設立の手続き
法人の税務調査は何社に1社?国税庁の統計から言えること
令和6事務年度の実地調査は5万4千件、法人税の申告件数は322万件で、単純に割ると約60社に1社です。ただしこれは確率ではありません。簡易な接触まで含めた実際の件数と、1件当たり634万円という追徴額の意味を国税庁の公表値から整理します。
「法人の税務調査は何年に1回来るのか」という問いに、公式の答えはありません。国税庁は調査の周期を公表していないからです。
代わりに公表されているのは、年間の実地調査件数と申告件数です。令和6事務年度の法人税等の実地調査は5万4千件、令和6年度の法人税の申告件数は322万件。単純に割ると1.68%、約60社に1社になります。
ただしこの数字を「自分の会社が調査される確率」と読むのは誤りです。理由を順に示します。
実地調査は5万4千件、簡易な接触は8万5千件
まず件数を確認します。国税庁は、調査必要度の高い法人への実地調査と、それ以外の法人への簡易な接触を分けて公表しています。
簡易な接触とは、実地調査によらず、書面照会・電話連絡・来署依頼による面接で、申告書の自発的な見直しや提出を要請するものです。無申告法人への提出要請や、税法の適用誤りの見直し要請も含まれます。
| 区分 | 件数 | 申告件数322万件に対する割合 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 実地調査 | 54千件 | 1.68% | 約60社に1社 |
| 簡易な接触 | 85千件 | 2.64% | 約38社に1社 |
| 合計 | 139千件 | 4.32% | 約23社に1社 |
※ 分子は令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月に処理を終了)、分母は令和6年度の申告件数。集計期間が異なるため概算 ※ 調査対象はAIも活用して調査必要度の高い法人を抽出したもので、無作為抽出ではない
「税務調査」を実地調査だけで数えるか、簡易な接触まで含めるかで、60社に1社と23社に1社という2倍以上の開きが出ます。ネット上の記事で数字がばらつくのは、多くがこの区別をしていないためです。
なお簡易な接触は前年の7万5千件から8万5千件へ13.4%増えました。実地調査が減る一方で、こちらは増えています。
この割合を確率と呼べない3つの理由
1つ目は、対象が無作為に選ばれていないこと。 国税庁は令和6事務年度について、「AIも活用しながら、あらゆる機会を通じて収集した資料情報等や申告書の分析・検討を行うことにより、調査必要度の高い法人を的確に抽出し、実地調査を実施しました」と説明しています。AIが不正パターンを判定し、その結果に申告書や資料情報を重ねて、最後は調査官が実施の要否を判断する仕組みです。
つまり全法人が同じ確率で選ばれるくじ引きではありません。1.68%は「全法人を均等に回ったと仮定した場合の平均」であって、個々の会社が当たる確率ではないということです。
2つ目は、分子と分母の期間が違うこと。 調査事績は「事務年度」で、令和6年7月から令和7年6月までの間に処理を終了したものを集計しています。一方の申告事績は「年度」です。厳密には対応していません。
3つ目は、規模別の内訳が公表されていないこと。 国税庁は法人の規模ごとに調査件数を分けて公表していません。したがって一人会社に限った割合は、この統計からは計算できません。「小さい会社は来ない」も「小さい会社ほど来る」も、この数字からは言えません。
1件当たり634万円という数字の読み方
金額の側を見ます。
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 | 対前年比 |
|---|---|---|---|
| 実地調査件数 | 59千件 | 54千件 | 92.6% |
| 簡易な接触の件数 | 75千件 | 85千件 | 113.4% |
| 追徴税額(実地調査) | 3,197億円 | 3,407億円 | 106.6% |
| 1件当たりの追徴税額 | 549.7万円 | 634.2万円 | 115.4% |
件数は減り、1件当たりの金額は増えています。 追徴税額の総額3,407億円は直近10年で最高、1件当たりの634.2万円は直近10年で2番目の高水準です。調査の件数を絞り込み、必要度の高い先に集中させた結果だと読めます。
ただしこの634.2万円は、非違が見つかった件数ではなく調査件数全体を分母にした平均です。何も出なかった調査も分母に入っています。そして平均は金額の大きい事案に強く引っ張られます。国税庁が公表している不正事例には、追徴税額が1億円を超えるものが並んでいます。
中央値ではなく平均であることを踏まえると、この数字を「調査が来たら634万円払う」と読むのは正しくありません。
法人と個人事業主で構造が違う
同じ令和6事務年度の所得税側と比べると、構造の違いがはっきりします。
| 法人税等 | 所得税 | |
|---|---|---|
| 実地調査の件数 | 54千件 | 47千件 |
| 簡易な接触の件数 | 85千件 | 689千件 |
| 実地調査1件当たりの追徴税額 | 634.2万円 | 241万円 |
※ 所得税の実地調査には特別調査・一般調査36千件と着眼調査10千件を含む
簡易な接触の件数が桁違いです。 所得税は68万9千件で、法人税等の8万5千件の8倍あります。個人は件数で広く当たり、法人は実地調査で深く当たる、という差になっています。
1件当たりの追徴税額も、法人が個人の約2.6倍です。法人化すると、接触の頻度そのものより1回当たりの金額の重さが変わると見るほうが実態に近いでしょう。
なお法人化しても、個人事業主だった期間の所得税について調査を受ける可能性は残ります。個人事業を廃業したあとの手続きは法人成りしたら、個人事業の店じまいに5つの期限があるにまとめました。
赤字でも対象から外れない
追徴税額は法人税だけではありません。国税庁の集計は法人税と消費税を合わせたもので、加算税・地方法人税・地方消費税も含みます。
法人税が出ない赤字法人でも、消費税の課税事業者であれば消費税の非違はあり得ます。赤字法人の割合そのものは法人の6割が赤字は本当?で国税庁統計から検証しました。
さらに源泉所得税は別枠で集計されています。令和6事務年度の源泉所得税の実地調査は6万4千件で、法人税等の5万4千件より多くなっています。非違があった件数は2万1千件、追徴税額は404億円です。
源泉所得税は役員報酬を払っていれば必ず発生します。一人会社でも、役員報酬の源泉徴収や納期の特例の扱いを誤ると、ここで指摘を受ける余地があります。
AIが何を見ているかは公表されている
「調査必要度の高い法人をどう抽出しているのか」は、国税庁自身が仕組みを公開しています。
流れはこうです。まずAIを活用した予測モデルが、調査必要度の高い法人を抽出し、想定される不正パターンを判定します。判定結果に申告書や国税組織が保有する資料情報を重ねて調査官が分析し、最後に調査官が実施の要否を判断します。
国税庁が挙げている判定パターンは売上・原価・経費の3つです。公表資料の事例では、AIが「原価」を不正パターンと判定した法人について、調査官が決算書を分析したところ不審な外注費が年々増えており、実地調査で取引実態のない外注費を把握したとされています。
同じ資料に、AIの判定と実際の手口の対応が並んでいます。
| モデルが想定した不正パターン | 調査で把握した手口 | 追徴税額 |
|---|---|---|
| 売上 | 売上伝票を破棄し、破棄した分の現金売上げを除外 | 約7千万円 |
| 売上 | 売上代金を代表者の個人口座に入金させ、売上げを除外 | 約1億円 |
| 原価 | 偽りの請求書を作成し、金銭の貸付けを外注費に仮装 | 約1億円 |
| 経費 | 偽りの出勤表を作成し、架空の人件費を計上 | 約1億5千万円 |
※ 国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」の公表事例より
売上代金を代表者の個人口座に入れるという手口が挙がっている点は、一人会社に関係します。会社と個人の口座が実質的に混ざっている状態は、意図の有無にかかわらず説明を求められる形です。法人口座を分ける話は法人口座の開設審査で扱っています。
これらはいずれも億単位の事案で、一人会社の規模とは違います。ただしモデルが見ている軸が売上・原価・経費という決算書の主要項目であることは、規模にかかわらず変わりません。
数字に振り回されないための整理
税務調査の確率を気にすることに、実務上の意味はあまりありません。国税庁が公表しているのは事後の集計であって、自分の会社が選ばれるかどうかを予測できる情報ではないからです。
代わりに手元で確かめられるのは次のようなことです。
- 帳簿と証憑がそろっているか(法人の帳簿保存は7年か10年か)
- 役員報酬が定期同額になっているか
- 源泉所得税を期限内に納めているか
- 消費税の課税・免税の判定が正しいか
調査があるかどうかではなく、あったときに説明できる状態かどうかが実務の論点です。
まとめ
- 令和6事務年度の法人税等の実地調査は5万4千件。法人税の申告件数322万件で割ると1.68%、約60社に1社
- 簡易な接触8万5千件まで含めると4.32%、約23社に1社。どちらで数えるかで2倍以上変わる
- この割合は確率ではない。AIを活用して調査必要度の高い法人を抽出しており、無作為抽出ではない。分子と分母の集計期間も異なる
- 規模別の内訳は公表されていないため、一人会社に限った割合は計算できない
- 1件当たりの追徴税額は634.2万円で前年から15.4%増。ただし調査全体を分母にした平均で、高額事案に引っ張られる
- 所得税は簡易な接触が68万9千件と法人の8倍。個人は広く、法人は深く当たる構造
法人化の判断材料としては、調査の確率より毎年かかる固定費のほうが計算できます。自分の売上と経費で確かめてください。
よくある質問
法人の税務調査は何年に1回来ますか?
国税庁は周期を公表していません。令和6事務年度の実地調査5万4千件を法人税の申告件数322万件で割ると1.68%ですが、これは全法人を均等に回った場合の目安にすぎません。実際にはAIも活用して調査必要度の高い法人を抽出しており、無作為抽出ではありません。
一人会社にも税務調査は来ますか?
来ます。国税庁の統計は法人の規模別に調査件数を分けて公表していないため、一人会社に限った割合は分かりません。ただし調査対象を規模で除外する仕組みはなく、実地調査によらない簡易な接触(書面照会や電話連絡)も含めれば接触の機会はさらに広がります。
調査で指摘されるといくら払うことになりますか?
令和6事務年度の実地調査1件当たりの追徴税額は634.2万円で、前年の549.7万円から15.4%増えました。ただしこれは非違があった件数だけでなく調査全体を分母にした平均で、金額の大きい事案に引っ張られます。自分の会社に当てはまる金額ではありません。
赤字なら調査は来ませんか?
そうとは言えません。追徴税額は法人税だけでなく消費税も含みます。法人税が出ない赤字法人でも、消費税や源泉所得税で非違が見つかることがあります。源泉所得税の実地調査は令和6事務年度で6万4千件あり、法人税等の5万4千件より多くなっています。
出典
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。