設立の手続き

勘定科目内訳明細書の省略基準。一人会社に効かない3つの欄

勘定科目内訳明細書は16の様式がありますが、50万円・100万円・10万円という金額基準のおかげで多くは空欄で済みます。ところが一人会社では、役員給与・役員との貸借・税金の還付金の3つがその基準の外に置かれています。国税庁の様式の記載要領で確認しました。

法人の決算申告でいちばん手が止まるのが勘定科目内訳明細書です。国税庁の様式は①から⑯まであり、初めて見ると全部埋めるのかと身構えます。

実際には多くの内訳書に金額の基準があり、一人会社ならほとんどが空欄か数行で終わります。ただし基準の外に置かれた欄が3つあって、そこは金額の大小に関係なく書くことになります。この記事は、その3つがどこかを国税庁の様式の記載要領で確認します。

まず、内訳書には金額の基準がある

勘定科目内訳明細書は、確定申告書に添付する書類のひとつです。様式は国税庁の法令解釈通達「法人課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の様式33-2にあり、令和6年3月1日以後終了事業年度分から現在の形になっています。

①から⑯までの16枚ですが、④・⑩・⑮の3枚は2つの内訳書を1枚に載せているので、内訳書そのものは19あります。

そしてそのほとんどに、書かなくてよい下限が定められています。各様式の(注)にある基準を並べると次のようになります。

内訳書各別に記入する基準
①預貯金等金額基準なし(取引金融機関別・預貯金の種類別)
②受取手形一取引先からの総額が100万円以上
③売掛金(未収入金)相手先別期末現在高が50万円以上
④仮払金(前渡金)相手先別期末現在高が50万円以上
④貸付金及び受取利息貸付先別期末現在高が50万円以上
⑧支払手形一取引先に対する総額が100万円以上
⑨買掛金(未払金・未払費用)相手先別期末現在高が50万円以上
⑩仮受金(前受金・預り金)相手先別期末現在高が50万円以上
⑪借入金及び支払利子借入先別期末現在高が50万円以上
⑯雑益、雑損失等科目別かつ相手先別の金額が10万円以上

基準に満たないものは「その他」として一括で記入できます。売上1,200万円規模の一人会社で、期末に50万円以上の残高がある取引先がそもそも何社あるか、と考えると、③や⑨は数行で終わることが多いはずです。

②と⑧の手形は、そもそも手形を使っていなければ書くことがありません。表に出ていない⑤棚卸資産、⑥有価証券、⑦固定資産、⑫土地の売上高等、⑬売上高等の事業所別、⑭役員給与等、⑮地代家賃等には金額の下限がなく、該当する資産や取引があればその内容を書きます。このうち⑭が一人会社では必ず該当します。

効かない欄その1:役員給与等の内訳書には金額基準がない

⑭役員給与等の内訳書には、ここまで並べたような金額の下限がありません。役員が1人でも、その1人分は必ず書きます。

書く欄は、役職名、氏名、住所、代表者との関係、常勤か非常勤か、役員給与計、そのうち使用人職務分、使用人職務分以外を「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」「その他」に分けた額、そして退職給与です。記載要領は、最上段には代表者分を記入するよう求めています。

さらにこの内訳書には「総額のうち代表者及びその家族分」という集計欄があります。一人会社では役員給与の全額がここに入ります。

役職名と代表者との関係は2桁の数字で書きます。役職名は01が代表取締役、21が代表社員、22が社員。代表者との関係は01が本人、02が配偶者、03が父、04が母といった具合です。合同会社の代表社員が自分ひとりなら、21と01になります。

では、そこに書く額はいくらになるのか。判定ツールの計算エンジンで、売上1,200万円・経費200万円の会社の役員報酬別の内訳を出しました。

売上1,200万円・経費200万円(事業所得1,000万円)の場合

役員報酬手取り合計役員個人の手取り法人に残る額社会保険料(労使計)
月10万円632.5万円102.8万円529.6万円33.4万円
月20万円642.4万円196.3万円446.1万円68.1万円
月30万円650.8万円289.1万円361.6万円102.2万円
月40万円654.8万円378.8万円276.1万円139.6万円
月50万円659.7万円468.6万円191.1万円170.3万円
月54万円 ←最適662.4万円504.8万円157.6万円180.5万円
月60万円653.6万円547.8万円105.8万円200.9万円
月70万円646.8万円625.4万円21.4万円228.6万円
月80万円615.8万円704.8万円-89.0万円238.3万円
月90万円570.0万円784.4万円-214.4万円249.2万円
月100万円519.7万円860.2万円-340.4万円261.3万円

個人事業主のままの手取りは 657.1万円。最適な役員報酬は月54万円で、そのときの手取り合計は 662.4万円。

※ 経費200万円・東京23区・40歳未満・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準 ※ 法人に残る額は、退職金・配当で引き出す際のコスト20%を控除した後の金額

最適額の月54万円なら、⑭に書くのは年648万円です。③や⑨の50万円基準の13倍にあたる額ですが、⑭に基準はないので省略の余地はありません。内訳書の中でいちばん金額が大きい欄が、いちばん省略できない欄という順序になっています。報酬額の決め方そのものは役員報酬はいくらが最適かで扱っています。

効かない欄その2:役員・株主・関係会社との貸借は全額

ここが一人会社にいちばん効きます。次の4つの内訳書には、50万円基準に例外が付いています。

  • ④仮払金(前渡金)
  • ④貸付金及び受取利息
  • ⑩仮受金(前受金・預り金)
  • ⑪借入金及び支払利子

いずれも記載要領は、相手先(貸付先・借入先)が「役員、株主又は関係会社」のものについては、期末現在高が50万円未満であっても全て各別に記入するとしています。1万円でも書きます。

さらに④貸付金と⑪借入金には、期末現在高がないものであっても期中の受取利息額(未収利息を含む)または支払利子額(未払利子を含む)が3万円以上のものは各別に記入する、という定めもあります。期末に返し終えていても、利息の額しだいで欄が埋まります。

一人会社では、社長が会社の経費を立て替えて役員借入金が立つ、会社の資金を一時的に社長へ動かして役員貸付金が立つ、というのが日常的に起きます。金額が小さいから一括でいい、が通らないのはこの4つです。役員借入金の利息の扱いは役員借入金の返済と利息、役員貸付金は役員貸付金の認定利息で扱っています。

この例外がどこに付いているかには、はっきりした線があります。同じ50万円基準でも、③売掛金と⑨買掛金には役員の例外がありません。 例外が付いているのは、仮払金・貸付金・仮受金・借入金という資金のやり取りの内訳書だけです。通常の営業取引で役員個人が相手先になることは想定されておらず、会社と社長の間の資金移動だけが金額を問わず見えるようにしてある、という構造です。

効かない欄その3:税金の還付金は10万円未満でも書く

⑯雑益、雑損失等の内訳書は、雑収入、雑益(損失)、固定資産売却益(損)、税金の還付金、貸倒損失等について、科目別かつ相手先別の金額が10万円以上のものを記入する様式です。

ここにも例外があります。記載要領は、取引の内容が「税金の還付金」のものについては、期末現在高が10万円未満であっても全て各別に記入するとしています。

一人会社でも中間納付をしていれば還付は起きます。額が小さくても書く欄です。

なお、土地の売却益(損)を⑦固定資産(土地、土地の上に存する権利及び建物に限る。)の内訳書に記入している場合は、⑯には記入しなくて差し支えないとされています。

相手先の名称と住所は、登録番号を書けば省略できる

省略できるほうの話です。金額基準とは別に、「登録番号(法人番号)」欄に登録番号または法人番号を記載した場合には、相手先の「名称(氏名)」欄と「所在地(住所)」欄の記載を省略しても差し支えないという定めが、多くの内訳書に共通で置かれています。

ここでいう登録番号は、インボイス制度の適格請求書発行事業者の登録番号です。様式の該当欄には頭に「T」が印字されています。

この定めがあるのは、確認できた範囲で③売掛金、④仮払金、④貸付金、⑨買掛金、⑩仮受金、⑫土地の売上高等、⑯雑益・雑損失等です。省略できる欄の名前は内訳書ごとに違い、⑦固定資産では「売却(購入)先」の名称と所在地、⑮地代家賃等では「貸主」と「支払先」の名称と所在地、⑮工業所有権等の使用料では「支払先」の名称と所在地、②受取手形では「振出人」欄、⑧支払手形では「支払先」欄とされています。

住所を1件ずつ調べて書くのが内訳書の手間の大半なので、登録番号を控えているかどうかが、実際の作業時間を分けます。取引先の登録番号は請求書に載っているものをそのまま転記すればよく、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトでも確認できます。法人成りのときに自分の登録番号がどう変わるかは法人成りとインボイス登録番号で扱っています。

件数が多いときの緩和は、一人会社には出番がない

記載要領には、件数が増えたときの緩和も用意されています。③売掛金・⑨買掛金・⑩仮受金・⑪借入金などでは、記載すべき口数が100口を超える場合に、次のどちらかで記入してよいとされています。

  1. 期末現在高の多額なものから100口についてのみ記入する(100口目には基準未満のものも含む残額全てを一括して記入)
  2. 期末現在高を自社の支店または事業所別等で記入する

①預貯金等、⑤棚卸資産、⑥有価証券、⑦固定資産、⑮工業所有権等の使用料でも、100口を超える場合は多額なものから100口のみでよいとされています。⑫土地の売上高等だけは口数の条件が「記載口数が多い場合」と書かれていて、残す件数も20口です。

ただし①の方法をとる場合でも、④貸付金・⑩仮受金・⑪借入金では、役員・株主・関係会社のものや利息が3万円以上のものを含めて100口となるように記入することが求められています。件数で絞っても、役員との貸借は落とせません。

そして支店を持たない一人会社に、100口を超える取引先はまずありません。この緩和は一人会社の手間を1件も減らしません。

会社に立つ残高は、そもそも50万円に届きにくい

もうひとつ、計算エンジンで確かめたことがあります。一人会社の期末に立つ代表的な負債である社会保険料の会社負担分は、報酬をどこまで上げても50万円基準に届きません。

役員報酬別・会社が負担する社会保険料と、内訳書の50万円基準

役員報酬(月額)標準報酬月額会社負担(年額)会社負担の1か月分50万円以上か
月10万円98,000円166,877円13,906円該当しない
月20万円200,000円340,560円28,380円該当しない
月30万円300,000円510,840円42,570円該当しない
月40万円410,000円698,148円58,179円該当しない
月50万円500,000円851,400円70,950円該当しない
月54万円530,000円902,484円75,207円該当しない
月70万円710,000円1,143,108円95,259円該当しない
月100万円980,000円1,306,404円108,867円該当しない
月139万円1,390,000円1,554,372円129,531円該当しない

※ 東京23区・40歳未満・合同会社/2026年(令和8年)分基準。会社負担は労使折半後の事業主負担分

健康保険料・厚生年金保険料の納付期限は納付対象月の翌月末日なので(日本年金機構)、期末には1か月分が未払として残ります。その額は、健康保険の標準報酬月額が上限の139万円に達しても月12万9,531円で、50万円の4分の1程度です。表の「標準報酬月額」は健康保険の等級によるもので、厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円と別に定められています。両者を取り違えないでください。

つまり一人会社では、金額基準を超えるのは役員報酬そのものだけで、その役員報酬を載せる⑭には基準がない。省略基準は手間をほとんど減らさず、減らすのは前の節で見た登録番号による相手先の省略のほうだ、ということになります。決算申告を自分でやるかどうかの損得は法人の決算申告を自分でやる場合で数字にしています。

提出の形式について

最後に形式の話を2点だけ。

国税庁が申告書に同封する案内は、各科目別の内訳書の用紙によって作成するほか、おおむね同封した各科目別の内訳書に準じた書類を作成しているときは、この内訳書に代えてそれを提出して差し支えないとしています。会計ソフトの出力をそのまま使える根拠はここです。

一方でe-Taxを使う場合、国税庁は、法人税申告書の添付書類のうち従来から電子送信できた財務諸表や勘定科目内訳明細書について、法令上イメージデータによる送信はできないとしています。紙に手書きしてスキャンする、という逃げ道は使えません。

法人化すると毎年この作業が乗ります。税理士に頼むか自分でやるかで年間の固定費が変わり、それは法人化の損益分岐点そのものを動かします。法人化にかかる費用に固定費の内訳をまとめてあるので、一般論の数字ではなく、自分の売上と経費で確かめてください。計算の前提は計算の考え方に書いています。

まとめ

  • 勘定科目内訳明細書は①〜⑯の16の様式(内訳書としては19)。多くに50万円・100万円・10万円という金額基準があり、一人会社では大半が空欄か数行で終わる
  • ⑭役員給与等の内訳書には金額基準がない。役員が1人でも、役職名・氏名・住所・代表者との関係・給与の区分別内訳を書く
  • ④仮払金、④貸付金、⑩仮受金、⑪借入金は、相手先が役員・株主・関係会社なら50万円未満でも全て各別に記入する。③売掛金と⑨買掛金にこの例外はない
  • ⑯雑益・雑損失等では、税金の還付金だけが10万円未満でも全て各別に記入する
  • 登録番号(インボイスのT番号)または法人番号を書けば、相手先の名称・住所の記載を省略できる。実際の作業時間を分けるのはここ

よくある質問

取引先が1社もない項目の内訳書は、提出しなくてよいですか?

国税庁の様式は①から⑯までの一組で用意されていますが、該当する取引や残高がなければ、その様式に記入すべき事項はありません。実務上は該当なしとして扱われます。提出の要否に迷う場合は所轄の税務署に確認してください。

会計ソフトが自動で作った内訳書は、そのまま出してよいですか?

国税庁は、各科目別の内訳書におおむね準じた書類を作成しているときは、それを提出しても差し支えないとしています。ただし役員・株主・関係会社との貸借のように金額基準の例外がある欄は、ソフトの初期設定が金額でしぼっていることがあるので、出力後に確認してください。

e-Taxで出すとき、紙をスキャンして送れますか?

できません。国税庁は、法人税申告書の添付書類のうち従来から電子送信できた財務諸表や勘定科目内訳明細書について、法令上イメージデータによる送信はできないとしています。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。