法人化の判断

個人企業経済調査の業種別営業利益。法人化の損益分岐に届く業種はゼロ

結論

総務省の個人企業経済調査(2025年調査、経理は2024年1〜12月)では、個人企業1社当たりの営業利益は全産業で218.0万円です。中分類で最も高い専門サービス業(士業・デザイン業・経営コンサルタント業など)でも740.5万円で、判定ツールの損益分岐(事業所得1,243万円、40〜64歳・独身・東京23区)の60%にとどまり、平均で分岐に届く業種はありません。平均の営業利益が分岐を超えるのは、全産業では売上高8,000万円以上の階級からです(当サイト集計)。

  • 統計の営業利益は専従者給与を引く前で、個人事業税などの租税公課は引いた後。読み替えると全産業の事業主本人の取り分は156.0万〜188.6万円で、損益分岐の13〜15%
  • 売上高の階級別では、平均の営業利益が分岐に届くのはその他のサービス業で売上4,000万円以上、全産業で8,000万円以上。卸売業・小売業は1億円以上の階級でも1,035.2万円で届かない
  • 売上で上位20%の個人企業の平均営業利益は656.9万円。これを事業所得として判定ツールに通すと、法人化の実質差額は年−29.4万円

業種ごとの「平均的な個人事業主」は、法人化の損益分岐にどこまで近いのか。総務省統計局の個人企業経済調査には、業種別・売上高の階級別に、1企業当たりの売上高と営業利益が載っています。

当サイトでは、e-Statの統計表から必要な項目を取り出し、判定ツールの計算エンジンが出す損益分岐と重ねました。先に結論を言うと、統計の営業利益をそのまま事業所得とみなす甘い比べ方をしても、平均で分岐に届く業種は1つもありません。

統計の「営業利益」は、ツールの事業所得とどこが違うか

個人企業経済調査は、全国の個人企業約170万企業から約4万企業を抽出して、毎年6月1日現在で調べる統計です。2025年調査の売上高や営業費は、2024年1〜12月の1年間の数字です。

数字を比べる前に、言葉の定義をそろえます。統計局の結果の概要では、営業利益は「売上高−売上原価−営業費」です。そのうえで、利用上の注意に2つの但し書きがあります。

  • 営業利益には、事業主の家族で有給の人の給与(専従者給与)が含まれている
  • 売上高・営業費などは消費税込みで調べている

調査票の記入のしかた(2024年調査)を見ると、青色申告の人は、青色申告決算書の経費の「計」(科目㉜)と専従者給与(科目㊳)を別々の欄に書き写す形です。専従者給与は営業費に入らないので、営業利益から引かれていません。

項目統計の「営業利益」判定ツールの「事業所得」
専従者給与引く前(含まれる)専従者はいない前提
個人事業税などの租税公課引いた後(営業費に入る)引く前
消費税税込で集計。税込経理なら納付額は租税公課税抜の売上・経費で計算
青色申告特別控除引く前引く前
事業主本人の国保・国民年金引く前引く前

個人事業税は必要経費になり、所得税・住民税はならない(国税庁 No.2210)。税込経理では消費税の納付税額を租税公課として経費に入れます(国税庁 No.6375)。統計の営業費に入る租税公課は、用語の解説でも「所得税、住民税などを除く」とされています。

つまり統計の営業利益は、ツールの事業所得と比べて、専従者給与のぶん高く、租税公課のぶん低く出ます。どちらの影響が大きいかは、統計表の数字で確かめられます。

大分類の平均は、損益分岐の4〜25%

第1表には、大分類ごとの専従者給与と租税公課も載っています。営業利益から専従者給与を引き、租税公課を足し戻した幅を「事業主本人の取り分」として、損益分岐と比べました。

産業(大分類)売上高営業利益うち専従者給与租税公課事業主本人の取り分(読み替え後)損益分岐に対する割合
全産業1,398.9万円218.0万円62.0万円32.6万円156.0〜188.6万円13%〜15%
建設業1,473.5万円289.4万円84.2万円41.1万円205.2〜246.3万円17%〜20%
製造業1,095.7万円235.8万円90.3万円32.6万円145.5〜178.1万円12%〜14%
卸売業,小売業2,824.9万円188.5万円78.2万円27.8万円110.3〜138.1万円9%〜11%
宿泊業,飲食サービス業1,103.0万円116.8万円64.6万円27.6万円52.2〜79.8万円4%〜6%
生活関連サービス業,娯楽業529.5万円141.2万円37.8万円13.2万円103.4〜116.6万円8%〜9%
サービス業(上記産業を除く)1,032.7万円316.0万円51.6万円49.4万円264.4〜313.8万円21%〜25%

※ 総務省統計局「個人企業経済調査」2025年調査(経理事項は2024年1〜12月)第1表。1企業当たりの平均。消費税込み ※ 事業主本人の取り分=営業利益−専従者給与(下限)〜それに租税公課を足し戻した額(上限)。租税公課には個人事業税のほか固定資産税・印紙税・納付した消費税なども入るため、足し戻しすぎの方向 ※ 損益分岐は判定ツールの計算エンジンで、事業所得(売上−経費、青色申告特別控除の前)1,243万円(経費200万円・東京23区・40〜64歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。3年目以降の定常状態)

7つの区分すべてで、専従者給与が租税公課を上回りました。租税公課を全額足し戻しても、取り分は営業利益より低くなります。統計の営業利益をそのまま事業所得とみなすと、平均像を高めに見積もるということです。

損益分岐は40〜64歳で1,243万円、40歳未満と65歳以上で1,266万円でした。この調査の事業主は60歳以上が69.3%を占めますが、どの年齢区分の分岐を使っても結論は変わりません。

中分類で最も高い専門サービス業でも、分岐の6割

以下では、比べ方を甘くして営業利益をそのまま使います。それでも届かないなら、読み替えの細部で結論は動かないからです。第2表の中分類(「└」は、その一部を抜き出した区分)を営業利益の高い順に並べ、第10表の赤字の企業の割合を添えました。

産業(中分類)売上高営業利益営業利益率赤字の企業損益分岐(1,243万円)に対する営業利益
学術研究,専門・技術サービス業2,030.7万円665.9万円32.8%9.7%54%
└ 専門サービス業2,237.9万円740.5万円33.1%10.2%60%
└ 技術サービス業1,233.1万円380.9万円30.9%8.1%31%
設備工事業1,443.7万円326.5万円22.6%15.3%26%
機械器具製造業1,224.1万円321.2万円26.2%13.1%26%
金属製品製造業1,249.5万円300.7万円24.1%13.6%24%
不動産業,物品賃貸業806.8万円294.7万円36.5%9.9%24%
└ 不動産取引業,不動産賃貸業・管理業801.6万円295.5万円36.9%9.8%24%
職別工事業(設備工事業を除く)1,293.8万円285.1万円22.0%13.5%23%
卸売業3,372.7万円276.8万円8.2%21.8%22%
総合工事業1,754.2万円273.7万円15.6%18.9%22%
運輸業877.6万円240.7万円27.4%8%19%
飲食料品小売業4,815.5万円229.4万円4.8%32.9%18%
化学工業,その他の製造業1,022.3万円219.2万円21.4%18.6%18%
サービス業1,171.6万円217.2万円18.5%15%17%
└ 自動車整備業1,302.7万円207.6万円15.9%15.2%17%
医療,福祉(病院・診療所を除く)691.9万円209.9万円30.3%13.4%17%
└ 医療業(病院・診療所を除く)657.9万円204.7万円31.1%13.4%16%
食料品・飲料・たばこ・飼料製造業1,508.2万円209.1万円13.9%24%17%
木材・木製品製造業1,021.1万円207.0万円20.3%21.7%17%
パルプ・紙加工品製造業,印刷・同関連業1,081.8万円203.9万円18.8%21%16%
繊維工業,皮革製品製造業772.1万円171.6万円22.2%13.5%14%
衣料品・その他の小売業1,548.6万円150.2万円9.7%31.9%12%
生活関連サービス業496.8万円141.4万円28.5%16.3%11%
飲食サービス業1,127.3万円122.1万円10.8%32.3%10%
教育,学習支援業466.6万円85.3万円18.3%20.4%7%
└ 学校教育以外の教育,学習支援業388.9万円77.1万円19.8%20.3%6%
宿泊業850.3万円62.0万円7.3%45.2%5%
(全産業)1,398.9万円218.0万円15.6%21.2%18%

※ 第2表(営業状況)・第10表(年間営業利益率階級別企業分布)。営業利益は専従者給与を含み、青色申告特別控除・事業主の社会保険料を引く前 ※ 「うち」の付く中分類は、統計表で大分類の一部だけを抜き出した区分。病院・一般診療所・歯科診療所は調査対象外

最も高い専門サービス業は、日本標準産業分類の中分類72です。法律事務所、司法書士・行政書士・税理士・社会保険労務士の事務所、デザイン業、著述・芸術家業、経営コンサルタント業、翻訳業などが入ります。その平均でも営業利益は740.5万円で、損益分岐の**59.6%**です。配偶者(無収入)がいる40〜64歳の分岐865万円と比べても85.6%で、まだ届きません。

売上高の大きさと営業利益は別物です。飲食料品小売業は売上高が4,815.5万円と最も大きい一方、営業利益率は4.8%で、営業利益は229.4万円にとどまります。赤字の企業も32.9%ありました。売上高を目安に法人化を考えると、物販や飲食では判断を誤りやすいといえます。

平均が分岐を超えるのは、全産業で売上8,000万円以上

業種の平均では届かないとして、売上がどこまで大きくなれば届くのか。第4表は、売上高の階級ごとに1企業当たりの営業利益を出しています。

産業(大分類)1,000万〜1,500万円1,500万〜2,500万円2,500万〜4,000万円4,000万〜6,000万円6,000万〜8,000万円8,000万〜1億円1億円以上平均で損益分岐(1,243万円)に届く最初の階級
全産業280.7万円404.8万円613.2万円822.2万円1,026.6万円1,404.1万円1,313.5万円8,000万〜1億円
建設業297.1万円434.4万円601.0万円794.0万円916.7万円1,105.8万円1,609.2万円1億円以上
製造業316.8万円481.3万円617.6万円864.8万円1,012.6万円1,108.1万円1,514.2万円1億円以上
卸売業,小売業152.3万円246.3万円391.8万円498.2万円563.7万円798.9万円1,035.2万円1億円以上でも届かない
宿泊業,飲食サービス業159.1万円254.8万円459.3万円659.7万円796.5万円1,272.5万円1,640.5万円8,000万〜1億円
生活関連サービス業,娯楽業348.5万円491.9万円638.0万円732.5万円987.7万円708.9万円2,324.3万円1億円以上
サービス業(上記産業を除く)422.4万円607.2万円976.0万円1,387.3万円1,759.9万円2,396.5万円3,270.0万円4,000万〜6,000万円

※ 第4表。売上高は消費税込み。数値は各階級の1企業当たり営業利益の平均(専従者給与を含む) ※ 「届く最初の階級」は、その階級から上のすべての階級で平均の営業利益が損益分岐の事業所得以上になる最小の階級

全産業では、平均の営業利益が分岐を超えるのは売上高8,000万〜1億円の階級からでした。業種で差が大きく、士業や情報通信業などを含むその他のサービス業は売上4,000万円台で届きます。建設業・製造業は1億円以上の階級になって初めて届き、卸売業・小売業は1億円以上の階級でも1,035.2万円で届きません。

ただし、ここでの営業利益は専従者給与を含む値です。家族に給与を払っている事業主なら、本人の取り分はこれより小さく、届く売上高はもう一段上になります。

売上で上位20%の個人企業でも、平均は分岐の半分

第5表は、各産業の企業を売上高の順に5等分しています。最上位の20%だけを取り出しました。

産業(大分類)上位20%に入る売上高(第4五分位の上限)上位20%の平均売上高上位20%の平均営業利益損益分岐に対する割合
全産業1,552.6万円超5,003.5万円656.9万円53%
建設業2,100.0万円超4,278.2万円709.1万円57%
製造業1,536.0万円超3,410.6万円643.0万円52%
卸売業,小売業2,577.1万円超11,089.9万円656.1万円53%
宿泊業,飲食サービス業1,562.8万円超3,057.2万円416.7万円34%
生活関連サービス業,娯楽業696.0万円超1,612.2万円380.0万円31%
サービス業(上記産業を除く)1,401.5万円超3,346.5万円972.9万円78%

※ 第5表(年間売上高五分位階級別営業状況)。各産業の企業を売上高の順に5等分した最上位の階級

年商(税込)1,553万円を超えれば、個人企業の上位20%に入ります。その層の平均営業利益は656.9万円で、分岐の53%です。統計の上位層にいても、平均的な姿ではまだ法人化の手前にいることになります。

統計の平均像をそのまま事業所得として、判定ツールの計算エンジンに通しました。

想定事業所得(青色控除前)個人のまま法人化(最適報酬)最適な役員報酬実質差額(年)
全産業の平均218万円166.7万円150.1万円月15万円−36.6万円
サービス業(上記産業を除く)の平均316万円237.7万円214.7万円月22万円−43.1万円
全産業の売上上位20%の平均657万円449.4万円440.0万円月45万円−29.4万円
専門サービス業の平均741万円495.1万円492.9万円月45万円−22.3万円
サービス業(上記産業を除く)の売上上位20%の平均973万円629.3万円638.8万円月45万円−10.5万円

※ 統計の営業利益(専従者給与を含む=本人の取り分より高め)をそのまま事業所得として入れた。万円未満は四捨五入 ※ 経費200万円・東京23区・40〜64歳・独身・青色申告(e-Tax)・インボイス登録済み・合同会社/2026年(令和8年)分基準。実質差額は税理士報酬の差と法人住民税の均等割を引いた3年目以降の定常状態

5つの想定はすべてマイナスでした。その他のサービス業の上位20%(平均973万円)は、税理士報酬の差を引く前の手取りでは法人化がわずかに上回ります。それでも税理士報酬の差を引くと年−10.5万円で、判定は僅差の帯です。

法人化を予定している個人企業は1.1%

同じ調査は、事業主に法人化の予定も尋ねています(第18表)。

産業(大分類)予定がある予定がない未定
全産業1.1%91.0%7.9%
建設業1.2%88.8%10.0%
製造業1.2%90.0%8.8%
卸売業,小売業1.6%90.3%8.1%
宿泊業,飲食サービス業1.1%91.1%7.8%
生活関連サービス業,娯楽業0.7%93.8%5.5%
サービス業(上記産業を除く)1.0%90.4%8.6%

※ 第18表。各産業を1000とした千分率の表章値から、予定がある・ない・未定の合計に対する割合を計算(不詳を除く)

予定がある企業の割合は、どの業種も0.7〜1.6%の幅に収まりました。最も高いのは卸売業・小売業の1.6%です。上の表では、平均像が分岐から最も遠い業種の1つでした。法人化を予定する割合の並びと、平均の営業利益の並びは一致しません。

統計を読むときの注意

  • 1企業当たりの金額は平均値。個々の企業の営業利益の分布は公表されていない。同じ業種でも分岐を超える事業主はいる
  • 対象は個人企業だけ。すでに法人化した会社は入っていないため、法人化して抜けた高収益の事業者は数に入らない
  • 医師・農業は対象外。病院・一般診療所・歯科診療所、農業・林業・漁業などの個人企業は調査していない
  • 2018年以前とはつながらない。2019年調査で対象産業と標本設計が変わったため、統計局も時系列比較をしていない

個人事業税の課税統計から業種別の平均所得を出した個人事業税を払う人は111万人は、事業主控除290万円を超えて課税された人だけの平均です。この記事の統計は赤字の企業も含む個人企業全体なので、平均は低く出ます。どちらの統計でも、業種の平均で法人化が有利になる例はほとんどありません。損益分岐そのものが「所得800万円」より高くなる理由は法人化の目安は「所得800万円」?で計算しています。

まとめ

  • 個人企業経済調査の営業利益は専従者給与を含み、租税公課を引いた後。7区分すべてで専従者給与が租税公課を上回り、営業利益は本人の取り分より高めに出る
  • 全産業の1企業当たり営業利益は218.0万円。最も高い専門サービス業でも740.5万円で、損益分岐(1,243万円)の60%
  • 平均の営業利益が分岐を超えるのは、全産業で売上8,000万円以上、その他のサービス業で4,000万円以上の階級。卸売業・小売業は1億円以上でも届かない
  • 売上上位20%の平均(656.9万円)を判定ツールに通すと、法人化の実質差額は年−29.4万円
  • 法人化の予定がある個人企業は1.1%

業種の平均は、あなたの事業の数字ではありません。統計の上で上位にいるかどうかより、自分の売上と経費で判定ツールを動かして確かめてください。

よくある質問

個人企業経済調査の「営業利益」は、確定申告の所得と同じですか?

同じではありません。営業利益は売上高から売上原価と営業費を引いた額で、専従者給与(家族に払った給与)は引かれていません。青色申告特別控除や、事業主本人の国民健康保険料・国民年金保険料も引く前です。一方で、個人事業税などの租税公課は営業費として引かれています。

会社(法人)や医師は、この統計に入っていますか?

法人は入っていません。対象は全国の個人企業(約170万企業)から抽出した約4万企業です。個人企業でも、農業・林業・漁業、病院・一般診療所・歯科診療所などは調査の対象外です。

エンジニアやプログラマーの営業利益は分かりますか?

単独では分かりません。情報通信業は「サービス業(上記産業を除く)」にまとめて集計されており、中分類の表にも情報通信業の行はありません。この大分類全体の1企業当たり営業利益は316.0万円です。

法人化を予定している個人企業はどのくらいありますか?

2025年調査では、法人化の予定が「ある」と答えた個人企業は全産業で1.1%、「ない」が91.0%、「未定」が7.9%でした(不詳を除いて当サイトで計算)。

出典

本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。