス業 | 954,922社 | 60.6% | 858,239社 | 61.6% | +1.0pt |
| 農林水産業 | 39,237社 | 61.4% | 35,839社 | 61.4% | ±0.0pt |
| 卸売業 | 235,623社 | 57.6% | 190,959社 | 61.4% | +3.8pt |
| 金融保険業 | 55,660社 | 58.8% | 47,298社 | 61.2% | +2.4pt |
| 建設業 | 474,558社 | 57.2% | 408,011社 | 60.8% | +3.7pt |
| 不動産業 | 378,550社 | 52.4% | 341,003社 | 53.3% | +0.9pt |
出典:同上。資本金1,000万円以下の欠損法人割合の高い順。全規模の割合は通算法人を含む集計のため、国税庁が概要編の第8表で公表している値(通算法人を除く小計ベース)とは0.1〜0.3ポイント程度ずれます。
17業種のうち16業種で、資本金1,000万円以下に絞ると割合が上がります。 農林水産業だけがほぼ変わりません。全規模で最も低い不動産業(52.4%)でも、資本金1,000万円以下では53.3%です。「この業種は赤字が少ない」と全規模の順位で読むと、自分が入る規模の実態を外します。 差が大きいのは化学工業の+7.1ポイント、鉱業の+6.2ポイント、機械工業の+4.7ポイントで、いずれも大規模な会社が業種平均を押し下げていた業種です。
一方で、絞った後でも業種の順序はほとんど入れ替わりません。出版印刷業・繊維工業・料理飲食旅館業が上位、不動産業が最下位という並びは共通しています。業種の差は確かにありますが、資本金階級の差ほど大きくはない、という先ほどの読みがここでも成り立ちます。
なお業種の分類は、複数の事業を兼営している場合は主たる業種にまとめて計上されています。副業を別業種で持っていても、統計上はどこか1つに入っている点に注意してください。
一人社長の会社の「赤字」は、役員報酬を先に取った結果でもある
ここまでは統計の話です。では、個人事業主が法人化してできる会社は、この60.3%のどこに位置するのでしょうか。
法人の所得は、役員報酬を払った後の金額です。一人社長の会社では、稼いだお金の大半が役員報酬として自分に出ていきます。当サイトの計算エンジンで、手取りが最大になる役員報酬を設定したときに会社側へ残る所得を出すと、次のようになります。
| 事業所得 | 最適な役員報酬 | 会社の税引前利益 | 法人税等 |
|---|---|---|---|
| 400万円 | 月28万円 | 16.3万円 | 10.4万円 |
| 600万円 | 月42万円 | 26.2万円 | 12.6万円 |
| 800万円 | 月54万円 | 61.8万円 | 20.2万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | 261.8万円 | 62.9万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | 461.8万円 | 106.4万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | 761.8万円 | 175.9万円 |
| 1,800万円 | 月90万円 | 595.4万円 | 137.4万円 |
| 2,100万円 | 月95万円 | 832.4万円 | 192.3万円 |
| 2,500万円 | 月100万円 | 1,169.4万円 | 303.8万円 |
| 3,000万円 | 月100万円 | 1,669.4万円 | 471.7万円 |
※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。法人税等は法人税・地方法人税・法人事業税・特別法人事業税・法人住民税の合計。
事業所得400万円の規模なら、会社に残る利益は16.3万円しかありません。 800万円でも61.8万円です。この幅なら、パソコンを1台買い替える、決算で在庫を評価し直す、売上の入金が1件翌期にずれる——そのどれでも所得は0を割ります。統計の欠損法人に数えられる会社が1社増える、というのはこういう状態です。事業が失敗したわけでも、社長の手取りが減ったわけでもありません。
だから**「法人の6割が赤字だから法人化は危ない」という読み方は成り立ちません**。統計の欠損法人割合は法人化の失敗率ではなく、役員報酬を先に取る一人会社では、むしろ設計上そうなりやすい数字です。逆にいえば、この統計をもって「うちも赤字なら税金がかからないから大丈夫」と考えるのも早すぎます。次の節がその理由です。
所得が0でも消えない負担が2つある
欠損法人になれば法人税・地方法人税・法人事業税は課されません。所得に対して課される税なので当然です。ただし2つは残ります。
1つは法人住民税の均等割です。 所得に関係なく定額でかかります。東京23区で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円です。上の表で事業所得400万円のときの「法人税等10.4万円」も、大半はこの均等割です。詳しくは法人住民税の均等割は赤字でも年7万円にまとめています。
もう1つは社会保険料です。 こちらは所得ではなく役員報酬に対してかかるので、会社が赤字でも1円も減りません。会社負担分と本人負担分の両方が発生し続けます。金額の内訳は一人社長の社会保険料で役員報酬別に分解しています。
そして、その年の赤字は消えてなくなるわけではありません。青色申告をしていれば繰越欠損金として10年間持ち越せます。ただし年数は長くても、一人社長の会社では上の表のとおり1年あたりの所得が小さいので、使い切るのに時間がかかります。この非対称は法人の欠損金は10年、個人は3年で個人事業主側と比較しています。
統計の60.3%も、自分の会社が何%の側に入るかも、結局は自分の売上と経費と役員報酬の置き方で決まります。法人化の目安は所得800万円かと合わせて、一般論の平均値ではなく自分の数字で確かめてください。
同じ国税庁の統計から税務調査の件数を整理したものは法人の税務調査は何社に1社?にあります。
まとめ
- 令和6年度分の欠損法人の割合60.3%は公表値だが、資本金階級別に再集計すると25.6%(1億円超)から64.5%(200万円超500万円以下)まで開く
- 統計上の欠損法人には、繰越欠損金を控除した結果として所得が0になった法人が含まれる。決算が赤字の会社という意味ではない
- 資本金階級の差(38.9ポイント)は業種の差(21.3ポイント)より大きい。17業種のうち16業種は、資本金1,000万円以下に絞ると割合が上がる
- 一人社長の会社に残る所得は、事業所得400万円なら16.3万円、800万円でも61.8万円。役員報酬を先に取る構造上、所得が0付近に着地しやすい
- 所得が0でも、法人住民税の均等割(東京23区・資本金等1,000万円以下・従業者50人以下で年7万円)と社会保険料は残る
よくある質問
会社標本調査の「欠損法人」は、決算が赤字の会社という意味ですか?
違います。統計上の欠損法人は「所得金額が負、または0の法人」で、繰越欠損金を控除した結果として所得が0になった法人も含みます。決算では黒字でも、過去の赤字を使い切って課税所得が0になれば欠損法人に数えられます。
赤字法人が多いのは休眠会社が多いからですか?
この統計ではその説明は成り立ちません。会社標本調査の対象は活動中の内国普通法人で、休業中・清算中の法人は最初から調査対象から除かれています。
資本金をいくらにすると赤字になりにくいですか?
統計は資本金の大きい会社ほど欠損法人の割合が低いことを示していますが、これは規模や事業内容の違いを反映した結果で、資本金を増やせば黒字になるという関係ではありません。資本金の額は消費税の納税義務や法人住民税の均等割の区分に影響するため、そちらから決めるのが実務的です。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。