設立の手続き
漁業許可は法人成りで失効する。船舶の譲渡と大臣・知事許可の違い
結論
漁業許可は船舶ごとに受けるもので、許可を受けた船舶を会社に譲渡すると、貸し付けた場合も含めて許可は効力を失います(漁業法49条1項3号)。事業譲渡による承継の規定はなく、承継できるのは相続・合併・分割だけです(48条)。大臣許可漁業なら、船舶の譲受人である会社が従前と同じ内容で申請すれば許可しなければならないとされています(45条4号)。知事許可漁業にはこの号が準用されず、譲受人に許可するかは都道府県の漁業調整規則で決まります。
- 失効したら2月以内に届け出る(49条2項)。怠ると10万円以下の過料(201条)。会社の許可がないまま操業すると3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(191条)
- 神奈川県の規則では、船舶の譲受人に許可する対象を中型まき網・小型機船底びき網・小型まき網・しらす船びき網に限っている。それ以外は新規許可の公示を待つ
- 水産業(第2種・4%)の船主、経費3,000万円・40〜59歳の試算では、損益分岐は2年目以降1,347万円。10トン未満の漁船なら個人事業税がかからず2,277万円に上がる
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
漁業の法人成りでいちばん大きな論点は、税金よりも許可が会社に移るかどうかです。漁業許可は「人」ではなく「船舶ごと」に受けるもので、船を会社に移した時点で個人の許可は消えます。会社が同じ漁を続けられるかは、その漁業が大臣許可か知事許可か、知事許可ならどの都道府県のどの漁業かで変わります。
この記事は、自分の漁船で許可漁業を営む個人の船主を想定しています。許可が失効する条文、会社が許可を受け直す道(大臣許可と知事許可の違い)、漁船登録と漁協の組合員資格、個人事業税の線引きを順に確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
漁業許可は船舶ごと。法人成りで承継できる道はない
農林水産省令で定める漁業を営むには、船舶ごとに農林水産大臣の許可を受けます(漁業法36条1項。以下「大臣許可漁業」)。それ以外の漁業で省令または都道府県の規則が定めるものは、都道府県知事の許可です(57条1項。以下「知事許可漁業」)。
許可を受けた者の地位を引き継げる場面は、48条1項が定めています。
- 許可を受けた者が死亡したとき(相続人)
- 法人が合併したとき(存続法人・新設法人)
- 分割で許可を受けた船舶を承継させたとき(承継した法人)
ここに事業譲渡は入っていません。個人事業主は合併も会社分割もできないため、法人成りで許可を承継する道は条文上ありません。事業の全部を譲れば会社が登録を承継できるLPガス販売事業とは、この点で型が違います。許認可ごとの型の違いは法人成りで許認可は引き継げるかにまとめています。
船を会社に移すと、貸すだけでも許可は失効する
49条1項は、次のいずれかに当たると許可が効力を失うと定めています。
- 許可を受けた船舶をその漁業に使用することを廃止したとき
- 船舶が滅失・沈没したとき
- 許可を受けた船舶を譲渡し、貸し付け、返還し、その他その船舶を使用する権利を失ったとき
法人成りで漁船を会社に売れば3号の「譲渡」です。会社に売らずに個人所有のまま貸す方法をとっても、「貸し付け」に当たるので許可は同じように失効します。車やパソコンなら「売るか貸すか」を税金で選べますが(法人成りの資産引継ぎ)、許可の面ではどちらを選んでも結論は変わりません。
失効したときは、その日から2月以内に大臣(知事許可なら知事)に届け出ます(49条2項)。届出を怠ると10万円以下の過料です(201条)。会社が許可を受けないまま操業すれば無許可操業となり、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象です(191条3号)。船の名義を先に移して、許可が後から来るという順番は取れません。
大臣許可漁業:船舶の譲受人として許可を受け直す(45条4号)
大臣許可漁業の新規の許可は、大臣が船舶の数などの制限措置と申請期間を公示し、その期間内に申請するのが原則です(42条1項)。申請期間は3月を下ることができず、申請が公示した船舶の数を超えれば、生産性の勘案やくじで許可する者を決めます(42条2項・5項・6項)。法人成りのたびにこの公示を待つのでは、会社は漁を続けられません。
そこで使えるのが45条4号です。許可を受けた者から、許可の有効期間中に、許可を受けた船舶を譲り受け、借り受け、その他相続・合併・分割以外の事由で使用する権利を取得して漁業を営もうとする者が、その船舶について申請したとき、申請の内容が従前の許可と同一なら、大臣は許可しなければならないとされています。
| 項目 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 申請する者 | 船舶を譲り受けた(借り受けた)会社 | 45条4号 |
| 条件 | 従前の許可と同一の内容であること | 45条柱書 |
| 許可しない場合 | 会社が適格性を欠く、許可の不当な集中のおそれ | 40条1項 |
| 有効期間 | 従前の許可の残存期間 | 46条1項ただし書 |
適格性(41条1項)には、漁業・労働の法令を守らない者、暴力団員等であることなどが並び、3号で法人の役員や政令で定める使用人に該当者がいる場合も欠格になります。会社を作るときは、役員に入れる家族も含めて確認が要ります。
45条4号は、許可だけでなく「起業の認可」の申請も対象にしています。起業の認可は、まだ船舶を使用する権利を持っていない者が、船舶を譲り受ける前に受けておける仕組みです(38条)。起業の認可に基づいて同じ内容で許可を申請すれば、大臣は許可しなければなりません(39条1項)。船の名義を移す前に会社側の見通しを立てておく手段として、所管に順番を相談する価値があります。
知事許可漁業:譲受人に許可するかは都道府県の規則次第
知事許可漁業には、58条で大臣許可漁業の規定の多くが準用されます。ところが45条は「第二号及び第三号に係る部分に限る」とされ、船舶の譲受人の4号は準用されていません。48条(相続・合併・分割の承継)も58条の準用の列挙に入っていません。知事許可漁業の承継や譲受人への許可は、都道府県が定める漁業調整規則の定めによります。
神奈川県の例:譲受人に許可するのは4つの漁業だけ
神奈川県漁業調整規則15条1項4号は、45条4号と同じ文言で船舶の譲受人への許可を定めています。ただし対象は「知事が指定する漁業」に限られ、県が指定しているのは次の4つです。
| 区分 | 漁業 |
|---|---|
| 漁業法57条1項の省令で定める漁業 | 中型まき網漁業、小型機船底びき網漁業 |
| 規則5条1項の漁業 | 小型まき網漁業(総トン数5トン未満)、しらす船びき網漁業 |
この4つ以外、たとえば移動式刺し網・固定式刺し網・潜水器漁業などは、規則上の譲受人の道がありません。これらの許可はそもそも船舶ごとではなく漁業ごとに受けるもので(規則5条2項)、会社が営むには、知事が制限措置と申請期間を公示したときに新規に申請します(規則12条1項)。申請期間は1月を下らない範囲で漁業ごとに知事が定め(12条2項)、申請が多ければ許可の基準やくじで許可する者を決めます(12条5項・6項)。
神奈川県の規則でも、承継できるのは相続・合併・分割だけです(規則18条)。許可の有効期間は原則5年で、15条1項(1号を除く)による許可は従前の許可の残存期間になります(規則16条1項)。
他の都道府県の規則は、譲受人に許可する漁業の範囲が神奈川県と違う可能性があります。自分の漁業がどの区分に入るかは、操業する都道府県の水産課で確認してください。
漁船登録も譲渡で失効する。貸すなら変更登録
漁業許可とは別に、漁船は所有者が主たる根拠地の都道府県知事の漁船原簿に登録を受けなければ、漁船として使えません(漁船法10条1項。総トン数1トン未満の無動力漁船を除く)。
登録を受けた漁船が譲渡されると、登録は効力を失います(漁船法18条1項4号)。会社に売るなら、会社が所有者として登録を申請し直します。一方、個人が所有したまま会社に貸す場合、登録は失効しません。登録事項の「漁船の使用者」(10条2項10号)が変わるので、変更の日から2週間以内に所有者が変更の登録を申請します(17条1項)。
漁業許可は売っても貸しても失効しますが、漁船登録は売るか貸すかで手続きが分かれる、という整理になります。
同じ船で釣り客を乗せる遊漁船業も営んでいる場合、遊漁船業の登録も会社で取り直しになります。手順は遊漁船業の登録と法人成りにまとめています。
漁協の組合員資格と、共同漁業権の漁場
許可漁業とは別に、漁協が持つ共同漁業権の漁場で操業している場合は、漁協の組合員資格も問題になります。
水産業協同組合法18条1項3号は、組合の地区内に住所または事業場を持つ漁業を営む法人で、常時使用する従業者が300人以下、使用する漁船の合計総トン数が1,500トンから3,000トンの間で定款が定めるトン数以下のものに、組合員資格を認めています。一人社長の漁業会社なら、規模の要件で外れることはまずありません。
ただし、漁業権の漁場で漁業を営む権利(組合員行使権)を持つのは、組合員のうち漁業権行使規則が定める資格に該当する者です(漁業法105条)。会社が加入できても、行使規則の資格が個人の漁民を前提にしていれば、会社名義では操業できないことがあります。加入と行使規則の資格は、所属する漁協の定款と規則で確認が必要です。
個人事業税は「10トン」と「自家労力」で線が引かれる
個人の漁業に個人事業税がかかるかは、地方税法72条の2第9項と施行令で決まります。第2種事業(税率4%)の水産業から、次のものが除かれています。
- 小規模な水産動植物の採捕:無動力漁船か総トン数10トン未満の動力漁船(とう載漁船を除く)を使うか、漁船を使わない採捕と、漁具を定置して行う採捕。ただし漁業法の定置漁業は除外されない(施行令11条の2)
- 主として自家労力を用いて行うもの:本人と同居の親族の労働日数が、その年の延労働日数の2分の1を超える事業(施行令11条)
つまり、10トン未満の船で営む船主や、家族だけで回している船主には個人事業税がかかりません。乗組員を雇って10トン以上の船を動かす船主は第2種事業で4%です。
法人化すると、この非課税は引き継がれません。地方税法72条の4で法人の事業税が非課税になるのは農地法の要件を満たす農事組合法人の農業などで、漁業を営む会社を非課税とする定めはありません。個人事業税がかからない業種は、農業の法人化と同じく、法人化で消える税がない分だけ損益分岐が上がります。
船主の損益分岐:第2種4%なら1,347万円
燃油・氷・乗組員の給与・漁具などの経費を年3,000万円、社長を40〜59歳と置き、第2種事業(4%)の船主が個人のままと法人化でどれだけ差が出るかを計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −37.1万円 | −47.1万円 |
| 800万円 | 月45万円 | −24.0万円 | −34.0万円 |
| 1,000万円 | 月45万円 | −17.1万円 | −27.1万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −13.4万円 | −23.4万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +14.0万円 | +4.0万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +48.7万円 | +38.7万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 3000 --business type2 --age 40to64 --note '水産業(第2種・4%)' で再生成)で算出。経費3,000万円、東京都・東京23区、単身・40〜59歳、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は水産業(第2種・4%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
この表は、役員報酬に協会けんぽ・厚生年金の保険料がかかる前提で計算しています。船員保険法は、船員法1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者を被保険者としています(船員保険法2条1項)。社長が会社の漁船に乗り組んで操業する場合、健康保険の部分が協会けんぽではなく船員保険になることがあり、その場合は保険料率が表の前提と変わります。乗り組む船と働き方で扱いが決まるので、全国健康保険協会の船員保険部に確認してください。
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,347万円、初年度が1,456万円です。表は許可の取り直しにかかる手数料を含めていません(0円で計算)。
同じ条件で個人事業税をかからないもの(10トン未満の漁船、または自家労力が主)として計算し直すと、損益分岐は2年目以降2,277万円、初年度2,416万円まで上がります(同じスクリプトに --business exempt を付けて算出)。事業所得2,000万円でも法人化は年19.7万円の不利です。小型船の船主ほど、税金面の理由だけで法人化する意味は薄くなります。
表は社会保険料を手取りの差として数えていますが、厚生年金に加入することで増える将来の年金額は入っていません。
自分の売上と経費は判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
まとめ
- 漁業許可は船舶ごとに受け、承継できるのは相続・合併・分割だけ(漁業法48条)。法人成りで船を会社に譲渡しても貸しても、個人の許可は失効し、2月以内に届け出る(49条)
- 大臣許可漁業は、船舶の譲受人の会社が従前と同じ内容で申請すれば許可される(45条4号)。有効期間は従前の残存期間
- 知事許可漁業には45条4号が準用されない。神奈川県では譲受人に許可するのは中型まき網など4つの漁業に限られ、それ以外は新規許可の公示を待つ
- 漁船登録は譲渡なら失効して登録し直し、貸すなら2週間以内に変更登録
- 第2種4%の船主の損益分岐は2年目以降1,347万円。10トン未満の漁船などで個人事業税がかからなければ2,277万円に上がる
よくある質問
漁船を会社に売らずに貸すだけなら、漁業許可は残りますか。
残りません。漁業法49条1項3号は、許可を受けた船舶を譲渡した場合だけでなく、貸し付けた場合や、その他船舶を使用する権利を失った場合にも許可が効力を失うと定めています。会社が営む以上、会社が自分の名義で許可を受ける必要があります。
会社の役員に家族を入れると、漁業許可に影響しますか。
影響することがあります。漁業法41条1項3号は、法人の役員や政令で定める使用人のうちに、漁業・労働の法令を守らない者や暴力団員等がいる場合、その法人は許可の適格性を欠くと定めています。役員に入れる人も含めて、申請前に確認が必要です。
会社でも漁協の組合員になれますか。
なれます。水産業協同組合法18条1項3号は、地区内に住所または事業場があり、常時使用する従業者が300人以下で、使用する漁船の合計総トン数が定款で定めるトン数以下の漁業を営む法人に組合員資格を認めています。ただし共同漁業権の漁場で操業できるかは、漁協の漁業権行使規則の資格によります。
出典
- e-Gov法令検索 漁業法 第36条(大臣許可)・第38条(起業の認可)・第42条(新規の許可)・第45条(継続の許可等)・第46条(有効期間)・第48条(相続又は法人の合併若しくは分割)・第49条(許可等の失効)・第57条(知事許可)・第58条(準用)・第105条(組合員行使権)・第191条・第201条(罰則)
- 神奈川県 神奈川県漁業調整規則(第5条・第12条・第15条・第16条・第18条・第19条)
- 神奈川県 神奈川県漁業調整規則第15条の知事が指定する漁業
- e-Gov法令検索 漁船法 第10条(登録)・第17条(変更の登録)・第18条(登録の失効)
- e-Gov法令検索 水産業協同組合法 第18条(組合員たる資格)
- e-Gov法令検索 船員保険法 第2条(被保険者)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第9項(第二種事業)・第72条の4(事業税の非課税の範囲)
- e-Gov法令検索 地方税法施行令 第11条(主として自家労力を用いて行う事業)・第11条の2(小規模な水産動植物の採捕の事業)
- 東京都主税局 個人事業税
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。