設立の手続き
LPガス販売事業の登録は法人成りで承継できる。事業の全部譲渡と届出
結論
液化石油ガス販売事業者が事業の全部を譲り渡すと、譲り受けた者がその地位を承継します(液化石油ガス法10条1項)。個人事業主が自分の会社へ事業を丸ごと譲る法人成りもこれに当たり、会社は新規の登録を受け直す必要はなく、遅滞なく承継を届け出ます(同条3項)。事前の認可は要りません。ただし会社や役員が登録拒否事由(4条1項)に当たる場合と、事業の一部だけを移す場合は承継できません。
- 承継届には、所定様式の書面と事業の全部の譲渡を証する書面などを添える(施行規則10条2項1号)。新規登録の手数料(知事登録の標準額3万1,000円)はかからない
- 保安機関の認定も、保安業務の事業の全部を譲り渡せば同じ仕組みで承継できる(35条の4が10条を準用)
- 東京23区・65歳以上・物品販売業(第1種5%)の試算では、損益分岐は2年目以降1,384万円、初年度は承継なら1,483万円、新規登録なら1,513万円
このテーマの全体像 会社設立の手続き(自分でやる手順と届出)
プロパンガス(LPガス)の販売は、液化石油ガス法の登録事業です。個人で受けたこの登録は、**事業の全部を会社へ譲り渡せば、会社が地位をそのまま引き継げます。**取り直しになる許認可が多いなかで、手続きの負担が軽い側に入ります。
この記事は、一般家庭や飲食店にLPガスを販売している個人事業主を想定しています。承継の条文の構造と条件、承継届の書類、自社で保安業務を行っている場合の保安機関の認定、消費者への書面の扱いを確認し、最後に損益分岐を計算エンジンで出します。
登録は販売所の所在で大臣・知事・指定都市の長が行う
液化石油ガス販売事業を行うには、販売所の所在によって経済産業大臣、都道府県知事、指定都市の長のいずれかの登録が要ります(3条1項)。2以上の都道府県に販売所を置くなら経済産業大臣の登録です。
登録の申請書には、販売所、貯蔵施設の位置と構造、保安業務を行う保安機関、消費者の損害を賠償するための措置を書きます(3条2項)。登録を受けないで販売事業を行うと、1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金、またはその両方の対象です(96条の2第1号)。
10条:事業の全部を譲り渡すと、地位が承継される
10条1項は次のように定めています。
液化石油ガス販売事業者がその事業の全部を譲り渡し、又は(中略)相続、合併若しくは分割(その事業の全部を承継させるものに限る。)があつたときは、その事業の全部を譲り受けた者(中略)は、その液化石油ガス販売事業者の地位を承継する。
個人事業主が自分の会社へLPガス販売事業を丸ごと譲り渡す法人成りは、この「事業の全部の譲渡」に当たります。**事前の認可は求められていません。**承継した会社は、遅滞なく経済産業大臣等に承継を届け出ます(10条3項)。
同じように「事業の全部の譲渡」で地位が移る仕組みは、計量証明事業の登録にもあります。一方、事前の認可がないと効力が生じない一般貨物自動車運送事業(緑ナンバーの法人成り)とは型が違います。
承継できないケース
10条1項ただし書は、譲り受けた者が4条1項各号(登録拒否事由)に当たるときは承継しないとしています。主なものは次のとおりです。
- この法律・高圧ガス保安法などに違反して罰金以上の刑に処せられ、2年を経過しない者
- 登録を取り消されて2年を経過しない者
- 法人で、業務を行う役員のうちに上の者がいるもの
- 消費者の損害を賠償するための措置が省令の基準に適合しない者
もう1つは、事業の一部だけを移す場合です。たとえば販売所が2つあり、1つだけを会社に移すと「事業の全部」の譲渡になりません。その場合、会社は新規に登録を受けます。
承継届の書類と、新規登録との費用差
承継届には、所定の届書に加えて、事業の全部を譲り受けて地位を承継した者は所定様式の書面と事業の全部の譲渡を証する書面などを添えます(施行規則10条2項1号)。
新規に登録を受ける場合、知事登録の申請手数料は都道府県の条例で決まり、国が示す標準額は3万1,000円です(地方公共団体の手数料の標準に関する政令)。承継なら新規登録をしないので、この手数料はかかりません。
| 移し方 | 根拠 | 費用 | 審査 |
|---|---|---|---|
| 事業の全部の譲渡による承継 | 10条1項・3項 | 届出のみ | 承継後に届出。欠格なら承継しない |
| 新規の登録 | 3条1項 | 知事登録の標準額3万1,000円 | 申請・登録の手続き |
承継で地位が移れば、個人の登録の廃止届(23条)を別に出して会社の登録を待つ、という空白も生じません。
保安機関の認定も同じ仕組みで移る
LPガスの販売事業者は、消費者の供給設備・消費設備の点検・調査などの保安業務を、自ら行うか保安機関に委託します。自社で保安業務を行う個人事業主は、販売事業者の登録とは別に保安機関の認定(29条1項)を受けています。
35条の4は、10条を保安機関に準用しています。保安業務の事業の全部を会社に譲り渡せば、会社が保安機関の地位も承継し、遅滞なく届け出ます(施行規則42条)。販売事業の承継と保安機関の承継は別々の届出なので、両方を出す必要があります。
消費者への書面は、変わった部分を交付し直す
販売事業者は、消費者と販売契約を結んだときに所定の事項を記載した書面を交付し、記載事項を変更したときはその変更部分についても書面を交付します(14条1項)。記載事項には保安機関の名称・住所・連絡方法が含まれます(施行規則13条1項10号)。
保安機関が個人から会社に替われば、その部分が変わります。顧客数が多い事業者ほど、承継の届出よりもこの書面の交付し直しが実務の負担になります。電子メールなどで提供する方法もあります(14条3項、施行規則13条2項)。
物品販売業の個人事業税と損益分岐
LPガスの販売は個人事業税の物品販売業(第1種事業・税率5%)です(地方税法72条の2第8項)。事業主控除290万円を超えた所得に課税され、法人化するとかからなくなります。代わりに役員報酬に社会保険料がかかります。
仕入れ・配送・保安点検などの経費を年2,500万円、社長を65歳以上と置き、事業所得ごとに個人のままと法人化の差を計算しました。
| 事業所得(売上−経費) | 最適な役員報酬 | 2年目以降 | 初年度(設立費用込み) |
|---|---|---|---|
| 600万円 | 月42万円 | −52.6万円 | −62.6万円 |
| 800万円 | 月54万円 | −39.1万円 | −49.1万円 |
| 1,000万円 | 月54万円 | −29.0万円 | −39.0万円 |
| 1,200万円 | 月54万円 | −18.7万円 | −28.7万円 |
| 1,500万円 | 月54万円 | +11.8万円 | +1.8万円 |
| 2,000万円 | 月90万円 | +55.2万円 | +45.2万円 |
※ 当サイトの計算エンジン(node scripts/houjinnari-kyoninka-table.mjs --expenses 2500 --business type1 --age 65plus --note '物品販売業(第1種・5%)' で再生成)で算出。経費2,500万円、東京都・東京23区、単身・65歳以上、青色申告(電子申告65万円控除)、インボイス登録済み、合同会社。法人の税理士報酬35.0万円・個人15.0万円。役員報酬は手取り最大となる額を総当たりで選択。個人事業税は物品販売業(第1種・5%)。初年度は合同会社の設立費用10.0万円を差し引いた額。2026年(令和8年)分基準の概算
損益分岐となる事業所得(青色申告特別控除の前)は、2年目以降が1,384万円です。初年度は、承継なら1,483万円、新規登録を受け直した場合は手数料3万1,000円が加わって1,513万円になります(同じスクリプトに --fee 31000 を付けて算出)。国民年金の加入は60歳までなので、65歳以上の個人事業主は国民年金保険料がかかりません。そのぶん個人のままの負担が軽く、40歳未満で同じ条件を置いた場合より損益分岐が高くなります。
65歳以上の社長が老齢厚生年金を受けている場合、役員報酬の額によっては在職老齢年金の仕組みで年金が減ります。この表は年金の変化を含んでいないので、在職老齢年金と法人化もあわせて確認してください。自分の売上と経費で判定ツールに入れて確かめられます。計算の前提は計算方法に、設立の手順と実費は会社設立を自分でやる手順にまとめています。
まとめ
- LPガス販売事業者の登録は、事業の全部を会社に譲り渡せば会社が地位を承継する(10条1項)。事前の認可は要らず、承継後に遅滞なく届け出る
- 一部の販売所だけを移す場合や、会社・役員が登録拒否事由に当たる場合は承継できず、新規登録が必要
- 自社で保安業務を行う場合は、保安機関の認定も同じ仕組みで承継でき、別に届け出る
- 保安機関が替わると、消費者への書面のうち保安機関の名称などの変更部分を交付し直す
- 東京23区・65歳以上の試算で、損益分岐は2年目以降1,384万円、初年度は承継なら1,483万円
よくある質問
承継するには、事前に役所の認可が要りますか。
要りません。液化石油ガス法10条1項は、事業の全部を譲り受けた者が地位を承継すると定めるだけで、認可を条件にしていません。承継したあと、遅滞なく承継の届出をします(10条3項)。
一部の販売所だけを会社に移すことはできますか。
承継の条文は「事業の全部」の譲渡を要件にしています。一部の販売所だけを会社に移すと承継に当たらず、会社は新たに登録を受ける必要があります。無登録の販売事業は1年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金の対象です(96条の2第1号)。
お客さまとの契約書面は作り直す必要がありますか。
販売事業者は、交付した書面の記載事項を変更したときは、その変更部分についても書面を交付します(14条1項)。記載事項には保安機関の名称・住所・連絡方法が含まれる(施行規則13条1項10号)ので、保安機関が個人から会社に替われば、その部分の書面を交付し直すことになります。
出典
- e-Gov法令検索 液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律 第3条(事業の登録)・第4条(登録の拒否)・第10条(承継)・第14条(書面の交付)・第19条(業務主任者)・第23条(廃止の届出)・第24条(登録の失効)・第29条(保安機関の認定)・第35条の4(準用規定)・第96条の2(罰則)
- e-Gov法令検索 液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律施行規則 第10条(承継の届出)・第13条(書面の記載事項等)・第42条(保安機関の承継の届出)
- e-Gov法令検索 地方公共団体の手数料の標準に関する政令 本則の表 76項(液化石油ガス販売事業に係る登録に関する事務)
- e-Gov法令検索 地方税法 第72条の2第8項(第一種事業:物品販売業)・第72条の49の17(個人事業税の税率)
本記事は2026年(令和8年)分 基準の制度にもとづく一般的な解説であり、税務上の助言ではありません。 制度は毎年改正されます。実際の判断は最新の一次情報を確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。 内容に誤りを見つけられた場合は お問い合わせ よりご指摘ください。